なりたくないけどチートな勇者
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35*昔の話
~ガルクサイド~
あれは今から26年前の、俺が16歳の時の話だ。
その時俺は、現魔王のキースと王妃のレイラ、そしてリリスと共に放浪の旅にでていてな。
まぁ、元はそのさらに2年前に俺とキースがこっそり修練の旅に出ていこうとしたのを見つかって、奴らを泣く泣く同行させるはめになったのだが……それはまず置いといて、とにかく俺らは旅に出ていた。
そしてそんなある日、俺らは森と湖の街、プリットという所に着いたのだ。
「……やっと、着いたな」
「ああ、とうとう着いた」
そして俺とキースはあまりに嬉しすぎて、涙が出てきた。
対する女性陣は
「……むぅ…キースのばか、根性なし」
「ガルクも……なんで襲ってくれないですか」
これである。
前のスティー村から約6日間、こいつらは俺らをやたら誘ってくるのだ。
朝昼夜構わずになんだかんだいって足を止めては抱き着いたりくちづけしたり……
おかげで3日でいける所を二倍の日数がかかった。
しかもそもそも服装からまず悩ましい。
リリスは魔術師用の服を来ているのだが、胸が見えるのではないかという程に開いた真っ白な半袖の服に頭巾付きの薄い上着。
下はもう屈めば中身がみえるくらい短いスカート。
ちなみに背中には彼女の背丈並の、先に魔石がはめこまれた青い杖を背負っている。
レイラはもはや上は胸を隠すていどの服に、上は少し丈夫な、だが腹まで行かないくらいの袖がない緑の上着を着ている。
臍は出て防具の類は肩に申し訳程度ついているだけである。
しかも下はフトモモまで丸見えな短いズボンだけ。
そんな奴らが自分の腕に発育途中の女性の象徴を常時押し付けて来たらどう思う?
よく堪えたと自分を褒めたくなるよ。
……まぁ、多少理性が白旗をあげた事もあったが……特に夜とか……でも!まぁ奴らの攻撃の九割強はなんとか凌いだ。
「……根性なかったら、こんな所まで歩いて旅なんかしないよ」
そう言うのは、最近めっきり老け込んできたキースである。
彼はいかにも冒険者な恰好で、背中には剣ではなく巨大な槌を背負うという、なんとも奇妙な恰好をしている。
いつも思ってたのだが、なんで翼が邪魔にはならないのだろうか。
そしてなんで武器に誰も使わないような、そのうえなぜにやたら嵩張る槌を選んだのかは永遠の謎である。
「……野性の獣にはこれでもかってくらい襲われたがな」
そしてこれは俺。
軽くて赤めの動きやすい鎧を着て、背中には愛用の剣を背負っている。
……なんだその眼は。
短くても、事実なんだ、しょうがないじゃないか。
まぁとりあえず、俺らは着いたんだよ、街に。
もう、どこにも辿り着けないんじゃないかってくらい長い道のりだったから、ついつい感極まってしまったのだ。
……だがね、この街に来た事自体が俺らの不幸のはじまりだったのだよ。
************♀☆
その後俺らは街の、なるべく若い女性の従業員がいない宿を探してそこへ泊まった。
少し値段は高かったが、殺されるよりは大分いい。
どこでどんな事件が起こるかわからないからだ。
というか一回殺されかけた事があると、嫌でもそこらに気をつかう。
そして、借りた二つの部屋のうち、片方は俺とキース、もう片方はリリスとレイラという部屋割りにした。
もちろん奴らは文句を言ったが……まぁ、だいたい耳元で愛を囁くと黙るのでなんとかなった。
そんな一悶着もあったその日の夜、俺らは街で買った酒を飲みながらこれからの事を話し合っていた。
「なぁキース……俺らこれでいいのかな?」
「どうした、らしくないな。俺はまだ城には戻りたくないぞ」
「そっちじゃない、リリスとレイラについてだ」
「……どうしようもねぇよ。もう国に戻ったら結婚する覚悟もできている……というかまぁ……なんだかんだで俺もあいつを好きなんだよなぁ……」
そう言いながらキースは恥ずかしげに頭を掻いて……
バンッ!!
「キース!それ本当!?」
……まさかのレイラご登場である。
「キースキースキース!!嬉しいわ!私達、夫婦になるのね!!もう離さない!あなたとの幸せは絶対離さないわよ!!」
レイラはそう叫びながら、キースに抱き着き、そのキースからは
ゴキゴキゴキ
なにか危ない音がした。
「ちょ!レイラいだだだだだ!!骨っ!おれっ!はなっ!だぁぁぁぁ!!」
「レイラ、落ち着け!自分の力わかってんのか!おいレイラ!!レイラ!!………ていっ!!」
「きゃう!!」
ドサッ
意識を失ったレイラはそのままキースに覆いかぶさるように崩れていった。
「あ、ありがとうガルク……延髄か…」
「延髄だ。慣れてなかったが、なんとかなった」
その後レイラをよけようと奮闘するキースだが、骨が折れない程度にだきついているそれはどう頑張ってもとる事ができない。
しばらく頑張ってたが、途中諦めたようにこっちをむいてキースだが。
「とりあえず、こいつをよけ……いや、やっぱいい」
こう言って反対側を向きはじめた。
「なんだ、別に手伝うくらい「ガルク」……できそうにないな」
そして俺の後ろにはほんわかした顔のリリスがいた。
彼女は眼をキラキラと輝かせ、希望に満ちた視線をこっちに送ってきている。
……嫌な予感。
「ガルク、私はわかってるわよ」
「な、なにが?」
俺がそう言うと、リリスは『エヘヘヘヘ』とか言いながらひっついてきて、俺の胸あたりで丸を書くように指をくるくるやってきた。
そして言うのは
「ガルクが、キースにレイラと結婚するって言わせたんでしょ?だって私達だけが結婚するのが決まってしまったら、レイラとキースは気まずいでものね。だから先にくっつけて、その後私に正式に婚約を申し込んで……もぅ、優しい旦那様。私は一生をあなたに捧げますわ」
もう、めまいがした。
一瞬意識が無くなった。
しかしリリスはそんな俺など全く気にせず、ただでさえ開いた胸元をさらに開いてこう言ってきた。
「エヘヘ……私の全てはぁ、ガルク、あなたのためにあるんですよぉ。私はあなたを愛し、愛されるために生まれ落ちたぁ、あなただけの忠実な愛玩奴隷ですぅ……」
もう、全身の毛が逆立つ程に恐怖を感じた。
こいつ、正気か?
てゆーか鳥肌が……
「だからぁ……はぁう!」
「はぁ…はぁ……大丈夫か、ガルク!」
いきなり倒れたリリスの後ろには、彼女に延髄を決めたキースが立っていた。
リリスはそのまま床に倒れている。
「……大丈夫…だ」
「いや大丈夫じゃないだろ……まぁ、いきなり奴隷宣言か……うちの国、奴隷制度は廃止されてなかったっけか」
「気にする所はそこではないだろ」
「ああ、じゃあレイラとおまえの愛玩奴隷の記憶は消しておくか」
「……おまえ、怒ってる?」
「とりあえずこうなった原因はおまえだと思いたい」
……勝手な奴だ。
これで今は魔王やってんだから、始末が悪い。
まぁ、とりあえずだ。
リリスとレイラは部屋へと戻し、中断した話しを再開する。
「で、レイラとリリスがどうかしたか?てゆーかおまえはどうなんだ?」
「俺もおまえと同じだ。結婚も考えているし、なんだかであいつが好きだ」
「ならいいじゃないか。てゆーか何をいまさらな話だけどな」
そう言いながら、馬鹿(キース)は再び酒を煽り、カラカラ笑い始める。
……全くこいつは事の重大さをわからないようだ。
「そうだ、俺らはあいつらといずれ結婚する事になる」
「だからどうした。いい加減くどいぞ」
「……結婚できると知っただけであれなら、結婚した後はどうなるのだろうな」
瞬時にキースの動きが止まる。
杯を持ったまま、変な笑顔で凍ったように動かない。
だがしばらくすると氷が溶けたのか、ぎこちない動きでこちらを向いてきた。
「……どうなるとおもう?」
「とりあえず、さっきの以上のが毎日、それも起きてから寝るまであると考えたほうがいいな」
「無理にきまってんだろ!!」
バンッ!!とキースは杯を机にたたき付け、怒鳴り出した。
「いままででさえ、事あるごとに抱き着いてきたり寝ている時に全身舐められたり!!前の村でだって突然……」
「そうだ、あんな公衆の面前でいきなり口移しで物を食わせたりされるのは、いくらなんでもやり過ぎだ。だから、早急になんとかしなければならない」
「なんとかしなければって……どうするよ?」
「それをおまえと話し合いたいんだが……」
「無理だな、俺らで何とかできるんならとっくにやってる」
そんなキースの発言により、なんとも気まずい沈黙が部屋に充満してしまった。
それを言うな、キースよ。
「………寝るか」
「ああ、もう忘れよう」
………いや、現実逃避とか言わないでくれ。
大丈夫だ、次の日に話は急展開する。
************}☆
「んぁ?魔物退治?」
「はい、この街から北にある森に巣くう魔物を、討伐していただきたい。あいつがいるおかげで特産品のムリヌが取りに行けないのです」
俺達が不毛な話し合いをした次の日の昼。
飯を食ってた俺とキースの所へ街役場の職員がやってきて、依頼を持ち掛けてきた。
ちなみにリリスとレイラはその時、新しい服を買うために街へと飛び出ていった。
なんでも、今晩のお楽しみだからついてくるなとの事だ。
まぁ、いつもの事だから慣れたがな。
と、そんな事より依頼についてだ。
「なぜ、俺達なのですか?他にも冒険者はいるでしょうに」
とりあえず探りを入れておく。
なにせキースはこれでも王子なのだ。
どこで罠を張られて命を狙われるのか、わかったもんじゃない。
だがそんな俺の警戒の視線をもろともせず、その職員はさも当然のように
「あなた達を選んだ理由は。あなた達が、強い上に正義感溢れるすばらしい冒険者だって三日前くらいから噂になっているからです」
予想の遥か後方を狙う答えが来た。
意味がわからない。
「ちょまっ!どういう事だ!?なんで三日前から!?つかどこ情報!?」
さすがのキース(馬鹿)もこの訳のわからない信頼に対してかなり混乱している様子である。
もちろん俺もかなり混乱して、訳わかんなくなっていた。
そんな俺達に対して職員は不思議そうに
「あれ?たしか大剣と大槌を持った男達が、最愛の妻を護りながら、後から街道を通る者達へ被害が出ないように凶暴な魔物や獣達を時間をかけて駆逐しながらこの街へ来るらしいって……おかげで魔物被害が大幅に減って感謝してたのですが……間違いでした?大槌なんか使ってる方があなた以外見受けられなくててっきり……」
これで繋がったよ。
とんだ誤解だが。
「いえ、多分それは俺達ですが……」
「ですよね!やっぱりそうですよね!あぁよかった!これでやっとムリヌを収穫できますよ!!ありがとうございます!報酬は必ず支払いますので!!」
キースの顔が引き攣っている。
そりゃあ昼時の食堂だ、こんな大声で言われたら嫌でも周りに知られてしまう。
しかも馬鹿(キース)が持っているのは、この世界でも使ってる奴などそういないであろう大槌だ。
ここでこの話を断ったら、俺達には色々と悪い評判がつくであろう。
……全く、これで一体何度目だ?
だからその槌をとっとと捨てろって言ってるのに。
「……わかりました、その依頼引き受けさせていただきます。で、件の魔物についてや土地の状況等の情報を教えていただきたい」
……ここで悪い評判覚悟でこの話を断っていたなら、今の俺達の関係は全く別物になっていたと断言できる。
それくらい重要な出来事だったのだ。
************{☆
依頼の内容は、グルーデックの討伐。
知ってのとおりグルーデックは……なに知らない?
あー、じゃあ説明するが、グルーデックとは主に森の奥深くに生息する飛竜の一種でな、別名瞬竜(しゅんりゅう)と呼ばれている程に素早い竜だ。
見た目は黒く、長い刺のついた尻尾を持ち、ただでさえ速いのに怒ると目が赤く光りさらに速く……なに、なるがくーが?
なんだそれは。
まぁとりあえずとてつもなく速い魔物だと思ってくれていい。
手なずけられたらとても良い足として使えるのだが、まぁ手なずける事などそうそうできないので討伐という形になる。
だがしかし、ここで問題が発生すした。
「……あいつら、どうする?」
そう、リリスとレイラについてである。
リリスは知ってのとおり、根っからの魔術師だからか、運動能力はからっきしでな。
グルーデックの速さについていけず、魔法を唱えている隙に叩かれるのがオチだ。
そしてレイラ。
こいつもこいつで根っからの拳士(けんし)なのだが……欠点として足が遅い。
反射神経もいいし、拳の威力ならそこらの魔物なら一撃で、グルーデックだって五発も殴れば簡単に屠る事が出来るだろう。
だがなぜかどうにもこいつは速さがない。
しかも肉体強化魔法の才能が全くないので、リリスに補助をしてもらって何とかいつもの俺達についてこれるくらいに足が遅いのだ。
しかも場所が森だから、翼をつかって空からの攻撃もできない。
つまり、あいつらを連れていくと足手まといになるという訳だ。
「……置いていくしか、ないよなぁ」
すると必然的にこういう答えがでてくるのだが……
「……あいつらが素直に待ってくれると思うか?」
「いや、絶対こっそりついてくる。だから困ってるんだ」
こういう事である。
となるとこれからとる行動は一つしかなく、つまりそれはあいつらに知らないようにする事である。
「やっぱり、あいつらには秘密にしておくか」
そう俺がぼやくと、キースが何か思い付いたように顔をあげ、こう言ってきた
「なあなあガルク、いっそ今日からしばらくあいつらを突き放してみたらどうだろうか?」
「ん?どういう事だ?」
「しばらくあいつらとは最低限の会話等以外せずにほうっておくんだ。そしてあいつらも俺らがいない事へと慣れ、今みたいにベッタベタにくっついてくる事はないんじゃないか?」
「……そううまくいくかぁ?」
「昨日なんもいい案がでなかったんだ、だめ元でやってみないか?」
この時俺は他にいい案もなく、だからと言って彼女達が勝手におとなしくなってくれるはずもないと考え、キースの案を採用した。
「……そうだな、他に案もないし、やってみるか」
「よし、なら早速どうしたらいいか細かく決めよう。あいつらなら多少無茶しても大丈夫だろ、毎日“惨めな私をきつく縛って、辱めて下さい”やら“悪い子な私にお仕置きをしてください”だとか言ってる奴らだ、問題はない」
「そうだな、多少ならむしろよろこびそうだ」
こうして、俺達による“リリス・レイラ改造計画”がはじまったので……ん?なんだ?
なに、外道?
どこらへんがだ?
**************+☆
さてさて、とりあえず彼女達の矯正を初めて4日目が経った。
最初はただ俺達の機嫌が悪いと思ってたようだったが、だんだんそうではないと思いはじめたようで、日に日に目に涙をためながら縋るように近付いてくるリリス達を見て、何度もその手をとって抱きしめてやろうとするのをグッと堪え、この日まできたのだ。
そしてその日は、俺とキースがグルーデックを討伐しに行く日なのである。
最近は嫌われたと思ったリリス達が四六時中纏わり付いてくるので、彼女達が寝ている朝早く、日も昇らないうちに街を出発した。
そしてつつがなくグルーデックを討伐して死体をキースと協力して持ち帰……んあ?グルーデックとの戦闘描写?
いや、グルーデック関係ないだろ。
この話の中心は俺とリリスについてなんだから……わぁかったわかった。
全く、君は意外に強情だな。
グルーデックとの戦いは、まず土を魔法で加工して落とし穴を造り、その上に生肉を置いて落ちるのを待ちながら隠れる。
そして落ちた所でキースが頭を槌でぶん殴ったら気絶して、その隙に俺が首を……だからなんなんだい、もんはんって。
まぁとりあえず、だ。
思いの外グルーデックが簡単に罠にかかってくれたおかげで予定よりかなり早く終わったから、街まで死体を運びながら帰ろうとしたのだが、やはり森の奥深く、そう簡単に戻れるはずもなく、その日は森で一泊した。
で、次の日だが、俺達が来た道ならちょっとグルーデックを運びながら帰るのには狭くてな、大回りしながら帰ったら着いた時はもう日も暮れかけていた頃だった。
街に着いた俺達は役場へ赴き、死体をまず俺達の新たな服をつくるための素材となる部分を剥ぎ取り、使わない部分を役場に……だぁかぁらぁ、もんはんって一体なんなんだ?
なにげに君は話の腰をへし折るな。
とりあえず、使わない部分を役場へと渡して報酬を貰い、俺達は宿へと戻ったんだよ。
すると宿の前に、前に見た時に比べて限りなく窶れ、目を泣き腫らしたリリスとレイラがまるで世界の崩壊を目の当たりにしたような顔で立っていたのだ。
絶望を全身から滲み出している彼女達を周りの客はみんな避けるように進んでいた。
そして彼女達は俺達を見つけると、一瞬眼を見開くやいなや涙を流しながら駆け寄ってきて、俺達に縋り付いてきた。
そして放った第一声が
「お願いですから私を見捨てないでください!なんでもしますから!いい子になるから私をあなたの側に置いて下さい!!」
「ちゃんと言う事聞くから!わがまま言わないから!お願いします!私を捨てないで!置いてかないで!嫌だ!離れたくないよ!嫌だ!嫌だぁ!!」
上からリリスにレイラである。
さぁ考えてみようか、今はもう太陽も沈みきる直前くらい、つまり夜の一歩手前だ。
するとだいたいの者は家へと帰るだろう。
だが、この街に家がない、俺達と同じく旅をしている者達はどうだろうか。
当然宿へと向かう訳だ。
宿へと向かう者、宿の中で休む者、果ては宿の従業員。
そんな中で、窶れているとは言え美少女に足にしがみつきながら、“捨てないで”と泣きながら懇願される若い男性が、しかも二名も。
さてさて……何名の者に俺らの姿が見られたかな?
そして皆さんどう思ったかな?
答えは火を見るよりも明らかだ。
だから俺達はかなり焦った。
いや、焦ったなんて生易しいものではない、それ以上の、言葉で表せない程に混乱した。
だから俺は急いでリリスを抱きしめて、彼女が落ち着くように話しかけた。
「大丈夫だからリリス、俺はおまえを絶対に捨てない。いつもいつも溢れんばかりの愛を貰ってるんだ、そんなおまえをどうして捨てようか。……まぁ、一度に貰うには多過ぎるがし、周りをみて節度も弁えてほしいけど……っと、ごめんよ。大丈夫、俺はおまえをいつも変わらず愛してるよ」
もはやなれたものである。
まぁ、焦った結果つい本音が少し出てしまったが。
だがそんな俺の言葉も今の彼女には効果てきめんで
「ほ、ほん…とう?…わ、わが、わがっだ……ぢゃんど…ぐずっ……じゃんどぜづどを…わぎまえて……こうどうじまずがら……だがら……だがら……」
むしろいい方向へと転がった。
「あ、ああ、大丈夫だ。おまえを捨てない、ずっと一緒にいような」
「……うん」
リリスはそう言うと、本格的にびーびー泣いてしまった。
見るとキースも同じようで、後からきいたらあっちも俺と同じく、なんかいい方向へと話が転がったようだった。
とりあえずリリスを抱き上げ、やじ馬を蹴散らしながら部屋へと戻る。
さすがに今こいつらと別れる訳には行かないので俺とキースはそれぞれ別れて部屋へと入り、リリスを寝所へとおろした。
すると彼女は手をきつく握ってきたので俺は
「ごめんな。そんなに辛かったか……大丈夫、疲れてるみたいだし、一緒にいてあげるからゆっくり寝なさい」
そう言ってリリスの頭を優しく撫でてあげると、彼女はゆっくりと眠りに落ちていった。
*************‰☆
その後の話をしよう。
次の日俺はリリスの泣き声で目を覚まし、約束した直後だが腕にしがみ付いているリリスを大目に見つつ、同じような情況のキース達と合流して飯を食いに行ったのだ。
すると食堂へ着いた途端
「ちょっとあんた達!」
食堂のおばちゃんに呼び止められて
「ふざけてんじゃないよ!!」
ガゴンッ!!
ベギャッ!!
頭を鍋で殴られた。
しかもこのおばちゃん、種族が王鬼(オーガ)だからめちゃくちゃ力があってとてつもなく痛い。
「この娘達はね、あんた達がいなくなった後必死で街中を走り回ってあんた達を捜してたんだよ!こんなかわいい娘を泣かせて……男として恥ずかしいと思わないのかい!!」
「クロノさん、キースを責めないで!わがままだった私が悪いの」
「ガルクも、私がきちんといい子になったら許してくれるって……」
「レイラちゃんにリリスちゃん……なんていい子なんだい!私もこんな娘が欲しかったよ!!」
「クロノさん、苦しいです……でもこうやって抱かれてるとお母さんみたい」
「心配してくれてありがとうございます、私達、幸せになります」
「つっ~~~!!いいかいあんた達!次にこの娘達を泣かせたらただじゃおかないからね!こんないい子そうそういないんだから、大事にさなさいよ!!」
「「は、はい」」
ちなみにこのやり取りの間中、俺とキースはずっと頭を抱えていた。
そしてその後
「……おい、リリスちゃんとレイラちゃんを今度泣かしたら俺がおまえらを殺すからな」
「お、見つかったのかい。もう離すんじゃないよ。そしておまえら、次はないぞ……」
「あらあなたたち、やっと見つけたのね。じゃあこれあげるわ、お祝いよ。……あなたたちには、はい、腐ってるけど、これで充分でしょ?」
「やあ!リリスちゃんにレイラちゃん!この首輪なんか買わないかい?魔物用の頑丈なやつなんだけど、女の敵を縛り付けるのにも一役買うよ!君達なら安くしてあげるからね!!」
明らかな街単位のいじめにあった。
そしてリリスとレイラ、どんだけ走り回ったらこんなに街を味方にできるんだ?
だがそんな俺達を救おうとしてくれるありがたいお方が現れた。
「あ、あの~……キース様とガルク様の奥様でいらっしゃいますよね?」
あの依頼を持ち掛けてきた職員である。
「「はい!そうです!!」」
きっとこれは“奥様”と言う言葉に反応したんだな。
異常に返事が早かった。
「あ、あの……ごめんなさい!」
職員はそんな彼女達に、とてつもなく頭を下げた。
「キース様達に口止めされていましたが、キース様達への仕打ちがあまりに酷くて約束を破って申し訳ありませんがお伝えします!彼らがいなくなった原因は私が魔物討伐の依頼をしたからです!!」
……この言い方はまずい!
「実はこの街の近くの森に……」
「つまりガルクと私の仲を引き裂いたのはあなたなのね?」
リリスはそう言いながら、確実に当たれば死ぬ量の雷をバチバチ右手にためている。
「……は?」
「お、おいリリ…」
「キースがいなくなったのは全て、あなたの陰謀だったのね?」
レイラはレイラで確実に殺すため、拳に鉄のついた手袋をはめて臨戦体制をとっている。
「え、あ、いえ…一応役場の……いら…い……」
職員の額には脂汗が浮き出て、顔は真っ青に染まっている。
がたがたふるえている姿は、男のくせになにか小動物的なものにみえた。
そしてそんな彼に彼女達は
「「かけらも残さず、消えなさい!!」」
「「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
~ナルミサイド~
「なんとか頑張って止めたが、グルーデックよりはるかに手強かった」
……本日は、ガルクさんによりランドルフ宅へお呼ばれされてここにいます。
リリスさんとシルバちゃんは王妃様にお茶会へとお呼ばれされたため、いないうちに自分とヤンデレについて語りたいとの事で呼ばれたのですが……
ナニコレ。
てゆーか一部完璧モンハンじゃん。
つか、リアルナルガクルガ見てみたいぞ。
「そして街を出る時には「ガルクさんガルクさん」……なんだい?」
「……あの、言いにくいんですが……最近のシルバちゃんの暴走の押さえ方は……」
自分がこう言うとガルクさんは一瞬ボケッとした後
「……あれ、なんで俺とリリスのこんな話になったんだ?」
あ、だめだこりゃ。
そう思いながら自分はコップ(中身はノンアルコールジュース。お酒は断った)を傾け、喉を潤す。
「……悪い、話が逸れすぎたな」
「いえ、そんな」
とりあえず、放置は危ないという事がよくわかった。
「はぁ……だいぶ長い時間話してしまったな」
「そうですね……もう3時間も」
「そうか……もう帰るかい?」
「そうですね……そうします」
自分はそう言いながら席を立ち、後ろを見ると
「上着をお持ちしましたナルミ様」
目の前にお年をめした執事(セブル)さんが
「おのぅぁ!気配が!いつのまに!!」
「主の望んだ時に仕事をする。これがランドルフ家の執事の仕事でございます」
いや答えになっとらんから。
ガルクさんも、笑いすぎ。
「あっはっは、いやー、セブルにはいつも驚かされるな。俺の親父もよく子供の頃に振り向いたらセブルの皺くちゃな顔があって驚いたと言っていたぞ」
「先代当主、グルース様が望まれたので赴いたまででございます……おや、奥様がお帰りになられたようですな」
セブルさんがそう言うと、リリスさんがおもいっきり扉を開いて
「ガルク!会いたかった!昔あった嫌な事を思い出して……わがままな私を優しく、慰めて下さい旦那様……」
「失礼しました、ごちそうさまでした」
自分は猛烈ダッシュで逃げ出した。
だって……なんか大人な事をやろうとしてるんだもん。
あそこにとどまるほどKYではない。
全く、リリスさんてば自分が見えないん……
「ナルミ様、上着をお忘れでございます」
「みぎゃぁぁぁぁぁ!!」
びっくりしたぁ!
お屋敷の曲がり角曲がったらいきなりセブルさんって!
青鬼を一人でやるよりびっくりしたわ!!
「それと、玄関はあちらにございます」
だが、そんな自分を全く気にもせずにセブルさんは自分を出口まで案内してくれた。
「ここでございます。お気をつけてお帰り下さい」
そう言った彼は深々と礼をして、自分を見送ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
そう言って自分は扉に手をかけ、ゆっくり開けた。
……よかった、ブルーベリー畑じゃない。
それにセブルさんも追ってこないし、卓郎みたいにはならなさそうだ。
安心しながら自分は月明かりに照らされた石畳の道を城に向かって歩いて行った。
そして、重大な事を思い出す
『俺の親父もよく子供の頃に振り向いたらセブルの皺くちゃな顔があって驚いたと言っていたぞ』
……セブルさん、あんた一体何歳なんだ?
ある意味、青鬼よりはるかに恐ろしいかもしれない。
……部屋に風雲たけし城でもつくっとこうかな。
ちなみにその後部屋にもどると
「……クンクン…スーハー……ハム…んん……」
「………」
赤毛の吸血少女が自分のベッドを堪能していたので、無言で脱出してテキトーな空き部屋に久しぶりに自分のベッドを出し、そこで寝る事になった。
……あの娘のあれは、絶対遺伝だ。
…………どうしよう。
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