| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

子供と魔法

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章


第一章

                     子供と魔法 
 ノルマンディーの田舎の家。昼下がりに男の子は自分のお部屋の中で遊んでいます。
 昼下がりのけだるい雰囲気の中に包まれたお家は木でとても頑丈に造られていて男の子の部屋もとても厚い壁に覆われています。あちこちにおもちゃや家具があって籠の中にはリスがいて丸くなって寝ています。ソファーには白猫がいますが猫も丸くなって寝ています。男の子はベッドの上に座ってそのうえで絵本を読んでいます。 
 ふと顔をあげてそれから机の方を見ます。机は樫の木でできたとても頑丈そうなものです。その机の上には教科書やノート、それに鉛筆といったものが置かれています。
「お勉強しようかな」
 男の子はふと呟きました。
「そろそろ。けれど」
 それでもです。何かのんびりとしていてお勉強をする気になれないのでした。それで絵本を読み続けるのでした。
「いるの?」
「あっ、ママン」
 ここで扉をノックする音が聞こえてきました。男の子は扉の方に顔を向けて応えました。
「おやつよ」
「えっ、おやつ!?」
 男の子はおやつと聞いて顔を明るくさせました。するとお母さんが部屋の中に入ってきました。スカートとエプロンが見えますがとても大きいので顔が見えないです。
 お母さんの声は上から聞こえてきます。ベッドから前に来た男の子にその声をかけるようです。
「おやつは何なの、ママン」
「お勉強はどうなったの?」
 お母さんはまずそのことを尋ねるのでした。
「お勉強は。進んでるの?」
「おやつは?」 
 男の子はおやつのことには答えないのでした。
「それでおやつは何なの?」
「お勉強のことを聞いているのだけれど」
 お母さんの声が少し怒ったものになってきました。
「若しかして全然していないの?」
「だからおやつは?」
 男の子はそれでも全く答えないのでした。尋ねるのはおやつのことばかりです。
「おやつは何なの?ねえ」
「お勉強をしていない子にはあげません」
 お母さんは遂に怒ってしまいました。
「そんな子にあげるのはこれです」
「えっ、これ!?」
「そうです。これだけです」
 お母さんがこう言って出してきたのは砂糖が入っていない紅茶とジャムを塗っていないパンだけでした。これでは朝御飯と同じでおやつとは言えないものでした。
「反省しなさい。罰ですよ」
「そんな、お勉強はすぐにするのに」
「今しなければ駄目だったのよ」
 お母さんの声はやっぱり怒ったものでした。
「わかったわね。いいわね」
「ちぇっ」
 男の子はふてくされましたがもう遅かったです。お母さんはその紅茶とパンを部屋に置くとそのまま行ってしまいました。男の子は仕方なくその紅茶とパンを机の上に置きました。
 けれどどうしても面白くありません。ふてくされたまま机の上に置いてあったぬいぐるみを壁に投げつけました。
「こんなの食べても全然嬉しくないよ」
 こう言って次はポットや茶碗を投げます。どちらも木製だったので割れることはありませんでしたがかなり痛んでしまったようです。
 男の子は続いて立ち上がり教科書やノートも投げます。絵本も破ってそして箪笥を蹴飛ばして椅子を転がします。そして鉛筆を取って籠の中のリスを出して突きだしました。
「キイ、キイ」
 リスは鳴いて抗議しますが男の子は聞きません。ずっと鉛筆で体のあちこちをつつきます。リスがたまりかねて逃げると次はソファーに寝ている猫でした。
「起きるんだよ」
「ニャッ!?」
 いきなり寝ているそのソファーを蹴られて驚きの声をあげる猫でした。男の子はその猫の尻尾を掴むのでした。
 それで引きずり回しだしますがやっぱり猫も逃げてしまいます。リスは箪笥の上に、猫はベッドの下に入ってしまってそこから出ようとしません。八つ当たりの相手がいなくなったと思われましたが男の子の気はまだ済んでいませんでした。それで。
 今度は暖炉に向かってその火かき棒で暖炉の中を引っ掻き回します。それで暖炉の中は灰だらけになってしまいその灰が煙の様に巻き上がります。
 今度は紅茶をそのまま自分の口につけて乱暴に飲んでパンをお口の中に入れます。紅茶が入っていたやかんはひっくり返してまた火かき棒を握って今度はそれで壁を叩きます。
 壁も灰だらけになってついでに壁にかけてあった時計も叩き落してしまいました。時計のガラスが割れて時計の針が止まってしまいまいました。気付くと部屋の中はもう滅茶苦茶になってしまっていました。壁にかけてあった羊飼いの男の子と女の子の絵もそれで破いてしまいました。
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧