ソードアートオンライン 赤いプレイヤーの日常
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一話~生還~
ただっぴろい草原。その奥に見えるは背の高い木々が生い茂る、いわゆる森。特に上層というわけでもないフィールドの、特に何という事もないそんな一角。
そこに二つ、普通ならありえないほどの速さで走るプレイヤーの残像と、それにぴったりとはりつく無数の小さな影を、かろうじてながらも認めることができた。
「い、いい加減にしてくれ!いつまでついて来るんだ!?」
疾走する残像プレイヤーの名前は、キリトといった。あるいは《黒の剣士》、《ビーター》と言ってもまだ通じるだろう。他にも色々と通り名はあるが、そんなことはどうでもいい。
「な、なんとかあの町まで……くそッ!間に合うか……」
彼は今、追われている。相手はもちろん、後ろにはりついてくる小さな影。
念のために言っておくが、キリトは攻略組だ。そして現在の最前線はここよりもはるかに上の層、モンスターもキリトのレベルに合うはずもない虫型のやつらがほとんど。さらに、自慢というわけではないが十秒ごとにHP(ヒットポイント)が自動で回復する戦闘時回復スキルも習得している身であるため、発動している限りモンスターに集団リンチされようとも死ぬことはまず無い。
にもかかわらず、俺、キリトがこんなにも必死なのにはもちろん理由がある。
それは――
「このハチ!なんで攻撃されたところが腫れるんだ!」
普通、モンスターなんかに攻撃されると、その攻撃力と自らの防御力によってHPが削れ、その量に比例し、不快感が発生する。例外として、《麻痺》や《毒》などのデバフを食らうこともあるが、それはあくまでステータス上の状態異常や感覚でしかなく、いかなるものでも第三者から認識することはできない――はずなのだ。
だが、どうやらこのハチの攻撃はその概念からは除外されているらしい。
指が腫れた。
状態異常のアイコンが無いことやダメージを受けていないところを見るに、そういった効果は無いようだが、なんせこのSAOにおいて初めての体験である、「カラダの変形」という現象が自らの身に起こったのだ。
それに加え、小さいころの自分が巣をつついて案の定、蜂に追いかけ回されるという映像がさっきからずっと脳内でフラッシュバックされ続けている。
パニックを起こして、殲滅や転移結晶で脱出という手段を思いつけないのはもはや自然なことだろう。
だがまあ、パニックを起こしていると言っても目標に向かって闇雲に突っ走っていればいずれ辿り着くわけで、目分量で100メートルと少し、自分と町の門との距離がそれくらいまで縮まり、内心でホッと安堵のため息をついたまさにそのとき、悪夢は再来した。
きゅいーん
今までハチの羽音しかしなかった背後に鳴る、一筋の不快な異音。
自分の指が腫れる、まさに直前に聞いた音。
これは――
いや、やめよう。後ろで何が起こっているのか確認するのは。そんなことはわかりきっている。
あのハチ達のうち、どれかがソードスキルを発動させたのだ。
ダメージが通るかもわからない雑魚モンスターのささやかな攻撃にして、カラダのカタチを変える恐怖の攻撃。
となれば、この先の結末は二つに一つだ。
ハチのソードスキルが決まる前に俺が《圏内》である町に辿り着くか、それとも、俺の体にまた新たな変化が起きるか。
――間に合うか?大丈夫だ、絶対に間に合う。
あと50メートル
――だが、もしも間に合わなかったら?
あと40メートル
――もしも、刺されてしまって腫れが引かなかったら?
あと30メートル
――そんな姿、アイツには見せたくない
あと20メートル
――だから俺は逃げ切らなくちゃいけない
あと10メートル
――間に合わなかったらじゃない!間に合わせるんだ!
「うおおおおおおおおッ!!」
雄叫びを上げ、全筋力値を足に向ける。そして――
「とどけえええええッ!!」
門に向かって思いっきりダイビング。
いつもならば(普段こんなことなどしないが)次の瞬間に顔面を地面にこすりつける強烈な不快感が襲ってきているはずなのだが、人間の脳とは不思議なものだ。思考速度はそのままに、映像がまるでコマ送りのようにゆっくりと見える。
宙に浮いたまま、ゆっくり後ろを振り返る。
青い光を纏ったハチの針があと数センチというところまで迫っていた。
加え、町の門ももう目の前数センチの距離。
そして俺の体は宙を漂い、身動きがとれない状態。
――もはやできることは何もない。
そう悟った瞬間、俺の頭は急激に冷却された。
……もう、目を閉じておこう。そうすれば次に目を開けたとき、きっと何もかもが終わっているはずだ。それも、無事逃げ切れるというハッピーエンドで。
そうして、俺は目を閉じた。
「………」
ゆっくりとまぶたを持ち上げる。
「……んん?」
ここは……どこだ?
頬に当たる、冷たい石レンガからそれを想像。
ここは――
「町なのか?」
瞬間、うつぶせの状態から、バッと上半身だけを無理矢理起こす。と同時にあたりを見回した。
眼下の石と全く同じ色をした小さな家が複数。どうやら間違いないらしい。
「間に合った……?」
だが、安心するのはまだ早い。ハチのソードスキルが見事に決まり、吹っ飛ばされて……ということも十分ありえるのだから。
そう考えてしまうとのんびり地面を這っているわけにもいかず、俺はよっこらせと立ち上がると、とりあえず、体のあちこちをさわってみた。
もし刺されているのならすぐわかるはずだ。ちなみに、すでにできてしまっている指の腫れ物の大きさは、ひとまわり小さなゴルフボール。
「………」
かなりの時間をかけてあちこちさわりまくったが、体に違和感はない。外傷も何もない。
これは……無事、生還しました、と言っていい状態なのだろうか。
「……助かった……のか……俺」
急激に安堵がこみ上げてくる。
「そうだ、助かったんだ」
そう呟いた瞬間、俺の体はある一つの欲求を覚えて疼いた。
その欲求とはすなわち、特大のため息。
すうーーーと、音を出して肺の許す限り空気を吸い込む。あとはこれを思い切り外に吐き出すだけ。それでいくらか楽になれるだろう。
――と、まさに息を吐き出そうとしたその時、
ピローン
そこまで聞く機会のないメッセージの受信音。不意を突いて聞こえてきたその音に、俺のため息は、溜め込んでいた空気を飲み込むという形で中断されられた。
「……タイミング悪すぎだろ」
ぼやきつつ、俺は右人差し指と中指をそろえ振り下ろしてからメニューを出現させ、操作するとメッセージウィンドウを呼び出した。
誰の仕業なのか、見当がつかないわけではない。実際、俺に送られてくるメッセージのほとんどがある一人のプレイヤーのものだ。恐らく今回も……
「……やっぱりな」
思った通り、そのプレイヤーからだった。
みごと正解した自分に心の中で拍手してから、すぐにそのメッセージのタブをクリック。たちまち、様々な文字が連なった四角のウィンドウが出現した。
相変わらずのかざりっけのない文面だが、そんなことにはもう慣れた。というよりも、そんなことは気にするだけ野暮だ。
世の中には、このアインクラットという世界において絶対的に少ない女性プレイヤーであり、なおかつかなりの美人で、しかも攻略組でも最強と呼ばれるギルド、「血盟騎士団」の副団長という、パーフェクトな経歴をお持ちでいらっしゃるこの有名プレイヤー、アスナから、メッセージをいただく事を生涯の夢としているやつらもたくさんいるのだから。
というようなことを妄想しつつ、俺はこのメッセージを読み終えた。内容は、要約すると「会って話がしたい」というものだった。
「………」
何故だろう。顔がにやける。
ともかく、急いで行動を開始せねばならない。なんせ指定された時刻まで十分もない。そんなに急がなくてもいいじゃないかと、会って文句を言ってやりたい気もするが、そこは我慢。
「……はあ、仕方ないな」
しばらくの思考の後、俺はそうため息をつくと、腰のポーチから一つ、青い結晶を取り出した。
これは《転移結晶》。使えば一瞬で指定した町までテレポートできるアイテムだ。が、その便利さゆえ、値段はかなり高い。本来ならこんなところで使うべき物ではないのだが、時間が時間だ。走って転移門のある町まで行くのではとても間に合わない。もうこれしか方法がないのだ。
「使いたいときが使いどきって言うし……」
未だ使うことを渋っている自分に最後の一喝。
覚悟を決めろ!桐ヶ谷和人!
そして俺は、半ばなげやりに掲げられた《転移結晶》にコマンドをぶつけた。
「転移!オルキンの都!」
後書き
ちょっとお知らせです。
次回、二話から、晴れてオリジナルキャラクターが登場するわけなんですが、それに併せて、私もオリキャラたちと会話してみたいと思います。理由は簡単、モチベーションを上げるためです。「うぜえw」とか「きもいw」とか思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ご了承ください。もしくは無視ってください。
ついでに、設定も盛っておきます。
・オリキャラたちは、この、赤いプレイヤーの日常を、演じている←(ここ重要!
・いわゆる楽屋での会話的な感じに解説などをする。
・あくまで、演じているだけなので←(重要!友好関係だったり性格だったりが微妙に違ったりする。
今のところこれだけですが、後々増えるかもしれません。
感想、アドバイス、過激でないだめ出し等、ありましたら宜しくお願いします
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