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万華鏡

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第二十五話 夜の難波その七

「美味しくないんじゃないの?」
「コシがないよね」
「コシと味でしょ」
 彩夏は里香にこうも言った。
「その二つがないとおうどんもね」
「おそばもそうだし」
 景子は大阪ではどちらかというと二番手に位置するこれを出した。
「やっぱりコシがないとね」
「麺の気がしないわよね」
「ラーメンでもスパゲティでも」
 外来のパスタもだった。
「コシがないとね」
「どうしてもね」
「だから讃岐風っていっても」 
 大阪ではない、だからだ。
「美味しいからね」
「おうどんはそれでいい?」
「そうなるわよね」
「ええ、私もそう思うし」
 里香は真剣にうどんのことを考えていた、多少俯いてもいる。
「だからね」
「おうどんはそれでよね」
「コシがある方が」
 うどんはこれで落ち着いた、麺は。
 だがここでだった、里香はうどんのもう一つの柱も話に出した。それは何かというと。
「おつゆはね」
「ああ、それね」
「あのお店のおつゆよかったわね」
「いいだし出ててね」
「美味しかったね」
「そっちもよかったよな」
「関西のだしだったわね」
 里香は目を細めさせて言う。
「やっぱりだしは関西よ」
「あれなのよね。関東だとね」 
 景子が関東のだしを比較対象として出す。少し困った感じの顔で。
「辛いわよね」
「真っ黒でね」
 琴乃もすぐに言う。
「墨汁みたいで」
「あれないわよね」
「というか本当に思ったでしょ、墨汁かって」
「私イカ墨かって思ったわ」 
 景子は真顔で琴乃に話す。そろそろ日が弱くなってきた難波の街を歩きながら。
「あれね」
「スパゲティみたいに?」
「そう、ネーロね」
 スパゲティのソースの一つだ。本当にパスタが真っ黒になる。
「あれは美味しいけれどね」
「イカ墨は美味しいけれどね」
「それでもね」
「おうどんのおつゆには普通入れないから」
「びっくりしたわ、噂には聞いてたけれど」
「しかも食べたら本当に辛いし」
 生粋の関西人の二人にとってはだ。
「もう何これっていう位」
「そうそう」
「ううん、私的にはね」
 濃い味付けの彩夏が言うには。
「大阪の濃い味がいいけれど」
「それが辛いでしょ」
「東京は」
「あっ、東京のおうどんとかお蕎麦はね」 
 彩夏は二人に返す。
「食べたことないのよ」
「だからなのね」
「そっちの味は知らないのね」
「京都に神戸にね」
 五人のいる町のことも話に入る。
「この大阪も知ってるし伊勢うどんも」
「伊勢うどんってあの」
「そう、三重のおうどんでね」
 こう景子に言う。 
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