シャンヴリルの黒猫
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50話「第一次本戦(1)」
『おはようございます!! 武闘大会2日目は、個人部門本戦です! 私は楽しみで昨日全然眠れませんでしたー!』
翌日、目の下に本当に隈を作ってきたモナに、観衆から苦笑がもれた。が、気持ちは分かるといった風でもある。
『それでは、選手入場ー!!』
声と共に2つの扉が開き、左右から5人の選手が現れた。3人が剣士、1人は魔道士、1人は槍使いらしい。アシュレイの姿は、ない。
『ルールを説明します! ルールと言っても簡単、5人で戦って、最後に残った1人が第二次本戦に進出です! 負けの判定は降参、あるいは石舞台のしたのくぼみに落ちることとします! ただし、魔道具は使用禁止! 使ったら反則ですからね~。また“降参”の意を示した相手に更に攻撃を加えても失格ですよ。……それでは準備はよろしいですか? では、よーぅい…始め!』
『【唸れ猛雨の吹雪】!』
直後、会場の中心が爆発した。属性は水。魔道士である。それを皮切りに、他の3人が動き出した。爆発は彼らも巻き込んだはずだが、どうやら苦にならなかったらしい。先制攻撃でダメージを少しでも与えたかった魔道士が舌打ちした。試合会場の周りにずらっと拡声魔道具があるので、試合中の彼らのつぶやきも、舌打ちも全て観客には筒抜けなのだ。
わっと観衆が沸く、と同時に、ユーゼリアは誰かに肩を叩かれた。
「よっ」
「アッシュ!」
「どうしてここに?」
「俺の順番は4回戦目でな、それまで自由にしていいとのことだったから、戻ってきた。まあ、席はなさそうだから通路に立ってるが」
申し訳なさそうな顔をするクオリに、笑って「気にするな」と言うと、そのまま戦闘を観戦し始める。
試合は魔道士の圧倒的不利だった。剣士たちと槍使いが、まずは遠距離攻撃のできる魔道士を4人で潰しにかかったからだ。魔道士の方も必死に攻撃を避け、下級魔法の連弾で距離を稼ごうとしていたが、流石に4人の近接戦闘員を相手取るのは厳しいようだ。
『【氷の乙女】!』
「…なるほど。そうきたか」
「何が?」
「あの魔道士の戦法だよ」
詳細を求めるユーゼリアには「まあ見てろ」と言うだけに留まり、アシュレイ自身も再び会場に目を向ける。
その場の気温がスッと下がる。範囲はちょうどフィールドよりやや小さい程度だ。
『うわっ』
『くそっ』
剣士たちが悪態をついた。ひとりは尻餅をついている。
「始めに仕掛けた水の爆発はこのための布石だったというわけだ」
乾いた土を凍らせるより、水を撒いて湿らせた土を凍らす方が使う魔力は格段に減る。そして凍りついたフィールドでは、下手に動けば滑って転んでしまい、魔法の格好の的になってしまう。
戦況は逆転、一気に魔道士有利となった。
『大逆転! Bランク水魔道士、アイン・シティ選手が一気に形勢有利に!』
『いい戦略ですね。始めの爆発をあえて中央に設定したのは、このためだったというわけです』
『なるほど!』
結局このまま魔道士がごり押しで勝利、やんややんやの大喝采となった。
その他の試合では他に魔道士は勝ち抜いておらず、やはりこのような“場”になると、魔法士は不利なのだろうと思った。
「さて、次か」
「頑張ってください」
「そうだ、アッシュ!」
「ん?」
「今日の大会が終わったあと、外でご飯食べてきましょ! お店はチェックしてあるから!」
「ん、分かった」
「優勝の前祝いですね!」
「はは、気が早いよ」
「勝つのよ!」
「はいはい、お姫さまのおっしゃる通り」
「アッシュ!」
「わかってるって。んじゃ、勝ってくる」
ぽんぽんと銀色の頭を叩くと、コートのポケットに手を突っ込んで、いかにも気だるげに階段を上っていった。
「まったく」
「ふふ。仲よろしいんですね」
「ん、仲が悪かったら護衛になんて雇ってないわ。まあ、彼ならちょっとくらい仲悪くても、有能だから手放さないけどね」
「そういうのじゃなくて…」
困ったような顔で苦笑するクオリ。ユーゼリアは首を傾げた。
「あはは…やっぱりなんでもありません」
「なあに?」
「こういうのは静かに見守っておいた方が、当人たちのためですからね」
「?」
再度首を捻るユーゼリアに笑って誤魔化すと、クオリはそれよりも、と試合会場を指差した。
「アッシュさんが来ました。応援しましょう!」
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