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ペルソナ4 プラス・エクストラ

作者:小狗丸
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#02

「え? ……何コレ?」

 空間を繋ぐ扉をくぐり、霧が立ち込める空間から旧校舎に移動すると、旧校舎を見回した千枝が呆然と呟いた。

「私達、さっきまであの霧がある変な場所にいたよね? それがドアをくぐったらいきなり学校ってどういうこと?」

「八十神学校の校舎に似ているな……。青野、ここはテレビの中なのか?」

「いや、ここは『SE.RA.PH』の片隅にある居住空間で、俺達は月海原学園と呼んでる」

 悠の質問に北斗が答える。月海原学園というのは過去に北斗とキャスターが参加した聖杯戦争の舞台となった学校の名前である。

 聖杯戦争での記憶は辛いことが多かったが、それでも嬉しい思い出や楽しい思い出もあった。それに北斗がキャスターと出会ったのもこの聖杯戦争であったため、その事を忘れないために北斗はこの校舎を月海原学園と名付けたのだった。

「月海原学園? そんな学校、聞いたこともないぞ?」

「それはそうだろうな。あと陽介、トイレはあそこにあるからな」

 北斗が男子トイレを指差したとたん、そこを目指して陽介が走り去っていく。

「マジで!? トイレトイレ! もるっ! もるー!」

「……さて、陽介が戻ってから説明を始めるけどいいかな?」

 ※※※

 陽介がトイレから帰ってきた後、北斗は一階の教室に皆を集めて説明を始めることにした。

「それじゃあ、まずは改めて自己紹介を。俺は青野北斗。この旧校舎でここにいるキャスターと一緒に暮らしている魔術師、霊子ハッカーだ」

「魔術師?」

「霊子ハッカー?」

「何ソレ? ……もしかして手品師か何か? ほら、マジシャンみたいな感じの」

 北斗の自己紹介に悠達は困惑ぎみに首をかしげ、それを見たキャスターが北斗に耳打ちする。

「……ご主人様、ご主人様。この方々は完全な異世界の住民のようですし、ここは長くなってもこの世界のことから説明した方が早いかと」

「それもそうだな。……すまないがまず最初にこの世界のことから説明をさせてもらう。信じられないような内容だけど聞いてくれないか?」

「分かった。信じるよ」

 北斗の言葉に即答する悠に陽介がつっこむ。

「はえーよ! まだ何も聞いていないだろうが!」

「でも、俺には彼らが嘘をつくようには見えない。現に今だってこうして安全そうな場所に連れてきてくれたし……」

「ありがとう、悠。では最初に、この世界は君達が暮らしていた世界とは別の世界、いわゆる異世界だ。月にあるムーンセルが創りだした電脳世界『SE.RA.PH』。それがこの世界の名前だ」

 北斗の口から出た「ここが異世界」という発言。これに最初に反応したのは千枝だった。

「い、い、異世界って、何ソレ!? ゲームや漫画じゃあるまいし、私達をからかっているの!? というかムーンセルって何よ? 電脳世界って何?」

「あーもー、うるさいですね。ご主人様がせっかく説明してくださっているのに、横から口を出さないでくれませんか? 私達は本当は貴方達に説明をする義理も義務もないんですよ? そこらへん分かってますか?」

「落ち着けって、キャスター。……そうだな、ムーンセルっていうのは遥か昔から月に存在する地球を観測する観測装置で……かいつまんで言うと超古代の天然のスーパーコンピューターってところかな? それで『SE.RA.PH』はそのムーンセルの内部……オンラインゲームの世界と言えば分かるか?」

 できるだけ悠達三人に理解してもらえるように言葉を選びながら説明をする北斗。その甲斐があってか悠達も納得はできていないが一応の理解はできたようだった。

「月にある超古代のスーパーコンピューター……」

「そしてそれが創りあげたオンラインゲームの世界って、どこのSFだよ?」

「それで霊子ハッカーというのは?」

 千枝と陽介が困惑顔で呟く横で相変わらずマイペースの悠が質問をする。

「霊子ハッカーっていうのは自分の魂をデータにしてパソコンに送り込むことで電脳世界を自由に行動できる能力者のことだ。俺達の世界では霊子ハッカーを魔術師と呼ぶことがあるんだ」

「なるほど。だからさっき魔術師と名乗ったのか」

 ようやく納得がいったとばかりに頷く悠を千枝と陽介があきれ顔で見る。

「鳴上君……。理解早すぎない?」

「どんだけ順応性高いんだよ? ……それで? その霊子ハッカーだか魔術師のお前達はどうしてあんなところにいたんだよ?」

 陽介が言っているのは、あの霧が立ち込める謎の空間のことだ。北斗は一つ頷くとあそこに行った経緯を話始める。

「俺達は数日前からこの旧校舎で暮らしていたんだが、少し前に突然旧校舎にある扉があの世界と繋がったんだ。それで俺は、あの世界がこの『SE.RA.PH』に悪影響を及ぼすのかどうかキャスターと調べようとした。そしたらその矢先に……」

「俺達が落ちてきたと……」

 北斗の言葉を悠が引き継ぎ、キャスターが「その通り」と頷く。

「さて、と。次はこちらが質問をする番ですね。……見たところ貴殿方、何の力もない一般人のようですが、それが何故あのような異界に現れたのですか?」

「何でって……俺達にも何が何やら……」

「ね、ねぇ……」

「……順番に話そう」

 キャスターに質問されるが訳が分からないといったふうに顔を見合わせる陽介と千枝に対し、悠は自分の中で考えをまとめながら少しずつ説明をしはじめた。

 ことの始まりは町で聞いた噂話だったらしい。

 噂話の名前は「マヨナカテレビ」。雨の日の午前零時に電源を落としたテレビを見ていると、将来の運命の相手が映るという内容で……。

「マママ、マジですかーーー!? 将来の運命の相手が映る!? 何ですかその素敵な占いは!? くっそうぬかった! まさかそんな占いがあったとは……! ご主人様! 今すぐ雨が降っているところまで行ってテレビをチェックです! ご主人様の時は私が! 私の時はご主人様が映るのは間違いなし……アイタ!?」

 ズビシッ!

 話の途中で暴走を始めたキャスターの頭に北斗のチョップが炸裂。風を切る音が聞こえる切れのいいその一撃は見事としか言いようがなかった。

「自重しろ、ピンク狐。……ああ、すまかった。続きを聞かせてくれないか?」

「わ、分かった……」

「マヨナカテレビ」の話を聞いた悠達はその晩に都合よく雨が降っていたことから実際に試すことにした。すると電源を落としたはずのテレビによく見えなかったが本当に女性の画像が映り、悠はもっとよく見ようとテレビの画面に手を伸ばすと、水面に触れたかのように手が画面に入っていったのだ。

「手が画面に入った?」

「ああ。その時は部屋のテレビが狭くて腕しか入らなかったが……」

 次の日に悠がその事を陽介と千枝に話すと二人は「寝ぼけていたのだろ?」と笑い飛ばし、そしてそのまま「事実だったら体が入りそうな大画面のテレビではどうなるだろう?」という話になったそうだ。そして冗談半分で町にあるショッピングセンター「ジュネス」にある大型テレビで試してみると……。

「本当にテレビの中に入って、あの異界に迷い混んだと……」

 キャスターが話をまとめ、悠が「そういうことだ」と相づちをうつ。

「なるほど。正直信じがたい内容だけど、それはお互い様だからな。……それで? 三人はこれからどうする気?」

「どうするって……。そんなの帰るに決まっているじゃん!」

 北斗の質問に千枝が叫ぶように答える。

「でもどうやって帰るんだよ? あそこ、出口らしいとこ見当たらなかったぞ?」

「じゃあどうやって帰るのよ!」

「知らねーよ!」

「落ち着け」

 言い争いをしはじめそうになった千枝と陽介を悠が止めて、そしてそれに北斗も同意する。

「悠の言う通りだ。ここで騒いでも始まらない。俺達も一緒に行くからあの世界で出口を探してみよう」

「それがよろしいかと。……せっかくの新居で暴れられても困りますからね」

 北斗とキャスターの言葉に悠達三人は驚いた顔で二人を見る。

「一緒に来てくれるのか?」

「ああ、さっきも言っただろう? 俺達もあの世界を調べようとしていたって。これでも俺達、一応腕には自信があるし、足手まといにはならないと思うぞ?」

「……頼む」

 断る理由はないどころか、この右も左も分からない状況では北斗とキャスターの申し出は非常にありがたかった。悠は頭を下げて二人に同行を頼むことにした。 
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