ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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ファントム・バレット編
Crimson Ammo.
月下の開戦
前書き
久々のシリアス回
静寂を取り戻した洞窟は、先程までとは違う沈黙に満ちていた。
俺は「様子を見てくる」と言って再び洞窟の入り口付近に匍匐している。
(さぁて、どうしたものかねぇ……)
タイムリミットは残り30分。その間に死銃と後1人を何とかしなきゃいけない。
チームプレーをしているのは俺達ぐらいなものなので、サテライト・スキャンで2人組を探せば良いのだが、死銃が光学迷彩を使っている内は映るのは1人、場合に寄っては光学迷彩が1着だとは限らない。
こっちの手は完全近接型の剣士1人、絶不調の狙撃手1人、後俺か。
最後にスキャンを見た限りではプレイヤーはあらかた減ってフィールドの北側、つまりここら辺に集まってきていた。
(だが……)
影が見当たらない。銃声すら聞こえない。
俺は1つの結論に至った。
死銃がそいつらを消したのだ。ただ倒しただけなのか、それとも……?
(………何だ、この違和感は……?)
自分の思考に違和感を感じて、同じ言葉を反復する。
(……『ただ倒しただけ』?…………そうか!!)
刹那、霧が一気に晴れたような爽快感と共に、俺の脳は作戦《プラン》を組み立て始める。
かつて、レイは犯罪者プレイヤーの間で『紅き死神』、もしくは『レッド狩り』として畏れられていた。
しかし、それは一般プレイヤーも知っているような表の名。しかし、犯罪者プレイヤー達、裏の住人達は彼の事を『希望の光』と掛けてこう呼んでいた。
――全てを見透す者『鬼謀の審判者』
まぁ、誰が言い始めたかは知らないが、とんでもなくつまらないギャグだったので、本当の意味で裏の名になったわけだが……
―閑話休題―
朧気ながら死銃の殺人トリックを察した俺は思考を次の段階にシフトさせる。
やるべきことは3つある。
1、死銃とその協力者の撃破
2、他のプレイヤーの撃退
3、その間に来襲するであろう《レギオン》の足止め、撃破
到達予想時刻まで残りおよそ20分。その間に1・2を終わらせるのは少々しんどい……。
その時、洞窟の奥でシノンの声が聞こえた。反響で聞き取れはしなかったが、ただならぬ叫び声だった。だが、それは動揺する事ではない。
感情を発露させる事は往々にして殻を破るきっかけになる。彼女にそうさせたのは、勿論キリトだろう。
(……やれやれ。つくづく敵わないな。アイツには……)
体を起こし、壁に掛けてあったライフルを背負い直すと、洞窟の奥へ入っていった。
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Sideキリト
瞳に闇を抱き、歩き出そうとしたシノンの腕を俺は咄嗟に掴んでいた。
「1人で戦って、1人で死ぬ……とでも言いたいのか?」
それは生きることを諦めてる彼女を引き留めるためだったが、それとは関係なくどこかで見た光景だと感じた。
それは多分、俺がこのシノンを放っておけない理由。
それ故に体が勝手に反応したのかもしれなかった。
「……そう。私がやらなきゃいけないの。アイツ――レイに言われて分かった。私が逃げても何もならない。死銃と戦ってその結果死んでしまっても、それが運命だったの」
「違う、レイはそんな事を言ったんじゃない!戦って生き残って次に進めと言ったんだ。人が1人で死ぬなんて有り得ない。シノンが今死んだら、俺やレイの中にいるシノンも死ぬんだ!」
「そんなこと、頼んだわけじゃない。……私は、私を誰かに預けたことなんかない!」
「もう、こうして関わりあっているじゃないか!」
俺は誰かがいなくなる事に堪えられない。ソロプレイヤーとして迷宮区に籠っていても、こうしている内に誰かが消えるかもしれないと思うと、堪えられなかった。
それは一体、何時からか。ずっとずっと昔か、あるいは黒猫団が消えた日か……。
「なら…………あなたが私を一生守ってよ!!」
シノンが拳を打ち付ける。激情の炎をたぎらせた瞳から光るものを垂らしながら。
「何もしらないくせに……何もできないくせに、勝手なこと言わないで!これは……私の、私だけの戦いなのよ!例え負けて、死んでも、誰にも私を責める権利なんかない!!それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!?この、ひ……人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!?」
拳を思いっきり振りかぶり、打ち付ける。HPが僅かずつ減少しているが、俺は何も言えなかった。シノンが抱えるモノの一端は理解できたが、言うべき言葉は見つからなかった。
どれぐらいたったろうか、「少し、寄りかからせて」と言うので、壁に寄りかかりながら足を前に投げ出す。胸に少し重みが掛かり、同時にシノンの体から力が抜けていくのが分かった。
知り合いに見られれば一大事だが、幸いそんな知り合いは―――
「…………………いや、ホント敵わないな」
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Sideレイ
そんな独り言をボソッ、と呟いて苦笑いしていると、2人は互いにバッ、と離れると慌てて言う。
「ち、違うぞ!?」
「そ、そうよ!ちょっと寄りかかってただけで……」
「はいはい……」
ため息気味に両手で2人を制してから、レイは表情を真面目に変えた。
「さて、時間がないから単刀直入に言う。死銃はあの銃で人を殺している訳じゃない」「「え?」」
「トリックは至って簡単だ。仮想世界での銃撃と同時に《外》での協力者がプレイヤーのリアルの体を何らかの方法で殺す。そうすればあたかもゲーム内での銃撃で死亡という現象が擬装できるという訳だ」
「リアルの体……。いや、でもどうやって住所を割り出すんだ?お前じゃあるまいし」
「人聞きの悪い事言うなぁ。ま、確かに住基ネットをハックという線も無い訳じゃないが、あそこのセキュリティーは堅牢だ。並みのハッカーじゃ歯が立たない。でも、GGOにおいてはもっと簡単にプレイヤーの住所を割れるだろ?」
レイはちら、とシノンに目を向けた。シノンは一瞬考え込んですぐに思い立ったように頷いた。
「BoBの参加申し込みに任意だけどあるわね。入賞特典にモデルガンを選ぶ人は入力するわ。でも、当然システムで守られてるわよ?」
「そう、それだ。ターゲットがそれを入力している間に、あの透明マント、それから双眼鏡か何かで後ろから覗けば……」
「……確かに、それなら出来そうだな。……待てよ?」
俺はあることに気がついてシノンに向き直る。
「シノン、落ち着いて聞いてくれ。……スタジアムで死銃は君を撃とうとした。砂漠での逃走中もだ。レイの推理が正しかった場合……死銃の協力者は既に君の傍にいる可能性がある」
シノンが目を見開き、顔が青ざめていく。
「嫌……いやよ……そんなの……」
「大丈夫だ」
レイがすかさずシノンの肩に手を置き、震えを止める。
「シノン、君は死なない。死銃とその片割れは撃たれた相手しか殺さない。この世界で撃たれなければ、君に危険はない。やつらの目的は『ゲーム内からの銃撃で人を殺す』という演出を作り出すこと。撃たれてもいない君が消えたらその伝説は信憑性を失ってしまう。だから、大丈夫だ」
落ち着かせるようにシノンの華奢な体を少し抱き寄せる。これでキリトの事を言えなくなったな、と別の事を考えながら背を擦り、震えが止まった所で今度はキリトに押し付けた。
「!?」
何すんだ!?とでも言いたげな表情をするキリトだったが、シノンもシノンで抵抗無くキリトの胸にしがみついていた。
それに諦めたのか、キリトは不承不承といった様子でシノンの髪を撫で始めた。
「さて、作戦を説明するぞ」
某細剣使いさんと愉快な仲間達がこの光景を見ればどうなるかは考えるまでも無かったが、面白そうなので放置を決め込む。
「まず、俺とキリトが次のスキャンでわざと姿を晒す。死銃は俺達が組んでいる事を知っているから間違いなくここに寄ってくるだろう。だが、それは他のプレイヤーも同じ。時間から見て残っているのはやつらを抜いてもそんなに多くは無いはずだ。これはシノン、君が倒すんだ」
「……わかった」
「次に死銃ともう1人の相手はお前だ、キリト。最初は足止めでいい。敵を排除したシノンはこれを援護してくれ」
キリトとシノンは無言で頷き、キリトが片眉を上げて訊ねた。
「レイ、お前はどうするんだ?」
「死銃の殺しの仕組みが判った以上、護衛は要らないだろ?俺は《レギオン》を止める」
「はぁ!?」
キリトが思わず声を上げ、向き直ったシノンまでも目を見開く。
「考えてもみろよ。1000体の敵を構いながら元ラフコフを2人やれるか?もう予告の時間まで5分ちょっとだ。それまでに倒すのは無理くさくないか?」
「だからって……。それこそ1000対1だぞ……どれだけ止められるんだ?」
「……さぁな。やったことないし。ま、10分と見とけ」
それでもなお、超人的な数値を口にしたレイは暗い洞窟の中で不敵に笑って見せた。
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その後、中継カメラに一部始終(俺がシノンをナデナデし、キリトと引っ付いている場面)を撮られていたことが判明し、3人揃って愕然としたが、落ち込んでいる時間はなかった。
2人と別れ、レイは月光の照らす砂漠を地図上で北上していた。
やがて、小高い岩山を見つけると、そこに登り、静かに目を閉じた。
後方200m程には先程まで隠れていた洞窟、その上の岩山のてっぺんにシノンが狙撃体制に入っている。スキャンで確認できた敵影は《闇風》。前回準優勝の猛者だ。
キリトvs《死銃》+α
シノンvs闇風
レイvs《レギオン》
の構図になったBoBの終盤戦がまもなく始まる。
ピリッ、と空気が緊張したのを感じて目を開ける。
―――無数の軍勢が砂漠を静かにゆっくりと、しかし確実に進軍していた。
それを目にしてもレイは平常通りの様子に見えた。
(久々だな……)
否、態度こそ普通だが、纏っている空気が別物だった。
かの《ジオクロウラー》を単騎で葬った時と同じ、あるいはそれよりも濃密な闘気を放っている。
水城家の本家である山東家で《深層感情の開放》と呼ばれるソレの使い手はこの世に2人しかいない。
力は意思によって引き出される。しかし、その力をより高めるものは《感情》。
その感情が、人間の《本能》に近ければ近いものほど力は強くなる。
人の最も強い、2つの《深層感情》のうち1つを意図的に高められた彼はそれにより《超人》になりえるはずだった。
――――しかし、成功例は彼女のみだった。
とはいえ、成り損ない《欠陥品》であっても、それは十分に強力だ。
右手にレイジングブル。左手にダブルイーグルを握り、彼は笑う。
力を遠慮無く開放できる状況にいることに。
その相手がいることに。
無制限に上がっていく高揚感はある一定の所で止まってしまう。
これこそが欠陥、彼に捺された烙印の証。
しかしそこは『水城螢』に戻れるギリギリのラインでもある。
それ以上はもう1つの《深層感情》が歯止めを掛けて、螢には行くことが出来ない。
今は必要ない。
(守るんだ。キリトを、シノンを……!!)
レイはもう一度不敵に笑うと、咆哮を上げて《レギオン》に突っ込んで行った。
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Sideアスナ
キリトとレイの依頼主、菊岡誠二郎ことクリスハイト(本当は逆だが)をALOに呼び出し、仲間達と共に吊し上げた結果、彼らがとんでま無いことに巻き込まれているのを知った。
「……クリスハイト。あなたは知っているはずよね。2人が、どこからダイブしているのか」
「あー……それは、まあ……」
歯切れの悪い答えにセラが刀を首元に突き付け、背から黒いオーラを出している。
「わぁ!!待った待った!!心配しないでくれ。千代田区お茶の水の病院だ。心拍モニターをするため病院で、という措置を取っただけで、決して身体の異常を予測したからということは一切……」
言い訳を連ねる菊岡を手で制して、さらに問い詰めた。
「千代田区の病院、キリト君がリハビリで入院してた所!?」
「ああ、そうだが……」
しめたと思い、アスナはきっぱりと宣言した。
「私、行きます。現実世界の、2人のところに」
「……わかった。僕から話は通しておくよ」
菊岡がログアウトしていくのを見送ると、アスナはセラの方を見た。
「セラちゃん、どうする?」
暗に一緒に行くか?の問いにセラは首を横に振った。
「お兄様は大丈夫です。あの人は……1人の方が、強いですから。……それに、お兄様の傍にいるべき人は、私ではありません」
でも、とセラは目を伏せて続ける。「アスナさん。貴女がもし、あのお兄様をも受け入れてくれるなら……」
アスナはセラに笑い掛けて小さく頷いた。
「大丈夫。私は……私達はもう螢君を1人にはしないよ」
私達は無力で、一緒に戦う事はできないけれど、
彼が帰って来られる場所ではいられる。
「じゃあ、行って来るね!」
後書き
GGOは多分、後2話ぐらいかな?
ちょくちょく出てくる山東家については、MRの後半で詳しく出てくる予定。予定だからね?
《深層感情》についてもそこら辺で説明します。これは結構重要!
今の段階ではまぁ、バーサーク状態とでも解釈しててもらって問題ありません。似たようなものなので。
次の更新もなるべく早くに頑張ります!目指せ、夏休み前にMR前編終了!
感想・ご指摘・質問待ってます。
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