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月の世界

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第八章


第八章

「ううむ、何という僥倖じゃ」
「ようこそ、月の世界へ」
 チェッコは皇帝になりきってブオナフェーデに告げた。威厳も何とか演じている。
 そんな彼をエルネストは物陰から見ながら。こう言うのであった。
「いいな、中々演技力あるじゃないか」
「チェッコは頭がいいからね」
 彼と同じく物陰から見守るエックリーティコがそれに応える。
「だから皇帝役に選んだんだ」
「それでだったんだね」
「うん、これはいいね」
 自分の人選に満足している彼だった。
「この調子でいけるよ」
「頑張れよ、チェッコ」
 そこから自分の従者に声援を送るエルネストだった。
「応援しているからな」
「それでは御老人」
 チェッコは威厳を保ったままブオナフェーデに告げてみせる。
「何か願い事はありますか」
「願い事ですか」
「はい、宜しければ言って下さい」
 優しい声で彼に告げるのであった。
「何でも」
「それではです」
 彼はその言葉を受けて畏まった態度でこう述べるのであった。
「私の娘のクラリーチェとフラミーニアをですね」
「どうされると」
「こちらに呼んで下さい。これだけ楽しい世界は娘達にも見せてあげないと」
「ここでも私達なのね」
「本当ね」
 その娘達は皇帝の側でこう囁き合う。
「何でもかんでも私達って」
「もう気にしなくてもいいのに」
 こうは言っても悪い気はしていなかった。実のところは。だからこそにこやかに笑ってそのうえで皇帝を演じるチェッコの側にい続けていた。
「是非共です」
「娘さん達だけですか?」
「いえ、もう一人います」
 ここで彼はさらに言うのだった。
「女中のリゼッタもです」
「その人もですね」
「あの娘にも見せてあげないと」
 周りを目だけで見回しながら述べる。とりわけチューリップ達をである。
「これだけ美しいものは」
「ふむ。その人もですか」
「宜しいでしょうか」
「はい、勿論です」
 まずは優しい笑みを浮かべて答えるチェッコであった。皇帝として。
「ですが」
「ですが?」
「一つだけ条件があります」
 こう言うのである。
「実は私はずっと一人身でして」
「そうなのですか」
「それでです。そのリゼッタさんを私の妻に迎えたいのですが」
 彼に提案という形での言葉であった。
「それは宜しいでしょうか」
「月の皇帝陛下の奥方といいますと」
「はい、皇后になります」
「私が皇后なんて」
 今の言葉を聞いてエックリーティコがいる物陰で大喜びになるリゼッタだった。その両手の指を組み合わせてはしゃいでいる程であった。
「嘘みたいだわ」
「嘘じゃないよ。君は彼の奥さんになるんだからね」
 エックリーティコはこう彼女に話すのだった。
「だからね」
「そうですね。嘘じゃないんですね」
「じゃあそれを現実のものにする為にね」
「わかりました。それじゃあ」
「行ってらっしゃい」
 ここで彼女を行かせる。その間に妖精達はそっと姿を消す。そうして彼女達はすぐに自分達の場所に入って着替えて元の姿に戻るのであった。
 
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