トーゴの異世界無双
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第三十八話 身分なんて関係ねえよな
「き、気づいてらっしゃったのですか?」
まあ、怖がってる奴らは、ほとんどが私服だったしな。
貴族はほぼ全員が私服着てるみたいだから、判断がし易かった。
「中には平民もいるだろうけどな。でもオレを恐れている貴族の方が断然多い。何故なら、オレが平民だからだ」
そう。闘悟が身分の高い貴族なら何の問題も無かった。
この世界では、貴族=強者という方程式を信じている者がほとんどだ。
確かに強者の多くが貴族に多いのは事実なのだろう。
だが、平民と呼ばれる者の中にも、決して貴族に劣らない力を持つ者だっている。
その中でも突出した存在でもある闘悟に、貴族達は恐怖を抱いている。
総じてプライドの高い貴族は、平民に負けることを大なり小なり恐れている。
それは貴族が誇りや名誉を重んじるからだ。
身分の高い者は、低い者を蔑(さげす)み、低俗(ていぞく)として扱っている。
そんな者に負ければ、そんな低俗の者以下というレッテルを貼られてしまう。
プライドの高い貴族は、それを何より恐れる。
だから貴族を、しかも三賢人を父に持つ高位貴族であるリューイを破った闘悟の標的が、いつ自分達に移るのかと貴族連中はビクビクしている。
しかし、全ての貴族がそのように思っているわけではない。
ただ単に闘悟の力の異常さに恐怖している者もいる。
だが、闘悟に言わせればそんな連中にはまだ救いがある。
問題なのは、未だ平民を低俗として扱う者達だ。
特に強い権力を持っている者は性質が悪い。
リューイもそうだったが、平民を蔑むことに慣れてしまっていることが問題だ。
恐らく、そう育てられたのだろうが、日本で育った闘悟にとって理解しにくいことだった。
クィルは闘悟の話を悲しそうな表情で聞いていた。
「クィルは今の貴族をどう思う?」
「それは……」
答えにくいのは仕方無い。
彼女は貴族よりも高位な、王族なのだ。
下手な言動は、国に影響を及ぼしかねない。
軽はずみなことは言えないだろう。
「オレは、今のこの状況を望んで作ったんだよ」
「え? ……それはどういう……?」
「オレは異世界人だけど平民だ。これで、面白くなる」
闘悟がそう言って笑いを作るが、何が面白いのかクィルには分からない。
傍にいるミラニと顔を合わすがミラニも首を傾げている。
ミラニはクィルの代弁(だいべん)として口を開く。
「何が面白いのだ?」
「平民は貴族に勝てない。それが誰もが信じてる、この世界の法則なんだろ?」
馬鹿げているけどな。
「まあ、そう信じている者が多いのは確かだ」
「だけど、オレは勝った。それも完膚無(かんぷな)きまでにな」
「貴様まさか……?」
ミラニは闘悟の言いたいことがようやく理解した。
クィルはまだ分かっていないのか、闘悟とミラニを交互に見る。
「平民は貴族に勝てる。その事実をコイツらに教えてやりたかった」
闘悟は未だ嘆いているカイバ達に視線を向ける。
このルームメイトのほとんどが平民だ。
「そのためだけに、あんな挑発をして決闘を受けたのか?」
ミラニはやれやれといった感じで肩を落とす。
「身分なんてくそくらえだ。平民だって強え奴は強え」
「仮にも王女様を前にして言うことか?」
「あ、ごめんクィル。気を悪くしたか?」
「いいえ、トーゴ様のお考えには私も賛成なのです。トーゴ様の言う通り、平民だからと言って、弱いとは限りませんです。この世界の歴史はそれほど浅くはありませんです。過去には平民の中から英雄と呼ばれた者もいると聞きますです。ですから、強さに身分は関係ありませんです」
クィルならそう言ってくれると思っていた。
「これで、『ヴェルーナ魔武大会』は盛り上がるぞ」
闘悟は歯を見せて微笑む。
「平民は遠慮なんかしなくてすむ。オレがそうさせる。一か月後が楽しみだ」
「貴様、まさか大会のことまで予測していたのではなかろうな?」
「さすがにそれはな。だけど、無かったらそういうイベントを作ってもらおうとは思っていたけどな」
王には貸しもあることだしな。
「何て奴だ……それに、まだ何か考えてるようだしな……」
ミラニは溜め息を吐きながら、頭を軽く振る。
「はは、トーゴ様には常識は通じませんです」
呆れている二人をよそに、闘悟は一か月後の『ヴェルーナ魔武大会』が楽しみで仕方無かった。
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