魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epic7金の閃光・運命来たる~The CharioT~
前書き
The Chariot/戦車の正位置/その道の明暗も、自身の内の強弱も、他へ行きたい気持ち・留まっていたい気持ちも、対立する色んな要素を判った上で、それらを統合した最善の道を歩もうと強い精神力に漲っているから、きっとその道を進むことが出来れば素晴らしい結果へ至れる。
↑の文、長くても申し訳ないです。
†††Sideルシリオン†††
「ふわぁ・・・っと。まったく。少しは自重してくれジュエルシード・・・!」
あくびがさっきから止まらない。時刻は午前2時半ちょっと過ぎ。こんな遅い時間に覚醒するジュエルシードに苛立つ。愚痴を零しながらやって来たのは市立公園。面積は並の体育館5棟分ほどあり、夏には水浴びが出来るような人工池も在る。
ジュエルシードの気配を探りつつ彷徨っていると、「っ!」突然近くから強力な魔力が発せられた。片腕で庇を作って発光による視界ダメージを減らす。と、視界がグニャリと歪み、「時計の文字盤・・・?」のようなものが浮かび上がったのが微かに見えた。そして気が付けば、
「・・・・は? 公園の外・・・?」
公園の入り口に佇んでいた。園内から園外へ知らずに移動。ということは、まさかの強制転移!? 今回のジュエルシードは、何かをきっかけとして対象を強制転移にて排除するようだ。前回ではなかった覚醒効果だな。
(しかし・・・本当に転移か? 転移特有の浮遊感が無かったが・・・)
だからと言って諦めるつもりもない。何せこのジュエルシードは22から31までのイレギュラーナンバーに違いないのだから。しかしどうしたものか。とりあえずは「転移の条件を特定しないとな」そこからだ。園内に戻り、先ほどジュエルシードの力が発動した地点へと向かう。
(近づくほどに徐々に力が強まっていくのが判るな・・・)
発せられる魔力にピリピリと体が痺れる感覚を得る。ここからは警戒を強め、一歩一歩ゆっくりと進んで行く。ジュエルシードが在ろう場所から約5m。そこで歩みを止める。直感が告げてくる。あと数十cmほどでおそらく転移可能範囲に入ると。目を凝らし、ジュエルシードの位置を探ると、
「・・・アレか・・・!」
芝生の上に放置されている古びた懐中時計。ジュエルシードを取り込んでなお形が変異していない上にその力は今まで以上。よほどの思念があるのだろう。パッと見だが装飾が凝っていて高価そうだし、何より年季が入っていると思われる。
接近が出来ないなら、遠距離からの砲撃で強制停止させるのみ。念のために数mと離れ、懐中時計に向け左手を翳す。術式選定。ランクは中級。遠距離系。魔導砲撃。属性不要。
――煌き示せ、汝の閃輝――
放つは魔法に変換してある砲撃アダメル。アダメルは一直線に懐中時計へ向かい、そして「またか!」強烈な発光、視界の歪み、文字盤の浮上。アダメルの砲線が歪み、潰されたかと思えば一瞬のうちに消滅した。残るは静寂のみ。あまりの呆気なさにポツンと佇む。出て来るのは溜息だけだ。
「魔法でもダメなのか。随分と厄介だな」
もう一度転移範囲ギリギリまで接近を試みたところで、「なに!?」背後に魔力反応。しかも攻撃の魔力。あまりに突然の出現だったため、「くそ・・・!」回避はおろか防御も出来なかった。出来たのは首だけを振り向かせることだけ。背後から私を襲ったのは砲撃の魔力光は銀色。術式名はコード・アダメル。そう、私が先ほど撃ったアダメルだった。
「ぐっ・・ああああああああ!!」
自分が撃ったアダメルの直撃を受け、私は懐中時計を飛び越え、十数mと先に在った人口池にダイブ。膝下辺りまでしかない水量だからこそ落下の衝撃は抑えきれず、底に全身を強打。人工池内を何度かバウンドして・・・「がはっ・・・!」ようやく止まった。
「いたたた・・(恐れ入った・・・。これは空間転移じゃなくて時間移動だ・・・)」
魔法での転移ならすぐに気付ける。そこには必ず気配も魔力反応もあるからだ。だが、時間移動に関してはさすがの私も経験が少ないために察知するのが難しい。
「接近したモノ全ての時間を戻すジュエルシード、か・・・」
痛む体を労わることもせずに私は立ち上り、人工池から上がる。全身がびしょ濡れで気持ち悪いが、万が一なのは達が来たらと考えると脱げない。仕方がないと諦めてこのままで回収を続行だ。とは言え、「さて、どうするか」悩みどころだな。出来ればなのは達やスクライア姉妹が来る前に片付けたい。が、手遅れだったようだ。空に2つの魔力反応。
(しかも・・・この魔力は・・・! まさか、もう出て来るのか・・!?)
あまりに懐かしく、絶対に忘れることも間違えることもない彼女たちの魔力が、この場に向かって降下してくる。頭上を見上げ、肉眼で捉える、闇夜に紛れるほどの黒衣、しかしそれを照らすかのような美しい金の髪。手にするは雷光の刃を持つ戦斧。彼女の隣にはオレンジ色の毛並みを持つ大きな狼が1頭。すでに私の姿を捉えているようで、かなり殺気立っている。
(フェイト、アルフ・・・!)
地面に降り立った彼女たちとジュエルシードを挟んで対峙する。アルフはいつでも私に飛び掛かるほどに後ろ足に力を籠めている。そんなアルフに待ったをかけるように彼女の頭を撫でるフェイトは懐中時計を一度見やった後、私を見詰めてきた。
(またその虚ろな瞳を見ることになるとはな・・・)
フェイトの母、プレシアへの怒りが再燃してくる。今すぐにでもフェイトを抱きしめたい。そんな想いに駆られてしまう。だがそれは出来ない。この世界のフェイトは、私の愛したフェイトじゃない。そしてこれからも愛することが出来ない。心を鬼にして、打倒するべき競争相手だと思わなければ。
「ジュエルシード。私たちが頂いていきます。抵抗しなければ攻撃しません。でも、抵抗するなら・・・仕方ないけど・・・」
「あたしのマスターは強いんだから、負けて泣いちまう前に大人しく引き下がりなッ!!」
本心では戦いたくないんだろう? フェイト。でもな、今回は引き下がれない。構えを取ると、判り辛いがフェイトの表情が曇った。アルフは「馬鹿な奴」と鼻で笑い、人間形態へと変身した。
「あたしが相手してやるよ。仮面野郎」
そう言い放って突撃してきたアルフだが、「なんだいこれ・・・!?」ジュエルシードの力が発動して瞬時に消された。フェイトはその状況に呆け、だがすぐに「アルフ!?」キョロキョロと辺りを見回しながらジュエルシードに近づいた。
またも力が発動。発光、歪み、文字盤の浮上。フェイトもまた一瞬にして消滅した。そう間もなく「どうなってんだい!?」アルフと、「アルフ!? え? 強制転移された・・・!?」フェイトの戸惑いに満ちた声が頭上から聞こえた。
「このジュエルシードの特性だよ。接近したモノ全ての時間を戻して、疑似的な強制転移を起こすんだ」
再び降り立った2人に説明する。女物に変えている私の声にまずアルフが「女なのかい!?」と驚愕。そしてフェイトが「時間を戻す・・・!?」アルフとは別に、正しい意味で驚いている。
「このジュエルシードは私が頂く。邪魔をするなら・・・打ち倒す」
「「っ・・・!!」」
現状で扱える魔力を解放すると、2人が身構えた。
――知らしめよ、汝の力――
まずは自己強化。陸戦機動力では確実にフェイトに劣っている私は、少しでも身体能力を底上げしなければ負ける。ジリジリと摺り足で接近。あちらはアルフが前に出、フェイトが後方にて周囲に魔力球、フォトンスフィアを4基と展開。フォトンランサーで違いないだろう。誘導性能が無い分、弾速が速く連射も出来る。初見ではまず回避は出来ないだろうが、残念ながら私は君の魔法を知り尽くしている。
「(それが、私を勝利へと導くカード・・・!)行くよ・・・!」
地を蹴り、一足飛びでアルフへと最接近。すかさずフェイトが「ファイア!」ランサーを射出。最小限の動きで真正面から全弾を回避する。子供の小さな体だからこそ出来る芸当だ。これで虚を突いたかと思えば、「アルフ!」フェイトは全くと言っていいほど動揺を見せなかった。アルフとて「アイツに比べりゃどうってことないね!」と、私と誰かを比べ、獰猛かつ余裕の笑みを見せ、同様に突っ込んで来た。
「はああああッ!」
鋭い上段蹴りを繰り出したアルフ。しゃがみ込むことで避け、足払いをかけてやる。アルフは「わわっ」焦りを見せた。立ち上がりと同時に魔力を纏わせたアッパーを繰り出す。体勢を崩している今なら確実に当たるだろう。
だがその途中、アルフは転倒を耐え「おらよっ!」先ほどの蹴りが踵落としとなり、攻撃動作中の私を襲撃。回避が出来ないため両腕でガード。「ぅぐ・・・!」その威力に堪らず片膝をつく。その直後、アルフは地を蹴ってもう片方の足を蹴り上げてきた。
「この・・・!」
腹を思いっきり蹴られ、大きく飛ばされる。ヒット直前になんとかシールドを張れたから良かったものの、遅れていたら腹を蹴られたことで隙だらけになってしまっていた。
――ブリッツアクション――
「はぁぁあああああああッッ!」
――サイズスラッシュ――
着地したばかりの私の後方へ瞬間移動してきたフェイト。サイズフォームの“バルディッシュ”に生まれている雷撃の魔力刃を振るってきた。刃が到達する前、振り向きざまと同時にフェイトの懐に飛び込み、前腕をフェイトの首に掛けて押し倒す。
「ぐっ・・・!」
「フェイト!」
「動くな! 動くと・・・撃つ」
フェイトに馬乗りになっている私へ駆け寄ろうとしたアルフを制止するために、フェイトの顔面へ向け魔力球を1基発生させる。
「退け。退けば見逃す。退かなければ・・・トドメだ」
撤退勧告を提示する。どうせ聞かないだろうな。この時代のフェイトは退くという言葉を知らない。案の定、「放せ・・!」ジタバタと暴れ始める。しかしアルフが「フェイトっ、動いちゃダメ!」なんて冷静な判断を下す時点で・・・
(やはり私の知る次元世界とは歴史が違うな)
そう思い知る。私の知っているアルフなら、何が何でもフェイトを助けようと突っ込んで来そうなものだ。足掻くのを止めないフェイトは、私たちの頭上に魔力球を5基と発生させ、オウンダメージ覚悟の離脱を試みようとする。
私の口から出るのは「はぁぁ」溜息。フェイトに標準を合せていた私の魔力球を消して、フェイトの上から退く。困惑しながらも急いで立ち上がってアルフのところにまで駆け寄ったフェイトに「どうして・・・?」と訊かれた。
「放せって言ったのはあなたでしょうが。だから放した」
問いに答えてやった。信じられないといった風に目を見開くフェイトとアルフ。解放した理由はもう1つある。あの2人が時間移動の力を有するジュエルシードをどう攻略するかを見たい。彼女たちが頑張って色んな策を試せば試す程、真の解決法へと絞られていくし、私の魔力消費を正解ルート一択だけで済ませることが出来、彼女たちは消費しっぱなしで終わるだけ。だから「やってみれば」そう言い放ってジュエルシードからさらに距離を取る。しかしそれにしても・・・
(女に見間違われるのが嫌いなクセして真似る私とは是如何に・・・)
正体を隠すためとは言え声や口調を女物にする。今さらながらにそんなことを考え、人知れず落ち込む。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
私たちと同じようにジュエルシードの回収をしようとしていた漆黒の魔導師。グランフェリアに比べればどうってことないけど、強いことは強いと思う。警戒してるアルフに『そのままその子を見張ってて』そう念話を送って、私はジュエルシードの封印に臨む。あの全身が真っ黒な子は言っていた。時間移動の能力を持つジュエルシードの暴走体だと。
(どう攻略すればいい・・・?)
接近したら問答無用でどれくらいの時間かは判らないけど過去に戻される。
「(なら魔法は・・・?)バルディッシュ。フォトンランサー」
≪Photon Lancer Multishot≫
フォトンスフィアを4基展開。「撃ち抜け、ファイア!」一斉に放つとジュエルシードを取り込んでる時計が発光した。周囲の空間が歪んで、時計の文字盤が浮き上がった。よく見れば、長針と短針が反時計回りにクルクル回ってるのが判る。
ランサーは歪みの中へ消えて行った。待ってもランサーが出て来ないところを見ると、発射されていない時間にまで巻き戻されたんだと思う。ランサーの発動の為に消費したはずの魔力が元に戻ってるし。
(射撃魔法じゃダメだ・・・)
だったら。“バルディッシュ”をデバイスフォームに戻して、先端を時計に向ける。威力だ。きっと威力が足りないんだ。・・・と、ふと気づく。
(見られてる・・・?)
あの黒い子が私の動きを見てるのが。仮面の所為で顔も目も見えないけど、確実に見られて・・・観察されてる。あまり手の内を見せたく・・・あ、そうか。どうして私に封印を譲ったのかが判った。
(私の、魔導師としてのレベルを測るため・・・?)
だとすれば、今の私はかなり不利なことをさせられているんじゃ・・・。今後の争奪戦のことを考えれば、一方的に私の得意な魔法などを知られるのはまずい。準備しようとしていた魔法、サンダースマッシャーの構築を破棄。私が魔法を破棄したことで『どうしたんだい? フェイト』ってアルフから念話。
『私、あの子に観察されてる。下手にカードを切れない』
『ええ!? あ、そうか。アイツ、なんであんなに余裕なのか不思議だったけど。汚いマネをする奴だねぇ・・・。じゃあやっちまおうよフェイト! あんな奴、ラクショーだよ!』
やっぱりそれしかない、のかな。あまり人を傷つけたくないのが本心。でも母さんが待ってる。ジュエルシードを。期待してくれてる。私が回収して帰って来るのを。だから・・・これはしょうがないことなんだ。黒い子をキッと睨み付ける。“バルディッシュ”を改めてサイズフォームにして、臨戦態勢。
「なるほど。気付いたわけか。私の目的を。ちょっと見入り過ぎたかな」
黒い子もまた構えを取って臨戦態勢。グランフェリアを倒すために開発し続けたアルフとのコンビネーションなら、確実に撃墜できる。フォトンスフィアを5基展開。するとあの子の足元に銀色に輝くミッド式の魔法陣が現れて、左腕を空に掲げた。
――瓦解せる喰飲の龍咆――
「水の・・・!」
「龍・・・!?」
池の水が龍の形となって現れた。あの子が「負けたら大人しく退く。いいね?」そう確認してきた。勝つ自信があるから「判った」即答。アルフも「後悔すんじゃないよ!」ってあの子を指差す。あの子が「決まりだ」って指を鳴らすと、水の龍が雄叫びを上げながら突進してきた。
「ファイア!!」
試しに迎撃してみる。ランサーが次々と着弾。龍の頭を砕くことが出来たけど、すぐに再生して完全には潰せなかった。術者のあの子を墜とせばたぶん潰せる。「アルフ! 行くよ・・・!」コンビネーション開始を告げる。
「おうッ!」
――フォトンランサー・マルチショット――
アルフのランサー8基があの子に向かって飛んで行く。それと同時に私はブリッツアクションで最接近を試みる。あの子の背後、死角に回り込めた。“バルディッシュ”の電撃の魔力刃による斬撃、サイズスラッシュを打ち込もうと振りかぶった。
――止め処なき水塵の流壁――
「な・・・っ?」
だけど魔力刃が到達する前に私とあの子の間に滝のような大量の水が流れ落ちてきて、魔力刃が水圧に負けて砕け散った。
「高機動力を活かしての奇襲・急襲があなたの基本戦術だって、その薄いバリアジャケットと相まって判断できる。なら真正面以外への攻撃を警戒しておけば問題ない」
「っ!」
滝の向こう側に居るあの子の影が動くのが判った。直感ですぐにその場から離脱。その直後、滝が砲撃みたいになって私がたった今まで居た場所を押し流していった。
「こんのぉぉぉおおおおおお!!」
――バリアブレイク――
アルフが水の龍を引き連れながらあの子に突撃。アルフの繰り出す拳を、あの子は防御でも回避でもなくて腕を掴み取って、アルフを背負うようにしてジュエルシードの方へ放り投げた。また発動するジュエルシードの時間移動の力。アルフが歪みに呑まれて消えた。水の龍はそのまま崩れて、ただの水になって地面に落ちた。
――ソニックブーム――
「え・・・?」
信じられないものを見た気がする。あの子の姿が掻き消えたと思えば、背後に気配。
(私のブリッツアクションと同系統の移動魔法・・・!?)
振り返る前に“バルディッシュ”がオートでディフェンサーを展開してくれたおかげで、
「あ、惜しい」
あの子のパンチの直撃を受けずに済んだ。急いでそこから離れて、「アークセイバーッ!」“バルディッシュ”を振るって、ディフェンサー消失と同時に魔力刃を飛ばす。あの子は空へと上がって避けた。空戦は望むところだ。あの子は両手に魔力弾を作り出して投げて来た。私も空へ上がることで避けて、「フェイト!」ちょうど好いタイミングで戻ってきたアルフと挟撃する。
――ブリッツフィスト――
――サイズスラッシュ――
――ラウンドシールド――
銀色に輝くシールドを両面展開して、私とアルフの攻撃を防いだ。でも「無駄だ・・・!」私のサイズスラッシュは、発生させている魔力刃にバリア貫通・刃の魔力強化をする魔法なんだ。例えシールドでも斬り裂いて見せる。
私に使われたシールドを斬り裂き、返す刃であの子に一撃を与えようとしたけど、急上昇することで避けられた。追撃しようとした時、『待ってフェイト!』アルフからそんな念話が来た。アルフがニヤニヤ余裕を見せてる。それがどうしてなのかすぐに判った。
「しまった・・・!」
――リングバインド――
あの子はアルフが設置していたバインドに引っかかった。グランフェリアにも通用したバインド結界。“バルディッシュ”をデバイスモードに戻して、「ごめん」逃れようともがいてるあの子に謝る。前面に魔法陣を展開。先端を向けて、
「サンダー・・・スマッシャァァァァーーーーーッッ!!」
砲撃を放った。スマッシャーは一直線に突き進んで・・・直撃した。あの子が力なく落下し始める。アルフに『助けてあげて』念話を送る。アルフは『あいよ』って応えてくれて、落下し続けるあの子を抱き止めて、私と一緒に地上に降り立った。
「フェイト。コイツどうする?」
「そのまま寝かせておけばいいよ。私たちはジュエルシードの回収に専念すればいい」
少し仮面の下の顔が気になったけど、下手にいじって起こしても面倒だ。近くに設けられているベンチの上に寝かせて、私たちはジュエルシードの攻略に戻る。今なら本気を出せる。まず試しにサンダースマッシャーを撃ってみたけど、見事に時間移動の効果に呑まれて消えた。射撃と砲撃じゃダメだということが判った。なら次は広域攻撃だ。空に上がって、時計の真上に移動。
「バルディッシュ。シーリングフォーム。サンダーレイジ、いくよ」
≪Yes, sir≫
“バルディッシュ”をシーリングフォームへ移行。柄頭から4枚の羽が生まれる。足元に魔法陣を展開。初撃の雷撃はバインド効果を持っていて、攻撃範囲内の対象を全て拘束できる。だけど、その雷撃ですらジュエルシードの力に掴まって時間移動させられた。それでもまだ終われない。
「サンダー・・・レイジィィーーーーッッ!!」
本命の一撃を発射。魔法陣の放射面からさっき以上の雷撃が、時計に落ちる。強烈な発光、空間の歪み、文字盤の浮上、そしてサンダーレイジの消滅。消費した魔力が元に戻っているのが判る。広域攻撃でも通用しなかった。
「どうすんだいフェイト! 魔法すら通用しないって、これ詰んだんじゃないかい!?」
「うん・・・。魔力消費も一緒にキャンセルされるから、枯渇して何も出来なくなるっていう最悪の事態は避けられるけど・・・」
どうすればいいんだろう。一度帰って、母さんに相談してみる? ううん。そんなことして期待を裏切ったりなんかしたら・・・失望させてしまう。かぶりを振って、そんな甘い考えを振り払う。と、「何か来る・・・」遠くからこっちに向かって来る魔力反応を感じ取った。
「フェイト。今こっちに来てる奴、結構デカい魔力を持ってるよ」
「そうだね。あの子や・・・私くらいの魔力を持ってる。でも・・・」
「負けない、だろ?」
「もちろん」
――フォトンランサー・キャリバーシフト――
周囲にフォトンスフィアを5基展開。アルフも同じように展開して、計10基のフォトンスフィアの照準を、向かって来る魔導師へ合わせる。徐々にその姿を捉えることが出来始めた。第一印象は、白。私や黒い子と違って、本当に白。歳は私くらい。持っているのは杖状のインテリジェントデバイス。お互いの声が届くくらいの距離になって、白い女の子は困惑顔をしながら私とアルフを見詰めて、
「テスタメントちゃんじゃない・・・? また別の子・・・!」
「そんな・・・。あ、なのはっ、下見て!」
「下?・・・っ! テスタメントちゃん!?」
白い子の肩に乗ってる子が、さっき墜とした黒い子の事をテスタメントちゃんって呼んで驚きを見せた。アルフが『テスタメントって。人の名前じゃないよねぇ』そう呆れながら念話を送って来た。テスタメント。ミッド語で、遺言とか契約とかの意味だ。コードネームかもしれない。となれば、『あの黒い子、組織だって動いてるかもしれない』私とアルフに緊張が走る。
「君たちがやったのか・・・!?」
「は?・・・あ、ああ、だったらなんだって言うんだい? 互いにジュエルシードを狙ってんなら戦うしかないだろ?」
アルフが牙を剥く。白い子の方が目に見えてビクッと肩を竦ませる。それだけで判る。あの白い子は実戦慣れしていない、魔力が大きいだけの素人だ。私たちの敵じゃない。
「あなた達も引いて。そこの子のように痛い目に遭うから」
そう告げて、“バルディッシュ”をサイズフォームにして白い子に向ける。あの子もデバイスを向けてくるけど、迷いが見える。威嚇の意味を込めて「ファイア」フォトンランサー2発をあの子に掠るように放った。
「ま、待って! あなた達の目的は何!? ジュエルシードを使って何をするつもりなの!?」
「どうだっていいだろ、そんなこと。あんた達もジュエルシードが狙いだってんなら・・・あたし達の敵だよ!」
――フォトンランサー――
アルフが待機させていたフォトンスフィアをランサーとして白い子へ連続発射。白い子は速射されたランサーを避けることが出来ずに、ラウンドシールドを張ってギリギリ防いだ。私も続いて待機させていたスフィアをランサーとして連射。白い子のシールドを砕く。
破砕の余波を受けて悲鳴を上げながら落下した白い子はそのまま地面に墜落・・・・しなかった。動物の子がギリギリでフローターフィールドを発動させて受け止めたから。私たちも降り立つと、「止まれ!」動物の子が白い子を護るように立ちはだかった。
「・・・邪魔しないならそれ以上のことはしない」
「そうそう♪ 大人しく帰んな」
横たわる白い子から目を逸らす。黒い子と同じように私が撃墜した子。恨んでくれてもいい。だけど私は母さんの期待にどうしても応えたいから、本当は辛いけど非情になりきる。ジュエルシードの時計へと向かう中、後ろから「待って・・・!」呼び止められた。
白い子はデバイスを支えにして立ち上がっていて、私をジッと真っ直ぐに見つめていた。このまま無視をして行けば良かった。なのに私はその目からどうしても逃げることが出来ない。
「そのジュエルシードは、このユーノ君が発掘した物なの。ちゃんとした理由がないなら、ジュエルシードは諦めてほしいんだ」
「ちゃんとした理由・・・?」
「うん。ジュエルシードは危険なロストロギアで、発掘したユーノ君は、被害が本格的になる前に回収しようとしてる。私はそのお手伝いをしているの。そして、テスタメントちゃん・・その子は、誰かの命を助けようとしてる」
テスタメントという子を見る。誰かを助けるためにジュエルシードを集める、か・・・。私の目的は・・・。口を開きかけた時、「話さなくていいよ!」アルフに止められた。危うく乗せられるところだった。小さくかぶりを振って踵を返して時計の元へ。背後から「お願い待って!」また呼び止められるけど、今度は付き合わない。
「しつこいよガキ! テスタメントって子の理由に比べりゃ、あんた達つまらないよ! 危ないから集める? たったそれだけの理由でしか無いんならあんた達が引きなッ!」
アルフが怒鳴ってあの子たちのところへ向かおうとしたから「待って」止めに入る。納得いかなそうなアルフだけど、これ以上騒がれてテスタメントという子が起きるのは遠慮したい。
「私の理由。テスタメントという子とたぶん同じ。私の大切な人の為に、私はジュエルシードを回収する。だからこれ以上は話をするつもりはないし、邪魔をするなら今度は本気で墜とす」
キッと睨み付ける。さっきのアルフの時もそうだったけど、あの子は今度は怯まなかった。
「私、高町なのは! この子はユーノ・スクライア君! あなたの名前はっ?」
ただこんな状況なのに名乗って来たから私とアルフは小首を傾げることに。付き合っている時間もないから『行くよ、アルフ』念話でアルフに告げて、黙ったまま白い子に背を向ける。
「っ!・・・・私の理由はつまらないって言われたけど、私だって引けないんだ。ユーノ君の為にも・・・。私は、ユーノ君を助けたいから!!」
「「ッ!?」」
「なのは・・・君は・・・!」
あの子の魔力が爆発的に増大していく。激しく揺さぶられる髪を押さえなががら振り返る。あの子が放つ魔力の強大さに“バルディッシュ”をグッと握り直した。アルフも「もしかしてあたしの所為かい?」なんて戸惑いを見せている。誰かの所為というよりあの子が本気になっただけだと思う。あの子がどういった系統の魔導師か判らない以上、先手必勝で行くしかない。
「教えて、あなたのお名前。本気でぶつかるなら、私、あなた達のお名前を知っておきたい・・・!」
まただ。どうしてだろう。あの子の真っ直ぐで強い光を宿す目から逃れられない。
「・・・・・・フェイト・テスタロッサ」
「・・・ご主人様が名乗るならあたしも名乗らないとねぇ。あたしはアルフだよ」
「フェイトちゃんにアルフさん・・・だね。運命ちゃん、か。カッコいい名前だね♪」
「っ!!」
だからか私は名乗ってしまった。すると名前を褒められた。ドキッとして顔が熱くなった。久しぶりに抱いた感情。私とアルフの魔法の先生で、母さんの使い魔だったリニスが、まだ私たちと居た頃に抱いた・・・・嬉しい、という感情。
『フェイト・・・?』
『っ、なんでもない・・・』
アルフの念話にそう応じていると、
「それじゃあフェイトちゃん、アルフさん。本当は戦いたくないけど、お互いに引けない以上は・・・・。レイジングハート」
≪All right. Divine Shooter≫
あの子の周囲に魔力スフィアが4基展開された。
「バルディッシュ・・・!」
≪Photon Lancer Get set≫
私もフォトンスフィアを6基展開。弾数は勝ってるし弾速もきっと勝ってるはず。アルフに『もう1人の方をお願い』念話でお願いする。『あいよ』って首肯してくれたのを確認。先手は・・・「ファイア!」私がもらう。ランサーを一斉に放つマルチショットで襲撃。
あの子は空に上がって回避しながら「シューット!」魔力弾を放ってきたけど、速さはない。私も空に上がってあの子の魔力弾を避けつつ接近を試みる。けど、「っ!」目の前に通り過ぎた魔力弾に、飛行を停止。
(誘導操作弾・・・)
でも「軌道も速さも甘い・・・!」迫る魔力弾全てを“バルディッシュ”で斬り裂いて対処。さらに接近しようとした時、ゾクッと背筋が凍るほどの魔力が、あの子のデバイスの先端に生まれた。形状が変化している。あのモードでしか出来ない魔法を発動するつもりだ。
“バルディッシュ”のシーリングフォーム時のように魔力の羽が生えていて、デバイスを取り巻くように円環魔法陣も展開されている。アレは魔力の増大や加速、放出や集束を補助するためのモノだというのを、昔リニスに教わったことがある。
「ディバイン・・バスタァァァーーーーッッ!!」
――ブリッツアクション――
防御という選択を一瞬で捨てて回避に全力を注いだ。機動力に特化してる私の防御力で、この砲撃の直撃は危険だ。下手すれば一撃で・・・。この子、砲撃だけはきっと一線級だ。でも避けてしまえば「終わりだよ」あの子の背後に回り込んで、
――サイズスラッシュ――
あの子が完全に振り返る前に“バルディッシュ”を振り降ろす。当たる直前であの子のデバイスが≪Protection≫オートでバリアを発生させた。刃が防がれるけど少しずつ侵略。その間にフォトンスフィアを4基展開させて、
――フォトンランサー・マルチショット――
バリアに一斉発射。サイズスラッシュとフォトンランサーの同時攻撃でバリアを破壊、そのまま“バルディッシュ”の一撃を打ち込む。
「ごめんね・・・」
「きゃぁぁぁああああああああああッッ!!」
確かな手応え。今度こそ撃墜した。あの子は一直線に落下して地面に激突した。念のために追撃のフォトンスフィアを展開させたけど、起き上がる気配がなかったから破棄。地上に降り立って、アルフの方も終わっているのを視認した。動物の子はアルフの右前足で押さえつけられていた。抵抗がないところを見ると、あの子も気を失っているみたいだ。
「ま、こんなもんだね」
「うん・・・・」
改めて時計の方へ向き直ると同時、「バインド・・!?」私とアルフにリングバインドが仕掛けられた。色は銀色。頭だけを動かせば、いつの間にか黒い子が起き上がっていて「ご苦労様」なんて私たちに労いの言葉を掛けてきた。しかも「これは・・・!?」私たちの足元に見たこともない魔法陣が描かれて・・・
「高町なのはとユーノ・スクライアの迎撃は元より対時間移動のヒントをくれたあなた達に、プレゼントを贈ろうと思う」
――ラディウス・テンペスタース――
地面から光が噴き上がって呑み込まれた。全身を襲う激痛と視界いっぱいの閃光。この魔法で私は一瞬で意識を奪われた。次に気が付いた時に私が居たのは、アルフに運んでもらったのかこの世界で過ごすために用意した拠点の寝室のベッドの上だった。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
思っていた以上に早い参戦だったフェイトとアルフ。なのはとユーノと名乗り合うのも、何回か激突を経てからだったはずだが。ま、この世界ではそうなんだろうと納得しておく。複製技で意識を刈り取ったフェイトとアルフから懐中時計へと目を向ける。フェイト達への攻撃はやはり胸は痛んだが、思っていた以上に拒否反応は出ず、自分の心の冷たさにほとほと呆れる。
「時間移動の標的は、自らを封印する術を有する魔力を持っているモノか」
フェイト達の攻撃によって撃墜されたフリをしたおかげで、フェイト達に怪しまれずに観察することが出来た。なのはが墜落した時に飛び散った地面の破片が時間移動されずに懐中時計に当たったことから判った。魔力の塊であるバリアジャケットを纏う魔導師や魔法は、ジュエルシードにとって天敵となるからだろう。
だから近付いてきた天敵を排除していたに過ぎない。どんな願いの下でこうなったのか判らないが、面倒なことをしてくれたものだ。なのは達が気絶しているのを確認して変身を解き、魔力を生み出す魔力炉を完全停止。
「スクライア姉妹が来る前に懐中時計を回収だ」
今度は時間移動が起こらず容易に懐中時計を手に取ることが出来た。さてと。手に取ることは出来たが、懐中時計からジュエルシードを取り出す術がない。仕方がない。とりあえずはこのままの状態で回収し、何か手が浮かべばその都度試そう。
(本当に厄介だな、お前は)
懐中時計を夜空へと翳し、文字盤を護る風防をコツンと指先で突いた。そしてなのは達へと目をやる。なのは達はこのまま放置しておくわけにはいかないな。フェイト達は手加減したからすぐに目を覚ますだろうが、なのはとユーノは結構本気で撃墜されたから早々起きないだろう。
「よっと」
なのはを背負い、私の頭の上にユーノを乗せる。やはりなのは達は起きることなく、高町家の塀にもたれかかるように座らせ、ペシペシとなのはの頬を数回叩き、「ぅ・・?」呻いたところで全力ダッシュでその場を後にし、八神家へ帰宅した。
後書き
ジェン・ドーブリィ。ドーブリ・ヴィエーチェル。
サクッとフェイト組を参戦させました。グランフェリアとの模擬戦で、原作以上に強い設定としましたが、打たれ弱さは変わらずです。
ルシルがフェイトと対峙したことでようやく説明できます。エピソード1のタイトルの意味。
Te Ratio Ducat,Non Fortuna/テー・ラティオー・ドゥーカト・ノーン・フォルトゥーナ/理性に汝を導かせよ、運命でなく。
前作のルシルは、運命――フェイトの為に自分の力を行使していました。しかし今作は自らの為――アンスールのルシリオンとしての存在意義という理性の下に自分を終局へと導くことになります。
ですからこのタイトルとしました。
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