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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第5話 「……あたしは弱いのか」

 
前書き
そういや拠点フェイズを掲載した頃から「一刀はもうでないの?」というメッセージを何件か、いただいています。

個別で返信してましたが、ぶっちゃけてしまうと「いずれ戻ってきます」。

盾二が散々言っている通り、二人はある意味一つですから。

……じゃないと腐展開できないじゃん(ぼそ) 

 




―― 曹操 side 冀州近郊 ――




 その夜、私の軍は黄巾の陣から数里離れた場所に陣を張っている。
 近隣の黄巾の情報を纏めて今後の行動を決めるため、この天幕に春蘭、秋蘭、桂花が集まっていた。

「結局、太平要術の書は見つからず……というわけね」
「申し訳ありません、華琳様」

 私の呟きに荀彧――桂花が(こうべ)を垂れる。

「これで情報が途絶えてしまったというわけね……恐らくは、すでに黄巾本拠に届けられたか、それとも情報が誤っていたのか……」
「残念ですが……」
「ふむ。まあいいでしょう。あの書が盗まれたときからこうなることはわかっていたわ。取り返せないのは残念だけど……手がかりを失ったのならば、また集めればいいだけよ」
「ご温情、感謝いたします……」

 桂花がそう言って、再度頭を下げた。
 ふふ、あなたの猫耳が頭を下げる度に、ピクピク動くのを知っているのかしらね?
 面白くて、つい苛めたくなるわ。

「ただ、その性であの天の御遣いを引き入れることができなかったのは痛いわね……何か罰を与えようかしら?」
「……その天の御遣いのことで、ご報告があります」
「あら、なにかしら?」
「はい……今朝方、陣を強襲できることが判明した折、時間がないため詳細は後ほど、と申しました」
「そうね。正直、あの時しっかり聞いておけば、あの連中を引き入れられたかもしれないわね」
「う……」

 ふふ、桂花の猫耳フードがピクピク動いているわ。
 本当に面白いわね。
 どういう仕組みになっているのかしら。

「そのことは重ねて申し訳なく……そ、それで、情報を纏めたのでご報告させていただきます」
「いいわ。聞きましょう」
「はい、あの義勇軍は、五日前に一万の黄巾の陣を発見。その次の日から、三日間かけて偽装した襲撃を繰り返します」
「偽装した襲撃?」
「はい、襲撃したと思わせて接敵する前に退く……誘き出すための陽動ではなく、あくまで振りというわけです」
「ふむ。その数が二千だったということ?」

 どうみてもあの場にいた兵は四、五千はいたはずだけど。

「はい、実際の総数は六千前後だったようです。それを三隊に分けて襲撃を繰り返していたとのこと」
「ふむ……義勇兵にはいい訓練になったでしょうね」
「それもあったのかもしれません。そして四日目の夜、黄巾の連中が慣れてきた頃に本当に襲撃します」
「なるほど。それが昨夜、というわけね?」
「はい。その被害はこちらが占拠した際の黄巾の負傷兵からおおよそわかりました。被害は死傷者合わせて三千五百、逃亡兵三千弱だそうです」

 あらあら……さすがは賊ね。
 ただの一戦、しかも不意を衝かれただけで逃亡とは……

「所詮は賊だな。まったく情けないことだ」
「姉者、報告の途中だ。黙って聞いていよう」

 春蘭と秋蘭が小声で話している。
 そうね、春蘭。私もそう思うわ。

「……それで?」
「はい、黄巾はその後、斥候が敵の本陣を見つけたと報告を受け、夜が明ける前に報復に出撃。その数は四千とのこと」
「……報告、ねえ。どうせ偽報でも掴まされたか、わざと見つけさせたのでしょうね」
「そのようです。相手は渓谷で待ち構えて、黄巾が渓谷に入ったところで後方を落石で遮断。前方は巨大な落とし穴でこちらも遮断して封殺。四千は(ことごと)く討ち取られたとのこと」

 四千を悉く……ずいぶんと苛烈ね。

「降伏はしなかったのかしら?」
「渓谷の崖の上にいた将が一度だけ警告したそうです。ですが、後方を遮断した状態で兵はいまだ損害無しだったようで……黄巾の指揮官は拒絶しました」
「愚かね……そこに誘い込まれた時点で幾重にも策が仕掛けられていて当然だというのに……」

 私が呟くと、横で春蘭が何か言っている。

「(ぼそぼそ)なあ秋蘭。策など突撃して粉砕すればいいのではないのか?」
「(ぼそぼそ)姉者……いいから黙っていような」

 ……あとで春蘭にもお仕置きしようかしら?

「そう……それで義勇軍の損害は?」
「それが……」

 あら? 桂花が言いよどむなんて珍しいわね。

「……”零”です」
「……は?」
「零、です。まったく損害はありません。一人の欠員も負傷兵もおりません」
「……なんですって?」

 四千を殺し尽くして損害がない?
 人が戦えばどうやっても損害は出るものよ。
 それが……まったくないですって?

「……落とし穴で前方を封じたといったわね。そこから這い出てくる黄巾は、どう対処したのかしら?」
「斥候が見たことを総合しますと……渓谷を塞ぐほどの大穴で、深さは遠めにみても二丈(約八m)以上はあったとのこと」
「……つまり、何日も前から仕込んでいた、ということね」

 最初から誘き寄せて罠にはめるつもりだったのだ。
 六千で、一万を……

「しかも、穴の中には無数の竹槍のようなものを仕込んであった様子です。落ちた黄巾はそれに刺され身動きが取れなかったとのこと」
「……聞いたことがあるわ。百舌鳥(もず)早贄(はやにえ)……そんな状態だということ?」
「はい。仲間が串刺しで殺された穴を前に、黄巾の兵がどう思ったか……」
「……なるほど、士気は崩壊。抵抗する意思はなかったでしょうね。それを殺しつくす、か……義勇兵ならやるでしょうね」
「はい。彼らは義憤、いえ兵にとっては私憤での集団です。自分達が奪われ、殺されることを黄巾にやり返す……必ずやるかと」
「そうね。そうでなければ纏めることなどできないでしょうね……それを纏めるのがあの男」

 私は彼を思い出し、ぶるっと身体が震えるのを感じた。

「? 華琳様?」
「ふふ……桂花。信じられるかしら。初めてよ……男に恐怖したのは」
「! あの北郷とかいう男ですか? 何をされたのです!」

 あらあら……桂花のはやとちりが始まったかしら?

「何もされていないわよ……あの北郷盾二という男は、私の傘下への誘いを断っただけ」
「華琳様のお誘いを、たかが男がですか!? 許しがたい蛮行です! 殺しにいっていいでしょうか!?」
「ふふ……貴方がそう言ってくれるのは嬉しいけどね。私はあの男が断ったことで逆に興味がわいたわ」
「華琳様!?」

 ふふっ、やっぱり桂花はからかうと面白いわね。
 でも……

「でも、恐怖したのは本当よ。私と相対したあの男の放つ気迫……まさに”覇気”だったわ」
「……!」
「信じられる? たかが義勇兵を纏める無位無官の男。それにこの曹孟徳が怯まされたのよ……恐怖も抱いたけど、逆に欲しくなったわ」
「華琳様、危険です!」
「そうです! あの男は危険すぎます!」

 春蘭と秋蘭がそろって声を上げる。
 ふふ……心配性ね。
 その心配は嬉しくもあるけど。

「春蘭も秋蘭も見たでしょう。あの覇気……あれが我が物となったら、きっと私は今以上に覇道を進むことができる。それが私にはたまらなく欲しい……」
「華琳様!」

 桂花が私に跪いてくる。

「華琳様、そんな危険な誘惑に身を任せるのはおやめください! それは蟲毒(こどく)というものです! 王の道に外れます! どうか、どうか!」

 ……桂花。
 貴方は本当に私を心配してくれるのね。
 ありがとう。

「ごめんなさい、桂花。もちろん私はそんな蟲毒のような誘惑に身を委ねようとは思わないわ。戯れが過ぎたわね」

 私がそういうと、桂花は顔を上げる。
 その顔は明らかに安堵の表情があった。

「春蘭も秋蘭も悪かったわね。ちょっとした冗談のつもりだったのだけど」
「いえ、安心しました」
「華琳様がそのような方でないことは、我々が良く知っております」

 二人も安堵の表情を浮かべている。
 果報者ね、私は。

「でもね、あの男が我が下に来れば、と思ったことは事実よ。あの覇気を取り込んで、さらに上を目指すという意味でね。それにどちらかといえば、その下にいた関羽や張飛といった豪傑に興味があったわ。彼女達は春蘭にも負けないいい武将になることでしょう」
「確かに……あの関羽という女は、立ち向った気迫に並々ならぬものを感じました」
「春蘭にそこまで言わせる相手なんて……」

 桂花が考え込む。

「……華琳様、もう一度接触して取り込みますか? 方法ならばいくらでもありますが」
「ふむ……いえ、やめておきましょう。彼らは私の援助を断ったのよ。どこまで自分達でいけるか楽しみじゃない?」
「……彼らを試す、と?」
「そうね。案外、自分たちだけで勢力を伸ばすかもしれないわね」
「…………」

 ふふふ……桂花、不満そうね。
 貴方のことだから今のうちに殺してしまえとか言いそうね。
 でもそれは、私が認めない。
 覇道に花を添える存在がいなくては、何のために覇者になろうというのか。

「私の覇道に色を添える存在になればよし。ならねば野辺に屍をさらすだけよ。だからこのままでよい」
「……華琳様」
「まだ不服かしら? なら貴方には今日の罰も含めて(ねや)にて語ってあげましょう」
「はい、喜んで!」

 あらあら……猫が子犬になったようだわ。

「義勇軍のことはもういいわ。今後の黄巾の対策について話しましょう。桂花」
「あ、はい。では――」

 桂花の報告を聞きつつ、私はあの天の御使い、北郷盾二を思い浮かべる。

(登っていらっしゃい。もし敵対するのであれば……叩き潰してあげるから)




 ―― 盾二 side 冀州濮陽(ぼくよう)近郊 ――




 曹操の誘いを断った俺たちは、西へと歩を進めている。
 すでにあれから二十日が経とうとしていた。
 その間、周辺の邑や街で情報を集めつつ、義勇軍の勝利を喧伝する。
 その噂が広まる頃に到着しては、兵の募集と援助を請うていた。
 あの落とした陣にはかなりの資材と糧食があり、随分と大きな集積所だったようだ。
 雛里が「あそこは交通の要所でしたから」とのこと。
 なるほど。あそこが周辺の黄巾への物資と情報の連絡口でもあったということだ。
 となれば、周辺の黄巾は必ず弱体化しているはず。

 そう、これは好機だ。
 弱体化している黄巾ならば、多少多勢でも寡兵で勝てるはず。
 そう見込んだ俺たちは、兵力差はあるがほかの黄巾とも戦い、連戦連勝を重ねていた。
 あの五日間で、義勇軍は兵として最低限の調練を行ったおかげでそれらの戦いでも優勢に戦えたのだ。
 
 だが……俺は守りや待ち構える戦法ならば負けるつもりも兵を著しく損なうこともない、と思う。
 しかし、攻めは……苦手なのだ。
 だから”攻め”となった戦いでは、愛紗、鈴々にそれぞれ朱里と雛里をつけて補助とした。
 俺は一人の兵として戦いに赴いている。
 さすがに最初は泣きながらやめてくれと朱里や雛里に懇願されたが……俺の本質は兵卒だからなあ。

 だが、どうせ率いないなら、と前線で仲間の一人でも助けることを信条として戦う俺に、義勇兵達は奮起したらしい。
 ただの義憤や鬱憤晴らしとして参加していた暴れん坊たちも、次第に打ち解け、仲間を護るために自分から率先して調練をしてくれとまで言うようになった。
 やはり、同じ釜の飯を食うことは連帯感を生ませるな。
 兵と共に同じ飯を食べる俺を見て、愛紗たちもそれに混ざるようになっていた。
 また、新たに参加した義勇兵たちも先達である義勇兵が率先して面倒を見ているらしい。
 なんでも新兵をまず同じ釜の飯を喰わせて「一緒に食べて寝て戦う、それが天の御使い様の人となりだ」と言い触らしているらしい。
 さすがに恥ずかしいからやめてと言おうと思ったら、実は朱里の策だったらしい。
 人心掌握に主を辱めてなにが楽しいのだ、幼女よ。

「よ、幼女ではありましぇん!」

 はっはっは。
 恥ずかしさのお返しだ。
 まあ、それがうまくいっているのは認めざるを得ない。
 なにしろ、新兵が涙を流しながら飯を喰うからだ。
 その間にいかに俺が兵を大事にするか、劉備という人がどんなに愛らしい方か、関羽が雄雄しくたくましいか、張飛が元気でかわいいか――

「わ、私は雄雄しいのですか……そうですか……グスン」

 いあいあいあ。
 愛紗は可愛いし立派だし、髪も綺麗だしその細腕と立ち姿はまるで天女のようで……ごほん。
 と、ともかく。
 そうして軍に来た新兵の士気を高め、俺たち指揮官への信頼を高める。
 朱里の策はさすが孔明、といったところだろう。

 そうして今では兵の数は一万までに及び、糧食も心配せず戦うことができている。
 曹操の協力を断ったので糧食と資材が心配だったが、あの陣のものを本当に何も持っていかなかったらしい。
 さすが曹操……覇王(はおう)だのなんだのという逸話が残っているだけはある。
 だが……俺は、覇王を認めたくはない。

 覇王とは……悲しみの道でしかないからだ。
 覇王は、武と恐怖で人民を纏めようとするもの。
 日本でいうと織田信長がもっとも有名だろうか。
 あるいは……政治家から転身した後のナチスのヒットラー?
 中国では……これより昔だと項羽がいたか。
 そのどれもが、最後は悲しい結末に終わる。

 覇王とは徳によらず武力・策略で諸侯を従えて天下を治める人。
 それゆえ恨みの念が付きまとい、裏切りが必ず起こる。
 覇王は、劇薬なのだ。
 短期的に世の中を一変させる力はあるが、それはほとんどの人を救わない。
 常に悲しい結果と災厄に見舞われる。
 孟子のいう「王覇の弁」は俺でも知っている。

 そして歴史が……俺が知る歴史がそれを証明した。
 だから、それを進んで行う曹操には……従えない。

(もしも最初に会ったのが桃香ではなく曹操だったら……)

 曹操に会った後、何度か考えただろう想像。
 たぶん、彼女を止めただろうな。
 それは自分も他人も救わない、一見して正しいが、最後まで報われることのない道だと。
 そしてもし、自分が報われずともかまわないと言われたら……殴るな、俺なら。

(自分すら救えない人間が他人を救えるはずがない。必ずエゴで自分も、そして多くの他人も不幸にする)

 信長もそうだった。ヒットラーも、項羽も。
 覇道とは栄光の道に見えるが、それは偽りだ。
 覇王は……自己犠牲の道だ。
 俺はそう思っている。

(覇道とは……悲しみにくれた人間が、恨みと憎しみに生きた道。そんな物を……死して道を切り開く人身御供の方法を、認めるわけにはいかない)

 だからきっと、全身全霊で曹操を止めようとするだろう……止めるだけか?
 いや……きっと俺なら……俺が……

 いやいや……なにを考えている。
 今の俺には関係がない。
 彼女が民を不幸にするなら、きっと劉備がそれを止めようとするだろう。
 俺はそれを手伝って彼女を止める。それでいい。

(まてよ……そう考えるなら力が要るな。だが、史実だと……劉備がまともに力を得るのは、かなり後だ。しかも、その頃には曹操が手に負えなくなっているはず……)

 確か……この義勇軍の功で、中山国の尉になって、そのあと流浪。徐州の陶賢のところに行ったのはだいぶ後のはずだ。
 尉になって、確か賄賂を求められ、それを断って職を辞した後の流浪。
 あとは陣借りのような形で転々と諸侯を巡っていた、はず。
 マズイ。それではいつまでも拠点がもてない。
 それでは曹操を止めることはできない。

 ……どうするか。

「盾二様!」

 雛里がこちらに走ってくる。
 なにかあったのだろうか?

「どうした?」
「はい、ここより南西二十里(十km)で官軍と黄巾の部隊がぶつかったようです」
「官軍か……それで?」
「それが、官軍は敗走して……どうやらこちらに向かっている様子です」
「官軍の将はわかるか?」
「いえ、旗は張、華、馬となっていたそうです。名前までは……」

 ふむ。いろいろ考えられるが先入観はまずいか。

「こちらに向かっているんだな? 黄巾に追撃を受けているのか?」
「そのようです。伝令はあと一刻(二時間)もあればこちらに到着しそうだと」
「わかった。では、その距離を半刻に縮めて官軍を助けるとしよう。全軍に通達! これより官軍の救出に向かう!」
「「「はっ」」」




  ―― ??? side ――




「くそ、くそ、くそ! みんなはどこいったんだ! 張遼は!? 華雄は!?」
「わかりません、ちりぢりになってしまい……」

 あたしの悪態に兵の一人が申し訳なさそうにいう。
 なんてこった。
 これがあたしと従兄弟の漢での初陣だってのに……

「ここはどこだ? 洛陽に向かっていたんじゃないのか!?」
「違います、恐らく反対方向かと……」
「なにい!?」

 周囲を見渡してもまったく覚えのない光景ばかり。
 母さんに言われて朝廷に拝謁して、黄巾討伐を言い渡されて……
 挙句の果てに負けました、敗走していますときた。

「……あたしは弱いのか」

 錦だの姫だのと言われ、体調の優れない母さんに家督を譲られて出兵してみれば、華雄が突撃して陣列が乱れ、張遼とまとめようとするも、まとめきれずに敗走……

「情けない……」

 思わず涙が出る。
 こんな、こんなところであたしは終わるのか……

「馬超様! 黄巾が迫っております! 早くお逃げを!」

 兵の一人が叫びながら槍を構える。
 すでに傍にいる兵は十にも満たない。

「いや……こんなところでお前達を見捨てるぐらいなら、あたしはここで死ぬ」
「なにをおっしゃいます! 馬騰様が姫のお帰りを待っておいでなのですよ!」
「あたしに仲間を捨てて一人で逃げ帰れと!? 帰っても母さんに殺されるわ! ならばお前達と共に泰山府君の元にいく!」
「馬超様……」

 こうなったらあたしも意地だ。
 こいつらと共にここで死んでやる。

(母さん、ごめん。弱いあたしを許して。蒲公英(たんぽぽ)、あんたに西涼はまかせたかんな……あたしよりいい盟主になってくれよ)

 そう心で念じて槍を持ち、馬を翻す。

「この錦馬超! これより逃げも隠れもしない! 一人でも道連れにして冥府へ参る! 賊ども、この首獲れるものなら獲ってみよ!」

 あたしはそう叫んで馬で突撃する。
 賊はこちらを斬り裂こうとするが、あたしの愛馬がそれを巧みに避ける。

「そんな引いた腰の剣であたしの首を獲れると思うな!」

 目に付く端から槍にて突き刺し、薙ぎ、首を刈る。
 そうして三十にも打ち倒した頃だろうか。
 飛来した矢に驚いた愛馬が嘶き、体勢を崩したあたしが地に落ちる。

「ぐっ!」
「いまだ、あの女を殺せ!」

 黄巾があたしめがけて殺到する。
 ここまでか……
 あたしは諦め、眼を閉じた。

「死ねぇ!」

 賊の剣があたしの胸を貫いた。




 ……はずだった。

「な、剣が!?」

 バキッとした音と共に、折れた剣先が飛ぶ。

「まにあったか……」

 思わず瞑った眼を開ける。
 あたしの目の前に、黒い服の大きな背中が見えた。

(! とう、さん……?)

 その背中が幼い頃に背負われた、屈強な父の背中のように見えて涙があふれる。

「大の男が寄って集って一人の女を襲う……恥知らずどもめ!」

 違う。
 父は死んだ。もういない。
 じゃあ、この背中は……温かそうなこの背中は、誰?

「逝ってきやがれ、大霊界! エアバースト!」

 男の叫びと共に白い塊のようなものが、前方の地面で爆ぜる。
 その風圧を顔に浴びながら、馬から落ちた際に背中を打ったためか、痛みと共に意識が霞む。

(だ、だれ……?)

 あたしは振り返ったその顔を見ることができず、意識を失った。 
 

 
後書き
だってさー……原作やっても一刀くん、受身なんですよね。
だから盾二くんは攻めにしようかと思ったんですが……彼の性格上、ね。

いあいあ……別にそういう方向にする予定はありませんよ?(腐)

ただねえ……友情が過ぎると他人にはどう見えるか。
今は好きにするがいい、盾二くんw

ふむ、誰が楽しいんでしょうね、そんな話。
すいません、作者はニヤニヤしてますがw

ああ、あと盾二くんの観念については彼特有のものです。
 
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