トーゴの異世界無双
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第二十六話 謝る理由がねえのに謝る必要がねえ
ミラニは怪訝(けげん)そうに眉を寄せる。
そうだろうな。
ミラニの言う通りだと思った。
闘悟は世界の崩壊を止められるほどの魔力を持っている。
一般人が恐怖を抱くのが当然の存在だろう。
普通の精神の持ち主なら、そんな態度をとられるのが怖くて、自分の力を隠したがるだろう。
だけど闘悟は他人から異質な目で見られることには残念ながら慣れている。
そのことを知らない二人には、闘悟の行為が物凄く不自然に見えるだろう。
しかし、闘悟にとってはごく自然なことなのだ。
そういう環境で育ったから。
普通という枠から逸脱した生活が、彼の精神を何ものにも挫(くじ)けない強さを与えた。
それが幸せなことなのかどうかは別の話にはなるが。
「まあ、面白そうだからな。決闘の先にあるオレの未来。すげえ興味深いんだよ」
本当に楽しそうに笑う。
「……はぁ、何もかもが規格外だな貴様は」
「やはりトーゴ様はビックリ箱なのです」
二人は肩を落としながら呟く。
「それに、たとえ周りの連中がオレを避けてもさ……」
二人は闘悟の顔を見る。
「お前らは一緒にいてくれるんだろ?」
「……っ!!!」
「だったら大丈夫さ」
笑顔を向けると、二人はボンッと湯気を出し顔を赤らめた。
何だかんだ言っても、この二人はオレをオレとして見てくれてるのが分かってるからな。
それがとても嬉しいんだ。
そういう奴らが傍にいるなら、オレは一人じゃない。
だから、アイツらのように決して道を間違うことはねえ。
「き、きききき貴様は、い、い、一体こんなとこで何を言っているっ!?」
ミラニは焦りながら指を突きつけてくる。
クィルはクィルで意識が飛んでいるのか、凍ったように硬直している。
周囲はそんな闘悟達を奇異(きい)な目で見ていた。
チャイムが鳴ったので俺達は教室へと向かった。
教室内ではやはり『ケリ』の話題が沸騰(ふっとう)していた。
「お前なぁ、マジでやるつもりなのか? あのシュールベルの坊ちゃんとさ」
聞いてきたのは、ネコミミ男子のカイバだ。
「そ~だよ! しかもだよ! 相手があのリューイ・フォン・シュールベルだなんて、負け試合もいいとこじゃない!」
今度はツインテールがチャームポイントのメイムだった。
「そんなに強えのか?」
「彼は……『ウィズダム』の……五年生で……ルームリーダー……だよ」
そう教えてくれたのは、我らが妹キャラのヒナだ。
ルームリーダーというのは、そのルームの中で一番成績が良い者が務める。
「そう! それによ、奴は幼い頃から魔法の英才教育も受けてるらしい」
「ふうん、エリートってやつか」
「才能も、さすがに三賢人の血を引くだけあってずば抜けてる」
リューイの父親は、この国で三賢人と呼ばれているほどの人物だ。
魔法士としても超一流らしい。
「去年の『ヴェルーナ魔武(まぶ)大会』じゃ、優勝候補だったフービ先輩と五分のいい勝負したしさ」
カイバが目を閉じながら過去を思い出す。
「いい勝負? 負けたのか?」
「ダブルノックダウンみたいになって、立ち上がったのがフービ先輩だったんだよ」
どうやら、そのフービという奴が勝ったらしい。
なかなかの名勝負だったらしい。
「ともかく! 相手が悪過ぎる! 今ならまだ間に合う! 殺される前に謝っちまえ!」
「何でオレが謝らなきゃなんないんだ?」
そりゃ、挑発はしたが、基本的には両者に非はあると思うんだけど。
「謝れば『ケリ』を取り下げてくれるかもしれないだろ? それともトーゴは死にたいのか?」
「いんや、死にたくはねえな」
「だったらすぐにでも謝れ!」
「嫌だ」
「へ?」
「謝る理由がねえもん」
「いや、だから……」
「いいからさ、黙って成り行きを見守っててくれって。きっとビックリすっからさ」
「お前なぁ……」
「あ、あの……」
申し訳ないような声で介入してきたのはクィルだった。
「ひ、姫様?」
カイバが急に畏(かしこ)まる。
さすがのカイバも、王女と対等に接することが至難らしい。
「どうか、トーゴ様を信じてあげて下さい」
「えっと……」
いきなり頭を下げた彼女の態度に、困った様子でカイバは近くにいるメイムに目を移す。
だが、次に言葉を放ったのはヒナだった。
「王女様に……そこまでさせる……トーゴに……興味がある……だから……信じてみる……よ」
ヒナの言葉に嬉しそうに微笑むクィル。
「あのさ、ミラニはどうなの?」
同じように近くにいるミラニに声を掛けたのはメイムだ。
呼び捨てにしているということは、それなりに仲が良いのかもしれない。
「私はクィル様の信じるものは信じる」
「そっかぁ……」
「それに」
「ん?」
「トーゴが負けるとは限らない」
「……はい?」
「何故なら、トーゴとシュールベル殿が闘うのは初めてだ」
「まあ、そうだろうけど~」
疑問符を浮かべながら言葉を出す。
「なら何が起こるか分からない。そういうものだ。実戦というものは」
何故ミラニが、自分とトーゴが戦った結果を話さないかというと、トーゴに話すなと言われていたからだ。
魔法騎士団長のミラニと戦って勝ったといっても信じないだろうし、仮に信じたとしても、どうやって勝ちを手に入れたのかを説明する必要が出てくる。
また、そんな情報を与えてしまうと、先入観が宿り、決闘を純粋に見ることができないと闘悟は言った。
ミラニにしても、負けたことをわざわざ話そうとも思ってはいないので闘悟の話に乗った。
「ま~ミラニとヒナがそう言うんならアタシも信じてみますか!」
メイムがピースサインを作る。
「ええ~お前らどうかしてるぜ!」
ネコミミをピクピク動かしながら話す。
「は~ま、いいや。俺は一応忠告はしたからな! 精々死ぬ前にはギブアップしろよな!」
「ああ、善処(ぜんしょ)するよ」
カイバの心配りは素直に受け取っておく。
それから授業が始まる時間が来たので、それぞれ自分の席に向かう。
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