メリー=ウイドゥ
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第三幕その二
第三幕その二
「ツィッペル、ツィッペル、ツィッペルツァップ、小さな蝶を捕まえるように」
「私達の目当ては男達」
踊りながら歌を続ける。
「相手がもがけばもがく程誘って。そうして楽しむのがグリゼット」
「如何ですか?」
ハンナは彼女達の歌を前にして客人達に問う。にこやかな笑みであった。
「ここでの宴は」
「ふん」
その言葉にダニロが面白くなさそうな顔を向ける。結局彼も同席する羽目になったのである。これこそ因果と言うべきであろうか。
「ここ、お好きなのでしょう?」
「どうでしょうか」
「あら、素直でない」
「いえ、私は素直です」
ハンナの言葉に突発的に怒って言葉を返す。その怒りのまま言う。
「宜しいですか、奥様」
「何でしょうか」
「そもそも私はですね」
席を立ってハンナに言ってきた。
「貴女には随分と言いたいことがあります」
「私に!?」
「そうです。カミーユさんと結婚してはなりません」
「あらまたどうして」
二人は周りに人がいることをふと思い出す。そうして言うのだった。
「いえ、それは」
「まあそれはいいでしょう」
一旦はそれはよしとした。
「場所を。変えましょうか」
「はい。それでは」
こうして二人は一旦マキシムの個室に入った。そこで話をするのだった。
そこはポーカーをする場所だった。そこでテーブルを囲んで話をはじめていた。一応はお互いにカードを手にして勝負をしているがそれは本題ではなかった。
「さて、お話とは」
ハンナはカードを交換しながらダニロに声をかけていた。
「何でしょうか」
「さて」
ダニロはさっきの言葉をとぼけてみせてきた。
「忘れてしまいました。何のことだか」
「何のこと!?」
ハンナはその言葉に眉をピクリと動かしてきた。
「まさかとは思いますがとぼけていらっしゃるのですか?」
「とぼけている?まさか」
しかし実際にとぼけてみせていた。
「何のことか。それにしても」
ダニロはカードを切りながらハンナに言ってきた。
「よくもまあ。貞淑だと言いながらカミーユさんと」
「あら、そのことですの」
カードの奥で眉をピクリと動かしてきた。
「そんなことを何時までも」
「何時までも、ですか」
ダニロの言葉に怒りが含まれた。
「よくもまあそんなことを仰るものです」
「仰るも何も私はこの目で見ましたから」
ハンナに対して言う。
「ですから嘘は」
「あれは私ではありませんわよ」
ハンナは平気な顔で言い返した。ポーカーだが感情を露わにして見せてきている。
「また御冗談を。ではあれは」
「身代わりだったのです」
ハンナは真実を述べてきた。
「私はある方の身代わりだったのですよ」
「身代わり!?」
「そうです。ですから貴方は誤解しておられうだけです」
「また嘘を」
「ダニロ」
ハンナは遂に仮面を投げ捨てた。そうしてハンナとしてダニロに言葉を向けてきた。
「私が嘘をついたことがあったかしら」
「ないね」
ダニロもまたダニロとなった。伯爵でも大使でもなくダニロとしてハンナに返す。
「そうよね。じゃあ」
「これはヴァイオリンの響きさ」
そう言葉を誤魔化して言ってきた。
「それがワルツのステップを誘う。私を愛して、とね」
「私を愛して。それなら」
ハンナはそれに応えて言う。
「握られた手ははっきりと告げる」
「その言葉は知っているよ」
ダニロはそれに応えてきた。
「それは本当だ、貴女は私を愛している」
「ワルツのステップを踏む度に心も共に踊り高まっていく」
ハンナは言葉を歌にして交あわせていく。
「私も貴女を愛していると。違うかしら」
「その通り、貴方は私を愛している」
また言った。
「そうよね」
「そうさ。ほら」
ダニロは自分のカードを出してきた。
「ストレートフラッシュ。僕の勝ちだね」
「いえ、私の勝ちよ」
しかしハンナは優雅に笑って彼に返す。
「ほら」
出してきたのはロイヤルストレートフラッシュであった。これで決まりであった。
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