八条学園怪異譚
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第二十五話 飛ぶ魚その十三
「聞きたい?」
「海亀さんに乗るとか?」
愛実は浦島太郎を連想して言った。
「それとか?」
「あっ、それは無理だから」
海亀の幽霊は笑ってそれはと返した。二人の前ホバリングの要領で止まりながらそのうえで話をしている。
「僕は幽霊だからね」
「そうよね」
「そう、それは無理だけれど」
それでもだというのだ。
「ここには面白い妖怪さんがいるんだ」
「その人の力を借りてなのね」
「そう、宙を浮かんで」
「それで井戸の中に入るのね」
「そうして出るんだ」
そうするというのだ。
「それでいけるから」
「ふうん、そうしてなのね」
「そう、これだと綱を使わなくても井戸の出入りは出来るよ」
海亀の幽霊は話す。
「それでどうかな」
「お願いできる?」
「じゃあ決まりだね」
「ええ、けれど」
愛実は海亀の幽霊の申し出を受けることにした、だがだった。
彼女は海亀の幽霊にその協力してくれる相手のことを尋ねた、それは誰なのか。
「その人って誰なの?」
「海の妖怪さんみたいだけれど」
聖花はこう察して海亀の幽霊に尋ねた。
「あとあんたはタイマイよね」
「あっ、わかるんだ」
海亀の幽霊は宙をホバリングしながら答える。四つの鰭を上下に動かしてそのうえでその場に止まっている。
「僕が誰なのか」
「大きいし色も違うから」
「うん、僕はタイマイだよ」
その種類の海亀の幽霊だというのだ。
「そうなんだ」
「わかったわ、それでだけれど」
「その力を貸してくれる人だね」
「誰なの?それで」
「海の妖怪さんっていうと」
愛実は少し考えてから述べた。
「ええと、人魚とか?」
「それか海坊主とかよね」
「そういう人達かしら」
「そうじゃないの?」
「あっ、どっちの人も子の水族館にはいないよ」
タイマイは二人に答えた。
「海和尚さんがいるよ」
「ええと、海和尚さんっていうと?」
「確か頭がお坊さんの」
「うん、それで身体が海亀のね」
こう話すのだった。
「そうした妖怪さんなんだ」
「そういえばこの水族館にはあの人がいたな」
暫く黙って愛実達のやり取りを聞いていた日下部も言う。
「水族館に住んでいたな」
「うん、あの人の力を借りてね」
タイマイは日下部にも顔を向けて話す。
「それで行けばいいから」
「それで海和尚さんは何処にいる」
日下部はタイマイの幽霊に尋ねた。
「ここにいるのか」
「いるよ、今呼ぶね」
タイマイは応えすぐにだった。
その海和尚の名前を呼ぶと身体は海亀、タイマイよりも一回り大きい身体に年老いた僧侶の顔の亀が宙を二人のところに来た、そして二人にこう挨拶をしてきた。
「こんばんはじゃのう」
「はい、こんばんは」
二人も頭を下げて挨拶を返す、そのうえで三人共名乗ってだった。
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