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ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲

作者:斬鮫
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第壱話 《損傷した者》〜前編〜

「シッ……!」
「っと、とと……うらっ!」
場所は草原、その少し高くなった所で二人の人影が剣を振るっていた。
片方はダガーを、もう片方は片手剣を振るう。
「……ッ!」
僅かに息を吐き出し、ダガー使いの少年が突きの三連撃《トライ・スプラッシュ》を繰り出す。
対して片手剣の少年は己の武器の角度を調整し、その軌道を少しずらしただけで一撃すら食らわず、ダガーの攻撃を凌ぎ切った。
三連撃を繰り出したダガー使いの身体は驚愕した表情で硬直し、その隙を逃さず片手剣をダガー使いの胴に一閃する。
一瞬の静寂の後、システムメッセージが紫色に輝き、デュエルの終了を告げた。

      ○●◎

「だぁ〜! また俺の負けかよ!」
草原に転がっているダガー使い――シキが、片手剣の使い手に寝転がったままジタバタと手足をばたつかせる。
「……子供みたいだぞ、シキ」
片手剣使いは呆れたような顔で溜息を吐くと、シキの隣に座った。
「だって、さっきから何回デュエルしたと思う? 八回だぞ。その中俺が勝ったのは、最初のたった一回だけだ!」
幼子のようにしばらく駄々をこねていたが、唐突にそれを止めた。
「? どうした」
「なぁ、シン。ここ、ゲームの中なんだよな?」
「……あぁ。そうだな」
シンと呼ばれた片手剣使いは頷き、ぐるりと周りを見回す。
風がそよぎ、草が僅かに揺れる。
風が運んでくる濃厚な匂いは、シチューのものだろうか。
「……確かに、ゲームの定義を聞きたくなるくらいの完成度だが、な」
シンは軽く肩をすくめ、続ける。
「それがどうかしたか?」
「いやさ、ここまで凄いゲームは今まででも初めてだなって」
そう思っただけさ、シキはそう言い、自分の顔を軽く撫でる。
そこに在るのは、作り物の顔。自分そのままの顔でなく、アバターという仮想体。思い通りに作れる自身の身体。それ故、人はこの仮想体を精巧かつ想像のままに組むのだろう。
「(他人はともかく自分すら騙して、何が楽しいんだか……)」
そういうシキは、ほとんど現実と大差ない顔をしていた。
しかしこの仮想体の人懐っこそうな丸顔というのは本来とは少し違うし、目も蒼ではない。
「(……俺もその同類だよなぁ)」
心中で苦笑すると、シンのアバターを見やる。
「? どうした?」
「いや、何でも」
「(……こいつは、現実とホントに変わらないな)」
体格は勿論のこと、寝癖がついたような所々跳ねた黒髪も変わらない。瞳の色すら現実と同じだ。
「(……色んな意味で凄ぇな)」
そんなことを考えていると、シンが問いかけてきた。
「なぁシキ。この世界とあっちの現実。もし現実なら、どっちがいい?」
「そうだな……」
シキは少し悩んだ後、あっちの世界だ、と答えた。
「何故?」
「何故、って……。まぁ、こっちの世界の居心地が悪いわけじゃないが、あっちの方が色々と便利だし、やりたいこともまだたくさんあるからな」
シキは曖昧に笑って答えると、シンも確かに、と頷き片手剣を背中の鞘に収めて立ち上がる。
「ん、どうかしたか?」
「いや、レポートがあることをすっかり忘れていてな。ログアウトしようかな、と」
そうか、とシキは答え、空を見上げる。
雲は一つとしてない。実に昼寝日和と言いたいところだが、生憎と夕日が眩しくて眠るどころではない、のでシンを見ることにした。
ログアウトしようとしている親友は、メインメニュー・ウィンドウを呼び出し、操作を続けている。
「おい、シキ」
「何だシン」
大きな欠伸をひとつ漏らし、シンの話に耳を傾ける。
「ログアウトボタン」
「あ?」
「だから、ログアウトボタン。あるか?」
シンの間抜けとも取れる質問に、思わず失笑した。
「おいおい。無きゃおかしいだろ」
「……実際無いんだよ。お前も探してみろ」
はいはい、と笑いながら右手の人差し指と中指を揃えて掲げ、振り下ろした。
軽い鈴の音が鳴り、シキの眼前にも、幾つものメニュータブとアイテムの装備状況が表示されたメインメニュー・ウィンドウが現れた。シキはそのメニュータブの一番下に指を走らせ、ぴたりと全身が凍った。
無かった。
確かにログインした直後はあったのだ。だが、現在無いのだから、どうにも言い様が無い。
「……無いだろう?」
「……あぁ」
素直に頷いて、シキは、はぁと溜息を吐いた。
「……サービス初日だから、ちょっとした不具合なのかもな」
「なんか、意図してやってる気がするが」
「……シンもそう思うか。正直、俺もだ。まるで、GMが俺達が手をこまねいている姿を見つつも、あえて何もしないかのような気さえする」
かもしれないな、とシンも同意する。
「……俺達だけじゃなさそうだぞ」
顎で少し離れた所にいる人影を示すシン。
シキがそちらに目を向けると、赤みがかったツンツンヘアーを悪趣味な柄のバンダナで纏め上げている青年と、もう一人勇者面した黒髪の青年がいた。
よく見るとツンツンヘアーの青年が黒髪の青年に何やら大声で話かけていた。
「やっぱどこにもねぇよ。オメエも見てみろって、キリト」
な? という風に、シンは首を傾けた。
「やっぱり、俺達だけじゃないみたいだ」
「ちょっと話しかけてみるか」
あぁ、とシンも同意し、二人で彼らに近づく。
「……ん? アンタ達は?」
いち早く接近に気づいた黒髪の青年がこちらを見る。
「あ、悪いね。ログアウト云々の話が聞こえたもので。……アンタ達もログアウトできない口かな?」
シキは気さくに言って、軽く自己紹介する。
「あ、俺はシキ。そんで、こっちの寝癖野郎がシン」
「寝癖野郎で悪かったな」
シンの悪態は気にせず、シキはポカンとしている二人に質問する。
「もしかしてさっきの話聞いてなかったか? それじゃもう一度言おうか?」
「――――あ、いや、聞いてた。聞いてたから言わなくていい。……ログアウトの話だろう?」
そうなんだよ! と赤髪の青年は激しく首を振った。
「何かログアウトできねぇし、つーかそもそもログアウトボタンが無いんだよなぁ」
「ではやはり、これはバグなのか……?」
「……ただのバグではないだろう。ログアウト不可なんて、今後のゲームの運営が困難になってしまう大きな要因になるぞ? ――――この状況なら、運営は一度サーバーを停止させ、プレイヤーを強制ログアウトさせるのが当然だと思うが」
黒髪の青年の台詞に、そうだな、とシンも同意する。
「しかも、俺達がバグに気づいたのは、少なくとも十分は前だ。しかし、彼の言う通りの強制ログアウトはともかく、運営からのアナウンスも無い。奇妙だ」
「む、確かにそうだな」
赤髪の青年も頷いた。
「……しかも、SAOの開発運営元と言やぁ、ユーザーを重視した姿勢で有名の《アーガス》じゃねえか。なのに初日でこんな大ポカしちまって、しかも対応も遅いとなると、信用ガタ落ちじゃねえのか?」
「同意する。それにこのSAOはVRMMOってジャンルの先駆けだ。ここで問題起こしたら、それこそアーガスはお終いだ」
「…………」
無言で議論の行く先を見ていたシキは再びウィンドウを呼び出した。
ログアウトボタンを確認するが、そこにはやはり何も無い。《ログアウト》の文字が消えた一つのメニュータブがあるだけだ。微かに溜息を吐き出すと、ウィンドウに表示された時計が目に入った。
時刻はいつの間にか、午後五時半を回っていた。
すると突然、四人の耳にやたらと大きいリンゴーン、リンゴーンという鐘の音が届いた。
「んだ、こりゃあ……っ」
「何だ!?」
そんな声を発した時だった。
シキ達四人の身体が、鮮やかなブルーの柱に包まれた。
この現象は所謂《転送(テレポート)》と呼ばれるものだ。しかし、四人の誰も何のアイテムも使っていないし、コマンドを唱えてもいない。そもそも、おそらく誰も、その類のアイテムを所持すらしていないだろう。では、誰が?
そこまで考えて思い至った。と同時に一際強く光が輝き、視界が青く染められた。
輝きが薄れ、それと同時に風景を再認識した。だが、そこはもう夕暮れ時の草原ではなかった。
やけに広大な石畳。周囲を囲む樹と、中世風の街並み。正面遠く、そこには黒く輝く巨大な宮殿があった。
「……《はじまりの街》の中央広場、だな」
シキは認識した風景をそう結論付ける。
四人の青年は周囲にぎっしりと幾重にもひしめく人々を見回した。
あたりには様々な姿をした男女が群れていた。数千に上るであろう人間の数。恐らくシキ達と同じようにここに強制転送されたのであろう。
人々はしばらく黙っていたが、やがてザワザワという声が徐々に増え、「これでログアウトできるのか?」などという声がし始めた。
ざわめきは時間の経過と共に苛立ちとなり、「GM出てこい」「早くログアウトさせろ」という喚き声まであちこちから聞こえ始める。
と、その時。
地上のプレイヤー達から目を背けるかたちで天を仰いでいたシキは、唐突に空を埋め尽くす真紅の文字列を確認した。
「おい、皆上見ろ……!」
シキの言葉に、他の三人も天を仰ぐ。
真っ赤なフォントで表示された文字列は【Warning】、更には【System Announcement】と読めた。
「……ようやく運営のアナウンスがあるのか」
ほっと安心したような表情で息を吐いた黒髪の青年だったが、即座にそれは覆されることとなる――――。 
 

 
後書き
斬鮫「はいどうも、皆さん覚えていますでしょうか? なべさんにネタを取られたATこと斬鮫でございます」
シキ「……おい」
斬鮫「はい? 何でしょう」
シキ「何でこんな微妙な時に終わるんだ。もうちょっと書けるだろうが」
斬鮫「……モチベーション確保の為致し方なく」
シキ「……じゃあ言わせてもらうが、お前最近何してた?」
斬鮫「……パズドラしてました」
シキ「……死んで詫びろ」
斬鮫「え!? 私前回もあなたに殺されたよね!?」
シキ「知るか。極死・七夜!」
斬鮫「ちょっ、それは私の首がああああぁぁあ」
シキ「……という訳なんだ。つまりこれはタイトルからも分かる通り、第壱話の前編なんだ。このバカが後編を挙げるまで俺のスキルの紹介は待ってくれ。済まない。後、オリジナル展開が無くて申し訳ないな。次回も同様の説明回のはずだ。少しずつオリジナルも入れるから許してくれ。では、さようなら」 
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