なりたくないけどチートな勇者
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37*ダメな方の保護者
所変わって自分の部屋。
そこにいるのは自分とシルバちゃん、それに14人の自分の使用人らしい人たち。
そして他は、自分によってロープ……はなかったのでス○ランテープでマキマキされたセブルさんと三バカトリオがまるで毛虫のようにころがっているだけである。
ちなみに、セブルさん以外はみんないきがいいようで
「ナルミ!なんだこれは!解け!!」
「なんでまた僕まで!僕がなにをした!!」
「ちょっ!汚れを知らぬ乙女にこの仕打ちは!変態!!」
ピチピチはねてます。
だがス○ランテープ、思いの外頑丈で魔法も通さないという優れっぷり。
うん、プラスチック万能説。
にしても
「うるせー。人の生き死にかかってる戦いをあんなうきうきしながら見てるんじゃねー!」
テメーらの娯楽のためにやってた訳じゃねーのに、こいつらときたら……
お仕置き!
「てめっ!ナルミ踏むな!いでっ!!」
「ははははははは」
あーやばい愉しい。
自分が人の道をダンダン踏み外してる気がするが、愉しい。
とまぁ、自分がバリスを突いて遊んでいると、なんかエロい事になっているエリザが、変な顔しながら話しかけてきた。
「……なぁナルミ。おまえさっきの戦い、死にそうだったのか?」
……はい?
「そりゃそーでしょ。現に腹斬られて死にそうになってたし、普通あんな斬られたらしぬって」
「……首から腕から体中バラバラになっても笑いながら戦ってた奴がそのくらいで死ぬなんて、誰も思わんぞ?」
あー、そーいやそんな事もあったよーな……。
でも血を吐きながら悶えてたんだから、さすがにヤバ気だとは思わんか……
「それに、血を吐いて弱ってると見せかけて調子に乗った相手が近付いてきた所での完全復活や、たった一言二言で相手の魔法を打ち砕く様といい、挑発してたようにしか見えん。自ら攻撃もしてなかったしな」
「……もしかして、さ。自分のやってた戦い方って」
「うむ。傍目からはただおちょくって遊んでるように思えたぞ。したがってナルミが負けるなど考えてもいなかった。だからさぁ、はやく解いてくれ。私は母様みたいな性癖はない」
そっかぁ……悪いことしたなぁ。
「わかった。じゃあお仕置きレベルは少し下げてやろう」
「れべる…?れべる………て、結局お仕置きはあるのか!?」
「うん!」
だってどっちにしろ腹立ったのには変わりないもん。
では、嫌だ嫌だー!と暴れるエリザはほっといて、本題に入ろうか。
そう思い、自分は縛られながらあぐらをかいているセブルさんに目をむけた。
ちなみに翼は仕舞う事が出来るらしい。
「単刀直入に聞く。さっきゼノアに何やったん?」
「……ハァ……ばれてた、か」
「本気だしゃ考えてる事くらい読めますからね。あんま多用はしませんが、そんくらいお見通しです。とはいっても、実際はさっとみてぱっと頭に血が昇ったからあんま詳しくは見てないけどね」
「ハァ、心王種の心を読むとは……」
もはやあきらめたように、彼はやれやれといった感じに首を振った。
そして口を開いた、が
「そのと「ちょっとマテナルミ!お前は戦闘中敵の考えが読めるのか!?」
「空気読めバカリス」
戦闘バカが話の腰を背骨ごと粉砕したのだ。
死ねばいいのに。
「あ、いや悪かった。だがこればっかりは気になってな。何せそんな事出来たんなら誰もお前に勝てる訳がない。いずれお前を倒す事を目標にする俺からしたら由々しき事態だ」
「あー……そうかぁ…死ねばいいのに」
あ、つい本音が。
「そんな簡単に死なねぇよ。ところで、どんな事を読み取ってお前はそんな怒ったんだ?」
「今それを話そうとセブルさんが口をひらいたのを、貴様が邪魔したんじゃないか!!」
もうやだこいつ。
ハァ、と自分は盛大なため息をついて、セブルさんに代わって話しだした。
「まず自分がセブルさんの思考を読んだ時、彼はいろいろごちゃごちゃと考えてた訳よ。で、その一端に彼がゼノアをなんかこう、洗脳的な事をしていたとか読み取れた訳よ。で、自分はなんかピンときたのよね」
「何がだ?」
「多分間違いがない推理なんだけど、セブルさんはなんかシルバちゃんにも同じように、積極的になるような魔法やらなんやらをかけて、本人の事を無視して……」
そう言いながら自分はビシッ!て感じにセブルさんを指差した。
すると、彼は観念したように呆れたような表情で……あれ?
こっからが決めゼリフなんだけど……犯人はお前だ的な……れれれ?
「我がお嬢様にそんな事するとおもってるのか?ゼノア様ならともかく、お嬢様にそんな事するはずがない」
え?
あれ?
「なんで?ゼノアにやったならシルバちゃんにも……」
「ゼノア様は、あれだ。可愛いげがない。だからあれくらいなら」
うわ、こいつ最低だ。
「そもそもゼノア様は昔から我の助けも必要とせずに全て一人でこなしてしまう上、聡明で飲み込みが早い。しかも6歳で軍の特殊部隊に入って自立するとか、これほど教育係りとして可愛いげも面白みもない事はない。それに比べお嬢様は今でも我に相談をしてきたりと頼ってくださるし、未だにきっちり自立出来ずに我やご両親に甘えたりおもらしを隠したりとかなさりますし……284年も生きていて、嬢様程育て甲斐のある方は今までいなかった!お嬢様に出会えて我は幸せだ!!」
高らかに熱弁したセブルさん。
こいつもバカだ。
しかもそのお嬢様は彼の言葉により羞恥で顔を真っ赤にしながら自分の横で泣きそうになっているというね。
つか、おもらしって……彼の中で最近なだけだよね?
なにせ284年も生きてるんだし。
てゆーか、あんた寿命何年よ。
とかなんとか頭ん中でツッコミを入れてると、シルバちゃんが
「せ、セブルのバカ!なんでそんな事言うの!私だってちゃんと自立して仕事も出来てるんだから!もうオトナなの!!」
もっそい怒った。
だが鬼が降臨した訳ではなく、むしろいつもより迫力がない。
そしてそんな彼女をセブルさんは
「いえ!自立できてません!!」
一刀両断、切り捨てた。
「確かに仕事は出来ていますし、しっかりした所もありますが、時折考え、行動共に短絡的で子供な所が多々見受けられます。3週間前だって、おもらしを乾かしてかく「キャァー!!もうやめて!!」
バキッ!!
「ゴブッ!!」
とんでもない事をカミングアウトしたセブルさんは、シルバちゃんの右ストレートによりマットに沈んだ。
そしてシルバちゃんは、自分に向かい顔を真っ赤にしながら大声で叫んだ。
「ち、ちがいますよ先生!あれは魔法の練習でたまたまおふとんに火が移っただけです!!それを消そうとして水をかけただけでおもらしなんかしてません!!」
こーいうのをドツボに嵌まるというんでしょーね。
まぁそれは置いといて。
「生きてる?」
「はがっ……とれた」
セブルさんはそう言いながら、プッと折れた前歯を吐き出した。
右上の前歯が折れた姿はイケメン率20%減くらいだ。
「……なんていうか、弱いな、伝説の種族」
「言ってやるなエリザよ」
いくらなんでも、かわいそうだろ。
「うるさい、乳歯が取れただけだ」
は?
ちょっとまて、今なんつった?
たしかこいつ284歳よね?
自分より遥かに年上の、267年も人生の先輩してる人よね?
頭の情報処理速度が全く追い付かない自分は、うろたえながらセブルさんに聞いてみた。
「乳歯って、折れたんでなく?」
「あ、ああ。ちょうどぐらぐらしていたからな。ちょっと困っていたのでちょうどいいが……」
「……ちなみに聞く、君の種族の寿命は幾つだ?」
「たしか大体2000近く生きると聞いている。それがどうかしたか?」
事もなげにセブルさんは答える。
そしてそれを聞いた自分は即座に暗算を始めた。
えっと、大体80で人が死ぬとして80:2000つまり1:25。
そして彼は今284だから、当て嵌めて人に換算すると……
「……約11歳」
「は?」
まさかこれで小5かよ。
ありえない……
「詐欺だ……」
「さっきからいったいなんなんだ」
自分の言ってる意味がわからないようで、彼は正直困惑しているようである。
……いろいろ言いたいが、そろそろ脱線した話をもどさねば。
「ごめん取り乱してた。で、話の続きだが……シルバちゃんになんかした訳じゃないなら想いの枷を外したってどーゆー意味?ぶっちゃけゼノアにやったよーに精神介入したんだと思ったんだが」
自分がそう言うと、セブルさんは納得したような顔をした。
「あぁ、そういう事か。いや、我はそんな事はしていない」
そしてゆっくり語りだす。
~セブルサイド~
あれはお嬢様が劇を観に行った日の夜の事だ。
お嬢様は帰ってくるなりすぐ部屋へと引きこもり、食事中も上の空で明らかにいつもと違うご様子だった。
そんなご様子に心配をしていると、旦那様から
「セブル、ちょっとシルバの相談に乗ってあげてくれないか。恋愛沙汰は俺は全く役に立たないし、リリスもリリスであれだからな……。とりあえず頼んだ。あ、それとリリスがシルバの記憶をちょっと弄ったらしいんだが、それはいじらないでくれ。内容は全面的にぶっちゃけシルバの勘違いらしいが」
そう頼まれて、我はお嬢様がお気に入りのお茶とお菓子を用意してお嬢様のお部屋へと向かったのだ。
「失礼しますお嬢様。お茶とお菓子をご用意いたしました」
しかし、我がそう言おうとも全く返事がない。
いつものお嬢様ならまだ寝てる時間でもなかったので、不思議に思いながらも扉を開けると、お嬢様が枕を抱えたまま横になってお休みになられていた。
どうも座っているうちに眠ってしまったようで、寝巻ではなく普段着で眠ってしまっていた。
そしてこのまま布団もかけずにいるのでは風邪をひくと思い、近付き布団を掛けようとした所で、お嬢様が
「……起きてますよ」
そう言いながらゆっくりと起き上がってきた。
目にはうっすらと涙の跡が。
「……なにか、ありましたか?」
内心絶対ナルミ殿が原因だとわかってたので、ナルミ殿に対する怒りでハラワタ煮え繰り返りながらも、それを悟られないようにしながら我はなるべく優しく語りかける。
最初、お嬢様は無言だったがしばらくすると口を開いて、我に聞いてきた。
「……私って、先生に嫌われてるのかな?」
痛々しい声で今にも泣きだしそうなお嬢様だったが、我は酷とは思いつつも質問した。
「……なぜですか?」
一瞬沈黙が訪れたが、お嬢様は我にこう語りかけた。
「……今日私ね、劇を観に行ったの。そしたらその中で、私と先生は愛を誓い、将来を誓う恋人同士だったわ。でも、実際は私と先生はそんな関係ではないの。ただの生徒と先生の関係なの……それに……」
そこまで嬢様は言うと、さらに一段と悲しそうな表情をなさった。
ちなみにここで我はナルミ殿を必ず殺すと心に誓った。
「それに先生は私との結婚が嫌みたいなの。さっき言ってた劇の内容も、作った副隊長をものすごく怒ってたし、結婚についてもいつも否定するし……私、魅力ないのかなぁ……」
お嬢様はそう言うと、抱えた枕に顔を埋めて啜り泣いた。
ここまできたらいくら300も生きていない若輩者の我でもわかる。
ナルミ殿は別としても、お嬢様は本気なのだと。
確かにナルミ殿はお嬢様をたぶらかし、我の元から掻っ攫っていった憎い存在ではあるが、お嬢様が本気であるならそれを応援するのが我の勤め。
そして幸い我は昔奥様からも似たような相談をされた事があったので、それと同じような事を教えてさしあげる事にした。
「お嬢様、心配はありません。ナルミ殿はただ、照れているだけです。お嬢様が嫌われる訳がありません。むしろ好かれているのではないでしょうか?」
「……ホント?ホントに先生は私を嫌いになってない?」
「本当です、旦那様をご覧下さい。誰かがいる時は奥様を欝陶しがっているように見えてその実二人きりになると、途端に奥様を優しく包み込む。ナルミ殿も同じで、きっと恥ずかしいだけなのです。だからここで弱気になってはいけません。攻めて攻めて攻めるのです。奥様もそうやって旦那様を捕まえたのですから。自らの愛を、気持ちを全面に押し出しナルミ殿を虜にすればいいのです。何、恥ずかしがる事はありません。お嬢様が言った通りに劇がやっているのならお嬢様とナルミ殿の関係はもはや周知のものです、皆応援してくれてしかるべき。そもそも、妻が旦那に甘える事の何がいけないのですか。見た限りナルミ殿は自ら押していく性格ではありません。なら、お嬢様自身がいかなければならないのです!今こそ戦う時なのです!!」
「今こそ……戦う時……」
「そうです、今戦わずにいつ戦うのか。彼は地位があり財がある、そして何より力がある。この機を逃せばそれらを狙う他の女に取られるやもしれません」
「っ!!いや!そんなの嫌!!」
「そうならないよう、今からナルミ殿をモノにするのです。何、心配はありません。私が甘えるしぐさから化粧の仕方まで、男心を掴むあらゆる方法を伝授致しましょう。なぁに、これでも私も男の端くれ、ナルミ殿の喜ぶ事など、手に取るようにわかります。それに私の言う通りにした結果が今の旦那様と奥様です。きちんと言い付けを守ればお嬢様もあのような、甘い結婚生活を築けるのです」
「うん!うん!!」
「では、まずは男心を捉える甘え方ですが……」
~ナルミサイド~
「それから我はお嬢様に日夜ナルミ殿を陥落させる術を……」
「ちょっとまてやゴルァ」
こいつ頭沸いとんと違うか?
それが自分の素直な感想だ。
自分は彼の首を絞めながら、おもいっきりガッコンガッコン頭を揺らしてやった。
「貴様は!何を!してくれとんじゃぁ!!」
ぶっちゃけ彼のやったことは、アドバイスだと言われたらそれまでだが、まぁそれでは自分の気がおさまらない訳ですよ。
こーいうのには順序ってのがあると自分の脳内彼女、および心の嫁が言っているんだ、間違いない。
だがしかし、セブルさんは何を勘違いしたのだろうか。
ゆらされながら変な笑みを浮かべている。
「……なんねその顔は」
「いゃ、心配しなくとも結構。いくら我がお嬢様の手助けをすると言ったとて、ナルミ殿が心配するな男女の営みについて我は決してお嬢様ね躯に教えようとは……ぴむっ!!」
「三回くらい死んどけ」
もうやだこいつ。
とりあえずぶん殴っといたが、ホントにもうやだ。
「……まぁ、あれだなナルミ。こいつが別にシルバに対してへんな事した訳じゃあないのはわかっただけいいではないか」
5メートルくらいぶっ飛んだ芋虫を見て、顔を引き攣らせながらエリザが言う。
なんともバカとしか言えない言葉を。
「おバカ。だから問題なんだよ、わからぬか」
「ん?だから問題って何が……あ」
エリザは一瞬考える風に視線を動かし、シルバちゃんを見てそこで止まった。
対してシルバちゃんはなんもわからない様子で首を傾げている。
「……つまりシルバちゃんのあれは、シルバちゃん自身の本質的性格なんだよ。なんか頭いじられてた方が、むしろ楽だった」
何がいいたいかってーとですよ。
シルバちゃんの甘え癖(?)は、セブルさんのアドバイスを差し引いても元々の彼女の性格な訳で。
彼女が昔の初々しい状態になる可能性は低い訳で……
「まぁ、あきらめろ。シルバも反省したようだし、なぁシルバ」
「は、はい!これから慎ましく先生を支えていきます!!」
なーにかズレてるよーな気もするが……
「ホントに大丈夫?」
「はい!先生が私のためを思ってに怒ったんだとわかりました!ならそれに応えるのが私の仕事です!皆ともきちんと話し合いました!!」
「うーん……ちょっとズレてるよーな気もするが……まぁいいや、これからは気を付けてね」
別にもう面倒になった訳ではない。
ホントダヨ?
とりあえず、シルバちゃんの頭をなでりなでり。
すると彼女は気持ち良さそうに眼を細めだした。
しばらくそうやってると、潰したはずの芋虫が復活してきた。
しかたないのでそろそろ彼のテープを外してやろうかと考えた、その時彼は口を開いた。
「こちらからも、質問がしたいのだがいいですかな?」
「ん?別にいーけど」
なにもやましい事などない自分は、彼の問いに何も考えずに返事をした。
すると、セブルさんはいきなし鋭い眼をして、こんな事を言い出してきた
「……ナルミ殿はずいぶんと子育てに詳しいようですが……もしや子持ちではないですかな?」
ひやっとなった。
主に部屋の空気が。
シルバちゃんなんか笑顔のままかたまってるし、エリザなんか眼を見開けるだけ見開いてるし……やっべ嫌な汗が……
「どうなのですかな?」
どうって何!?
なんでそんな事になってんの!?
自分そんな事になるような事してな……あぁ!!
「違う違う、康は犬、ただの犬だから。仔犬ん時に家に来て、そのまんま家族で可愛がったら手をつけらんなくなったドーベルマン!自分の子供じゃないよ!」
「……イヌって、なに?」
あ、そいやいたねリム副隊長。
しかしイヌは何か……何かって……
「人間ともっとも共存している生き物かな?ドーベルマンは昔狩猟とかで狩人がひきつれていた種類の犬で、今では悪い事した人を捕まるのに使われている……かな。家の康もそれなりに強いらしいけど、今は自分の友達の飼ってる柴犬の一松にやられておとなしく……」
あ、やば。
言って気付いた、これすごくやばい。
ほら、エリザなんか信じられないって顔してるし。
「に、人間を捕まえるのか!?どんな化け物だよそれ!!」
バリスなんかこれだし。
「いやそんな大層な。確かに捕まえるけど、それも人間の指令があって……ええいめんどい!とりあえず自分のペットなの!!」
「ナルミ君、ぺっとが何かわからないよ」
リム副隊長の冷静な一撃。
そこからか……
「……飛竜部隊の隊員と飛竜の関係、と思っていただき結構」
もうめんどい。
やだこのこたち。
「あんなでかい生き物が各家に一頭づつ……どんな国だ、日本とは」
……もう、なにも言わん。
「それでいいよ、もう」
なにもかもあきらめたような口調で自分は彼らにあたる。
するとセブルさんは、なんかムッとした感じになり、自分に仕返しし始めた。
「しかしまぁ……いかに人間と言えども間違いはあるのだな」
「……なにが?」
「いやぁ、先程の見事に的外れな推理。我がお嬢様に危害を加えるはずもないのに、綺麗に予想を外してくださった。最初、ナルミ殿が我のお嬢様の育て方について怒ってたと思ってたのだが……いやはやかんちがぶるぶぁ!!」
「四回くらい死んどけやゴルァ!!」
なにこれデジャヴ。
しかしこれは……
「うおぉぉぉぉぉ……我が人生最大の生き恥なり!!」
堂々の自分的黒歴史ベスト3入り決定である。
なぜに思い出させるバカヤロー。
泣くぞ?
男泣きすんぞ?
「あの時の自分死ね!」
「……ナルミ…その、頑張れ!」
グサッ!!
バリスの言葉が急所をえぐる。
「ひっ!……あ、そ、そうだナルミ!リリスさんにそこだけ記憶消してもらえ!そうすすれば万事解決だ!!」
なぜか怯えたようにエリザが早口で提案する。
確かにいいかも……けど
「効くかなぁ?」
「……た、多分効かないな。すまん、へんな事言って」
……なんだいエリザ、そんなに怯えて。
いったいなにがあった。
なんでそんな自分の横を凝視しながら自分にあやま……る…
「今はガマン今はガマン今はガマン後でコロス後でコロス先生を困らせた先生をバカにした先生をからかったセブルコロスセブルコロス今はダメ今はダメ先生との約束先生との約束先生との約束先生との約束今はガマン今はガマン後で燃やす後で焦がす後で刻む後で削る後で潰す後で剥ぐそもそも先生を殺そうとした燃やす焦がす刻む削る潰す剥ぐ吊す千切る刺す溶かす砕く埋める落とすぶちまける……」
「落ち着こうかシルバちゃん。ほら、自分の膝の上においで。抱きしめてあげよう」
「はい♪」
喜々として自分の膝に乗ってお人形のように自分に抱きしめられるシルバちゃん。
さっきまでは眼も虚ろに、壊れたテープみたいにぶつぶつ言ってたのが嘘みたいだ。
ちなみに描写は避けさせてもらう。
しいて言うなら貞子も即座にテレビへ避難して井戸の隅でガタガタ震えるであろうくらいに怖かった。
てゆーか、育ての親手にかけちゃだめよ。
「よしよし、頼むから危ない事考えないでね」
「はい!……えへへ」
よし、危機は去った。
纏わり付くシルバちゃんのおかげで機動性は失ったが、セブルさんの生存が約束された。
「……見せ付けてくれますね」
「あなたが死なないようにするための処置ですよ」
「わかりますし、一応認めましたが……やはり…」
あぁ、娘が嫁にいく父親ね気持ちね。
難儀よのぉ。
「……そういえば、さっき姫様が言ってましたが……忘却魔法を奥様がお使いになられる事をどうやって知ったのですかな?」
いきなり話題変えたな。
まぁ気持ちわからないでもないよーなあるよーな……
まぁいーや。
「んー、実はシルバちゃんにリリスさんがやった時立ち会ったんよね。聞いた話、かなり珍しい魔法らしいけど」
「まぁ、我直伝ですからな。奥様は5歳の頃から旦那様の生涯の伴侶となる事を決意して、それから毎日旦那様に寄り添っていましたから、旦那様に教えるついでに教えたのです。確か親友の、現魔王様と王妃様もそこにいたので使えるはずですぞ」
今おぉぅ、とエリザが言ったのは空耳ではないはずだ。
「それで、それがどうかしたの?」
「いえ、むやみやたらに見せてはいけないと言っていたのですが、そこまで奥様に信用されているのだなぁと」
セブルさんがそこまで言うと、シルバちゃんがクイクイと自分の服を引っ張ってきた。
それを見たセブルさんは、話を中断したので自分はシルバちゃんの方を見ると、彼女は
「先生、お母様が私に忘れさせた記憶って、一体なんなのですか?」
くりっとしたつぶらな瞳で問い掛けてきた。
……困る。
非常に困る。
あんな事をやったんだよって言う事は、自分にはできない。
困りに困って自分はセブルさんの方を見ると、彼は
「我も同じ疑問を持っていた。忘却魔法で一度封印した記憶は、どうにかして思い出させなければ垣間見る事ができない。いったいなぜ奥様はお嬢様に魔法をかけたのか……」
うわぁ、きょーみしんしん。
どうしよう……。
「……知らない方がいい事もあるんだよ」
よし、うまい自分!
これでみんなあきらめ……
「でも、私は知りたいです!先生がそこにいたなら、私はそれを知りたい!なんでお母様が私の記憶を消さなければいけなかったのか……知る権利は、あるはずです!!」
うわっ、まっすぐな瞳。
いや知る権利はあるよーな気もするが……うん。
「まだ君には早い。時がきたらいずれ話そう。それまで待ってくれるかい?」
「……本当ですか?いつか教えてくれますか?」
「うん、いつか教えるよ。約束する」
チキンのなにが悪い。
だってこの娘、自殺するかもってリリスさん言ってたんだもん。
おいセブル、なぜに舌打ちするコノヤロー!!
************@☆
しばらくなんだかんだと中身のない話をしながら、使用人の男子勢は自分の屋敷の建設に駆り立てられているとか、セブルさんがランドルフ家に従ういきさつとかをはなししていたら空ももう真っ暗けになってしまった。
ちなみに、ゼノアが中庭に放置プレイだった事を思い出したのもこの時だ。
元芋虫達もそれぞれ思い思いに部屋へと戻り、使用人達も忍者よろしく一瞬で全員掻き消えた。
あいつら一体なにもんだ?
そして現在、この部屋には自分と、自分の膝の上に座っているシルバちゃんのみである。
……なんか、いつもと違う味わった事のない空気ってか雰囲気はなんなんだろうか。
「……先生」
「はいっ!?」
声が裏返った。
へんにでっかい声だし、ハズカシイ。
「今日は、ごめんなさい」
自分が自己嫌悪に陥っていると、シルバちゃんが謝ってきた。
上目使いで。
「言い訳はしません。私は自分勝手に、先生の事を考えずに行動していました。……ですが、この気持ちは嘘じゃありません。それはわかってください」
……
………
…………イイ。
落ち着け自分!!
素数だ!いや素数では生温い!!
円周率を数えるのだ!!
「……先生?」
いや、わかるよ君がこう、あれな事は!
いくら自分が昔思い込みからの自爆失恋のトラウマがあるからって、こればっかりは間違いようがもうない。
でもだから……自分も一人の男なんだよ!!
「わ、わかってる!!わかってるからね!?だからおちつ「なら、先生は、ナルミさんはどうなんですか?」……どうって……」
どうって……どうなんだ?
「ナルミさんは私を、どう見て下さってるのですか?私は、あなたと結ばれたい。だけどナルミさんは、私と結婚、してくれますか?」
彼女の眼は真剣で、本気で話してくれていることが読み取れる。
しかし…結婚、ね。
ぶっちゃけ自分は独身貴族になるだろうとか予想していたのだが……いや、確かに今はまだ独身で貴族だけども、まさかこんな早く結婚するかいなかの話が出るとは。
だけど…なんだかんだで自分も……。
「好きなのかなぁ」
「ふぇ!?」
どうなんだろ?
なんか最近、いつの間にか隣にシルバちゃんがいて、なんだかんだ言いながらそれが当たり前になってる自分がいる。
よくわからん。
……でもなんか……な。
「……ん」
「ひゃわっ!?はわわわ!?」
自分は無意識にシルバちゃんを抱きしめていた。
腕の中で、形だけの抵抗をしている小さな少女をはなさないように。
そして、抱きしめてからはっきりとした。
自分の気持ちに整理がついた。
「……なんかもう、君以外が隣にいる自分の姿が想像できない」
「……それは、私を貰ってくれると受け取っていいのでしょうか?」
「……ああ。むしろそれ以外に受け取ってもらったら、泣くぞ」
いつの間にかもがくをやめたシルバちゃんを、抱く腕を緩め、お互いの眼が向かい合う。
そしてどちらともなく、ゆっくりと月に照らされた一つの大きな影が出来上がる。
しばらくしてから、再び少し離れて、自分は確実に聞こえるような声で、彼女の瞳をみながら真っすぐ告げた。
「自分は、なんだかんだで君が好きなんだ。気持ちの整理もついた。学生結婚上等、やってやろうじゃないか。自分と、結婚してくれ」
「……はい」
泣きながら返事をしたシルバちゃんを抱きしめ、自分は今までの人生でもっとも異常な心拍数を記録する心臓の鼓動を聞きながら、ゆっくりと時が流れるのを感じていた。
その後の事は……ご想像にお任せする。
きっと現代日本に今から帰って、親に報告したとしても『若さ故の浅はかな考えだ』とか言われるのはわかっている。
だけど、後悔はしていない。
てゆーかする要因がない。
今の自分には地位がある、財産がある、そして何より、貰い物だが力がある。
帰るのを全く諦めた訳ではないが、どうせ帰っても居場所がないんだ。
だったらこの娘のためにここで骨を埋めてやろう。
いつものチキンな自分はどこへやら、シルバちゃんのためにやたら勇ましい思考回路が出来上がってしまったようだ。
それも翌日の朝、即座にショートする事になったがね。
翌日、やたら早く起きてしまった自分は横で寝ているシルバちゃんの頭を撫でてから、起き上がって服を着た。
ちょっとぼーっとしていると、今は兵士達が起きてくる時間になったらしくガヤガヤとさわがしくなってきた。
テキトーにご飯でも調達してきてあげようかなと思いながら部屋を出ると、一瞬で周りが静かになって、みんなして無言で自分を見つめだした。
………なんね。
自分が困っていると、ガタイのいいお隣りの部屋に棲息するギームさん(王鬼種・26歳の独身男性)が自分に近寄って来て、いきなり肩を掴み始まれ、そして
「あなたは俺達に死ねと言うのかぁ!!」
叫ばれた……なんで!?
「なんでここであんな……俺達だって…あんな声を夜通し聞かされたら……生殺しとはこの事だ!!」
………
「声、漏れてた?」
「ええ、しっかり。奥様が悶え、懇願する声からハセガワ様が焦らして意地悪する声まではっきりと!!」
掴まれた肩にかかる力がだんだん強くなっていく。
イタイイタイイタイ。
爪が食い込む爪イタイイタイイタイ。
「こんな男くさいところであんな声聞かされたら……俺だって恋人さえいたら……みてろよチクショー!!」
ギームさんはそう言うと泣きながら走って行った。
同じように、八割くらいの兵士が思い思いの言葉を発しながら駆けていく。
残ったのは、いわゆる彼女持ちのリア充に分類される人達だけである。
この時点で、自分は男性兵士の大半からアレな眼で見られる事が決定した。
……そして、駆けて行った兵士達を発信源に自分がシルバちゃんと正式に結婚をする事になったことが城中に伝わっていったのである。
もちろん、それによりからかわれるのは自分である。
……ハ、ハズカシイ。
「せん、ナルミさん、大丈夫ですよ。私達の愛は誰にも邪魔はできません」
「君さ、君のそれが余計に拍車をかけるって事に気が付いて。そして問題点が根本から間違ってるから」
それからしばらく、自分は祝福とも冷やかしともとれる扱いをみんなからうけるのであった。
……拝啓母上様。
不肖、あなたの息子にして一人の漢、長谷川 鳴海は別世界にて吸血鬼の嫁を貰う事になりました。
とてもかわいらしく、器量よしのいい娘ですが……
結婚とは苦労するんですね。
幸せですが、前途多難です。
まさかこんなん(困難)なるなんて思ってもいませんでした。
新婚だけに心魂からよろこんでますが、一方身魂が深刻な疲労をかんじております。
なぜかって?
まさに塵囂(じんごう)のせいですよ。
おあとがよろしくないようで。
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