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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第35話 誰が為に戦う(1)

 フロストエースを召喚した後は、さほど特筆すべきことはない。せいぜいが、“歓迎”と称して召喚されたばかりのフロストエースに男子勢 (主に恭也が)が試合を望んだ程度である。

「けれども、本当にあのアプリってすごいですよね~」

 そんな男どもの試合が始まってしばらく後。月村邸の廊下を、リリーと並んで歩くファリンがそう言った。
 裏庭から二人が離れたのは、やんちゃしても大丈夫なように、純吾が救急箱を持ってくるよう頼んだからだ。封時結界の範囲から逃れ、斜陽に紅く染め上げられている屋敷の中を、二人はのんびりと歩く。

「そうね。悪魔合体機能に、魔界のお金、マッカさえあれば安全に悪魔と契約できる【デビルオークション】と、今まで呼び出した悪魔を何度も呼べる【悪魔全書】。
 戦闘になれば自身を極限以上に強化できる【ハーモナイザー】に、複数体の悪魔の召喚と完全な制御。その上更に【ニカイア】なんて怪しげなサイトから色々と便利な機能を引っ張ってこれるんですものねぇ~」

 歩きながら、つらつらと【悪魔召喚アプリ】ができる事を羅列するリリーの言葉に、ファリンが口元を隠して苦笑する。

「うわぁ…。できる事を並べてみると、ほんとあいた口がふさがらないっていうか。すごい、ですよね」

「すごいなんてもんじゃないわよ。悪魔に関する機能だけでも、知ってる人が聞いたらこの屋敷一杯の黄金を用意したって欲しがるくらいの代物よ」

「えぇっ、それはいくらなんでもおおげさじゃないですか?」

 階段の前で思わずといった風に立ち止まり、ファリンが屋敷の天上を見上げた。
 確かに、あのアプリには多彩な機能があり、従えることのできる悪魔は強大なのは分かる。けれども、この屋敷一杯の金に匹敵する価値があると言われても、あまりピンとこなかったからだ。

「あのね。本来私達を使役するって事は、もの凄~い入念な準備をして、滅茶苦茶めんどくさい儀式をして、寿命が縮むんじゃないかってほど神経削られる交渉と契約の確認の上で、ようやく少しは安心かなってものなの。
 それをボタン一つでぽん、よ? しかも、一体従えるのだって難しいってのに、ノーリスクで複数の悪魔をよ? はっきり言って、悪魔馬鹿にしてるとしか思えない位のぶっとんでる性能なの」

 憮然とした顔をして答えるリリーに、そーなんですかぁと気のない返事を返事をするファリン。説明してもあんまり分かってもらえなかった事に、リリーはついついため息をついてしまう。

「はぁ。まっ、しょうがないか。実際それを見られる事なんてないから、実感なんて湧きようもないでしょうし。
 それよりほら、夕飯の下準備するんでしょ? 私はジュンゴの部屋行くから、ここで別れましょ」

「それなんですけど…、別に屋敷に常備してるものを使ってもらっていいんですよ?」

 リリーの事を覗き込むような体勢で、ファリンがそう確認した。家の中で何ともおかしなことだが、純吾は月村家が常備している救急箱以外にも、自分でもう一つ用意しているのだ。

「さぁ、それはジュンゴに言ってちょうだい。私はそうお願いされたから、言われたとおりにするだけなんだし」

 肩をすくませて、リリーが答える。そして「ほら行った行った」と手をひらひらとさせて、ファリンにキッチンへ行くように促す。

「はいはい、分かりました。じゃあ、皆さんのことよろしくお願いしますね~」

「そっちこそ、料理の下準備失敗するんじゃないわよ」

 キッチンへと向かうファリンにそう冷やかしを言った後、リリーは階段を上る。長い黒髪がこつこつと、階段に響く足音と共に揺れた。

「そう、本当に大したものだわ…」

 誰もいない2階の廊下を歩きながら、リリーはそう一人ごちる。そこに先ほどまでのひょうひょうとした表情はなかった。能面のように、今のリリーの顔から感情をうかがう事はできない。

「さっき言った機能にプラスして、悪魔のいないこの世界に対応する調整。
 戦うだけで、それに見合った空気中からのマグネタイトの吸収に、仲魔( ・ ・ )からのスキルクラック。それにマッカの定期的な振り込み……
 ほんっと、これを作った奴はジュンゴに何をさせたいってんでしょうね」

 純吾の部屋のドアを開け、若干荒い手つきでクローゼットの中を探るリリー。若干部屋の中を乱雑にしながらも、お目当ての救急箱をとりだした。

「けど、それでも――」

 そしてきゅっと、救急箱を胸に抱きしめるように抱え、部屋を出る。
 顔には柔らかな笑みを、しかし目には苛烈とも言える意思の光が灯っていた。
 その意思は抵抗。今もどこかで、必死に生きる自分達の事を見ている輩に対しての、命の限りの抵抗を貫かんとするものだ。

「それでも、もうジュンゴに悲しい思いをさせたりしない。力で道を切り開けというのなら、その思惑にのってやるわ。
 もらった力、遠慮なく振るわせてもらうわよ」

 誰に言うでもなく、虚空に向かってそう独りごちる。それからリリーは、赤く染まった廊下を裏庭へ向けて歩き始めるのだった。





 次の日の夜

 その日はアリサとすずかが習い事の日であり、夜の巡回をなのは、ユーノ、純吾、そしてリリーの4人で行っていた。
 余談だが、習い事についてこんな事しいてる余裕があるのか、と彼女達自身が辞めようとした事がある。だが、純吾達がそれを思いとどまらせた。二人とも「今だからこそ、“日常”を大切にしてほしい」と言われると、ぐぅの音もでなかったのだ。

「しっかし、そう簡単には見つからならないものねぇ」

 リリーが純吾の隣を歩きながら、面倒くさそうにぼやく。かれこれ1時間ほど、ずっと目を皿のようにしてジュエルシードを探していたため、背が少し痛くなっている。
 ぐぅっと両腕を上げて背中を伸ばしながら、彼女の前を歩くなのはの背に問いかけた。

「仕方有りませんよ、ジュエルシードは発動しなければただの綺麗な石でしかありません。それに――」

「分かってる。簡単に見つかるって事は、暴走が始まっているって合図なんだよね」

「うん。だから地道でも、僅かな魔力反応をしらみつぶしに確認していくしかないんだ」

 ユーノとなのはが立ち止まり、振返ってリリーの問に答える。こちらも少しだが、疲れが顔に見える。二人は魔力の残滓を確認しながらの探索のため、疲労のペースがリリーよりも早いからだ。

「はいはい、分かったわ。確かにこんな事、面倒事にならずに済むのが一番だもんね」

 そんな二人の様子を見て、伸ばしていた腕をそのまま降参とでもするようにしてリリーは答えた。自分より小さい二人がこうして頑張っている、それに答えないような彼女ではない。
 それに――

「ん…。怪我しないのが、一番」

 リリーの熱視線を一身に受けている純吾が最後に、それまで一人地面を見回していた顔を上げてそう締めくくる。視線に気づかれなかったリリーがむくれたように頬を膨らませるが、それも気が付かれていない。
 その様子に少しだけ笑いあうと、再びジュエルシードを探し始めようと歩きだす。
 
 だが次の瞬間、にわかに空が曇り始めた。

「これ…」

 突然変わった天候に、純吾が再び顔を上げた。ニット帽からのぞく目は、これから起こる事を思い自然険しくなる。
 そんな純吾達の思いなど無視するように雲は広がって行く。さらに、空を覆う分厚い雲を切り裂いて、何度も雷鳴が轟き始めた。

「ちょっと、雷が落ちるような天気じゃなかったわよ!」

「ユーノ君、これってっ!?」

 リリーも慌てて空を見上げ、すぐに原因に思い至ったなのはは肩に乗るユーノに確認をする。空を見上げるユーノは目を大きく見開き、信じられないといったように叫んだ。

「こんな街中で強制発動だって!? どれだけの被害が出ると思ってるんだ!」

 ユーノはすぐに地面に降り立ち、魔法陣を展開させる。
「広域結界、間に合え!」

 声と共に、世界が結界によって塗り替えられていった。分厚い雲もその結界の中に残っている。この天候の変化が誰によって引き起こされたか、一目瞭然であった。
 
 結界が視界の隅々まで行きとどくか否やという時になって、なのは達の前方に一筋の光が立ち昇る。それが意図的に暴走されられたジュエルシードだという事は明白だった。

 なのはは光を見上げて考える。どうして、彼女がこうしたのかが分からない。
 関係の無い人を巻き込んでまでジュエルシードを手に入れようとする少女達に、なのはは戸惑いを覚えざるを得なかった。
 だが、今はそれを考えている暇はない。

「なのは、急いでジュエルシードの封印をっ」

「うん、レイジングハート!」

 ユーノの声になのはがバリアジャケットを展開し、レイジングハートを封印モードに移行させた。杖の先に桜色の光が集まっていき、封印魔法を唱え始める。

「リリカル、マジカル――」

 詠唱をするなのはの視線の先に、黄色の光が集束するのが見えた。予測していた事ではあるが、なのはの心は焦る。
 このままでは、同時に封印魔法を行使する事になるが、もう止める事ができないのだ。

「――封印っ!」

 もう止めれないならと覚悟を決め、なのはは詠唱を唱えきる。桜色の光が解き放たれ、それと同時に黄色の光線も発射された。
 暴走するジュエルシードに二筋の魔法が突き刺さる。二つの封印魔法にさらされ、暴走初期であったジュエルシードはその輝きを急速に失っていった。どうやら、いつもの二倍の力を受けても、封印魔法は効いているようだ。
 小さく収まっていく光を見て、なのはは肩の力を抜き、レイジングハートの構えを解く。

「なのは、ジュエルシードの回収をっ!」

「う、うんっ」

 そんな時、矢継ぎ早なユーノの指示が飛んだ。そもそもこの封印劇を誰が演出したか、それを考えるとのんびりはしていられないからだ。すっかり目の前の事しか考えていなかったなのはの顔が少し朱に染まる。

 幸いジュエルシードとの距離はなのはの方が近い。動転する心を落ち着かせ、もう一度集中するためになのははわざとゆっくりと歩く。
 しかし、その判断がいけなかった。

「回収なんてさせないよっ!」

 その声と共に、巨大な狼――アルフが上空から襲いかかってくる。咄嗟の事になのはは襲いくる鋭い顎を見上げることしかできない。

「…させないっ」

 しかしずっとなのは達の後ろに控えていた純吾がそれを防いだ。【ハーモナイザー】を展開し高めた腕力を、マグネタイトで構成された光の剣にのせて振るう。

「ぐうぅっ!」

 さながら光の壁に跳ね返されたように、アルフは空中で弾き飛ばされた。しかしすぐに体勢を直し、アスファルトを削りながら着地。
 地上に降り立ったアルフが見たのは、既になのはの前に立ち、アルフを睨みつける純吾とリリーだった。

「またあんたかい……坊やっ!」

「…フロストエース」

 牙をむき出しにして吠えかかるアルフ。だがそれに純吾は全くの動揺を見せない。視線をそらさずにアルフに向かって携帯を突き出し、【悪魔召喚アプリ】を起動した。

「当ホーに、迎撃の用意あり!」

 光柱の中から、白い鎧を着込んだフロストエースが現界する。純吾の方を向き、次にその視線を追う。それだけでフロストエースは現状を理解した。
 純吾の更に前に出て、アルフに対峙する。

「――アルフッ!」

 一触即発の空気の漂う中、空からもう一人の魔法少女――フェイトがアルフのすぐ傍にまで降りてきた。アルフと対面する者の中、それも、後ろの方に純吾やなのはを認めると、無表情な顔に明確な非難の色を浮かべた。

「あなたは…。もう二度と、関わらないでと言ったはず」

「ん…。それでも、フェイトの事、心配」

 純吾がそう言いながら、仲魔を掻き分けて矢面に立つ。なのはも杖を構え、桜色の翼で空を飛び、フェイトと対峙する。

「うん。私達、知りたいんだ。そんな悲しそうな目をしてる理由を…」

「はっ、それでこれかいっ! 口で綺麗ごと言って、あんた達が何をしようとしてるのかよく見てみなよっ」

 純吾達の言葉を聞いて、間髪いれずにアルフも一歩前に出て咆哮する。
 それはフェイトを守るためであり、甘ちゃんのこいつらなら、これで動揺するだろうという計算もある。
 だが、言葉とは違いフェイトと敵対するような行為に、本当に怒りを覚えていた。

 純吾はその言葉に携帯を握りしめる。その矛盾はよく分かる。一度は決心した事ではあるが、面と向かって言われると、これから、戦わなければならないと思うと。どうしても、迷いが出てしまう。
 だが、もう迷わない。純吾がまっすぐにフェイト達を鋭く見つめ、なのはがさらに一歩前に出た。

「ちがうよ。綺麗ごとを言うから、フェイトちゃん達の本当を聞きたいから、私は本気でぶつかるの。
 何度でも言うよ。私達にも叶えたい事があって、フェイトちゃんの事を知りたい。だから、関わるなって言われても、こうやって私はフェイトちゃんの前に立つの」

「あぁそうかい……。なら二度と、私達の前に立てないようにしてやるよっ!!」

 その言葉が戦いの火ぶたを切った。アルフが踊り掛かり、フェイトが空中から突貫する。
 3度目の対決が今、始まった。
 
 

 
後書き
なのはテレビ版、確認しながらの執筆ですが…。拙作で言ってる事と大分違うなぁ。
に、二次小説だから、原作通りじゃなくってもいいよね!(震え声) 
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