転生者拾いました。
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霧の森
無罪主張
カズヤSIDE
爽やかな風が頬を撫でオレを覚醒に誘った。そこで目に入った光景は目覚ましにはちょうど良すぎる光景だった。
「どうしてこうなった。」
俺の隣にいるのは眠りについているうら若き乙女。
「なぜこうなった。」
俺は生まれたままの姿。それは隣の彼女も同じ。
「何があった。」
これでは事後ではないか。俺は断じてそんなことはしていない。馬車に揺られてそれで…、あれ?思い出せない。
もう一度思い出してみよう。霧の森で「クスィー調査隊」に捕まって一悶着あって馬車でどこかに連れて行かれて、……んー、全然思い出せない。
「とにかく逃げないと。」
「そうは行きません。カズヤ様。」
「!!」
どこからか声がした。しかしいくら部屋を見回してもオレと彼女しかいない。
「ここですよ、ここ。」
ここといわれても、声は大きな宝石が填められた杖が掛かっている白い壁から聞こえる。まさかあの杖がしゃべっているのか?
「大当たりです、カズヤ様。」
「ここはどこだ?」
「ここはクスィー伯の居城、三重城です。」
変なところで日本的だな、オイ。杖がしゃべるということはもうスルーで良いだろう。ツッコむだけ疲れる。
「申し遅れました。わたくし、ヴェルテと申します。以後お見知りおきを。」
「あ、ああ。よろしく。それでこの状況が起こった経緯を教えてくれないか?」
「それについては答えかねます。全てはエリザ様の思うままに。」
「エリザ?」
エリザ、エリザ……。あ、クスィー伯の娘さんだったか?直接見たことはないがかわいいらしく国民人気も高いらしい。それが彼女か?
「一ついいか?」
「何でしょうか。」
「なぜオレがここにいる?」
「それは答えかね「うにゅぅ…。」!」
ついに起きてしまった。体を辛うじて覆っていたシーツは落ち、窓から差し込む暖かな光にさらされた裸体は美しいのほかに言いようがなかった。それには淫らな感じは全くせずむしろ神々しく思えた。
「おはようございます、エリザ様。」
「おはよー、ヴェルテ。」
まるで俺なんて空気にしか思ってなさそうな堂々たる娘だ。末恐ろしい。
「あ、おはよーございます。えっとカズヤ様?」
「は、はいぃ!?」
く、来るな!裸のまま来るな!何か着てくれ!
だが、俺の思いは届かず目と鼻の先まで来られてしまった。ついつい彼女の胸に目が行ってしまうのは男だからという理由で許してほしい。
「あたくしの味はどうでした?」
「なにぃ!?」
オレはやってない。断じてやってない!そんな記憶は全くないんだ!
セリナSIDE
こちらはカズヤと打って変わって暗くじめじめした牢屋の中。これでも高待遇な方らしい。通常は天井に入り口があって梯子などを使わないと行き来できない作りになっているが、この牢は入り口が木のドアであり天井付近には換気用の窓もある。それでもこの牢は3畳ほどの広さではあるが。
その牢に片隅でセリナは両手を後手で締められ簡素な貫頭衣を着せられ、縮こまっていた。
「カズヤ……。」
この世界でできた唯一の友人にして同居人。そして同年代ではあるがこの世界の先輩。彼女は彼に頼らなければ生きていけないほど依存していた。
孤独と空腹にさいなまされ、誰も来ることのないこの牢に縮こまるほかしようがなかった。
「カズヤ…、どこにいるの?」
「おい。メシだ。」
声とともにドアが開けられ盆を持った男が入ってきた。
「クスィー伯には感謝することだな。お前の連れをひどく気に入っているからこんな待遇出されるんだ。ありがたく思え。」
盆を牢の片隅に置き出て行った。盆の上には一本のバゲットとミルクが乗っていた。しかし食べたくなかった。カズヤと一緒にわいわいしながら食べたかった。それが牢屋の中であっても。
「う、ううぅ……。」
どうしようもなく泣きたくなった。彼は余計なことをすることが多いけどそれでも大切な仲間だった。
寒い。気温ではない。自分の心が寒い。さみしい。
「カズヤ…、助けて……。」
その日の午後、彼女は解放された。5枚の金貨と手紙を持って。
後書き
因みにですが「三重城」は沖縄にありました。
そして後半かなり暗くなっちゃいました。すみません。
スイートルームの惨劇、牢屋の悲劇
ある者は力を、ある者は愛を求めた
次回 有罪決定。
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