トーゴの異世界無双
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十七話 この世界は退屈しねえ
このグレイハーツ王国に来て、一週間が過ぎた。
あれから宮殿の一室を借りて日々を過ごさせてもらっていた。
その間、クィルにグレイハーツにある有名な観光スポットや、人気のある店など教えてもらった。
できればその間に、王妃や他の王女にも挨拶をしておきたかったが、どうやら所用で出掛けているらしく、戻ってくるのはもう少し後になるということだった。
宮殿の人達にはよくしてもらっていたので、生活には困らなかったが、魔法騎士団の連中にはまいった。
闘悟が団長であるミラニ・クロイセンを破ったことで、武術指南を願い出てきていた。
だが、武術とはいっても、ほとんど力任せの喧嘩殺法で勝ちを手にした闘悟にとって、正規の騎士団に教えられることなど無かった。
だが、そう言っても今度は魔法についていろいろ聞かれた。
要は物珍しさに人が集まる動物園の珍獣の扱いだ。
何とかクィルが間に入って仲裁してくれたお蔭で、連中からは逃げられている。
だが、クィルだって人の子。
異世界人である闘悟に興味が湧いてもおかしくはなかった。
基本的に時間を持て余していた闘悟は、ほとんどの時間をクィルと過ごして、街に出掛けたり地球の話や闘悟自身の話をした。
そして、当然クィル自身のことも教えてもらった。
「学園?」
「はいです」
「学園って……もしかして魔法学園……とか?」
「はいです」
うわ~やっぱり異世界だな。
ホントにあんだな魔法学園。
「クイ?」
そんな可愛らしい声で鳴いたのはハムスターのような小動物だった。
先程からクィルの膝の上でクルクル回っている。
ピンク色の体毛に覆われ、小さな角のようなものが額に生えている。
円(つぶ)らな瞳で首を動かして鳴いている姿を見ると、ついつい抱きしめたくなる衝動にかられてしまう。
この子の名前はパムといい、クィルのペットだ。
こんな愛らしい姿をしているが、れっきとしたモンスターだ。
だが凶暴性は無く、人懐(ひとなつ)こい性格のため、ペットとして扱われているモンスターだ。
一週間前は、病気で床に伏せていたが、今ではもうすっかり元気になりこうして歩き回っている。
「その魔法学園にクィルは通ってるってわけか」
「はいです」
「どこにあるんだ?」
「この宮殿から東なのです。そう言えばまだご案内していなかったのです」
街に出掛け、いろいろ案内してもらったが、何しろこのグレイハーツは大国だ。
その規模がハッキリ言って大きい。
農場もあり、川もあり、店もあり、全てを網羅(もうら)するにはかなりの時間が掛かるはずだ。
「ヴェルーナ魔法学園と言うのです」
「へぇ……ん? そういやここ一週間ほどずっとオレと一緒にいたけど学園になんか行ってたっけ?」
「今は試験休みなのです」
「あ、そうなんだ」
この世界にも試験休みなんてあるんだな。
「試験て、もしかしてやっぱ魔法の?」
「もちろんなのです。魔法の実技と学科がありますです」
クィルが言うには、学科は地球式のペーパーテストと同じだ。
もちろん内容は全然違うが。
実技に関しては、試験ランクというものがあるらしい。
普段の成績に従い、個人個人で試験内容が異なる。
中にはモンスター討伐なんていう試験もあるらしい。
だが、モンスター討伐の場合、ほとんどがチームを組んで望むとのことだ。
クィルの場合、今回は魔法薬の作成だったらしい。
本人曰く上手く作成できたらしいが、評価は休み明けに発表される。
「クィルって頭いいんだな。魔法薬なんて作れるなんて凄いじゃんか」
闘悟が褒めると、クィルは頬を染めてモジモジしだす。
「そ、そんな……手順さえ守れば誰にだって作れますです」
「それが凄いんだって」
「え?」
「しっかり基本を守って望みのものを作るってことって案外難しいんだぞ? 試験なんだから本とか見ながらじゃ駄目なんだろ?」
「あ、はいです」
「手順がしっかり頭に入っていなきゃ上手くは作れないって。だから、クィルは大したもんだよ」
「……ぁ……う……」
絶賛の声を上げる闘悟から顔を背ける。
(うぅ……褒められたですぅ……)
嬉しさに胸が一杯になる。
だが、そんなクィルの様子に気づかず、闘悟は別のことを考えていた。
魔法学園か……オレの知らないことが一杯ありそうだよな。
正直に言ってこの世界に来てから退屈とは無関係だった。
見るもの聞くもの全てが新鮮で、闘悟の知識欲を大いに刺激をした。
そして、特に興味を引かれたのはやはり魔法だった。
この世界は本当に興味深いと感じていた。
その時、扉からノックの音が聞こえた。
入って来たのはクィルの専属メイドであるカニルという十五歳の少女だった。
薄い水色のショートカットであり、あまり感情を表に出さない女の子だ。
幼い顔立ちだが、間違いなく美少女の枠に入っている。
クィルもそうだが、この宮殿内にいる女性のスペックが異常に高い。
美人、美少女がほとんどだ。
あのギルバニア王がわざと集めているのかと思うほどだった。
「どうしたのですカニル?」
「はい、国王様がお呼びです」
聞くところによると、ギルバニアが闘悟とクィルを呼んでいるらしい。
ページ上へ戻る