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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第二十三話「懐かしいお友達!」



 あの地獄の七ヶ月もなんとか五体満足で終え、俺は久しぶりに我が家で朝を迎えた。


 アーシアと囲む食卓で食べる飯は格別だなぁ! アーシアちゃんは癒しですよ。


 レイとの修行では飯を食ってるときに不意打ちで箸を目に突き刺してくるわ、眠っているときに夜襲を仕掛けてくるわで常に気を張っている状態だったからな。今ならプロの暗殺者に襲われたとしても逃げ切る自信があるぜ!


 そう思うと、こんな一見なんともない普通の朝が、どれだけ素晴らしいことなのかがよくわかった。


「どうかしたんですか、イッセーさん!」


「いや、自分が恵まれた環境にいることを改めて思い知ったら、なんか涙が……」


 突然、涙を流した俺に驚いたアーシアが心配そうに見つめてくる。


「みっともないから止めなさい」


「変な子ねぇ」


 奇行に走ったのは初めてではないと、親父たちは動揺もせずに朝飯を平らげていった。父さん母さん、うるさいです。


「それにしても、アーシアちゃんの日本食も大分上達してきたね」


「ありがとうございます、お父さま!」


 そう、親父の言葉からでもわかる通り、今日の朝食の何品かはアーシアの手作り料理だ。卵焼きなんかの味付けが絶品で、マジで旨いんだわ! いやー、箸が進む進む!


「イッセーさん、おかわりはまだありますから、いっぱい食べて下さいね」


「おうっ」


 言われなくてももりもり食べるぜ! いやー、マジで美味しいわこの卵焼き。今までで食べてきた卵焼きの中で一番おいしいんじゃなかろうか?


 最近、日本食をお袋から習い始めたアーシアはその技量をみるみる上達させている。もともと料理は出来たとのことだが同居当初は和食はからっきしだった。それを思うとかなりの進歩だ。レパートリーも増えたらしいし、いつか全部食べてみたいな。


 アーシアは日々、日本文化に溶け込もうと努力している。短期間でひらがなとカタカナをマスターし、今では漢字の読み書きも習得しようとしているんだ。小学生の低学年レベルの漢字なら読めるのではないだろうか。これは結構すごいことだと思う。


 ずずっと味噌汁を啜る。あー、それにしてもアーシアの味噌汁超うめぇな! やっぱ料理できる女の子って最高だよ!


 そんな男ならだ誰もが味わうであろう感動に心の中で涙を流していると、携帯に着信が入った。見れば見知らぬ電話番号が表示されている。


 断りをいれて席を立った俺は通話ボタンを押した。


「もしもし?」


『あ、イッセー? ごめんなさいね、こんな朝早くに』


 電話の相手は良く見知った相手からだった。


「部長? どうしたんです?」


『ちょっと今日オカルト研究部の会議を開きたいのよ。それでイッセー、会議場所をあなたの家にしたいの。部員を呼びたいのだけれど、いいかしら?』


「え? 子猫ちゃんたちをですか?」


 部長は現在レイの家に下宿している。俺の家よりレイの家のほうが良いと思うんだが。


『ええ。レイの家はまだ大掃除が終わっていなくて人を呼べる状況じゃないのよ。それで今日の会議はそっちで行いたいの』


 大丈夫だとは思うが、念のため両親に聞いてみると、二つ返事で承諾した。


「別に構わないよ。むしろ大歓迎だ」


「そうね。聞けばリアスさんたちにはうちのイッセーが大変お世話になっているとか。私も嬉しいわ、イッセーに女の子のお友だちが増えて」


 母さんの言葉に大きく頷く父さん。


「そうだなぁ。父さん的には松田くんも元浜くんも好きだが、やはり健全なお付き合いが出来る友達も作っておいたほうが良いぞ。彼らは元気があっていいんだが、如何せん性に対する興味が強すぎるからなぁ。高校生男子としては正しい姿なのだろうが、部屋に集まってエッチな話ばかりを語り合っているだけでは青春は謳歌できんぞ」


「そうねぇ。あの子たちいい子なんだけどエッチなのよねぇ。目つきがいやらしいし、基本的にエッチな学生だからイッセーに悪影響を及ぼすわ。アーシアちゃんが同居した今では敷居を跨がせるのも考えものね。だって年頃の娘さんが汚れてしまうもの」


 酷い言われようだな友よ。俺も聞いていて否定できないと思ってしまったけど。


 でもそういった友達がいるのも貴重なんだぜ、母さん。あいつらと一緒に馬鹿みたいに騒げて楽しい時間を過ごせているのは、紛れもないあの二人のおかげなんだから。


「その点、レイくんは大歓迎ね。女の子みたいで可愛いし、松田くんたちのようにエッチでもない。なにより子供みたいで癒されるわ」


「ああ、レイくんなら父さんも賛成だ。彼は子供のように素直で純粋だからな。イッセーにとっても良い影響を与えてくれるだろう」


 あー、確かに父さんたちはレイのことも実の子のように可愛がっていたからな。最近では家に来なくなったって嘆いていたくらいだし。


「部長? 放課後の件、大丈夫ですよ」


『本当? ごめんなさいね。ご両親にもよろしく伝えておいてちょうだい』


「はい」


『そういうことだから、放課後よろしくね、イッセー』


「了解っす」


 十中八九、レイも来るんだろうな。よかったな、父さん母さん。





   †                    †                    †





「でね、これが小学生のときのイッセーの写真なのよ!」


「あらあら、裸で海に」


「イッセーはこの頃からバカだったからねー」


「ちょっと朱乃さん! って母さんも見せるなよ! レイはあとで覚えてろぉぉぉ!」


 そんなこんなで始まったオカ研会議だったが、母さんが持ってきたアルバムを前にものの一分も経たず崩壊した。皆が興味津々でアルバムの周りに陣取り、俺の過去を暴いていく。


「……イッセー先輩の赤裸々な過去」


「やめてぇぇぇ小猫ちゃん! ホント洒落にならないからぁぁぁ!」


 くおぉぉぉ、超恥ずかしい! 俺の黒歴史満載の悪夢のような一品が曝されていく。死にてぇぇぇッ!


 前々から母さんは俺が女の子の友達をたくさん家に連れて来たら、昔のアルバムを見せてあげたいと言っていたが、まさか現実のものとなるとは露とも思わなかった。モテないから叶うことは無いと思っていたのに、何の因果か叶っちまったよ畜生っ!


「小さい頃のイッセーさん……」


「アーシアは幼い頃のイッセーに興味津々ね。私は幼い頃のレイに興味津々だけど」


 お目目を爛々と輝かせながら俺の幼い頃の写真をジーっと見つめるアーシアちゃん。そんなアーシアの頭を優しく撫でながら妖しい目でレイを見つめる部長。


「あら、興味深い話をしてますのね。私も幼いレイ君の姿を見てみたいですわ」


「流石はレイのお姉さんを名乗るだけあるわね。話が分かるわ」


 ニコッと微笑み合うお二人、よくレイを取り合って衝突し合う二人だけど、こうして見ると仲は良いんだよな。とりあえず、レイ爆死しろ!


「あっ、おい、木場! お前は見るな!」


「ハハハ、いいじゃないかイッセーくん」


「よかないわ!」


 ニコニコと笑顔で俺の写真を見る木場。その手からアルバムを奪おうと躍起になって飛び掛かるが、木場は軽快な動作で躱していく。くそっ、ここで実力の差が如実に表れるなんて……!


「――」


 ふと木場が急に立ち止まり、まじまじととある写真を凝視した。な、なんだ?


「……イッセーくん。この写真に写っているコレに見覚えは?」


 木場が渡してきた写真には俺ともう一人の園児、それと親御さんを含めた三人の集合写真だった。親父さんの手には西洋剣が握られており、木場の指はそれを指している。


「いや、随分昔の写真だからな……。ガキの頃過ぎて覚えてないわ」


「そう。こんなこともあるものなんだね。まさかここで目にするとは思わなかったよ」


 苦笑する木場。


「これはね、イッセーくん。聖剣だよ」


 その目には普段のコイツからは考えられない程の憎悪が渦巻いていた。





   †                    †                    †





 イッセーの家でアルバムも見た僕は帰るついでに森永の本社に赴き、社長さんからチュッパチャップスを受け取りに行った。


 社長さんとはとある出来事を切っ掛けに知り合い、なぜかいたく気に入られたんだ。それ以降、よくストックがなくなると飴を貰いに行くのだけれど、その際によく「レイくんが来たぞ! 大至急最新作のチュッパチャップスと開発案で提示されていたサンプルを用意しろ! なに、個数だぁ? 三十箱だ!」と大慌てで社員が動いているのを目にするけど、何なんだろうね?


 まあチュッパチャップスも補充できたことだし、早くお家に帰ろう。今日の夕食は朱乃お姉ちゃんが作ってくれるらしく、今から楽しみだ。


「んー?」


 ふと懐かしい気配を感じた。足を止めた僕は右手側の路地をジッと見つめる。


「おー、久しぶりだねぇ」


 闇から滲み出るように現れたのは黒い豪奢な服――ごすろりって言ったかな?――を着た小さな女の子。その姿を目にした僕はあまりの懐かしさに思わず目を細めた。


「ん。久しい、レイ」


「だねー。こんなところでどうしたの? オーちゃん」


 無限を司るウロボロスドラゴン、オーちゃん。彼女はてくてくと近づいてくると、僕の袖を小さな手で掴んだ。


「我、レイと次元の狭間に行く。レイとともに静寂を得る」


 それを聞いた僕はふにゃっと眉根を寄せた。


「えぇ~、まだ諦めてなかったのー? 次元の狭間には住まないって言ったでしょ」


「我より強いレイなら、グレートレッド倒せる」


「そりゃあねー、倒せるけど。でも、グレートレッドを倒したところで意味ないし。面白いことが始まるわけでもないしー」


 それまで無表情だったオーちゃんが少しだけしょんぼりと気落ちした。


「……だめ?」


「んー、オーちゃんは友達だけど、それでもねぇ」


「そう……。我、分かった」


 心なしか肩を落とした様子のオーちゃんは僕の手を離してどこかへ行こうとする。ふと、聞きたかったことを思い出し、その背に声をかけた。


「ねぇ、オーちゃんって今どこで何してるの?」


「我、禍の団(カオス・ブリゲード)にいる」


 カオス・ブリゲード? やだ、なにそれ……カッコいいんだけど! 戦隊ものに出てくる悪役みたいな名前だね!


「なに、そのカオス・ブリゲードって?」


「不明」


「ん?」


「不明」


 表情を変えずに一言で済ませるオーちゃん。んー、不明ってどういうことだろう……?


「むむむ…………あー、もしかして、そのカオス・ブリゲードが何をしているのかはオーちゃんは知らないの?」


 コクンと頷くオーちゃん


「ふーん。まあ、オーちゃんらしいって言ったららしいけどね。そこって組織なんだよね?」


 再び頷くオーちゃんに僕はしばし顎に手を当てて考え込む。


 ――未知の組織……活動内容不明……オーちゃんが在住……。これは、行くしかないような気がする! この機を逃すなとガイアが囁いてる!


 顔を上げた僕をオーちゃんがジッと見つめていた。背丈は同じくらいだから視線も同じなんだけどね。


「ねえ、オーちゃん。僕もオーちゃんに着いてっていいかな?」


「――? レイも来る?」


「うん。オーちゃんがいるカオス・ブリゲードっていうの見てみたい」


 僕の言葉にオーちゃんがコクコクと頷く。心なしか、その所作がオーちゃんの心を表しているかのようだった。


 オーちゃんが僕の手を取ると、目の前の空間が割れた。空間の向こう側は建物の内部になっているようで、どうやらそこがオーちゃんの家らしい。


「レイ、我とともに来る」


「あいあい~」


 オーちゃんと一緒に割れた空間を潜り、僕は夜の街から姿を消した。

 
 

 
後書き
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