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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第三十九話 迎える勝利への終局

 
前書き
いよいよ大詰め。最後の戦いです。長かった、本当に期間的には長かったと思う。まあ執筆速度が単に遅かっただけってのもあるだろうけど。 

 

「結局、君は何のためにこの世界を用意したのだね?」

メルクリウスがアグレドに対して疑問を投げかける。互いに全力で妙技をぶつけ合う戦場を前にして、しかし言葉を交わす余裕はどちらにもあった。そして、超新星爆発を発現させながら、ふと疑問に思ったことをメルクリウスが尋ね、それに対して彼は咆哮を持ってして完全に止める。
考えてみれば当然のことだ。この世界を用意する必要性などない。彼自身が座につきたいなどと言うのならともかく、その意思は先の問答で否定されている。ならば先ほど言っていた次代の座を測りに掛けるため?それはどう考えてもついでにしか見えない。
二人の争いを止めるということに関しても、彼が手を出さずともメルクリウスは二者の戦いを当然止めただろう。特異点を多色に染め上げることを良しとしないのは彼も同じなのだから。
ならばなぜ、そんな無駄なことをと思わなくもない。事情を知らなかった?それはない。彼もまた数少ないメルクリウスの理解者なのだから。

「一つ、問題があった。それは下手すれば、いや高い確率でこのシステムそのものの基盤が崩しかねないものだった。誰も望まない。それこそ、それを流した本人ですらも。それを止めるために態々世界を包む形で介入せざる得なかった。ああ、実に面倒なことだし、本来はこのようなことで働きたくもないんだが、これが俺の仕事だ。気にするな」

つまり、世界総てを一時的に覆ったのも、その因子を掻き消すためだという。メルクリウスが流星群を降らし、アグレドはメルクリウスが発生させたグレートアタラクターの余波を十の角(・・・)で掻き消しながら話を続ける。だがそれは本当の意味での理由ではない。そう、アグレドはメルクリウスに本音を漏らすつもりはない。彼が行う行動はメルクリウスの為などとは一言も言わない。言うつもりはない。

「では、その仕事とやらは終わったのかね?」

「ああ、(アルフレート)が現世にいたころから少しずつ消し去っていたからな。方陣に介入したときには殆ど終わっていたようなものだ。もっともこの最後の介入こそが重要だったわけだが」

故に、問答の解は予め用意した補足的なもの。とはいえこれもまた間接的とはいえ目的には違いない。だからこそメルクリウスはその解に疑問を持たない。
()を振るい、流星は愚か、天に浮かぶ星々を蹴散らし、本来の数億倍の威力を持つであろうグランドクロスの天体位置を狂わせ、弱化させながら次手を遮ろうとするアグレドは質問に答える。

「ああいった類は完全に破壊しくさないといけない。君の望む女神も総てを受け入れる度量があるだけに余計危険だ。危険因子は完全に消さねばそれは問題の先送りにしかならないからな」

もとよりメルクリウスですらその危険因子の排除を出来はしないと彼は内心答える。それはメルクリウスであっても、その場面に直接出会うことがなければできない行為であり、また実際にそうなれば彼が生き延びる可能性もまた低いのだから。

「―――っと、どうやらあちらは決着がつきそうだな」

素粒子間(エレメンタリー)時間跳躍(パーティクル)・因果律崩壊(・タイムパラドックス)を受け、頭の一つが弾け、理の一つを失いながら、アグレドがそう呟くのを聞いてメルクリウスも果てに目を向けるとその先では朱い鮮血が舞っていた。
こちらの大規模な戦いに比べれば、向う側の互いに一刀しか放たない戦いは些か見劣りするものかもしれない。だが、断じて否。こちらはいうなれば秘技という名の曲芸を魅せあっているだけに過ぎない。それに比べればなんて純粋でなんて至高。究極に近づくほど陳腐なものに成り下がる。ああ、それもまた事実なのだ。故に、こちらはこちらで秘技を魅せあおう。

「ならば、こちらも決着をつけるとしようか」

そう言ってメルクリウスはこれまで以上の攻撃を仕掛けるために動き出す。また、アグレドも徐々に戻していた本来の体を完全に戻そうと動き、その一撃で総てを消し去らんと構える。頭が一つ失ったところで今の彼には対して関係がない。所詮失ったのは一つの世界に、一つの覇道、一つの理。その程度、己の中央に座す四つの理、己の世界、己の覇道を前には意味のないものだ。

「拭えない既知も大望抱く未知すらも消え去れ。お前の時代はこれで終わるんだ。まあ、最後まで友として付き合ってやる。それで満足しろ」

「ぬかせよ、私は死なん。死ぬのは貴様だ、アグレド。私の既知に終わりなどありはしない。私を認めたいというのなら、私の望む、女神の輝ける新世界を到来させろ」

彼が悪魔である以上、神に勝つという筋書きはありえない。だが今この場においては彼は揺らぎ、神とは断定できない。そして彼の本質、その化生は満天の星すら掻き消した存在だ。故に星の調律師と地を這う悪魔は互いが互いに弱点となりうる。
さあ、殺そう。死合おう。これが最後の一撃だ。共に、最高の一撃を放つがために世界すらも揺るがす。

「「行くぞォォ―――!」」




*****




メルクリウスとアグレドが殺し合う一方で、こちらの決着が付いた。方や受け入れるしかない致命傷を受けており、方や鮮血を舞い散らせながらも憮然と立つ。
そう、勝ったのは――――――

「やはり……というべきか…」

「―――――――」

蓮の刃は首に食い込んでいた。皮を確実に裂いており、鮮血を吹いていた。だがそこまで。肉を完全に切り裂き、骨を断つまでには至らない。

「何か、迷いでもあったかね?僅かだが、届かんぞ」

そして一方で、ラインハルトの刃は、

「ぐッ!?」

「私の、勝ちだ―――」

胸を聖槍で貫いていた。そして、そこから流れ出る神気が全身を蹂躙する。まさに致命的な一撃だった。
この結果は必然ともいえる。彼女を最後の最後で信じなかった彼はだからこそ敗したと言ってもいい。無論、彼女がいれば勝てたとまでは言わない。だが一方でここまでの差を見せつけられることもなかったはずだ。方や致命傷であり、方や軽傷とまではいわずとも致命傷とも言い難い。二人で戦ってきた彼が、今更決死の覚悟を決めたところで一人で勝てるかと言われれば否なのだ。

「興ざめ、とは言わんよ。私の想いが卿に勝ったのだ。卿の信仰に―――これはその結果に過ぎん。ああ、今こそ言おう。怒りの日、来たれり。私が総てを呑み込む」

だが、称賛には値する。自分が死んででもという覚悟は確かに大きい。事実、一人であったなら彼の刃がラインハルトに届くかどうかも怪しかったのだ。故に、それは誉れあるべきことだという。

「卿もまた、私の愛に抱かれ、溺れるいい。案ずるな、卿の女神も、まず第一に喰ってやろう。卿と共に我が覇道に溺死するがいい」

だからこの私に跪け。そう断言される。認めたくない。だが、認めざる得ない。違う、それだけは、それだけはさせられない。なのに…敗したのは自分、勝ったのはラインハルトなのだ。だが、だがそれでも――――――

「くっそぉ……」

諦められない。何が足りなかったんだ。俺に迷いなんてない。これしかないんだ。これだけしか方法はなかった。彼女に世界を知ってもらいたい。打ち上げにだって行かせてあげたい。だから俺が礎になる。それしか道は――――――ない。

「さらば、安らかに眠れ。私の御敵。盟友の遺産よ。卿等の美々しさ、永劫胸に留めておくと約束しよう」

心臓に突き刺された槍が破壊の輝きを膨れ上がらす。俺を殺して、マリィを喰らい、その総てを呑み込むために。させない。させるわけにはいかない。まだだ、死力を振り絞れ。俺は、マリィを死なせてたまるか――――――




******




時間はほんの僅かに遡る。

《さて、イザークよ。その消えかけの魂で何をなすことが出来る?》

イザーク、より正確に言えばゾーネンキントは消えかけていた。ようはテレジアや方陣の機能の役割を果たしていた者たちを含めた者らだ。

「あなたはイザークを利用しただけなの?」

その中で問いを投げかけたのは玲愛だった。問いを投げかけている対象はイザークが産道を破壊されそうになったときに手を差し伸べた悪魔、アグレドの因子だった。

《それはまた筋違いとしか言いようがないな。俺は選択肢を与えただけだ。死ぬか、生き残るかの。君らのスワスチカを利用したことは否定しないが、はっきり言って君らのことはどうでもいいんだ》

本当に彼にとってはどうでもよかったのだろう。溜息を吐き、説明する。

《そもそも俺は外界―――いわゆる君らの世界に直接干渉することが出来ない。かといって特異点に俺が降り立つこともまたしたくはない。そこで俺は一つ、手を打つことにした。アルフレートをスワスチカの一つに取り込ませることで世界への干渉を良しとして道を作り上げた。そして俺のいる世界に招待したわけだ》

その話を聞き、氷室玲愛には一つの疑問が浮かんだ。未だに城は機能を失っていない。だが、イザークは今、それを制御するほどの余裕がない。ならばそれを失えばどうなるのだと。

「じゃあ―――」

《言っただろう。選択は無限だと。無論、手に取れるかは君次第だがな》

玲愛が如何しようとしているかなど総てわかっていると言わんばかりに答えるアグレド。その様子を見て玲愛は掌の上で踊らされているだけじゃないのかと不安になる。だが、打てる手はこれ以外に思い浮かばない。ならば行動に移すしかないのだろう。

「まず、第一に目を開けよう。耳を澄まして、声に出して、そして助けたい――――――見つけたよ、私に出来ること」

アグレドがいるという世界への道を作り上げたのはこの方陣だという。なら逆のことも可能なはずなのだ。この世界からあちらの世界へと道を繋ぐことも出来るはず。

「死んじゃやだよ、藤井君。手伝うから手伝って」



******



長いようで短いような夢から覚めた。目が覚めてすぐにしたことは教室から屋上に向かって走っていくこと。外を見ても何もない。真っ暗な夜だ。空を見上げても夢のような出来事に出てきたオカルトめいた方陣もなければ、変な真黒な穴だってなかった。
だけど、吸い寄せられるように走っていった。何かがあるわけではない。むしろ何もないのだろう。だけど、あそこじゃないと届かない、きっと。自分でもわからないその衝動に駆られ、彼女は走り続ける。扉を叩き付けるように開き、大きく息を吸って――――――そして、

「あたしはここにいるからっ!」

声を張り上げ、自分はここで待っていると、綾瀬香純はそういった。そして、何もなかった空に道が広がりだす。



******



『レン、そんな強がり言わないで―――わたしを、みんなを信じて』

「――――――」

そんなことを言うマリィの声が聞こえた。そして、そのすぐ後に、みんなの声が聞こえて――――――

「馬鹿な――――――」

ラインハルトは瞠目していた。己の内に存在する魂が、奪ってきた数多の命が首筋から溢れ出していた。ありえないことだ。ラインハルト・ハイドリヒの魔城に下った魂は己の許可なく引きはがすことは不可能であり――――――いや、一つだけ例外があった。

「ゾーネン、キント……」

そう、グラズヘイムを生む子宮と産道。それはすなわち世界をつなぐパイプ役。だが、だとしても可笑しい。言っていたではないか。ここは地獄だと。閉じられた氷の牢獄(コキュートス)だと。ならば理屈が合わない。離れられるのは諏訪原市民八十万名。だが、帰る肉体があるシャンバラとは完全に断ち切られているはずだ。故に彼らが外へと出ることなど不可能。
何故ならそれはナウヨックスの造った道。ならばそれは今溶かされ、それを動かすのは心臓(イザーク)の役目。そちらを産道と子宮しか持たないテレジアは持っていない。

『いいえ、今だけは―――私はそれも持っています』

取れる選択は無限だと、悪魔はそう言った。確かにそうだ。成否はともかく可能性はあった。そして、アルフレートを利用して再び世界を繋げなおした。

『あなたの敗因は、イザークを消そうとしたことです』

綾瀬さんの声がなければ繋げなかった。玲愛がその選択肢に気が付かなければそもそも魂を開放することなんて出来なかった。だが結果はどうだ。私達はみんなが信じ合ったからこんなことが出来ている。

『たとえ何百万人引き連れていても―――たった一人でしかなかった、あなたの負けです』

「くは――――――」

それでもなお、その一刀は首を断つには至らない。確かに漏れ出た魂は膨大だ。兵糧を失った軍は瓦解寸前だろう。だが、斃れはしない。それが、総軍の指揮者である自分の意地であることはわかっている。だが、その程度で勝った気になるなよ。まだ私は朽ちていない。
だが、その矜持も蓮の行った行動で崩される。

『レン、わたしはあなたを信じてる。だから、あなたもわたしを信じて』

「――――――ああ、ありがとう」

刃に籠る魂が色を変える。蓮は自分が間違っていたことを素直に認めた。何が信じろ、だ。俺の方がマリィ達を信じてなかったんじゃないか。そして断頭の理を持った刃は元の持ち主が宿ることによって今まさに真価を発揮する。

「くは、はははっ、はははははははははは―――――――――」

断頭の刃が首を断つために進み始める。ラインハルト・ハイドリヒはこの時、初めて自らの死と敗北を知り、理解した。
そして、魂だけとなり、散り逝く最中、ラインハルトは自分に勝った相手に言葉を紡ぐ。

「――――――なあ、他者を信じるとは、それほど大事なことなのかね。それを持たぬことが私の敗因であり、それに支えられたのが卿らの勝因であるのなら、是非証明してもらいたい。
勝者の義務だ。我らの敗北が真に絶対であったと、卿らは示して見せねばならない。それが成されなければ、私はまた戻ってくる。負けていないことになるのだからな。
後悔はない。後悔などさせてくれるな。私を斃したその力こそ、真に最強でなければならない。私は取るに足らんものに敗れたわけではないのだと、そう信じさせてもらいたいな」

「ああ……」

蓮は力強く頷いた。

「信じてろ。お前とは、もう二度と会いたくない」

「では、その誓いにこそ――――祝福よあれ勝利万歳(ジーク・ハイル)

そう言って、ラインハルトは消えていった。
 
 

 
後書き
個人的にはラインハルトが勝利するというのも見たいけど、原作の設定からしてそれは無理なんだよね。(∴)の因子は消えた。これでマリィルートでも勝つる。
今日の昼頃にでも最終話+後書きは投稿するつもりです。ついでに言うと最終話はあんまり長くないです。 
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