リリカルなのは 3人の想い
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3話 黒木 七実side
ドシンと尻に衝撃、つかいってぇ!
「尻が! 尻が割れる!」
「いや元から割れてるだろう!?」
おお! 何という理想的なつっこみ! 流石俺の親友だ!
声が多少違う気がするが、まあどうせ子供の姿になってるからだろうしな。
いや、もしかしたら見た目も変わってるかもな、だとしたら似合わない奴だったら思いっきり笑ってやろう。
そう思い声の方を向く、するとそこには黒色の短い髪に同じく黒の大きい瞳、下手をしたら美少女と間違われそうな顔立ちの黒いコートを身にまとった少年がいた。
てか、クロノと丸かぶりじゃん。
どっちかわからないけどお前その見た目どうするつもりだよwww。
▼▼
「………と、思っていた時期が俺にもありました」
「何を言っているんだ」
現在の俺は絶賛縛られ中。
そう、おわかりかと思うが………クロノ君本物でした!
やってられるか――!!
何で? 何で!? アースラにとばされなくちゃ行けないんだよ!?
そんなの二次創作でも見たことねえよ! ここにいたらその内魔王様と会っちまうかもしれないじゃん!
やだよスターライトブレイカーとかいう恐ろしいもの撃つ人とか怖すぎるでしょ!
例えるならドラクエでスタートが魔王城の一歩手前とかだろ! んでもって逃げ出さなかったら魔王様が自分から出てきてO☆HA☆NA☆SIしようかとか言うんだろ!!
嫌ァーーー! イィ嫌ァァアーーーーー!!
「いいかげんこちらの質問に答えてくれないか?」
そう言いつつこちらの首筋に杖を押し当ててくる。
きゃーー、クロノ君怖ーい、絶対こいつドSだよ。
「さっきから何度も答えてるじゃんよ~」
実際俺は何度もちゃんと答えてる。
「名前と出身はともかく、ここに来た理由が偶然で挙げ句に原因が友人と遠出しようとして転移魔法を使って失敗したからなんて信じられるはず無いだろう」
だって、最後の理由なんて本当の事言ったら絶対信じないじゃん。
神様の力で転生しました~、なんて言ってる奴なんかいたら俺だったら―――通報するし。
「一通り見て回ったけどやっぱり誰もいなかったわ」
歩き寄ってきながらそう言ったのは彼のリンディ茶で有名な、年齢と見た目が一致しない人達の1人リンディ・ハラオウンその人だった!
というか2人ともいなかったか、どこにいるんだろうな。
「それで? 尋問はまだ続いてるのかしら?」
尋問という物騒な言葉を口にしながらも、その口調と表情は楽しげだ。
こりゃあれだな、息子の成長した姿を見て喜んでいるか、背伸びしていると思って微笑ましいかの2択だろうね。
「それが……いつまでも同じような嘘を繰り返すだけです」
いや、まあ確かに嘘だけどさー。
『もういい加減自分の罪を認めなよ』
ハッ!? だ、誰だ!?
気づけば目の前にはふよふよと、重力を無視して浮かぶ黒くてちっこいものがいた。
そいつは具体的に描写すると、足首までとどく長く艶やかな黒髪に、長いまつげ、猫のような瞳。
肌は降り積もったばかりの深雪を思わせ、身に纏うのは漆黒のドレスの美少女がそこに『ていやっ!』
『おぶう!?』
馬鹿な!? こいつ描写の途中で攻撃しやがった!!
『だ・れ・が美少女だと?』
更に低い声で睨み付けてくる。
正直その姿は見た目の問題で全く怖くなく、むしろ可愛らしいのだがそんなことを言えばフルボッコ確定だ。
『い、いえなんでもないです』
『ふん、よろしい許してやろう。寛大な俺に感謝するといい』
偉そうに胸を張って、微笑ましい光景を作り出しているのは、何故か俺が窮地に陥った時更にどん底へと叩き落としに来る謎の存在だ。
だが見た目と言動がやけに京介に似ているので、デビル京介と呼んでいる。
『ほらほら、わかったなら言っちゃえよ自分はここに敵意を持って襲撃に来ましたって』
『いやいやいやいや、なんつー事言い出してんだよお前は!』
『えー、だってこのままじゃ話進まないし、それにどうせなに言ったって無駄でしょ』
『いや、無駄ってことはねえだろ』
『本当にそう思ってるわけ?』
あきれ果てたとばかりに、デビル京介は首を振ってみせる。
『今までのやり取りで理解できないほど愚鈍だったわけ?』
『愚鈍って……』
何でそんなこと言われなきゃなんねえんだよ。そりゃ確かに本当の事言うわけにいかねえから、嘘ついてけっどさ。
『いやはや、やっぱりわかってないか』
『わかってないってなにがだよ』
どうにもデビル京介には読心術が備わっているらしく、今さら思考を読まれた程度では動じない。
『じゃあもし仮に本当の事を話して信じてもらえるとでも?』
『いや、そりゃあ無理だと思うけどよ』
実際何度かぶっちゃけちまおうかと思ったけど、やっぱ信じれるわけないし、病院行き確定だろ。
『そこであえて同情をかって、病院に送られた後逃亡ってのもありだと思うけどね』
『隠密行動が異常に上手いお前と一緒にすんな』
授業中に誰にも悟られずに、教室から抜け出して購買で昼飯買ってから、再びバレずに戻ってくるとかどうなってんの。
『まあ、それはいいとして何でこんな状況がいつまでも続くのかは理解できたろ?』
『え? あ、ももちろん』
『ちっ、所詮バカか』
『ちょっとは信じようとか思わないのか!?』
まさかの一瞬で看破。その上罵倒のおまけ付きだった。
『はぁ、しょうがないバカにもわかるよう解説してやろう』
一々罵倒しないと喋れんのかねこいつは。
『まず最初にあの黒いのはお前の事を信じていない、そして自分の事を信じすぎている。』
『どういう意味だよ?』
俺を信じてないってのはわかるけど、自分の事を信じすぎているってのは?
『簡単な話だよ。あいつは100%自分が正しいと信じている。自分の信じれないことは即ち嘘となるわけだ』
そこで一旦言葉を切ると、デビル京介は心底下らないとばかりに唾を吐き捨てた。
『ハッ! 愚劣極まるね! 黒いのは例えお前が”本当”の事を言ったとしても、"真実"が手にはいるまで延々と同じ事を問い続けるんだろうさ!』
『………………』
吐き捨てるように締めくくったデビル京介に、俺はなにも言うことができなかった。
『次にどうにもここは必要以上にピリピリしてる』
『ピリピリ?』
『考えてみろ、いくら怪しいからといっても、今のお前は見ためだけなら武器も持っていないただの子供。それを身動きを完全に封じた上に小一時間も尋問、責任を問われたらどうするつもりなんだか』
俺の二の腕には特典でもらったステッカー状態の魂喰いが貼ってあるが、取り上げられなかったということは武器として認知されなかったということだ。
つまり京介の言う通り事実はどうであれ、今の俺はクロノ達にとって武器も持っていない子供なのだ。
『まあ、つまりはなにがあったのか知らないけどあいつらは冷静な判断ができないほど焦っているのか、はたまた面倒なことにでも直面しているのか』
面倒事ねぇ、まあ管理局なんだしある意味当然っちゃあ当然か。
『さて以上の事を踏まえた上でどうする? 俺が手を貸して面白おかしくしてやってもいいんだぜ?』
『お前絶対嵌める気だろ!?』
間違いなくこれは悪魔の誘惑の類いだろう。ここで頷いたが最後、間違いなく更に現状は悪化する。
『そこまでにしてもらおうか』
『その声はまさか!?』
唐突に聞こえた声にデビル京介が弾かれたように振り向く。
そこにはデビル京介と対照的に、純白の天使のような服装を纏った青年がいた。
清潔感に満ちた黒い短髪と理知的な瞳。五也とそっくりな容姿に加え、デビル京介と対になるかのような存在なので、俺はエンジェル五也と『帰る』
『うおい!? 早くも退場しようとすんなよ!! あ! ちょっ、マジで待って! 見捨てないで!!』
『……………はぁ』
恥も外聞もなく必死に呼び止めることで、渋々とため息を吐きながらだが立ち止まり、振り返ってくれた。
『俺をその名前で呼ぶなと言ったはずだ』
『う………、すみませんした』
『まあ、流石にエンジェルが呼び名につくってのはねい』
なるほど、確かにデビル京介の言う通りそれは男として辛いものが──
『なんだ? 人の事をじろじろ見て』
『い、いや、何でもない』
慌ててデビル京介から目を離す。違和感無さすぎるから忘れてたけど、こいつ男なのにドレス姿なんだよな。
本人曰く、むかつくけどせっかくこんな見た目だから、楽しんでおこう。ということで女装には抵抗がなかった。
その結果この悪魔に惚れて散っていった男たちの数知れず。
『おい、いつまでそうしているつもりだ』
『ん? ああ、悪い悪い』
京介にコクった男をカウントしていると、60人を超えた辺りでエン───E五也から『因みにエンジェルの綴りはAngelだぜ?』───A五也から声をかけられた。
『何故いきなり綴りなんて言っているんだ?』
『いやあ、いきなりAngel Beats! を思い出しちゃってさあ』
『なるほどあれはいい作品だったからな、いきなり思い出すのも無理はないか』
『因みに俺はDay Gameが好きかな』
『ふむ、そうだな俺は『いや、番宣とかしてんじゃねえよ!』』
唐突に話が脱線を始めたのでツッコミを入れると、2人は不満そうな顔をこちらに向けた。
『なんだよせっかく語り合おうとしてたのに』
『全くだ、せめて話に参加するならまだしも、流れを打ちきるとはどういう了見だ』
『その前に現状を何とかしてくれませんかね!?』
そもそも俺を助けに来たはずの存在が俺を放置するってどうなんだよ!
『む? ああ、そういえばそうだったな』
『ちっ、そのまま忘れてろよ』
どうやらデビル京介の狙いは話を逸らすことで、A五也に目的を忘れさせるつもりだったようだ。
油断も隙もねぇな。
『そうだな俺からの提案だが』
一言たりとも聞き逃すまいと、耳をすませる。
『適当に罪を自白するといい』
どうやら俺の耳は腐っているか、ストライキ中らしい。
聞き間違い、そう聞き間違いに違いないのだ、そうじゃなかったら俺の味方はいなってことになってしまうからな。
『因みに聞き間違いとかじゃないから、俺にも罪を自白するといいって聞こえた』
『馬鹿なっ!? 味方がいないだと!?』
まさかすぎる展開に思わず声が大きくなる。
『これ以上引き伸ばすのは彼らに迷惑だ』
『俺の味方じゃなくて管理局側だったのか!?』
『まあそんなとこだ。言いたいことも言った、悪いが俺は帰らせてもらう』
そう言い残して、A五也は本当にどこかへと去っていった。
や、役に立たねぇえええええ!!
『ほらほら、味方が1人もいなくなったことだし俺に頼っちゃいなよ』
『ここぞとばかりに勧誘してくるな!!』
というかその発言は自分が味方じゃないって言ってないか!?
『まあ、べっつにー俺に頼らなくてもー、現状を打破できるならー頑張ればいいんじゃなーい』
こ、こいつは………!! できないとわかっていながらこの言い方、パネエイラつく!!
どうする、頼るしかないのか!?
『そうだそうだ頼っちゃいなよ』
『くっ、まだだ! まだ終わらんよ!』
苦し紛れに叫び、クロノは自分の力で説得することを決意する。
『へえ、頑張るんだー。じゃあ頑張ってねー。あ、因みに今までの会話の途中、時間が止まってるとか都合のいいこと起きてないから』
『い゛』
今なにかヤバイことが聞こえたような。
『はーいそれでは1名様ご退場ー』
心底楽しそうに、デビル京介が何処からか取り出したハリセンを全力でフルスイングした。
スパーン! と快音が響いて俺の意識は明転した。
まるで夢から覚めるような感覚と共に、俺は両目を開いた。
視界に入ってくるのはバインドで椅子に拘束された俺の上半身。
「ようやくお目覚めとは随分大層な身分だな」
そして恐る恐る顔を上げると、そこには怒りのあまりひきつった笑みを浮かべるクロノがいた。
「あ、あははは~、ち、ちょっとウトウトしてただけだって~」
「呼び掛けても揺すっても全く反応しないのはウトウトしてたとは言わない」
苦し紛れの弁解も一瞬でバッサリと断ち切られる。
ヤッベエ、難易度が一気に跳ね上がりやがった。
くっ、やっぱりデビル京介に頼るべきだったか!?
『ハロハロ~、呼んだー?』
『夢の外にまで出てきやがっただと!?』
この悪魔自由度が高過ぎんだろ。
『こんな面白いこと見逃すはずないじゃん』
『まあまあクロノ落ち着いて』
「本音と建前が逆なんだよ!」
「急に何を言っている!?」
俺も逆に言っちまったー!?
クロノはいきなりわけがわからないことを言われたからか、警戒心を高め杖を構え直した。
「はいはい、ストップストップ」
『おっ?』
そんな場を納めたのは今まで息子の成長を見守っていたリンディさんだった。
デビル京介が声をあげたのは恐らくリンディさんが美女だからだろう。
『やはり美女はいい存在そのものが宝だ』
うん、お前もう黙っとけ。
「お互いもう疲れているようだから、これぐらいにしたらどうかしら?」
「しかし………」
「クロノ・ハラオウン執務官」
食い下がろうとするクロノをリンディさんはピシリと言葉を遮った。
「あなたは自身が納得できる答えが出るまで同じ問いを繰り返すつもりですか?」
「そ、それは……」
クロノはすぐにその意味を察したのか、言葉に詰まった。
『へえ、あの人は最低限の事は見えてるんだね』
感心するようなデビル京介の声、こいつがこんな評価を下すのは珍しい。
デビル京介も京介も基本的に人間嫌いだ。初対面の人間とは表面上は普通に接するが、必要以上に関わろうとしないし、恩人かインパクトの強い人物でもない限り名前すら覚えられない。
そんなデビル京介が他人を評価するとはかなり珍しいことだ。
それだけリンディさんが凄い人物ということだろう。
「つまりこれこそ亀の甲より年のこ「あら手がスベったわ」ぶべらっ!」
「母さん!?」
リンディさん曰く手がスベり、放たれた魔力弾に吹き飛ばされた俺はクロノの声をBGMに、地面を転がり意識を失った。
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