ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第五十四話 再開と出会い
二〇二五年一月十四日(火)
現在ソレイユは央都アルンを囲うようにある山岳地帯に沿って飛び続けていた。しかし、竜の谷を抜けた直後に滞空制限がかかり始めたのでソレイユは砂漠地帯を東に抜けた先にある古森からは走ることにした。
ちなみに、出会った敵という敵をすべて葬り去っている。そのうちの六割がプレイヤー(主にサラマンダー)なのだが、ソレイユは易々と片付けて行った。
「さて、と・・・ようやくここか。シルフ領まではあと半分くらいか、走るか・・・」
なぜソレイユがシルフ領に向かっているかというと、世界樹攻略のための資金提供と交渉の為である。インプ領から見て近場である三種族にはルシフェルに頼み、自分は遠くにあるシルフ、ケット・シー、ノーム、プーカ、レプラコーンに頼みに行こうという魂胆である。ならば、シルフ領に行くのなら、そのついでにサラマンダー領にもよったらいいじゃないかと言われるかもしれないが、サラマンダーとは色々とありすぎたため、ソレイユ自身あんまり関わりたくないという個人的な理由からルシフェルに頼んだのである(押し付けたともいう)。ちなみに、かっこよくルシフェルにあんなことを言ったのは昨日。その昨日の内に出発していればもっと早くシルフ領に着いたものだが、それがなぜここにいるのかというと、ルシフェルにああいった後、眠いからという理由で出発は次の日である今日にすることにしたのだ。格好が付かないことこの上ない。
「とりあえず、目指すはスイルベーンだな」
まぁ、そんなことはさておき、目的地を定めるとソレイユは地を蹴った。そこから、種族特性を無視した速さで木の幹を断続的に蹴りながら森を駆け抜ける。しかし、その途中で面白い物を見つけてしまったので、簡単な隠蔽魔法を使用し状況を覗いてみることにした。
「シルフの女の子と、三人のサラマンダーだな。シルフ狩りか?」
概ねソレイユの予想は当たっていた。しかし、追い詰められているシルフを助けようとする気持ちはソレイユにはなかった。実力不足。そのたった一言で終わらせるほどだ。
シルフの少女は後がないことを知ると、一人くらいを道連れにするために持っていた長剣を上段に構えた。
「(この状況でその判断、か・・・)」
とソレイユは心の内で呟いた。未だにVRゲームというとSAOを思い出してしまうので、ゲームの中とはいえ命を賭すその判断は誤りだ、と思わざるを得ない。そして、緊迫した雰囲気があたり一帯を支配する中、乱入者が現れた。
「スプリガン?なんで初期装備の奴がこんなところにいるんだよ?」
普通は自分の選んだ種族の領地から始まるものだが、何やら回線的なトラブルがあったのだろうか?、なんてことを考えていると、状況が面白い方向に流れ始めた。どうやら、あの初期装備のスプリガンはシルフの少女を助けるつもりらしい。そういう姿勢がソレイユの“とある知り合い”と被った。
そして、サラマンダー二人を撃沈した時の剣筋を見て初期装備のスプリガンが誰なのかはっきりと理解した。
「お前かよ・・・」
思わず声に出してしまうほどだった。そして、溜息を吐いたところで――
『そこに隠れている奴、出てこいよ』
なんてお呼び出しがかかった。相変わらずなことで、と思いながらソレイユはゆっくりとした動きでシルフの少女とスプリガンの少年の前に姿を現す。そのことにシルフの少女は長剣を構え口を開いた。
「・・・何でインプがこんなところにいるの?」
「どこにいようと、おれの自由だと思うんだけど?」
睨み合うソレイユとシルフの少女。対してスプリガンの少年は仲裁しようと口を開いた。
「なぁ、あんたもこの子を狙っているのか?」
「いんや、面白そうな状況だったから見物していただけだよ・・・キリト君」
いきなり名前を呼びあてられたことに狼狽するキリト。そんなキリトを見たソレイユは一度溜息を吐き、自分の名を名乗った
「おれだ、ソレイユだ」
「えっ・・・ソレイユ?ホントにソレイユなのか!?」
「ああ、そうだよ」
とソレイユが答えたところでキリトの胸ポケットから何かが飛び出してきた。
「にぃーにー!!」
そう叫びながら小柄な妖精はソレイユの顔面に向かって飛んでいく。いきなりのことだったので、ソレイユはそれを首を捻って回避、飛んできたものはソレイユの後ろにあった木の幹に顔面から突き刺さった。
「へぶっ!?」
随分痛そうな声が漏れた。その声を聴いたソレイユは突き刺さった小柄な妖精に向かって口を開いた。
「ん?ああ、お前、もしかしてユイか?」
「そ、そうです~」
ふらふらっとしながらもなんとかソレイユの肩までたどり着くユイ。ダメージが半端なかったらしい。主にソレイユに避けられたことに対する精神的なものが。
「もう、避けるなんてひどいですぅ!!」
「いや、意味の分からないものがいきなり飛んできたらとりあえずは避けるだろ?」
「うぅ~」
どうやら、ソレイユの返答はお気に召さなかったらしい。と、そこにユイの保護者ことキリトが歩み寄ってきた。
「ユイ、本当にソレイユなのか?」
「ハイ、間違いありません。パパ!!」
「だってさ」
肩を竦めながら言うソレイユ。ユイはソレイユの方からキリトの方へと移った。
「それより、いいのか?」
「ん?何がだよ?」
「彼女を放っておいてってことだよ」
ソレイユが指差した先には唖然としているシルフの少女がいた。どうやら事の成り行きがつかめていないらしい。長剣を構えたまま固まっていた。
◆
「つーわけで、改めてよろしくな、リーファ」
「ええ。こちらこそよろしく、ソレイユ君」
と、気軽に挨拶をしたのが数分前。あれから、警戒心をあらわにしていたリーファに事情を説明して誤解が解けた後、キリトに随意飛行を教え、今はシルフ領であるスイルベーンに向かって飛行中である。なぜシルフ領に向かっているかというと――
『ねぇ、君たちこの後どうするの?』
『や、特に用はないんだけど・・・』
『そう。じゃあ・・・お礼に一杯おごるわ、どう?』
という会話から――
『実はいろいろ教えてくれる人のこと探してたんだ』
『色々って?』
『この世界のこと、さ・・・とくに、あの樹のこととかね』
ということになったのである。シルフでない種族がシルフ領に行くのは危険だ、というリーファの助言があったのだが――
『でも、みんなが即襲ってくるわけじゃないんだろ?リーファさんもいるしさ。シルフの国って綺麗そうだから見てみたいなぁ』
『リーファでいいわよ』
という流れを得て現在スイルベーンに向かって飛行中なのである。ソレイユはもとから目的地がスイルベーンなため、異論をはさまなかった。だが、リーファという少女は見かけによらず結構なスピード狂だったらしい。途中までナビゲーション・ピクシーの姿で一緒に飛行していたユイがスピードに耐え切れずキリトの胸ポケットに隠れてしまうほどだった。
そんなこんなで気が付くと、森が前方で切れその奥に色とりどりの光が見えてきた。ひときわ明るい光を放つ中央の塔。スイルベーンのシンボルである≪風の塔≫も目視で確認できるくらい近づいていた。
「お、見えてきたな!」
「そう言えばキリト君」
「ん?どうした、ソレイユ?」
「ランディングのやり方はわかるのか?」
「・・・・・・」
ソレイユの言葉にキリトは顔を強張らせ、次いでリーファの方に視線をやると、頬を掻きながら困ったように笑うだけだった。正面を見れば視界の半ばは巨大な塔に占められていた。
「そんじゃ、頑張って」
そういって、ソレイユは翅を広げて減速しながら地上に降りていく。それを見送ったキリトはすがるような視線でリーファを見た。
「えーっと・・・ゴメン、もう遅いや。幸運を祈るよ」
と、何とも薄情な台詞を残しソレイユの後を追う形で下足しながら地上に降りていく。
「そ・・・そんなばかなあああああああああーーー」
という絶叫の後、びたーんという衝撃音が響いた。ソレイユとリーファは心の中で合掌。その後、シルフのプレイヤーの間ではスプリガンの新人がスイルベーンのシンボルに破壊工作を行った疑いがあるとかないとか噂になることになった。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「大丈夫か?」
≪風の塔≫の根元でソレイユは伸びているキリトに声をかけた。キリトはそれに恨めしい視線を用いて答えた。
「ひ、ひどいじゃないか、ソレイユ・・・飛行恐怖症になったらどうするんだ・・・」
「調子に乗ったおまえが悪い。自業自得だ」
だが、その視線はソレイユの言葉を聞いた後にバツが悪い表情へと変わる。そんなキリトの肩ではナビゲーション・ピクシーの姿のユイが目を回している。
「眼がまわりました~」
そんな二人の様子にソレイユは呆れ、リーファは笑いを噛み殺しながら口を開いた。
「ソレイユ君が言った通り君が調子に乗りすぎなんだよ~」
「いや、リーファ。お前もお前で結構薄情だよな」
「・・・ま、まぁまぁ、回復してあげるから」
ソレイユの言葉に眼を泳がせながらリーファはスペル詠唱をしていく。蒼く光る雫がキリトに降りかかり、風の塔に激突した時に減ったHPが徐々に回復していく。
「これが治癒魔法かー」
感心したように言うキリトにソレイユが補足を付け加えた。
「種族特性上、高位の回復はウンディーネじゃないとできないが、まぁ、これ位ならどの種族でもできる」
「へぇ、種族によって得手不得手があるのか。スプリガンって何が得意なんだ?」
「トレジャーハント関連と幻惑魔法かな。どっちも戦闘には不向きなんで不人気種族ナンバーワンなんだよね」
キリトの問いに答えるリーファだが、そこでソレイユは呆れたように溜息を吐いた。
「リーファ・・・それ、誰情報だ?」
「え?・・・えっと、シグルドってプレイヤーだけど・・・?」
「なら、そのバカに訂正しておけ。偏見もいいところだ、ってな」
「う、うん・・・わかった」
実際にスプリガン領主であるシェイドと戦ったことのあるソレイユ。あの時は天帝空羅があったからこそあっさり決着をつけることができたものを、もしそれを習得していなかったら苦戦は必至だろう。それほどまでにスプリガンという種族を理解しているプレイヤーだった。あの手の使い手がたくさんいるとは信じがたいが、スプリガンという種族でも強いやつは強いのだ。まぁ、不人気なのは否定しようがないのだが。
「さて、と・・・じゃあ、あらためて観光といきますか」
「そうだな・・・あらためて見ると綺麗な所だよな、シルフの街って」
「だな。真っ暗なインプの領地とは大違いだ」
≪翡翠の都≫として密かな観光名所として名高いスイルベーンを眺めていると、不意に声をかける者がいた。
「リーファちゃん!無事だったの!・・・って!?」
そういって手を振りながら近寄ってくる黄緑色の髪の少年プレイヤーだった。無事なリーファを見てホッとした束の間、隣にいるインプであるソレイユとスプリガンであるキリトを見て、一瞬立ち尽くすもすぐさま腰のダガーに手を掛けようとした。
「あ、いいのよレコン。この人たちが助けてくれたの」
「へっ・・・」
臨戦態勢に入るレコンを制するように言うリーファだが、ソレイユは面白半分に傍観していただけであるのだが、ここでそれを言うとややこしくなりそうなので口を噤む。
リーファの言葉にレコンと呼ばれたプレイヤーは唖然とした。
「こいつはレコン。君たちと出会うちょっと前にサラマンダーにやられちゃったんだ」
「それはお気の毒に。おれはソレイユ、こっちがキリトだ。よろしくな」
「あっ、どもども・・・ってそうじゃなくて!」
何処の漫才だ、とツッコみたくなったソレイユだがやめた。ツッコんでたらキリがなさそうだ、というのが理由だったりする。
「大丈夫なのリーファちゃん!?スパイとかじゃないの!?」
「あたしも最初は疑ったんだけどね・・・」
「天然ボケなキリト君にそんなことできるわけがないもんな」
リーファの言葉の後を引き継ぐように言うソレイユ。ならお前はどうなんだ、とツッコめる者はここにはいなかった。
しばらくレコンはキリト“だけ”に疑わしそうな目を向けていたが、仕切りなおすように咳払いをしてから口を開いた。
「シグルド達が≪水仙館≫に席とってるから分配はそこでやろうって」
「あ、そっか。う~ん・・・・・・あたし今日の分配はパスするわ。スキルに合ったアイテムもなかったしね。あんたに預けるから四人で分けて。次の狩りの時間が決まったらメールしといて」
「リ、リーファちゃん・・・?」
それだけ言うと、キリトとソレイユを連れてその場を後にしようとする。未だにわけがわからないといった表情のレコンにリーファは背中越しにレコンを見ながら口を開いた。
「お礼に二人におごる約束してるの」
後書き
お久しぶりです、皆様!更新が遅れてしまって申し訳ないです!
待ちにまった本編突入です!!
ルナ「待ってた人なんているのかはなはだ疑問なんだけど・・・」
ぐはっ・・・い、いるにきまってるだろう・・・決まってると思う・・・いや、いてくれたらいいなぁ・・・
ルナ「はぁ・・・久しぶりの出番なのにこんなグダグダ・・・」
不憫な子だねー
ルナ「あなたのせいなんですけど!」
というわけで、感想などお待ちしております!
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