英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち
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14話
夜のクロスベル市は昼間とは違った賑わいを見せていた。
眠らない街と呼ばれるクロスベル市は大陸屈指の歓楽街を持ち、ネオンサイン煌く歓楽街のカジノや酒場はどの階層の人間もが仕事終わりの息抜きのために集まり賑わいを見せ、劇場では毎夜違った演目が公開され人々を楽しませる。
上流階級の者や有力者たちは自宅やホテルで毎夜パーティーを開き社交界が毎夜開催される。
もちろん一般家庭では一家団欒があり、残業に残る仕事人たちもいる。
ここにもそんな仕事が終わらない新人たちがいた。
「昔クロスベルタイムズが入っていた雑居ビルだ」
教えられた分室ビルはロイドが昼間に昔のままだと思った雑居ビルだった。だからこそ4人の表情は暗い。
クロスベル市は山の麓に作られており、昔からマインツ山から採掘される七曜石によって北側を中心に発展して来た。
しかし南に行くにつれて低地となり、ウルスラ間道へは絶壁のような高地となっており移動を阻害していた。
このため南側は海路で向かうのが通常であった。
しかし戦禍によって傷付いたクロスベル市を復興させるために街自体を作り変える都市開発計画が発動し、その中に北側と南側の高さを同じにするというものがあった。
交通の要所として東西に大陸を一直線に横切るようにあった街道に大陸横断鉄道を敷設し、ジオフロント建設のために北側の土地自体を嵩上げしたことで鉄道が走る南側の断崖付近が谷になってしまっていた。
これがクロスベル市の旧市街問題の発端である。
東西南北が同じ高さとなり橋を掛けることでますます交易が盛んになったが南側に作られた旧市街は中心街からかなり外れており利便性の悪さから見捨てられていった。
ロイドたちがいるのは中央広場の南の端。本来ならば嵩上げで同じ高さの土地が生まれているはずが嵩上げ中止によってビルは断崖の上に立っているような状況だった。
そのため、以前入っていたクロスベルタイムズも港湾区に移転しており、低賃金の安アパートやビルが最後に作られて以来開発から取り残され周囲の近代的な建築群に比べればいかにも古臭い老朽化した取り壊し寸前の頼りないビルに思えたのだ。
「本当にここが分室ビルなの?」
「なんというか、予算ねえのな」
「老朽化して取り壊し寸前って感じでボロボロです」
「言われた通りの住所だし看板も出てる」
SSS、スペシャルサポートセクション、特務支援課。
灯りもついているし看板が目的地が正しいことを示していた。
なんとなく入るのを躊躇っているとセルゲイ課長が中から現れた。
「何を突っ立てるんだ。さっさと中に入れ。そうしたらこの特務支援課がどういう部署なのか全部答えてやるからよ」
言われるがままビルに入ると内装は掃除されたのか外観に比べれば非常に綺麗で清潔だった。
一階はリビングと会議室を兼ねているのか大きなテーブルと人数分の椅子に絨毯まで敷かれており、入り口のすぐのところに待合席的なソファまで用意されていた。
まだまだ荷物の入ったダンボールが散乱しているがこの部署が動き出そうとしているという意思は感じられた。
ロイドたちはリビングの奥にある部屋に通された。
課長室ということでセルゲイ課長の書斎ということにもなるのか無茶苦茶な量の本と机が一個あるだけだった。
セルゲイ課長は席に着くと質問に答えた。
「まあ警察本部でいろいろ聞いたろうが、簡単に特務支援課の方針を説明すれば市民の安全を第一に考えて様々な要望に応える部署だ。市民と密着し即応するために街中暮らしだ。出勤が早くて良いだろう?」
セルゲイの説明を聞いて4人共が驚いた。それが遊撃士協会の謳い文句だからだ。
協会基本三原則に、民間人の安全と地域の平和を守る、人命の保護義務、国家権力への不干渉。
民間人の安全と地域の平和を守るは基本理念として広く知られることである。
つまり特務支援課は遊撃士協会を真似て作られたのである。
「露骨なパクリですね」
ティオの辛辣な言葉に皆が同意する中、課長は説明を続けた。
「知っているだろうが、クロスベルでの遊撃士協会の人気は大したものだ。A級遊撃士アリオス・マクレインを筆頭にB級の実力者がクロスベル支部に揃っている。これが警察のお偉方にとって何を意味するかわかるか?」
ロイドが上手く口に出せないでいるとエリィが意図を見抜いて答えた。
「警察とギルドの比較評価による組織の問題点の指摘、そこから生まれる批判が警察、さらにはそれを解決出来ない自治州政府への信頼失墜に繋がっているんですね」
ギルドより使えない警察はそれ故に批判されそれを改善出来ない政府批判にも繋がっていく。それは高い地位に就いているものほど指導力不足だと責任を取らされることになりかねない。
「なるほど。ギルドのお株を奪って人気取りをしようってことか」
ランディの簡潔な結論にセルゲイ課長は頷いた。
「はっきり言えばお前らの言う通りだ。だが、警察の基本理念は治安維持と自治州法の遵守だ。市民サービスは二の次だ。だからこそ警察内部では人気取りのここを良く思わない声も多い」
雑用係、便利屋、人気取りの猿、偽遊撃士、人身御供のための部署なんてのもあった。発足計画が持ち上がった段階から散々な言われようで警察本部からの志願者は零。だから事情を知らない新人やら出向者を参加させた。
「そんなところで俺らを働かせようっていうんですか?」
「そう急くなよ。ピエール副局長から聞いてると思うがお前たちはまだ正式に着任してはいないから配属を辞退することも可能だ」
そういえば着任の挨拶をしようとしたらセルゲイ課長は後でいいと言っていたし副局長もそんなことを言っていた。
「正式に配属されればやってもらう仕事は様々だ。今日みたいな魔獣退治に本部の手伝いなどの細かな雑用、民間からは落し物探しや人探しなど警察の仕事と遊撃士の仕事を両方やってもらう必要がある。仕事の量と質は煩雑で膨大になるだろうからやる気とやり抜く意思がなければとても勤まらんからな」
仕事内容を聞いて悩むような表情になった4人に向かってこの話を締めた。
「一晩考えろ。答えは翌日聞くことになっている。ここで辞退してもほかの部署に配属されるだけでデメリットはない。全てはお前たち次第だ」
課長室を出た4人は今後も兼ねて夕食を取ろうということになった。といっても分室ビルの厨房には引っ越してきたばかりなのか食料はなかったので動けるランディが買出しに、残った3人は自室の整理やら各々動くことになった。
ロイドは自室になるはずの201号室で荷解きも出来ず備え付けのベッドに腰掛けて写真を見ながら溜め息をついていた。
遊撃士の真似事をするために警察官になったんじゃないんだけどな。
ロイドは兄の所属していた捜査一課に入りたかった。それは大きな意味では憧れの兄に追いつくために同じ道を通りたい、同じ事をしたいということだったが、もう一つは捜査一課が国際的、政治的な大事件を取り扱う部署だからだ。
兄の殉職を説明に来てくれた一課の課長が言うには相棒も持たずあちらこちらに首を突っ込んでいたという。あちらこちらと言って具体例を出さず言葉を濁していたのは遺族とはいえ民間人が知るべきことではないとんでもない相手だからだろう。
だから一課に入れば兄が何をしてどうして殺されたのかがわかり、そしてその相手と戦うことが出来るはずだ。
そう思ってこれまでやってきたのである。
「遠いよな」
いきなり一課に配属されることはないにしても捜査課に入れるつもりだったし、この支援課も勤め上げれば転属を願い出るつもりだった。
ましてやあの説明だけで問題だらけなのはわかったし、キャリアを失うことになりかねないというのは切実だ。
ここで辞退すればすぐに捜査課に配属し直してもらえるだろう。支援課を選べば夢から遠ざかるばかりだ。
夢に向かって着実に段階を踏むのならば迷う理由はなかった。
だけど踏ん切りがつかなかった。
それは初めて出来た同僚たちのことである。それも自分がリーダーになっての一応部下ってことになる。
今日会ったばかりなのに命を預けあった仲間って感じがした。学校で班を組んで魔獣と対峙したこともあったが、それとは比べ物にならなかった。
彼らはどうするのだろうか。
「おーい、食い物買って来たぞぉー」
ランディの大声で呼ばれて、悩んでいても仕方がない。とりあえず食事のついでに話を聞いてみよう。
ランディは両手で抱えるほどの大量のパンが入った袋を手にビルに戻ってきた。
袋をテーブルに置くと部屋の隅で機械を弄っているティオに話しかけた。
「何やってんだ、ティオすけ?」
「機材のチェックです。今後の活動に必要ですから」
一瞬ムッとしたがすぐに流して説明するティオの話を聞いているとロイドが降りてきた。
「いったいいくつ買ったんだ?」
テーブルに散乱する大量のパンを見てロイドが呆れている。
「近くにあったパン屋が閉店時間ギリギリでな。それで全部半額だったんで、お前らが何が好きかも知らなかったし、買えるだけ買ってみました!」
明るく言ってみたが、ロイドは苦笑するばかりですぐに何かやってるティオに話しかけた。同じ質問にティオは溜め息をついて同じ説明をしていた。
「な、何で溜め息?」
「いえ、ふう」
それを見て俺は苦笑しつつ取りやすいように皿に出していると、エリィがようやく降りてきた。
「サラダのあるかしら。ミルクも頂くわ」
エリィがパンを選び出すとティオも良いのが取られると作業を打ち切ってそのまま全員好きなのを取ると遅い夕食を取ることになった。
お互いに2、3個食べたところでロイドは話を切り出した。
「その、みんなはどう思う?配属の話。聞く限りじゃ相当とんでもないと思うのだけど」
ロイドはかなり真剣な表情だった。悩んでいるから聞いておきたかったというところだろう。
ロイドの重い空気を感じたのか皆一様に黙ったままだ。ここは俺が最初に意見を表面するかな。
「俺は受けるぜ。仕事の内容はともかくデスクワークが少なくて済みそうだし、職場に住むってのも楽で良い。前の仕事場と違って歓楽街行き放題だ」
「そ、そうか。その、どういう経緯でここに来ることになったのか聞いても、前の職場は警備隊だっけ?」
「そうそう。帝国方面のベルガード門に詰めてたんだ。しかし直球だな。それ聞いちゃうか、しゃあねえな。ついに聞かれちゃったからな」
冗談めかして軽く話していたが内心ではあんまり聞かれたくない。意地張って司令と、上司と喧嘩したってのは結構重いよな。
「いや、言いたくなければ」
「いやいや、お前、ここまで来たんだから言わしてくれよ」
持って回った言い回しに言いたくないと思われたようで、しょうがねえ、即興で俺のキャラに合わせた話にしておくか。
「実は女絡みだ」
「女絡み!?」
おっ、お嬢さん方が食いついてきた。こりゃ話を盛って盛り上げた方が良いかな。
「俺は見ての通りの良い男だろう?警備隊ではモテモテだったわけよ。俺もそれで調子に乗っちゃって二股三股は当たり前で、もう・・・まあそういうわけで隊の風紀を乱したと追い出されたところを支援課に、あのおっさんに拾ってもらったってわけ。会ったのは今日が初めてだけどな」
女子の表情がちょっと引いてる感じだったので言い過ぎずに済んだが、まあ経験豊富な遊び人のチャラい男に見えただろう。
「こういうのを女神の御加護というのかな。ちょっとした縁だが恩に報いるのも悪くないと思ってる」
女絡みと聞いてどういう経緯があるのだろうかと思ったが見たままの印象でちょっと納得した。そしてランディがここで働く理由も納得した。
行くところがなくて拾ってもらったから恩を返すというのも信用出来る。
「私も頑張ってみるつもりよ」
聞きかじりだけどと注釈して自分の分析を披露した。
この支援課の設立経緯は警察内の力関係にあり、目的も不透明で組織としても無理がある。成果を上げなければ予算が打ち切られて半年で解体だと。
「それだけわかっていても残ると」
ロイドが自分の分析を聞いてどう考えても損しかしないのにと疑問を問うてきた。
「それはここに来た目的が、社会勉強なの。だから長く警察に勤めるはつもりはないから出世とか関係ないの。現場からなら問題や歪みを観察出来るだろうし」
政治家になるための社会勉強、ここでの経験が政治家になってからの解決すべき課題になるはず。
「社会勉強してどうする気なんだ?その、夢とかあるの?」
みんなは何か思惑があってエリィがここに来たのはわかったが、その先が思いつかないみたいで首を捻っていた。
ここで政治家になるとビシッと言えれば格好良いのだけど、断言出来るほど自信がないというか。かと言って嘘をつくほどのことでもない。
ということで政治家志望らしく自信たっぷりにはぐらかすことにした。
「それなりに大きな夢なの。まだまだ実現の足掛かりも掴めてないから内緒だけど、おいおい言える時が来るわ。じゃあティオちゃんはどうなの?」
さっきから話に加わらずパンを黙々と食べていたティオはちょっと口篭った。
「そもそも出向ってティオはまだ学校に行く年で働いているのはなんでなんだ?もしかして無理やり働かされてる?もしそうなら」
心配そうに言うロイドにティオは自尊心がちょっと傷付いていつものちょっと不機嫌顔で答えた。
「変な勘違いしないでください。私は私の理由があってここに来ました。出向というのもむしろ私がかなり我侭言わせてもらったんです」
少ないながらもティオの言葉には決然たる意思が感じられた。ずっと明日から使う機材の調整を行っていることでみんなは辞退するなんて考えてもいないように感じた。
ティオはここでちゃんと出向の意味を説明することにした。
「この支援課には導力杖のテストのために来たことは話したと思いますけど、ほかにも財団は導力化した捜査システムやそれに使う機器、エニグマやら導力ネットワークの普及のためのテストを行うつもりなんです」
エリィさんはともかくロイドさんやランディさんはわかってませんね。
明らかに何の話かわからない顔をしている。
「導力ネットワークでここの端末と警察本部を繋げて高度な情報交換を行うことで捜査効率を高めようとしているんです。ここはそのテストモデルとして」
「ごめん、さっぱりわからない。それでティオが出向してきた理由は?」
溜め息をついたティオは冷たい眼でロイドを見ている。ランディはエリィにわかるか聞いてるが、エリィもなんとなく想像出来るぐらいと曖昧な返答だった。
新しい場所で新しいことをやってみたい、動機なんてその程度だけどせっかく出てきたのに来た理由をちゃんとこの分からず屋に説明しよう。
「ここで導力ネットの運用が成功すれば警察や民間企業、州政府だって導入を決めるでしょう。そのために子供でも使える杖のテストと兼任で捜査のサポートとして私が出向したんです。そういうロイドさんはどうなんです?随分迷ってるようですけど」
みんな残る決意をした中でグダグダと悩んでいる自分が恥ずかしかった。
「そりゃ悩むだろう。その年で捜査官資格を取ってるんだから無駄にしたくないって感じか?」
「在学中に資格取得は難しいんでしょう?それに捜査課志望みたいだし、迷うわよね」
みんな悩むのが当然という感じで相談に乗ってくれた。だから信頼に応えて腹を割って話すことにした。
「俺は一課を目指してるんだ」
一課といえばエリート集団。警察の対外的にも一番知名度が高くよく取り上げられる部署なのでふ2人共関心の声を上げた。
「花形狙いか、そりゃ頑張るわけだ」
「ここでキャリアが駄目になるのを恐れてるのね。でも私個人としては残って欲しいかな」
エリィは無理強いはしないけどと言って、今日初めて会ったのにリーダーとして引っ張ってくれたし指示も的確だった。
「それに物凄く勇敢だったわ」
「そうだぜ。あの巨大魔獣相手に突っ込もうとするのなんかおいそれと出来ることじゃねえからな」
「そんな、あれは体が勝手に動いたというか、その」
仲間たちから必要とされるのは嬉しく照れ臭かったがエリィやランディの賞賛の言葉にあれは兄貴ならどうするかで動いたなんて言えないロイドは自信を持って答えられず口篭り、ティオが無言で見つめている。
そこに外から子供の声が響いた。
「本当にここかよ。ボロいぜ?」
「警察で教えてもらったんだから大丈夫だよ。ほら看板も出てるし」
こんな時間に子供?全員が同じ思いを抱くと。ティオが、「あの時の二人ですね」と言い出した。
ノックして入ってきたのは昼間助けたリュウとアンリだった。
「こんな時間にどうしたんだ?」
とはいえ何か事件があって駆け込んできた様子はない。
二人がちょっと照れながら切り出した。
「い、いやさ、ちゃんとお礼、言ってなかったと思ってさ」
「あの時、お兄ちゃんたちが助けてくれなかったらぼくたち大怪我してたと思うんです。だからもう一度ちゃんとお礼言おうって」
子供たちの照れながらの感謝にロイドは嬉しくなり逆に照れてしまった。
「あっと、そうか、わざわざありがとうな二人とも」
応対したロイドが照れているのがわかって後ろの三人は笑いつつ、同じように照れていた。
「アリオスさんに比べたら全然頼りなかったけど、お廻りにしては良い線行ってたぜ。実力不足はこれから頑張ったら良いしさ」
「ちょっとリュウってば」
口の悪いリュウの言葉にアンリは慌てたがロイドたちは、特にロイドは励まされた気持ちになった。
「そうだよな。これから頑張れば良い」
「そんだけ言いたかったんだ。じゃあな」
「もうこんな時間だぞ。送ろうか?」
「心配すんなよ。家が近いから大丈夫だって」
二人が帰っていく後姿を見送るロイドは晴れやかに笑っていた。
「悩みは解決したみたいですね」
その表情だけで三人ともロイドがどう決断したのか理解して笑った。
「俺って単純だな」
「良いんじゃないかしら、そういうの」
兄貴の仇を討つとかいろいろと考えてやってきたけど、警察官として人助けをして感謝されるのも良いじゃないかと。
(兄貴、俺やってみるよ、まずはここから始めようと思う)
翌日、返事をするために課長室に集まった四人。
セルゲイは一人一人問い質して行く。
「ランディ、お前の戦闘能力だけなら欲しがる課は多い。なんなら推薦してやっても良いが」
「そもそも警察に引っ張ったのはあんたでしょうが、ここの堅苦しくない雰囲気は良いし、問題なしっすよ」
「クク、ならエリィはどうだ?本部のお偉いさんは安全でキツイだけの雑用だと思って推薦してきたようだが」
「お世話になります。密度の濃い仕事を期待していますから」
「ティオは言うまでもないな」
「ええ、元々そういう約束でしたから」
「さてと、残りはお前だけか。ロイド・バニングス。警察学校時代のカリキュラムは座学、訓練共に優秀な成績で修了し捜査官試験に挑戦しこれに合格。正直、ここには不釣合いなほど真っ当な人材だ。手放せば引き取りたいという話がいくつも来ている。迷うことはないんじゃないか?」
「いえ、考えた上で決めました。お世話になります」
ロイドの決然とした態度に仲間たちも嬉しくなっていた。
だが、セルゲイは実に面白くなさそうだった。
「つまんねえな。悩みまくってずるずる流されまくるかと思ったのに、本当に一晩で決めやがって、不満とか文句とかないのか?」
「あのですねえ、そりゃないわけじゃありませんけど縁あって集まったんですから頑張ってみますよ」
「あ~あ、まあいい。仕事は明後日からで今日は分室ビルの整備やらで半休扱いだ。いるものは整えて置けよ。おっとそういや忘れていたな」
セルゲイは改めて彼らの名前を読んだ。それぞれの返事が済むと着任宣言を行った。
「本日をもって以上4名の配属を承認した。ようこそ特務支援課へ」
着任は了承され、彼ら4人は今日この日から特務支援課となり、支援課は名実ともに始動することとなった。
七耀暦1204年2月のことである。
後書き
支援課ビルってあの絶壁の上に立ってるけど、絶対開発から取り残されて中途半端になってるよね。あの下まで土地を使えば良いのに使ってないんだから。
ジオフロント作るために石の土台の上に立ってるけど、市の全景見たら緑の部分がなくて無茶苦茶石の土台部分が多くてどんな経済力だと驚いたけど、さすがIBC、狂気の都市計画だよ。
クロスベル市って北町は発展するけど、南側は谷を挟んでるから使いにくいというか。
ウルスラ病院以外ないのも南側が開発されてないからだし。
今回でやっと支援課着任。
ロイドは完全に兄貴の敵取る気でいます。一課に入りたいのもそこなら死因がわかり犯人を追い詰められるはずの部署だから。
最初に見た時はこの期に及んで迷いだして、憧れの兄貴の仇を取る気もない薄情な奴として感情移入不能になって辛かった。
だって兄貴殺されてるならその犯人を代わりに捕まえる、兄貴が追っていた事件を解決するというのが、王道であり、兄貴越えの瞬間であり、大好きなセシル姉さんを解放してやれる唯一のことなのに。
王道の物語ならばそうなると読めてるのよ。分かりきった動機を描かないというのは理解し難かった。零の最大の失敗ですね。碧も引きづられるけど全然マシだし。
別に逮捕が目的だから敵討ち、仇討ちの復讐が動機じゃないので、そこらへんは誤解なきように。
というわけでロイドは夢を取ってキャリアを追求するか、初めて自分の指揮下で生死を共にした仲間を見捨てるかで本気で苦悩するけど、ロイドは出来るから出来ない人を助けたいという自分よりもたくさんの人を優先するのでした。
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