剣風覇伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四話「死闘の末に」
五人はタチカゼを見ていた。あれから周辺の、町の勇気あるものたちがあつまり、砦は修復されることになった。
何せ、あのゴブリンの集団は、この辺の町で、いちばん危険視されていた魔物で、その恐怖の根源たるトロルが死んだのだからあとは山狩りでもして残りのゴブリンをあぶり出していけばこの辺はずっと平和になるという。ということは
この六人はこの地方を救った英雄ということになる。
「この砦は攻められやすい、これではこの付近の町はまた狙われるだろう、五人にはここに残って砦をもっと強力なものしてほしい」
「強力な砦か、いっそ城でも建ててしまおうか?」
「うん、その息だ、このへんに大きな城ができればこの地方はうんと平和になる」
「そうだ、周辺の町の賢者や大金持ちに頼もう。すごいぞ、世界一の城ができるかもしれない。何、自分の町の平和がかかってるんだ、金など惜しまず協力してくれるだろう」
「それでタチカゼ殿は?」
「王国へ行くそして自分の天命を全うする」
「天命?」
「人には、生まれた時、それぞれに与えられた天からの使命があると俺は思っている。お前たちの天命がここにだれも敗れないような天下一の砦を造ることなら、おれにも、この王国からの書面がもたらす天命があるはず、おれはそれを探す」
「タチカゼ殿はやはり見ているものが違うのですな。もっとずっと上のほうを見ている。だから絶えず自分より大きなものを見ることになる」
「タチカゼ殿、たまには顔をおろして、周りを見てほしい」
「周り?」
「そう、天命などと悟りきったようなことを言わずにわたしらやいま、自分がなんの上に立っているかもちゃんと見るべきです」
タチカゼは、思い出すようにうつむく、それからその辺を歩き出した。ゴブリンの死体はすべて土を掘り返して埋めた。
その数、百は下らなかった。それに比べ関所の兵士に数は十六名ほど。
そして二体のトロル。タチカゼは改めてトロルを見た。仰向けにされ、うんと大きい穴が掘られてる最中だ。
トロルの腹に突き立てられた、タチカゼの刀。
そうだ、あの時、この一撃がなかったら今の勝利はなかった。
そして横にあるトロルの大槌。
俺の刀はこいつの大槌に勝てていただろうか?
そこらじゅうを見て崩れたり、はじけ飛んだりした跡がたくさん見える。
もちろんこいつらの死体だけじゃなかった。人の死体だって。
たしかに俺は勝った、だがもし俺一人だったら勝てていただろうか?
タチカゼはこう思った。おれは、あの暗黒の王を倒そうと旅をしている、ひょっとしたらトロルなんてのよりよほど強い魔物や魔族に会うかもしれない。
「なあ、関所のみなさん」
「なんです?タチカゼ殿」
「俺は強かっただろうか?俺は勝っただろうか?俺はこの先も勝てるだろうか?」
「タチカゼ殿」
「どうだろうか?」
「みな、疲れています、タチカゼどのも、町へ行きましょう」
「そこで、この戦いの疲れをいやすのです、一眠りすれば、
頭も冴えてきます。タチカゼ殿がどんな強い剣士でも、眠らず食わず休まずで、敵に勝ち続けることはできないでしょう?」
「そうです、わたしら関所勤めはいつも戦いの危険のなかにいる、そんな時一番自分を救っているものは食べ物と水、そして睡眠なんですよ」
「タチカゼ殿がこの戦いで果たして勝ったのかそれはわかりません、我々には。しかし私たちはタチカゼどののおかげで責務を果たせた」
「ほんとうか?あなた方のうち、十名も死んでいるのに」
「そうです、みんな、いいやつでした。死んだことは悲しいです。しかしあなたのせいではないしそれどころか私たちは彼らに代わって礼を言いたいくらいです」
「わかりませんか、本当の英雄はあなた一人です。わたしらはそれに付き従っただけなのです」
やっとタチカゼは自分を少し認めた。そしてすこしだけ勇気が出た。タチカゼは誇らしさを胸に自分の刀をトロルの腹から引き抜いた。
「ふむ、だいぶ錆びている。しかししっかり研げば、また光るだろう」
タチカゼは自分の刀を見て自分そのものだと思った。
そして、疲れがどっとでたのだろうその場で眠り始めた。
ページ上へ戻る