トーゴの異世界無双
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十四話 まだまだ改良の余地はあるんだよなぁ
このグレイハーツ宮殿には、兵士達が己を鍛える場が幾つか存在する。
前に闘悟とミラニが試合したのは、第一連技場といって、一番広くほとんどの兵がそこで修練を行う。
今から向かう第二連技場ももちろん修練を行う場所なのだが、ここは小規模な体育館のような造りになっている。
主に座禅を組んだり、一人で修練する時などに多くの兵は使用している。
「あ、あの……ここで一体何をされるのですか?」
「ちょっとな、試してみたいことがあってさ」
闘悟は笑いながら言うが、今一つ現況を把握できていないクィルは流れに身を任せるしかない。
「えと、私は何をすれば……?」
「そうだな、クィルは属性魔法を使えるんだろ?」
「あ、はいです」
「得意なのは?」
「水です」
「水属性か……級位(きゅうい)は?」
「中級までなら何とか扱えますです」
「よし、なら一番強力な水属性の攻撃魔法をオレに放ってくれ。オレはここから一歩も動かないから」
「ふぇ?」
「あ、腕も動かさないぜ?」
「そ、そんな!」
前はミラニの魔法を、魔力を込めた拳で払い落とした。
だが、今回は文字通り動かない。
ただ突っ立っていると闘悟は言う。
「それはいくら何でも危険なのです! 水属性とはいえ、中級になると普通に岩を破壊できますです!」
もちろん無防備で受ければ、人間なら致命傷になる可能性が高い。
「おいおい、確かに動かないとは言ったが、何もしないとは言ってないぞ」
「……え?」
「いいから打ってきてみろ。きっと驚くぞ?」
意地悪を考える子供のような含み笑いを向ける。
これまでも闘悟には驚かされてきた。
闘悟がこんなふうに言う時は、必ずとんでもない現実が現れる。
今回もまた、自分は驚かされてしまうのだろうと、クィルは好奇心が揺らされた。
「……分かりましたです」
覚悟を決めて、クィルは手に魔力を集中していく。
周囲には誰もいない。
闘悟とクィルだけだ。
だから誰かに被害が及ぶようなことは無い。
思いっきりいきますです!
クィルは闘悟が望むように全力で魔力を込めていく。
「来い!」
闘悟が叫ぶ。
それに呼応するかのようにクィルも声を張り上げる。
「いきますですっ!」
なるほど、さすがは王女。
なかなかの魔力だ。
闘悟は感心して彼女を見つめる。
「青く澄んだ生命の息吹よ、我が力となり、目前に立ちはだかる愚かな障害を、その力を持って破砕(はさい)せよ!」
クィルが両手を上げ言霊(ことだま)を唱えていく。
彼女の上空には圧縮された水の塊が顕現(けんげん)する。
大きさは直径三メートルはある。
そして、それが徐々に回転し出す。
「『回点水弾(アクアスパイラル)』っ!!!」
物凄い勢いで闘悟の方に水の塊が跳んでくる。
まるで、マグナムに打ち出された弾のように回転して向かって来る。
恐らくかなりの貫通力も備えているだろう。
闘悟は想像以上に強力な魔法が放たれたことに驚いていた。
同時にこれから試そうとしていることに、ちょうどいいと思った。
強ければ強いほど試し甲斐があったからだ。
クィルはその場にへたり込む。
どうやら本当に全力で放った魔法らしい。
すぐに横になりたいと思ったが、闘悟がどうやって魔法を防ぐのか見たかったので、必死に前を向いた。
闘悟は目の前に迫り来る水塊を見ながら微笑する。
「……行くぜ」
そして、水の塊は闘悟に衝突した。
「……う……嘘…です……っ!?」
クィルは目の前の光景を見つめて唖然としていた。
いや、光景というより、一人の人物に対して、信じられない面持ちを向けていた。
「よし、問題無いみてえだな」
クィルの疑問をよそに闘悟は現況に満足していた。
「……ト、トーゴ様……?」
「ん? 分かってるって。ちゃんと説明してやっから」
ニコッと笑う彼を見るが、起こった事実の桁外(けたはず)れさに反応し切れないでいる。
「あ、でも、まだ誰にも言うなよ?」
「……ふぇ? ど、どうしてなのですか?」
「まだまだ改良の余地はあるからな。もっと完成に近づけてから然(しか)るべき場所で、この魔法はデビューさせる」
未来を楽しむかのように無邪気に笑う闘悟を見て彼女は呆れたように肩を落とす。
「はは……もうトーゴ様はビックリ箱なのですね」
「はは! そうだろそうだろ!」
楽しそうに笑う。
「……あ、それではこの魔法を見たのは私が初めてなのですか?」
「おう、クィルが初めてだ。どうだ? 初体験の感想は?」
聞き取り方によっては危なくはなるが、もちろん闘悟に他意は無い。
「私が……初めて……初めてなんだ……えへへ」
何故だか分からないが、幸せそうにモジモジしだした。
ん~まあ、気分を害してはいないみたいだし良かったかな。
そして、今日も一日は終わり、初めての授業の日を迎える。
ページ上へ戻る