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同士との邂逅

作者:日月
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十 道化師は哂う 後編

 
前書き
GS美神はギャグ漫画であり原作横島の性格だからこそ安心して読めますが、普通の性格の高校生なら精神的に辛いと思います。弄られている場面も、客観的に見ると苛めになるかと。[人類の裏切り者]とされ扉や机に落書きされたのはかなりキツかったのではないかと個人的に考えています。
そのため最後のほうなど捏造にも程があるといった内容になっています。また美神親子に優しくないです。ネタバレ、詩のような文、心理描写が多数あります。ご注意ください。

 

 


演劇だとか舞台だとか。
別に好きなわけではない……むしろ嫌いだった。

嘘の蝋で塗り固められた燭台の上で、泣いて笑って踊り狂って。
その光景は、いつか見たピエロよりも彼の眼には滑稽に映る。
そしてそれ以上に、自覚もなく演じる自身が滑稽だった。

しかし、いつの間にか。
そう、いつの間にか上手くなっていた……いや、上手くならざるを得なかった。

どこからが本音でどこまでが嘘か、それともどちらでもないのか。
どこからどこまでが演技なのか、どこからどこまでが真実なのか。

嘘に嘘を塗り演技に演技を重ねていくうちに、混ざって雑ざって交ざって…――わからなくなっていた。
本人にももう、わからなくなってしまっていた……―――――――。









美神のもとに現れた、死んだはずの彼女の母親―美神美智恵。時間移動能力者である彼女の話から、人間界に魔王アシュタロスが侵攻してくる事を知ったGS達。
世界を護るため魔王アシュタロスを倒さねばならない、と意気込む美神美智恵。
彼女は日本政府からこの対魔王について指揮を任されていると言い、GS達を自身の指揮下に入れた。その中には当然、横島の姿もある。

敵陣に潜入しスパイをしろと命じられた横島だが、本人はそんな大それた事をしてるつもりは無かった。順応性の高い彼は、すぐに敵である魔王の娘達とも打ち解けていた。
それ故、娘…三姉妹―アシュタロス側と美神―人間側と、二つの陣営の最中に揺れる横島。勿論、魔族である三姉妹が悪い事をやっていると理解しているのだが、そう思わせないあたたかさが彼女達はあった。

そうして共に過ごすうちに三姉妹の長女――ルシオラという女性に惚れられた横島は、彼女が自分に抱く恋心に戸惑う。
横島は魔族だとか敵だとかは全く気にしていない。ただ、初めて向けられた異性からの好意に、疑心を抱いているのだ。

今まで、横島の周囲の女性は皆、彼を扱き使ったり馬鹿にしたり苛めたり嗤ったり…嫌うふりをしたりする。
……実際は、人間にも神族にも魔族にも妖怪にも霊にも、横島は好かれていた。彼の知らないところで、取り合いや牽制が多々あった。
しかしながら、横島本人の前では意地を張ったり照れ臭かったりして、誰もが「横島をどう思ってるか」という問いに「べつにどうでもいい」と答える。
彼がその答えを鵜呑みにしている事など気づかずに。


だから正直に素直な本心を伝えた唯一の女性……―――敵であり魔族であるルシオラに横島は戸惑う。
散々女性に揶揄されてきた彼は、正直、懐疑的な態度を崩せないでいた。








魔王アシュタロスに逆らう行動をとれば、身体に組み込まれたコードによって自動に消滅させられる。
消滅すると解っていても猶横島を愛するルシオラと、彼女の消滅する原因ともいえる横島。
一年しか生きられないという三姉妹の運命と、コードに触れれば消滅する話を知った横島は愕然とする。

聡明才女であるルシオラは理解しているのだろう。命の大切さを短さを。人間よりよっぽど。
そんな彼女が自ら消滅する覚悟を決めた。横島への想い故に。

仏道を極めるために身も命も惜しまない事を、不惜身命という。
それなら彼女は愛のために、自身を顧みないというのか。


「俺に…………俺にそんな値打ちなんかねぇよ……っ」


なぜ醜名極まりない自分を、ルシオラが好きになったのか。
愛するという意味も言葉もわからぬ横島にとっては、理解できない。
だが、これだけは断言できる。
一緒にいた時は短えど、異性の中で唯一自分を。
演技をしている横島ではなく、素の横島忠夫を見てくれたルシオラを。

死なせたく、ないと。


「………今まで俺は、なし崩しに捲き込まれて、俺の意思に関係なく闘ってきた」

だから彼女に、本音をぶちまける。

「けど、これからは!俺は、俺の意志で闘う!」

華奢なルシオラの肩を掴んで、彼は心を決めた。


「アシュタロスは、俺が倒す!!!!」

この瞬間、魔王アシュタロスと横島との闘いが切って落とされた。










闘いは終局へと向かう。
横島につく姉ルシオラは、アシュタロスに随う妹と対峙していた。
真円の月を背景に、蛍の化身と蜂の化身は東京タワーの上空を舞う。

互いが互いの直情のままに。それぞれ慕う者の姿を心に抱いて。

蜂の全力を投じた猛撃。蛍の幻惑を宿した撹乱。
両者一歩も譲らない。

けれど、元々の力の差から徐々に圧され始める、蛍の化身たる姉。
姉妹、同時に放たれる魔力の塊。しかしながら先に撃ち出したのは妹のほうが速かった。
押し寄せる魔力。それは確実に姉―ルシオラに向かって放たれ………。


「今だっ、ルシオラ―――――――――――――――ッッ!!!!」
真っ只中に飛び込んだ横島を呑み込んだ。





突然両者の間に割って入った横島。
彼は魔族の渾身の一撃をまともに食らい、倒れゆく。同時に、遅れて放たれた姉の魔力の直撃を受け、妹は撃墜された。
予想外の出来事に呆気にとられたのも束の間、ルシオラは急ぎ横島を診る。


心臓の鼓動が、体温が、命の灯が、今にも…。

絶望がルシオラの視界を覆い尽くした。



人の身に、魔力の塊それも蜂の化身である妹の妖毒が込められた攻撃を受けたのだ。それを受けた者はものの数分で死に至る。
彼女は、意識を失い眠るような想い人の顔を見つめた。

己の盾代りとなった彼。身を挺して庇った彼。


救いたい、助けたい、守りたい、護りたい。 いかないで、往かないで、行かないで、逝かないで。


「生きて……ヨコシマ………っ」







真黒な脳裏に仄かな光を感じ、ソレを掴もうと手を伸ばす。途端、身体の奥底から湧き上がる熱。
徐々に胸から広がるそのあたたかさに、横島は身を委ねた。

全身を命の水が浸透していくような。肉体の全ての血管に血が廻るような。

硬直していた冷たい指先が、東京タワーの硬い鉄筋をじゃりっと引っ掻く。
重たい瞼をゆっくり開いて、自分を見つめるルシオラと視線が搗ち合った。


ルシオラの無事を喜ぶと同時に、目の前の彼女の微笑みがあまりにも透明で、今にも消えてしまうような錯覚に陥る。言い様のない違和感をすぐさま抑え込み、勘違いだろうと横島は頭を振った。

すぐさま彼女に美神を助けに行けと言われた横島は、後ろ髪を引かれつつも「大丈夫だから」というルシオラの一言に押され、その場を離れる。彼女の身を案じながらも、洪水の如く溢れ返る魔力の渦に向かって、其処にいるであろう魔王のもとへ横島は向かった。

彼はルシオラを信じる故に、素直な彼女が嘘を口にするとは思いもよらなかった。彼女が生まれて初めてついた嘘に、横島はまんまと騙されてしまったのだ。


最初で最後の哀しい嘘は、正しく運命の分かれ道だった。






風前の灯火は蛍火に包まれ、大きく燃え上がる。
蛍火の光はその輝きと相俟って、衰えていく。
灯火は炎となり、名残惜しそうに蛍火から遠阪り。
残ったのは、ちらちらと炎を見送った小さな光。
仄かな灯は音も無く、誰に看取られるでもなく。
ただ想い人との思い出と、一緒に見た夕焼けの紅に記憶を馳せて。
瞳を静かに閉じた。
















横島は今、アシュタロスと対峙していた。彼は策略をめぐらして美神を助け、魔王の欲する『魂の結晶』までも手にしていた。

右手に持つのは【滅】の文字が入った文珠。左手に持つのは『魂の結晶』。

返せという魔王アシュタロスの言葉は耳に入らず、コレを破壊すれば全て終わると横島は思っていた。
しかしながら、ようやく形勢が逆転したかのように思われたその場は、魔王の一言で一転する。

『ルシオラを助けたくないのか』


ルシオラが横島の命と引き換えに死んだと事実を述べるアシュタロス。『魂の結晶』を渡せば彼女を生き返らせてやろうと、甘言を紡ぐ。
衝撃的な言葉を聞き、横島は動揺する。

魔王に『魂の結晶』を渡せば、ルシオラは生き返る。
渡さずに壊せば、世界は救われるがルシオラは生き返らない。



―――――――――――――――――――世界か恋人か。ふたつにひとつ。





齢十七歳の身で、世界の命運を握ってしまった。
どこでどう間違えてしまったんだろう。自分は憶病な人間なのだ。厄介事は嫌いだ、関わりたくない、巻き込まれたくない。

それなのに、今こうして展開の中心に立っている。

流されるまま闘って、何度も死にそうな目にあって。
それでも止めなかった。GS関連で知り合った仲間とのやり取りが楽しかった。GSとして仕事する人達に憧れを持った。居心地のよいバイト先から決別したくなかった。

そうだ、ただのバイトだったはずだ。時給250円で雇われ、霊能力が使えるようになっても時給255円の単なる荷物運び。GSという職は勿論オカルト界にも縁が無かった、普通の高校生だったのに。

それがどうしてGS免許をとっている?GS見習いとして仕事する?時給255円に変わりはないのに、どうして必死に俺は―――…


「なんで………俺なんすか…」
『約束したじゃない、アシュ様を倒すって…!それとも―――誰かほかの人にそれをやらせるつもり!?自分の手を汚したくないから―――』
「………っ」
脳裏に浮かんだ彼女が檄を飛ばす。その諭すような言葉に横島は息が詰まった。


確かに自分は彼女に宣言した。
「アシュタロスは、俺が倒す!!!!」と。
その一言を口にした瞬間は、その言葉の意味に重みを感じなかった。その時はまだ傍観者だったから。
けれど今になってその意味がわかる。いざ直面してようやく理解できる。

自分をはらはらしながら見守るGS仲間が羨ましかった。当初は当事者でありながら、今現在傍観者となっている美神が妬ましかった。そして、当事者として自覚がない自分自身に苛立った。

自分を信じてきてくれたルシオラに嘘はつけない。だから自分の言葉に嘘はつけない。
「倒す!!!!」と宣言したからには、その責任を背負わなければならない。


混乱する頭。震える全身。緊張で顎からつうっと汗がつたう。酸素を求める金魚のようにパクパクと口を何度も開閉するが、声に出せたのはヒューヒューという音だけだった。
時が止まったままならいいのに、無情にも時間は刻々と過ぎる。渋れを切らした魔王に再度問われ、頭が真っ白になった。


『コワシテ、ヨコシマ』


脳裏に響いた女性の声に従う。この張り詰めた空気から解放されたかった。
真っ白な脳はコワシテという言葉のみに占められ、瞳が無意識に壊す対象を探す。
左手に持つ青白い球体は息を呑むほど美しく輝き続ける。全く美しさを損なわないその光が、横島には酷く腹立たしかった。

右手の文珠をギュッと握り締める。そうしてソレを、左手から零れ落ちんばかりの球体に押し付けた。













横島はひとり、東京タワーの鉄筋上で佇んでいた。

何をするわけでもなく何を考えるでもなく、ただただ地平線に沈む紅を見据える。
どこか遠くを見つめる彼の瞳がふと曇った。太陽の光が届かないその翳りの原因は、先ほど伝えられた言葉。

「ルシオラは、横島の子どもに転生する可能性がある」

僅かな希望を胸に神や悪魔に縋っても、可能性はひとつしか知り得なかった。しかしながら子どもに転生という手段は、ルシオラとの恋を断念させる決定打でもある。



周囲の者は口々に言う。

まだ引き摺っているのか 時も時、いい加減乗り越えろ 前を向け 一人の女性にいつまでも執着しないで もっと周りを見ろ もういいじゃないか 他にいい女がいるだろ 昔より今を見ろよ


…慰めの言葉だったんだろう、励ましの声だったんだろう。でも…―――


もはや、雑音にしか聞こえない。


世界か恋人かという命運を掛けた勝負で、横島は世界をとった。
その功績に傍観者達は立派な行いだと褒め称える。しかしながら横島はただ自分の言葉と向き合っただけだった。自分がルシオラに宣言したあの言葉の、責任をとっただけ。

「アシュタロスは、俺が倒す!!!!」という宣言通りに実行したのであって、未だにその選択が正しかったのか横島にはわからない。

ただ彼は世界を救ったのはルシオラだって、皆の心の片隅に置いてほしかった。
それなのに皆、まるでアシュタロス事件が無かったかのように振舞う。
大袈裟なほど横島に気を使い、ルシオラの名前すら口にしないのだ。
特に横島の周りの女性達など、アシュタロス事件の起る前と変わらずにいる。
それは彼女達なりの嫉妬心や焦りが生んだものだったが、横島には解らない。
逆に、誰もがルシオラが居た事実に目を逸らし、思い出話すらしない事が彼には辛かった。

演技をしている故に横島はよく周囲に拒絶され否定される。けれどルシオラを皆が忘れるという現実が、横島にはずっと辛かった。


世界を救ったのは彼女の存在があればこそ。今生きていられるのは彼女の犠牲があればこそ。
不協和を奏でる三界の均衡は、一人の女性の犠牲によって成り立っている。
ルシオラが護ってくれた世界。



横島は瞳を閉じ、夕陽を背にした。逆光を浴びながら、先を見据える。
皆が皆、あの事件の前の横島忠夫に戻ってほしいと帰ってほしいと願っている。
だから。

再び道化を被る。皆が安心するように、以前のピエロをまた演技した。
横島忠夫らしくする事が彼女への礼儀だと思い込んで。自分を好きになってくれたルシオラに格好悪いところは見せられないと、明るくおちゃらけた横島忠夫を演じ続ける。
幼少期からの演技に、もはや疑問すら浮かばない。




表面上、誰にも悟られず誰にも気づかれず、平気なふりを装う。それと相反して、心も精神も魂も愁苦辛勤の闇に囚われ貪られ憔悴していった。
それでも彼は演技の上に演技を重ねて、苦悩の色など一切見せず。観客である周囲の人間を笑わせるため、再び舞台の日常へ、横島忠夫という役柄として舞い戻っていった……――――――――――――――――。














そうしてアシュタロス事件が始まる以前の日常に戻ったと皆が安堵していた頃、横島だけは日々命の危機に陥っていた。

神界・魔界・人間界の三界において、唯一の文珠使いである横島忠夫。
だが同時に彼は十七歳の高校生…未成年のGS見習いである。
アシュタロス事件ではそんな彼を、スパイという戦況を揺るがす大事な任務につけた。それならばそう指示した者が当然責任を迫られる。しかしその責任を回避するために、汚い人間達は真実を闇に葬った……すなわち美神親子を英雄として祭り上げ、真の英雄である横島の事は世間に公表しなかったのだ。

マスコミにより報道された嘘はアシュタロス事件が終わった後も長続きし、横島にはGS仲間のもとにしか居場所がなかった。
学校のクラスメイト達まで率先して庇おうとはしない。道を歩けば裏切り者と誹謗中傷を浴びせられる。
その様子はまるで里から忌避されるナルトとよく似ていた。ナルトのようにあからさまな暴行などはないが、態と聞こえるほどの暴言や罵倒といった悪口雑言は日々絶たなかった。

そしてようやく流れた訂正報道。遅すぎるその発表は「作戦だった」という言葉で締め括られる。
その翌日に横島が学校に行くと、裏切り者扱いをしていたクラスメイト達はGS仲間以外皆「信じてた」などと態度をガラリと変えた。その実、彼の机には[死ね]やら[人類の敵]やら[裏切り者]などと醜悪な落書が書きなぐられている。以前から弄られる対象であった横島は、それにあまり表情を変えず、いつもの通りに笑いに持っていく。

別にクラスメイト達は、横島の事を本当に嫌っているわけではなく虐めているわけでもない。
ただ、面白い反応を返してくれる彼を、いいように弄び、馬鹿にして揶揄しているのである。
いつだってなんだかんだ許してくれる横島だから、皆はその落書の事に対し罪悪感など一切持っていない。故に、笑って馬鹿をする横島の、本心に彼らは全く気づけなかった。



アパートの一室。
扉には[死ね][裏切り者]と、怨嗟の込められた落書が書きなぐられている。教室の机と同じ状況に横島は顔色一つ変えない。
扉を開けて中に入る。そうして、薄い壁故に隣室に聞こえないよう声を押し殺す。低く低く押し殺した、ほんの微かな鳴咽。
身体の奥底から込み上げ、しくしくと軋む心からの呻き声。喉が枯れるまで続けてようやく安堵の息を吐き出す。
そしてまた横島忠夫として、落書だらけの扉を開ける。これが横島の日常だった。



今でこそスパイ容疑は晴れたものの、未だ半信半疑の一般人の中に放り出された横島。周囲は彼に対して疑念を残し、美神親子には欽慕の念を抱く。言わば[真の英雄]たる横島は日陰の存在であり、美神はいつも太陽の下を陣取っている。それでも別にいいと思えた。道化のふりしてやり過ごすのが一番平和だと、彼は不平不満を言わなかった。しかしながら平和に過ごそうとする横島の前に、神族と魔族が立ちはだかる。


人間を除き、アシュタロスを倒した真の英雄という話は三界で騒ぎ立てられた。
今までにないこの例外に神族と魔族は、彼を庇護する一派と放任する一派、そして抹消する一派と分かれる。
抹消する一派は、〖文珠を生成できる彼の力は下手に転ぶとデタント〈緊張緩和〉の崩壊を引き寄せかねない〗と判断した。結局は人間を下等とみなす故に神族や魔族の力を凌駕する可能性の芽を摘み取ろうという身勝手な言動なのだが。
けれどその一派により抹殺指令が神魔界に流れ、人間を軽蔑する者達が我先にと彼を襲うようになった。
そんな状況の真っ只中にいながらも横島はGS仲間にすらその事を知らせず、いつも通り馬鹿でお調子者を振舞う一方で、襲い来る彼らの撃退をなんとか繰り返していた。


散々周囲に疑われていた横島は何を信じたらいいのかわからない。人間界では[人類の裏切り者]とされ、神界・魔界からも命を狙われる。一般人ならいっそ死んだほうがマシだと思う状況の中で、彼は道化を被りつつ生きてきた。
横島はどうしても死ぬという逃げに転じる事を良しとしなかった。ルシオラが自らの命と引き換えに救ったこの命を粗末にする事が許せなかった。
それと同時に三界で厄介者扱いされながらも、それでも世界自体を嫌いになれなかった。

ルシオラの犠牲で成り立っている三界を、彼女が救った世界を、どうしても嫌う事が出来なかったのだ。






そうしてなんとかやり過ごしていた日常は、一件の除霊で覆される。
比較的簡単な部類のそれを、上司である美神に丸投げされ、珍しく一人での仕事。
しかし除霊対象は、報告書にあった情報とはまるで違い、遙かに強力なその相手に元々準備不足だったことも加え、彼は圧されていく。
それでも除霊することは出来たのだが、除霊直後の別方向からの強力な攻撃にあえなく撃沈。
攻撃してきた相手の姿に横島は愕然とする。
なんと神族と魔族、両者の姿が彼の眼に映ったのだ。
今まで彼らは己ひとりの手柄を欲するあまりに単身で横島に襲い掛かってきた。それが今回の除霊では両者が手を組んできたのだ。
全ては横島を嘘の報告書で誘き出し、抹消するために。




(…あ―…もういーかな―……)
敵の手から放たれる、回避不可能な霊破砲を眼の端に捉えながら、横島は一瞬そう思う。
「でも、ま…色気のある姉ちゃん以外に殺されてたまるかあぁ―――――――っっ!!!!」
そんな雄叫びと共に、最後の一つである文珠発動。
込めた文字は【移】―――流石に態勢を整えるため、別の場所へ移動しようと考えたのだ。







その結果………………………なぜか血だらけの死体が転がる戦場真っ只中に墜ちていた…。

 
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