魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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無印編 破壊者、魔法と出会う
10話:話す事は絶対必要
カコンッ!
そんなきれいな音を出し、ししおどしが倒れる。その周りにはきちんと手入れが行き届いている盆栽の数々。目の前にあるのは、何処にでもあるような洋館と抹茶。
………俺は何処にいるんだっけか。
そんな気分させてくれる程意味不明な場所、次元世界を渡る筈のアースラの中の一室に、俺達は案内された。
「なるほど、そうですか。あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのはあなただったんですね」
「…それで、僕が回収しようと」
最初に会話に出たのは、地上で画面越しにだが会話をしたこの船の艦長、リンディ・ハラオウンだ。生で見ると子供がいるとは思えない程の美しさを持つ女性だ。ま、高町家夫婦も劣らずの若さだがな。
「立派だわ」
「だけど、同時に無謀でもある!」
艦長の後にクロノが少し強めの言葉を言い放つ。ユーノはそれを聞いてか、少し顔を垂らす。
そんな少し気まずい空気を変えようとしてか、なのはが口を開いた。
「あの…ロストロギアって、何なんですか?」
「あぁ、異質世界の遺産、って言ってもわからないわね。えっと…」
なのはの疑問を、艦長は丁寧に答えてくれた。
次元世界の中の、進化しすぎた世界の技術の遺産。そんな危険な物の総称、ねぇ……
「あなた達が探しているジュエルシードは、次元干渉型のエネルギーの結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を起こし、最悪の場合次元断層さえ引き起こす危険物」
「君とあの黒衣の魔導師が衝突した時の振動と爆発。アレが次元震だよ」
「ほぅ、アレが……」
確かに、アレは何とも言えないものだったな。
「たった一つのジュエルシードの、全威力の何万分の一発動でも、アレだけの影響があるんだ。複数個集まった時の影響は、計り知れない」
あの規模で『何万分の一』なのかよ!?…ようやくアレの危険度が理解でき始めたな。
「聞いた事あります。旧暦の462年、次元断層が怒った時のこと…」
「あぁ、アレは酷い物だった」
「隣接する並行世界がいくつも崩壊した、歴史に残る悲劇」
……俺の中でアレの危険度がさらに増したぞ。
「繰り返しちゃいけないわ」
そうつぶやきながらスプーンですくった角砂糖を、流れるように抹茶へと入れる艦長。ポチャっと音がして角砂糖は抹茶の中にとけていく。
……俺は今見てはいけないものを見た気がする…。抹茶に砂糖って……
艦長はそんな俺の心境を知りもしないで抹茶を一口。器を一旦置いてからしゃべし始めた。
「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については、時空管理局が全権を持ちます」
「「「っ!」」」
「君達は今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」
その言葉を聞いてまたしても頭を垂らすユーノ。俺は腕を組んで沈黙を保つ。
そんな中、納得がいかないなのはが声を上げる。
「でも、そんな…」
「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」
「でも!」
「まぁ急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩、ゆっくり考えて二人…いえ、三人で話し合ってそれから改めてお話をしましょ」
「送っていこう。元の場所でいいね?」
「ぁ……はい……」
クロノは俺達を送る為席を立つ。なのはも渋々と言う感じで立つ上がる。ユーノも一緒に立ち上がり、先を歩くクロノの後を追う。
「……あれ?士君?」
「何をしている。君も早く――」
「いや、まだだ」
そのとき、俺が席を立たない事に気づいたなのはが、俺に話しかけてくる。先を行くクロノも振り返って話してくるが、俺は否定の言葉を出す。
「なのは、ユーノ。席に戻れ。まだ話は済んでいない」
「え?」
「それってどういう…」
ユーノとなのはは疑問の声を上げるが、艦長とクロノは少し目を細める。
俺は一息吐きながら体勢を正座からあぐらにして、腕を組む。
「…あなたは何がしたいのかしら?」
「何、本音を吐いてもらいたいだけだ」
「本音?」
艦長は俺に疑問を投げかけてくるが、俺は少し軽い感じで答える。
「さっきそこの執務官殿が言ったように、このジュエルシードが関わる問題は、俺達民間人が介入しない方がいい事であることはわかった」
「…そうね」
「なら、なんで時間を置く必要がある?」
「………」
俺の言葉に対し、艦長は沈黙を保ったままでいた。
「介入して欲しくないんだったら、無理矢理にでも俺達の行動を制限し、事件に関わらないようにするのが普通だ。それなのに一晩という時間が設けられたのは何故か」
「た、確かに…」
「ふぇ?どういうこと?」
ユーノは理解してくれたようだが、なのはお前……
だがそんななのはを気にすることなく、俺は続けてしゃべる。
「アンタ達は何か隠している、もしくは何か言ってない事があるんじゃないのか?例えば―――」
―――本当はこの事件に強力して欲しい、とか?
そんな俺の言葉に今度は艦長だけでなく、クロノも表情を変えた。どうやら、当たりのようだな。
「確かにアンタ達は強力な組織である事には変わりないだろう。だが、先程戦って、少なくともあの連中はてす…黒衣の魔導師に束になってもかなう実力があるとは思えない」
「「……………」」
「だが、今ここにはその黒衣の魔導師と幾度も戦って、しかもまだ経験の浅い実力未知数の魔導師がいる」
「ふぇ!?」
「はっきり言って、これ程の戦力がいらない訳ないだろ」
と、そこで二人の顔を見る。
「さ、本音を言ってみろよ。別に聞いても俺達に損はないと思うけどな」
「「…………」」
そう言うが、二人は顔を崩さず黙ったまま。
たく、本音よりプライドってか?俺はあきれて頭を少しかく。
「ま、アンタらが関わるなっていうんだったら、そうするが……」
「「え?」」
急に手の平を返したような言葉に驚く二人。ユーノも、ユーノから説明を受け理解したであろうなのはも驚きを見せる。
「少なくとも俺は奴らを…怪人達を倒す為に動くからな」
「なっ!それではいずれジュエルシードに関わるじゃないか!?」
「知った事か。俺がそう決めたんだ、指図して欲しいことじゃない」
「何!?」
怒りに身を任せてか、クロノは俺の前にズカズカと歩いてきた。そして俺の胸ぐらを掴むと、そのまま俺を持ち上げた。
「貴様、僕がさっき言った筈だ!ジュエルシードはとても危険で、民間人に関わって欲しくないと……」
「なら聞くが、お前らには今回の件を穏便に終わらせるだけの力と、怪人達と戦えるだけの戦力はあるのか?」
「っ、それは……」
俺の言葉に弱々しくなったクロノは、掴んでいた胸ぐらを離し、俺は萎れた服を少しばかりのばす。
「少なくとも、俺に瞬殺されたような奴らが敵うような敵ではない事は確かだ。それとも、お前ならあいつらに対抗できるとでも?」
「ぐっ……」
またしても痛いところをつかれたように後退するクロノ。
そのとき、少し諦めたように艦長が口を開く。
「…わかったわ、士君」
「!?艦長!」
「ここまで言われてしまっては仕方ないわ。あなた達に、今回の事件の民間協力者として、協力を要請します」
もう仕事に向き合うような鋭い目線でこちらを見ながらいう艦長。俺の横に移動していたなのは達は、少し目を合わせた後、艦長に目線を戻す。
「わかりました。ぜひ、協力させてください」
「お願いします」
そう言うと、二人そろって頭を下げた。艦長はそれを見た時、一瞬優しい目になるが、すぐに戻し俺の方を見てくる。
「それじゃあ、あなたは?」
「…俺も協力してもいいが…条件がある」
「この期に及んでまだ何かするつもりか!?」
「止めなさいクロノ。それで、条件とは?」
俺の言葉にクロノはまた声を荒げる。艦長はそれをなだめるように言って再び俺に向き合う。
「なに、そんな難しいことじゃない。ただ俺となのは、ユーノがそっちに協力する代わりに、なのは達はジュエルシードの回収を、俺は怪人共の始末を優先する事とを約束してくれればいいだけの話だ。あ、それと俺達が命令を無視してもそれなりの理由があるときはお咎めなしってことで」
「ん~、それはちょっと難しいわね…」
俺の提案に少し声をうならせる艦長。ならばと思い、俺はさらに提案をする。
「なら、俺はさらに今俺が知り得る奴らの情報のできる限りの提示と……俺の事について、聞いてくれればできるだけ答えるようにする、ってのはどうだ?」
「「!?」」
その提案に目を見開く二人。そんな中俺は、自分で言うのもなんだが不敵な笑みを浮かべる。
確かに俺、基ディケイドの存在は、この魔法が存在する世界でもまた異質である事は間違いない。そんな摩訶不思議の存在を、知る事ができるんだ。さらに…これも自分で言うのはなんだが、これ程の戦力も手に入る。ある意味おいしい話であるのは間違いない。
[マスター、よろしいのですか?こんな輩に私達の事を教えて]
[相手は次元世界を守る組織。俺が魔法に関わる以上、いずれ接触するのは目に見えている。なら、早い内に関わっておいた方がいいだろ]
「……わかりました。その提案、受けましょう。代わりに、三人の身柄を時空管理局の預かりとすることと…こちらの指示には最低限従ってもらうことを条件としていいかしら?」
「わかった、それぐらいなら何とかなる。これからよろしくお願いします」
俺がトリスと念話で話している間に決まったのか、艦長が俺の提案を受け入れてくれた。俺は少しうなずいて右手を差し出す。艦長は少し驚くが、すぐに自らの右手を出し、力強く俺の手を握ってきた。
「さて、それじゃあ俺達はこれで」
「ちょっと、あなたのこと聞いていいんじゃないの?」
「今回の協力で、俺達はこの船に乗る事になるんだろ?だった家族にも一言言わなけりゃいけねぇし。地球での時間も気になる。一旦家に戻ってまたこっちにくる。その時でも構わねぇだろ?」
「え、えぇ、そうね。わかったわ。クロノ、三人を元の場所へ」
「はい、わかりました」
艦長はクロノにそう言い、クロノはうなずいて踵を返す。俺も重い腰を上げ、クロノについていく。
地上に降りたときは、時間も少し経って日もだいぶ傾いてきた事だった。
「…なのは、済まないな」
「え?」
「こんな事に巻き込んじまったからさ」
近くの夕焼けに染まった海を眺めながらなのはに謝罪をする。
「…そんな事ないよ。だって、これは私の意思で選んだ道だもん。士君が謝る事じゃないよ」
「そうか……」
「それより、戻ろ。あ母さん達に、伝えなきゃ」
「あぁ」
そう話して、俺達は高町家へ向かった。
さらに時間が流れ夕飯後。なのはは桃子さんと一緒に洗い物をして、俺はリビングで時間稼ぎに宿題をしている。桃子さんには、前もって話がある事を伝えてある。
「さて…それじゃ桃子、なのは、士。お父さん達はちょっと、裏山へ出かけてくるな」
「えぇ。今夜も練習?」
「あぁ」
「気をつけてね!」
士郎さん、恭也さんは裏山で剣術の練習を、それを聞いた美由紀さんは見学と言って慌てて二人についていった。これで今家には、なのはと俺と桃子さんしかいない事になる。
「さ、これでおしまいっと」
「うん」
「さて、それじゃ大事なお話って、な~に?」
これをはじめに、桃子さんに今までの事を話した。勿論魔法の事、ユーノの事は伏せてある。なのはもうまい具合に話していた。
そして、その為に家を離れなければならない事も。
それでも話を聞いて言くにつれ、桃子さんの表情は険しいものになっていった。
「もしかしたら、危ないかもしれない事なんだけど、友達と一緒に始めた事を、最後までやり通したいの」
「うん…」
「心配、かけちゃうかもしれないけど…」
「そりゃあもう、いつだって心配よ!お母さんはお母さんなんだから、なのはの事も、勿論士君の事も心配よ!」
「お母さん……」
「…………」
桃子さんは両手で顔を覆う。母親が子を心配しない筈がないけど、やっぱり心苦しいな。
「でもね、二人がどっちにするかまだ迷ってたら、危ない事はダメよって言うと思うけど、でも、もう決めちゃったんでしょ?友達と始めた事、最後までちゃんとやり通すって。なのはは出会った女の子と、もう一度話をしてみたいって。
「……うん…」
「そして士君は…」
「自分の力で守りたいものを守る為に…貫きたい思いを貫く為に」
それを聞いた桃子さんは立ち上がり、俺達の頭をなでてくる。
「じゃあいってらっしゃい。絶対、後悔しないように。お父さんとお兄ちゃんには、ちゃんと説明しといてあげる」
「うん!ありがとう、お母さん!」
「本当にありがとうございます、桃子さん」
話も終わり、なのはと俺は席を立ち、それぞれ部屋へと戻り始める。
「士君、ちょっと」
「…はい」
だが、リビングを出る直前、桃子さんが俺の耳元にささやいてくる。なのはが先に部屋を出たのを見届け、俺はリビングに残る。
「何でしょう」
「あのね、士君にこんなこと頼むのも変なんだけど…」
そう言いながら両手を俺の方に置く。
「なのはの事、お願いね。あの子は色々と我慢する事があるから。だから…倒れちゃいそうになったら、支えてあげてね?」
「それは勿論です」
「それから……」
桃子さんの「お願い」に笑みを浮かべて答えると、桃子さんは肩に置いていた手を離し、俺の背中にまわして抱き寄せる。
「あなたも…何かを隠してどこかで無理するようなところがあるから。無理するようなことは…しないでね?」
「……わかってます。でも俺は――――」
「私達の本当の子供じゃない、とか?」
「っ!?」
俺の言葉を遮って桃子さんの声が俺の胸に突き刺さる。やべ…この人読心術でも使えたっけか?
「確かに、あなたは私達の本当の子供じゃないけど。昔言ったこと、覚えてる?」
「…『実の子供じゃなくても、あなたはもう既に私達の家族よ』…ですか?」
「そう」
桃子さんは俺を抱く力をさらに強くしてくる。少し苦しいが、そんな事は気にする事ではない。
「私はなのはだけが心配なんじゃない。あなたも心配なの。だから…ね?」
「……前向きに善処します…」
「もう、ちゃんと約束してよ!」
俺の答えに桃子さんは抱きつくのを止め、また両肩に手を置いた。
「…わかりました。なら、約束します」
「…?」
「必ず…二人一緒に、無事に帰ってくるって…」
俺は笑ってそう宣言し、桃子さんも納得したのかかすかに笑った。
「それじゃ、なのはみたいに準備しなくちゃね!」
「はい。それじゃあ」
そう言って俺はリビングを出た。
[約束、しちゃいましたね]
[あぁ。必ずって言っちまったし。守らなくちゃな]
その後、俺達は最低限の衣類と荷物を持って家を出る。
「行けるか、なのは」
「うん」
最後の確認をとり、俺達は高町家を真っ正面で見上げる。
「それじゃあ……」
「うん」
「「いってきます!」」
俺達はそう言い残し高町家より走っていく。
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