アマールと夜の訪問者
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第一章
第一章
アマールと夜の訪問者
澄み渡った夜空。無数の星が瞬いている。
赤い星もあれば青い星もある。白い星もだ。様々な色の星達が濃紫の幕の上に瞬いている。その星達を見ながら一人の男の子が角笛を吹いていた。
「奇麗だなあ」
小さな粗末な小屋の外からその星達を見上げて言うのだった。黒い髪と瞳の表情はあどけない。無垢そのものの顔をしている。小柄で華奢な身体を粗末な服で包んでいる。
「冬の空って本当に奇麗だなあ」
「アマール」
しかしここで、であった。その粗末な家の中から声がしてきたのだった。
「そこにいるの?」
「あっ、お母さん」
「もう寝なさい」
家の中から聞こえてくるのは少し歳がいったような女の声だった。
「いいわね」
「うん、わかったよ」
アマールと呼ばれた男の子はその声に応えて頷いた。
「けれど」
「けれど何?」
「星が凄く奇麗だよ」
今もその星達を見上げている。彼の周りは彼の家と同じ様に小さな家が点在している。どうやら小さな村に住んでいるらしい。
「とてもね」
「それはわかったから」
一応我が子の言葉を受けはするのだった。
「寒いから早く寝なさい」
「寝ないと駄目なの?」
「駄目よ」
今度は厳しい言葉だった。その言葉と共に黒い乱れた髪を後ろで束ねた三十程の女が出て来た。やはり粗末な服を着ており顔はやつれている。表情も黒い目も疲れたものである。
「あんたの脚にも悪いわよ」
「脚にも悪いんだ」
「冷えるとよくないわ」
だからだというのである。
「だから。いいわね」
「わかったよ。脚を早くなおさないといけないからね」
「そうよ。だからね」
また我が子に対して言うのであった。
「早くお家に入りなさい」
「うん」
こうして彼はまずは立ち上がった。手元に置いていたその杖を持ってそのうえでそれを支えにして立ち上がる。ゆっくりと立ち上がってそのうえで家の中に入る。
家の中は暗い。そして何もない。部屋の中にあるのは古い藁のベッドだけである。その他にあるものは何一つとしてない。極めて貧しい有様である。
アマールはそこに入ってすぐに藁のベッドの上に寝た。母もその横にいる。
「それじゃあお母さん」
「寝なさい」
「うん。じゃあ」
こう応えてそのうえで。ふと母に尋ねるアマールだった。
「ねえお母さん」
「どうしたの?」
「お父さんいなくて寂しくない?」
こう母に問うのであった。母に顔を向けて。
「お父さんが」
「寂しくはないわ」
心を隠してこう答える母だった。
「別にね」
「そうなんだ」
「アマールが心配してはいけないわ」
アマールに優しい顔を向けての言葉であった。
「貴方はそれよりも」
「それよりも?」
「足を早くなおしなさい」
こう言うのだった。
「いいわね。足をね」
「うん、わかったよ」
アマールは母の今の言葉に邪気のない笑顔で頷くのだった。
「それじゃあね」
「お休みなさい」
ここまで話して静かに眠ろうとする。しかしここで。
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