久遠の神話
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第四十二話 表と裏その九
「心が問題なのです」
「お金に惑わされる心がですか」
「そう思います。そして」
「そしてですか」
「あの彼にはそれがないですね」
大石はここでも中田のことを話した。
「お金に惑わされているということも」
「そういえば」
「おわかりですね。お金を求めているならば」
「はい。さっきの時に」
どうするかとだ。上城は先程の中田との話を思い出してそのうえで大石に話した。
「僕達と戦ってでもですね」
「お金を求めていました」
「そうしてきましたよね」
「しかし彼はそうしたことをしませんでした」
それどころか黄金には殆ど目をくれず二人と話したのである。
「金銭に対する執着はありません」
「さばさばとした感じですね」
「そうですね。つまりは」
「お金の為には戦っていませんか」
「はい、そのことは間違いありません」
こう上城に話す。中田のことを。
「別の目的で戦っておられます」
「お金の為に戦う人もいますよね」
「金銭欲は人間の欲求で最も大きいものの一つですから」
権力欲、食欲、性欲、物欲、名声欲といったものと並んでだ。とにかく目だって大きい欲求の一つであることは間違いない。
「そうした剣士もいるかも知れません」
「やっぱりいますか」
「思えば他の剣士の方は」
大石はこれまで会って確認している自分達以外の剣士のことについても考え述べる。
「それぞれの目的がありますが」
「金銭欲がある人はどうも」
「おられないですね」
「会ってないですね」
これまでのところはだった。
「どうにも」
「今の時点ではですが」
こうした限定でもだった。少なくとも今の時点で彼等が知っている、彼等を含めて八人の剣士達は誰もだった。
金銭欲から戦っている者はなかった。その他にもだった。
「権藤さんは首相の座を目指しておられますね」
「しかしそれも目的があってのことの様ですね」
「どうやら」
「ただ権力を目指すだけではないですか」
「それは高代さんもですね」
「先生も」
「あの方もです」
上城にとっては尊敬する教師の彼もだというのだ。
「学園を創りたいということも」
「それもですね」
「そうです。ただ権力を求めてのことではありません」
「先生の考えておられる教育と仰ってましたけれど」
「その為に剣士となりです」
最後まで生き残り願いを適えるというのだ。
「そうしたお考えですね」
「そうですね。先生も」
そしてだった。今度は上城から言った。
「広瀬さんも」
「あの方の戦う理由はわかりませんね」
「ですが。そんな軽い、お金とか権力の為じゃないですよね」
「彼もまた別の純粋で清らかなものの為にですね」
戦っているというのだ。彼もまた。
「そうされていますね」
「そうですね。どうやら」
「最後の彼ですが」
今わかっている八人のうちの最後の一人という意味での言葉だ。
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