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ヱヴァンゲリヲン I can redo.

作者:緋空
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第六話 Daily Living

二日後──

 シンジは学校にいた。第三新東京市立第壱中学校、転校初日、前と同じクラス、前と同じ面々、前と同じ光景。そして…

 四時限目、数学。老教師によって既に大きく脱線した話を受け流しながら、シンジは教室の窓から青い空を見上げていた。一機の飛行機が、後ろに二列の白いラインをひきながら飛んでいた。

 頬杖をついてボケっとしていた時、背中に微かな痛感が走った。そののち、パサッと何かが落ちる音。

「何だ…?」

 振り返って床を見てみると、きっちり折られた紙飛行機が床に落ちていた。羽の部分にはマジックで『OPEN』と太い文字で書かれている。それに従って飛行機を開けてみると…

「…場所が変わっただけか」

 昼休み、屋上に来い!! 鈴原トウジ。

 シンジは溜息をつきながらも笑った。この世界が少し変わった事が、嬉しかった。

 そしてトウジの方に振り返ってみる。彼はシンジと目を合わそうともせず、まるで磁石の同じ極どうしが退け合うようにそっぽを向いた。それを見てケンスケは笑ってる。

 シンジは視線を青空に戻す。飛行機雲が、滲んだようにだんだんと広がっていった。

「平和だよな…あのときに比べたら」

 そう思うと、安堵から笑顔が自然に出た。

 四時限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。シンジは端末をスリープ状態にして席を立った。

「屋上に行こうか…」

 消えつつある飛行機雲を見上げながら。






「イタタタタ…」

 帰路、シンジは頬をさすりながら歩いていた。絆創膏を張った頬は赤く、軽く腫れている。

 ──前世より派手にやられたなぁ…

 あの後トウジから受けた『報復』は、グーパンチ三発、平手一発、蹴り一発。前世の二、三倍相当の痛みとダメージだった。

 シンジが前世に比べて、転校後の態度が飄々としていた事が原因だったそうだが、頬の痛みは時間が立っても引かない。何が何でもやりすぎだろ!。心の中は叫び声で一杯だ。

 うつむきながら信号を待っていると、青いルノーが彼の目の前に停まった。助手席のドアが開き、運転席に座るサングラス姿のミサトが見えた。

「シンジ君、良かったら乗って行きなさい。今日は早めに仕事終わったから」

「あ、ありがとうございます。ミサトさん」

 シンジは照れながら、頬を押さえながら車に乗り込む。するとすぐにミサトは、彼の頬に張られた絆創膏に気がついた。

「あれ、シンジ君、そのほっぺたどーしたの?」

「ああ…これは…ちょっと…」

 シンジがそう答えをはぐらかすと、ミサトは諦めてそれ以上質問をしてこなかった。知ろうと思えば、後々諜報部を通じて知る事は容易い。

「荷物、全部私の家に送っといたわよ。今日からシンジ君は私の家に居候」

「そうですか…そう言えばミサトさん」

「ん?」

 ミサトは片手でハンドルをさばきながら訊き返す。シンジは躊躇しながら言った。

「父さんの家って…何処にあるんですかね…?」

「碇司令の自宅? それはね、NERVの最高機密になってるの。私も知らないわ…」

「そうですか…」

 車内に沈黙が流れる。それを破ったのは、五分後のミサトの発言だった。

「シンジ君、本部付きのもう一人のパイロットって知ってる?」

「もう一人? いえ、知りません…」毎度の嘘。

「同い年の、綾波レイって娘《こ》なんだけど。ほら、クラスにいたでしょ」

「…はい。今日は確か、欠席してたような」

「そう。今彼女は、起動実験の失敗の時に負った怪我で入院してるの。治ったらまた顔合わせになるから、その時はよろしく」

 彼女がそう言い終わった時、ちょうど車はマンションについた。駐車場に一発で車を止めたミサトと共に、シンジはエレベータで上に上がり、あの部屋のドアの前までやって来た。

 ミサトが鍵を開け、一足先に入る。シンジは遅れて足を踏み入れる。

「お邪魔…します」

 ミサトがシンジに言った。

「シンジ君、今日からここがあなたの家よ。家に帰って来た時、なんて言うか知ってるでしょ」

 微笑を浮かべたその表情は、母親のようだった。シンジは照れながらも、あのセリフを言った。

「ただいま…」

「おかえりなさい、シンジ君」

 家族ごっこの始まりか…。シンジは未来を考えてそう落胆した。しかし今この時間《とき》が嬉しかった。

「どうぞ上がって~。緊張しなくてもいいわよ~」

 ミサトはそう言ってシンジをリビングまで案内した後、自分の部屋に着替えに行った。シンジはリビングの惨状に自分の目を疑った。

 散らかるコンビニ弁当のごみ。書類。筆記用具。ポテトチップスの袋(空)。などなど。ニアサードの後の大地の様に、リビングの床は荒れに荒れていた。

「…酷過ぎる…」

「ん? 何が~?」

 部屋着に着替えたミサトが呑気な声を出す。シンジはさながら第十の使徒戦の様に叫んだ。

「掃除します!!!!」

 その怒鳴り声に、キッチンの片隅でイワシを取ろうとしていたペンペンも飛び上がった。

 結果、彼の歓迎パーティーは日付が変わった後、質素に行われたという…。 
 

 
後書き
第五の使徒までが長い…と自分でも痛感しております。
次の話でやっと第五の使徒に行きつく予定です…。
短い話が続きますがどうかご容赦を。 
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