英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち
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16話
朝食を終えた特務支援課はいよいよ最初の活動を開始することになった。
「ロイド、警察手帳を出してみろ」
リビングに集まった課員の4人にセルゲイ課長は初仕事だからとこれからの活動手順を説明するためにミーティングを開始した。
ロイドが取り出した警察手帳は警察紋の入った黒手帳であり身分証にもなる。
これはロイド以外の3人も警察への配属で配布されたが、ロイドだけは警察学校卒業時に配布されている。
「こいつにはいろいろと規則やら戦術オーブメント表やら載っているが、こいつの最大の目的は捜査状況の記録と確認にある」
セルゲイ課長に説明しろと話を向けられたロイドが話を引き継ぐ。
「警察規則ではどんな捜査任務でも記録をつけることが求めれてるんだ。任務を受けてどういう風に捜査が進んだかの状況を手帳にメモして、報告が行われて勤務査定や特別手当の決定が行われる。だからなるべく細かくこまめに簡潔にメモを取るんだ」
これらは警察学校で習い、捜査官資格を受けるにはこの手帳の書き方を覚えることが考慮される。正確な報告書を提出出来ないものは信頼されないからだ。
そのため実務経験が考慮されるのだが、ロイドはこのような書類仕事が得意で候補生時代に受かったのだ。捜査官なら報告書の内容も信用される。
手帳には報告欄やら書きやすいように分けられている。
これには報告書を捜査メモをそのまま提出することで報告を完了出来るなどの迅速さや膨大な情報量を書き出せば筋の通らない文章は作文だと見破ることも出来るなどの利点が多いが、どうしても文書仕事が苦手な余計な文章を書いたり簡潔に出来なかったりする捜査官などがおり、そのため現場の捜査官は非常にマメな人物に偏ることが多いという。
「うげ、けっこう面倒くさそうだな」
自分の手帳を見てランディが呻く。
「まあ代表としてリーダーのロイドが提出することになるが、だが、ここではちょいと状況が違う。ティオ」
ティオとセルゲイが立ち上がると部屋の隅にあるモニター付き端末に向かいロイドたちも傍によるとティオが操作し始めた。
するとモニターが起動して青い画面に何か文章が表示された。
「導力ネットワークの端末ね?」
「はい。昨日のうちにセッティングしました。常時起動したままでログオンするとこの画面になります」
「ここに支援要請が?」
ティオが操作しつつセルゲイが説明を続ける。
「正規の任務以外の各方面からの依頼が届けられる。市民に観光客、市からの要請、本部が忙しい時は市外パトロールにデスクワークの手伝いなど様々な依頼が舞い込むだろう」
この説明にエリィが少し疑問を感じた。
昨日の説明から支援課が人気取りの組織で市民や市からの要請というのはわかるけど、なぜ本部の仕事まで手伝うのだろうか。
とはいえ部署を超えた応援はよくあることだろうし課の設立にはいろいろあったようだからと納得しておいた。
「支援要請の多くはしなくても良いことだ。だが、放っておけば遊撃士に回される仕事でもある」
これに全員が納得した。
この支援要請をこなす事で遊撃士の評価を少しでも持ってくることがこの部署の役目であり評価基準になると。
遊撃士は依頼者からの委託という形で市の業務も代行することがあるし、困りごとがあれば依頼として対処する。
警察も依頼の一部を遊撃士協会に回している。
「もう要請は来てますよ」
全員がモニターを見ると支援要請の項目に支援要請の補足説明という項目が出ており、依頼人は警察本部の受付担当のレベッカからで補足説明があるので受付まで来て欲しいことが書かれていた。
「業務連絡だな」
「そうみたいだ。でも導力ネットワークがどういうものなのかなんとなくだけどわかったような気がする」
「通信器と違って声以外にも画像や文字情報も送れるみたいね。話には聞いていたけどいろいろと応用が利きそう」
ティオがいくら説明してもイマイチわからなかった導力ネットワークも直にその機能を知り、手触りがわかることでなんとなくだが、ロイドたちにも導力ネットワークがなんなのかわかってきた。
エリィはマリアベルやIBCが設備投資に躍起になっているのも実感としてわかるようになってきた。
「前にも言いましたが現在クロスベルでは様々な試験運用が行われています。これもその一環です」
「まあ概要はこんなところだ。早速お前たちには支援要請を達成しきてもらおう。その後は、まあ好きにしろ。本部から嫌味を言われんように一つくらいは支援要請はやっておけば良い。あとは街を巡回しておけよ。これから守る街だ。警察官としてやっていくならよく知っていたほうが良いだろう。俺はそこの部屋で昼寝してるか雑誌読んでるかして忙しいからなるべく自分で解決しろ」
そんじゃーなと奥の課長室に消えたセルゲイ課長に消えて行った。
皆は唖然として口々に不満を述べる。
「支援要請をやることでお株を奪うんじゃなかったのか」「先行き不安です」
そんな仲間たちにロイドは初仕事だからと先ほど言われたように行動方針で動くことを決めた。
「最初だから焦らず確実にやって、感じを掴んでいこう」
了解ですと皆が頷いた。
警察本部の受付嬢たちは訪れる市民がまばらなことで雑談交じりに業務をこなしていた。
受付の仕事といえば来訪者の取次ぎや案内などの接客が主であるが、それは同時に事務仕事にも直結し警察ではかなり多い。
例えば通報を受けて各部署へ連絡する役目を請け負うがその場合、通報報告書の作成を行う。
オペレーターたちはそれらの通報を報告書にまとめなくてはならない。事件になった場合の経緯を知るためにである。
当然ながら警察は全ての事案に対応出来るわけではないので重大事件を優先することになる。
このほかにもいろいろと警察で処理する事案の受付を担当するので仕事量は膨大なものになる。
そして今回また一つオペレーターたちの仕事が増えることになった。
警察内で新しい捜査任務要請の方法として導力ネットワーク端末に載せることで出先機関と情報を共有する方法である。
新部署での試験運用という形で通常業務と平行しての運用である。
「あら?」
フラン・シーカーは先輩のレベッカが話題を打ち切ったので誰か来たのか端末から振り返ると一昨日知り合った4人が受付にやって来ていた。
「あ、支援課のみなさん」
「こんにちわ。支援要請の連絡で来たのですけど」
「はい。お待ちしておりました」
改めてと受付担当の二人は自己紹介を行い、青い髪の眼鏡の女性はレベッカと名乗り、ピンク髪の若い女性はフラン・シーカーだと名乗った。
落ち着いている冷静なレベッカと違いフランは明るく人好きする雰囲気だった。
「一昨日はみっともないところを」
失態と叱責から謝罪から入ろうとしたロイドだがレベッカは気にしないでくださいと励ましてくれた。
「最初ですから慣れない事もあるでしょうし、私たちも可能な限りお手伝いさせていただきます」
簡単な励ましの言葉だったが初日からの失態で気持ちが沈んでいたことは否めず外部から励ましには一層励まされた。
「クロスベルタイムズの記事のことは伝わってるでしょうか?副局長に叱責された理由が知れ渡っていると思うのだけど」
「初出動で遊撃士に良い所を取られたことは警察本部ではどう受け止められているのですか?」
エリィが評判を聞こうと柔らかめの表現を使ったのだがティオがズバッと聞いてエリィは狼狽したが、フランは笑ってみんな同情的だと教えてくれた。
「警察はクロスベルタイムズで批判されたことはない部署はないってくらいですから親近感が湧いたんじゃないでしょうか。上の人はさすがに不機嫌でしたけど、抗議とか問い合わせの通信も数件来ただけでしたし」
結局また警察がミスをやった。世論はそう受け止めたようで、警察内部でも名誉に泥を塗った新設部署のことをこのままでは自然消滅するのを待つだけなので他人事でもありかなり同情的であった。
それを返上出来るかはこれからの活動に掛かっている。
「早速ですが支援要請の補足説明をいたします。まず皆様にはこのフランが専属オペレーターとして付く事になります」
元気良くフランがよろしくお願いしますと挨拶するがティオを除く3人はオペレーターが何をするのかわからず困惑した。
「導力ネットワークを使い捜査と支援の要請とその報告を処理することになります」
まだよくわかっていない3人にティオが補足説明をする。
「捜査指令と達成報告を支援課の端末から確認して処理してくれるんです。要は報告を端末の導力ネットを通すことで受け付けてくれて、報告処理の手続きをやってくれるんです」
昨日説明しましたと付け加えても3人はそうだったかと反応は薄かったが、ランディが面倒な事務手続きを端末で済ませられるという答えで便利さに納得した。
そして報告の具体的な方法として端末での通信機能を使っての口頭報告や書式の提出で完了だと。
簡単な支援要請や手配魔獣の退治などは口頭で報告すればフランが報告書を作成してくれるし、報告書を出す場合でも手帳の記載を打ち込んでデータとして送れば済む。
二度手間な部分もあるが、多くの事務手続き、報告書の作成はフランが担当することになり、それによって本部まで行く時間の短縮になり、特別手当やランク査定などの報告後の手続きが簡単に行える。
「これで端末から報告していただければ達成となります。そこで新しい支援要請を送りますので」
これらの事務手続きを終えて支援課ビルに戻ると端末に向かって報告を行った。
端末でフランと通信が可能になると補足説明が完了したと項目に完了されたと表記が出ている。
「これで報告が完了されました。これを元に査定や手当が検討されます。結果は後日通知します」
今回は非常に簡単な報告で済んだが、いろいろな手続きをフランに一元化することで数分足らずで済んでしまったことに皆、驚きを隠せなかった。
「本当にあっという間だ」
ランディなどは話すだけで済むことで楽だと喜んだ。
「支援要請が来ていますので送ります」
項目が更新されて観光客からの依頼や市役所の手伝い、手配魔獣の対処が追加された。
ロイドは文面を手帳に書き写していく。
「手が離せなくて通信出来ない時もありますが、任務要請は随時更新しておきます。報告も文書なら送ってもらえば処理します」
フランが通信を切ると最初の任務は簡単なものが多いが、皆は手配魔獣が気になった。
出没地点はジオフロントA区画だということで一昨日、あれだけ掃除したのにまた出てきたのか。
「手配魔獣は遊撃士が退治することが多いそうだけど」
ロイドは少し考えてから皆にこの依頼を受けてみようと提案した。
「一昨日のリベンジか?」
ランディの問いに頷くと理由を説明した。
「あの時はアリオス・マクレインに助けられたけど、ちゃんと準備しておけば撃退できたと思うんだ。初仕事の景気付けの意味でもこれから手配魔獣相手に戦うことになるなら避けて通れないと思うんだ」
この提案は特務支援課の活動範囲を決める極めて重要な提案だった。
ロイドは初仕事の失敗を乗り越えたい、自分たちは失敗したってやれるということを証明したいからこの任務を受けようと提案したのだが、基本的に治安維持を主にする警察はわざわざ僻地に分け入って魔獣を退治することはしない。
警備隊も治安維持や演習の名目で掃討することがあるが、これらの相手をするのは圧倒的に遊撃士が多い。
それは通常の魔獣の脅威は高が知れているし突然変異的な凶暴な魔獣の数は多くないからだ。遊撃士で十分対処出来ているのだ。
警察としては遊撃士のお株を奪う市民サービスを行うとはいえわざわざ手配魔獣退治までやる必要があるかは微妙なところ。
警察としての優先順位は低く、この手の仕事をやるということは本当に遊撃士の様なものである。
理由を説明したロイドも反対されるかなと少し自信なさ気だったのだが、ランディがすぐさま同意してくれた。
「借りを返すってわけか、俺は良いと思うぜ」
戦闘要員としてランディが反対する理由はない。ティオは杖の実戦テストになるのでちょっと面倒ですけどと同意してくれたが、エリィは少し迷っている感じだった。
「エリィは反対なのか?」
「そういうわけじゃないわ。遊撃士の仕事には興味があるし」
警察として自治州の歪みを直に感じたい、知りたいエリィにとっては遊撃士の仕事も興味があったが、戦闘能力にさほど秀でていない自分の手に負えなくなるのではないかという不安があった。
「選択肢は狭めたくないっていうのかな。解決出来ない問題でもぶつかり続ければ対処方法もわかるようになるだろうし。自分たちがどこまで出来るのか試したいのもあるからさ」
最初なんだから無理するぐらいが調度良いじゃないかという気概には皆が納得した。
「お嬢も難しく考えなくても手に負えなくなれば任せれば良いだけなんだし。だろ?」
エリィはちょっと考え過ぎだったと同意した。
ランディは、なら決まりだと。
「準備を整えて駅前に集合だな」
「ああ!」
ロイドは最初の任務を自分たちで決められたこと、仲間たちが同意してくれたことが嬉しくて強く頷いた。
後書き
支援課始動と事務手続き回。
あのネット端末を使った報告はいったいどうしてるんだろうかという疑問は尽きない。
空では受付で手帳にスタンプとかがイメージしやすいのだけど。
この端末に報告ってどうしてるんだろう。口頭でフランに丸投げか手帳を提出するとかだろうけど、そうなるとフランの後方支援って凄いのだなと改めて思う。
ガイのぶつかっていけの言葉を思い出してないとかなり能動的なロイドには説得力がないかな。
仕事なんでリーダーだから皆に頑張っていこうと鼓舞してリーダーシップを発揮しただけなんだけど、もう一度挑むこと、壁に挑むことは最初から行われている。
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