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ソードアートオンライン 赤いプレイヤーの日常

作者:鯔安
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三話~存在~

 
前書き
書き直しました。ごめんなさい 

 
「――すべてのプレイヤー、か……」
 
 あまりの疲労感。無意識にため息が漏れる。
 対して返答をくれたティーナにも、もはや今まで通りの元気は無かった。

「すべて……という表現は少し行き過ぎているかもしれませんが、とにかく大切なお願い、依頼なんです。引き受けて、くださいますか」

「そう、だな……」

「………」

「………」

 お互いにもうこれ以上、口を開く気にはなれなかった。無理もない。あんなことがあったんだからしかたない。そう思いたい。が、そんな俺の想いを認めることを眼前の人物の存在が妨害していた。
 この世界ではよく見るヨーロピアンな厨房をバックに湯気の立つシチューをすくっている一人の女性、アスナだ。
 俺にティーナ、そして今までポーカフェイスを保ってきたクラディールでさえこんなにもぐったりしているのに、なぜ彼女はこんなにもゴキゲンなんだろう。不公平だ。
 そんなにそのシチューが食べたかったのか、はたまた先ほど受けたあのレアなクエストがうれしかったのか。
 どちらにせよ、ここに来るまでのあの道のりに比べれば割に合わないことこの上ない。


 恐らく20分ほど前だろうか。アスナのある一声。
『あっちにすっごくおいしい穴場のNPCレストランがあるの。そこでいろいろ説明するね』
 あれがすべての発端だった。
 この時、なぜ俺は「そこらへんの酒場でいいじゃないか」と反対しなかったのだろう。そう言ってさえいれば直線距離で200メートルの一本道を、死ぬ思いをしながら通らずにすんだのに。
 あの道のりは地獄そのものだった。
 生理的に無理な(自主規制)が散らばった曲がり角だったり、(自主規制)な(自主規制)で壁が埋め尽くされていたりと。詳細は思い出したくないが、とにかくひどかったということだけははっきりと言える。帰りには絶対に転移結晶を使おうと心に決めたことも。
 けれどもそんな悲惨な状況の中に、一つだけ喜ばしいこともあった。
 とある変態NPCとの死闘の末に受託した、あのレアなクエストの存在だ。
 アルゴから買ったリストにものっていないそれは、どうやら突発的に発生するタイプのもののようで内容的に少しばかりやっつけな気がしたが、ぶっちゃけそんなことはどうでもいい。
 こういった(たぐい)のクエストは総じて、報酬がいいのだ。
 俺も過去に一度だけそういったクエストに当たったことがあるが、やろうと思えばその報酬のコルだけで余裕に当時最高品質のプレイヤーメイド武器をしつらえることができるほどの額だったと記憶している。ついでに言えば、クリア条件も通常のものとさほど変わりがないので、表現的にはレアクエストと言うよりラッキークエストと言ったほうがいいのかもしれないが。
 ともあれ今俺は、数分かかってそのフラグを立て終わり、ようやく辿り着いたアスナ曰く穴場なレストランの妙なテーブルに半ばはりつく形で座り、依頼の説明を受けているわけで――

「アスナさん、いつまで食べてるんですか」

 しびれを切らしたらしいティーナのやや荒いだ声が、俺を現実逃避から引き戻した。一拍反応が遅れたアスナがスプーンをくわえたまま目をまんまるに見開き、ティーナを直視する。その視線にティーナはコホンと一つ咳払いをすると、続けた。

「アスナさんが食べ終わらないことには私も話しづらいですし……アスナさんがおっしゃったのでしょう?『キリトくんにはわたしから話す』と」

 ごくん、と大きめのスプーンに満たされたシチューのみこみ、アスナはひらひらと手を振った。

「い、いいよいいよ。前言撤回。もう少しだからティーナちゃん話せるとこまで話しちゃって」

 ティーナの笑顔がぴくっと引きつった。が、すぐに元の表情に戻り、一つわかりましたと呟いて俺のほうに向き直ると口を開いた。

「まず、キリトさん。ご存じないとは思いますが、《死武王(しぶおう)》ってお聞きになったことありますか?」

「……いや、知らない」

 唐突だったために一瞬迷ったが自分を直視するティーナの鋭い視線に圧され、反射神経で首を横に振った。

「そう……ですよね。まず、そこからご説明しましょう」

 心の奥で安堵したようなため息と共にティーナは言った。前のめりになり再び話し始めるかと思ったのだが、

「あ、ティーナちゃん。やっぱりここからはわたしが言うわ」

 いきなり割り込んできたアスナにより、その動きが固まった。ふと右に目をやれば、いつのまに食べ終わったのかスプーンを握り締めたアスナの顔がずいっと前に突き出されている。
 ――やけに近くないかい、アスナさん
 と言うか、そんな早く食えるんだったら待ってたほうがよかったじゃないか。
 そんなことを想うがもちろん口には出さない、もとい出す勇気がない。ごまかすつもりでアスナから視線を逸らすと、そこには俺とは対照的に感情を完全には隠せていないティーナの笑顔があった。アスナは気づいていないようだが眉が短く痙攣している。
 ぜったい頭にきてるよな、あれは。

「……わかりました。なら、お願いします」

 ティーナは小さくそう呟くと、前のめりだった体をイスに落ち着けた。


「じゃ、まずは《死武王》がなんなのかっていうことなんだけど……」

 入れ替わりにしゃべり始めたアスナが、人差し指の代わりにスプーンを目の前で立てる。

「……どうやらスキルの名前らしいんだよね」

「……スキル?」

 そんなスキル名は聞いたことが無い。
 俺とてこの世界、ソードアート・オンラインを生きるMMOゲーマーの一人だ。生活系のものや生産系を含め、たいていのスキルは把握している。
 故にだろうか、自分が知らないスキルがあるなんて、正直くやしい。

「どんなスキルなんだ?」

 気づいたときには勝手に口が動いていた。

「わからないけど、戦闘系のスキルなのは確かよ。最初の所持者が『リン』っていう女性プレイヤーだったことも」

「『リン』……」

 脳内の記憶に検索をかけるが、やはり該当するものはない。

「やっぱり、心当たりはないよね」

「あ、ああ……悪い」

「あやまることないよ。私もちょっと前まで知らなかったんだから。それにね……」

 そこでアスナは一度声を切ると、表情を沈め、細く弱々しく声を漏らし始めた。

「ほんとに問題なのは《死武王》の詳細でも『リン』の正体でもなくて、《死武王》を使ってPK、プレイヤーキルをするプレイヤーが出たっていうことなの……それも最近」

「なっ……!」

 絶句した。
 早い。ラフィンコフィンを壊滅させ、いつかまた、近いうちにそういった輩が出てくるだろうと、思ってはいたが……あまりにも早い。

「……今までに何人殺られたんだ」

「正確には、わからないけど……間違いなく……二桁は……」

 半ば放心しながら、俺はアスナの切れ切れの言葉を聞いた。
 ありえない
 その単語だけが頭を右往左往している。

「その『リン』っていうやつがその人数を?」

「ううん、彼女はもう……亡くなっているわ」

 アスナがうつむいて首を横に振る。

「だからね、今PKをしているのは、二代目の《死武王》、いいえ、『リン』を殺したやつよ」

 憤りを含んだアスナの、絞るような言葉が俺の鼓膜を揺らした。目が涙で潤んでいるのがわずかに見える。悪化させてしまうとわかってはいたが、静かに尋ねた。

「『リン』を殺したやつ……どういうことなんだ?それに二代目って」

「………」

 これ以上答えるのは嫌だといわんばかりに、ぎゅっとつぶった目でアスナは黙り込んだ。
 やっぱり聞くんじゃなかった。後悔が立ってくるが、いまさら取り消すこともできない。
 そのまま俺も黙っていると、今まで顔を伏せていたティーナがアスナの様子をうかがい、ゆっくり話しだした。

「……《死武王》には、いえ、この類のスキルにはある特殊な性質があるようなんです。持ち主を殺したプレイヤーに、移るんですよ、スキルが」

 ――なるほど

「……そういうことか」

 スキル自体が移る。聞いたことのない効果だが《死武王》のような未知のスキルなら、あの男や、おそらく俺も持つ、異質なスキルなら、ありえないことではないだろう。そしてそれが真実ならば、ある程度、この話の本質が見えてくる。
 にわかには信じがたいが、

「ユニークスキル……なのか、《死武王》は」

「……ええ」

 要するにこう言うことだろう。


 現死武王である、PKプレイヤーは、どこかで、当時死武王だったリンの情報を手に入れた。自分も死武王になるために。だが、できなかった。なぜなら、それがユニークスキル、この世界でたった一人しか習得できないチカラだったから。
 しかし、そいつはそれでもあきらめられなかったのだろう。なんとかそのチカラを手に入れようと、必死に方法を探った。そして見つけてしまったのだ。リンを殺せば自らにそのチカラが宿ることを。
 後は、なにかしら作戦を立ててリンを殺すと共に、スキルを奪い取った。


 しかし、仮にそうだったとしても、やはり一つわからないことが残る。
 なぜ俺は、今の今までそのことを知らなかった?ユニークスキル、《死武王》の存在を。その所有者が殺されたことを。
 大ニュースになってもおかしくない、いや、ならないほうがおかしい。史上二番目のユニークスキル使いとしてお高く祭り上げられ、大いに悲しまれたはずだ。

「……隠蔽……されたのだと思います。騎士団によって」

 心の中を見透かされたような一言に、思わず俺は振り向いた。

「隠蔽……」

 こくんと頷き、ティーナは続けた。

「ユニークスキルは……他のスキルと比べて圧倒的に強力なものであると言われています。もちろん、それを証明するものなんてありませんが、団長さまの、ヒースクリフさまのユニークスキル、《神聖剣》のイメージが強すぎるんでしょうね、恐らく。だからおのずと、《死武王》も《神聖剣》と同等の強さだと思えてしまうんでしょう。《神聖剣》以上のスキルがあるとは思えませんが」

 やけに淡々とした台詞。そこでティーナは一つ息をつき、衣の右胸に施された赤十字をぐっと掴み、言葉をしぼり出した。

「そんな危険な力をもったレッドプレイヤーがいるなんて皆に知れ渡ったら、自分たちが戦わねばいけない状況になるんじゃないか。そう、考えたんじゃないでしょうか」

「それで、か」

 そう願う気持ちはよくわかる。正当でないにしろ、権利はある、とも。
 彼らもまた、ラフィンコフィンのあの事件を目の当たりにしているのだ。大なり小なり、トラウマというものが芽生えているはず。そんな状態の彼らに再び殺し合いをせよと、だれが言えるだろうか。
 だれにも言えない。いや、だれにも言わせない。
 そう思うならば、やるしかないのだ、自分たちで。

「キリトさん、もう、わかりましたよね」

 ティーナの、優しいながらも張りのある一声。
 気持ちは決まった。

「……このままほっとくわけにはいかないしな。俺でよければ引き受けるよ。死武王の討伐――」


 この時の俺は、まだ知らなかった。その笑顔のウラに、全く別の感情が宿っていたことを。 
 

 
後書き
鯔安(以下、と)「どうも、ドラえもんの道具で一つ選ぶならタンマウォッチ。鯔安です」
リン(以下、リ)「初めての人ははじめまして!そうじゃない人はおひさしぶり!リンでーす」
と「今回は前書きの通り、書き直しました。いや、前のがあまりにもひどかったもので……」
リ「ふーん……その割にはあんまり変わってないように思うけどなー」
と「そ、そんなことないでしょ!?たとえば……カレーのとこをシチューにしたり」
リ「他には?」
と「………」
リ「………」
と「………」
リ「感想、アドバイス、よくわからない点などなど、ありましたらよろしくおねがいしまーす」 
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