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二度起こる奇跡

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第二章

「そしてオテロはあの舞台の中にいる」
「現実の中に」
「その最高の歌手もまた」
「後は私がその歌手を見つけ出すだけだ」
 ただそれだけだというのだ。
「諦めずにな」
「ううむ、では何としても見つけましょう」
「その歌手を」
「マエストロ=トスカニーニは奇跡を起こした」
 その名盤を残したというのだ。
「では私もだ」
「二度目の奇跡ですね」
「それを残されるのですか」
「そうする、必ずな」
 これがカラヤンの望みだった、彼はひたすらその歌手を探し続けた、そして遂にだった。
 イタリアにその歌手を見つけた、小柄だが端正な顔にトランペットの様な歌声の歌手が出た、その歌手の名は。
「あっ、あの歌手ですか」
「マリオ=デル=モナコですか」
「今スカラ座で話題の」
「そう、彼だ」
 カラヤンは周りにそのモナコの写真を見せながら話す。
「彼が私の思うオテロだ」
「理想のオテロですか」
「タマーニョ達を超えるまでの」
「見ていることだ、彼は偉大な歌手として歴史に名を残す」
 カラヤンはモナコをしてこう評した。
「必ずな」
「では彼に声をかけますか」
「オテロを歌いそしてマエストロの録音に参加するかどうか」
「誘われますか」
「誘う、そして彼は必ず来てくれる」
 確信だった、何よりも強い。
「私と共に歴史に名盤を残すだろう」
 こう言ってカラヤン自らモナコに声をかけた、モナコはカラヤンにこう言われた。
「君はビナイを超えたいか」
「あのマエストロ=トスカニーニのオテロを」
「そうだ、彼を超えたいか」
 オテロを歌いそうしたいかというのだ。
「どうだ、それは」
「私はヴェルディ歌手です」
 モナコはカラヤンにこのことから答えた。
「そしてテノールです」
「しかもドラマティコだな」
「オテロを歌えます」
 声域的に合っている、そしてだった。
「そして日々最高のオテロを歌いたいと思っています」
「ではいいな」
「はい」
 カラヤンに確かな声で答える。
「マエストロの指揮でオテロを歌わせて下さい」
「私のオテロは君しかいない」
 殺し文句ではない、そう見ているからこその言葉だ。
「では共に世紀の名盤を残そう」
「それでは」
 二人は頷き合う、そしてだった。
 カラヤンはオーケストラにウィーン=フィルハーモニー管弦楽団を選んだ、言うまでもなく世界最高峰のオーケストラだ。
 そして他の歌手もだった。
「あのレナータ=テバルディですか」
「他の歌手も凄いですね」
「モナコさんだけではないんですね」
「彼は最高のオテロだ、最高のオテロには周囲も必要だ」
 最高の周囲が、というのだ。
「それが必要だからだ」
「だからこそ彼等も集めた」
「そうされたのですね」
「万全の態勢で挑む」
 録音にあたってだというのだ。
「そうする、それではだ」
「はい、最高のオテロを残しましょう」
「何としても」
 周りもその気だった、最高のオテロを残そうと決意していた。
 カラヤンとモナコは何度も打ち合わせを繰り返す、二人は共に言っていた。 
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