洞窟
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第三章
その攻撃に目を覚まし攻撃を仕掛けた相手に憤怒で向かって来る、それを見てだった。
広瀬は再び拳銃による攻撃を浴びせながら部下達に告げた。
「松明だ!松明を蛇の頭に投げろ!」
「松明をですか!」
「生き物は火を恐れる!
その本能が頭に入っていての命令だった。
「それを使え!怯んでいる間に弾丸を込めろ!」
三八式は一発一発込めなくてはならない、自動ではない。
だからここでこう命じてそれでだったのだ。
「再び射撃だ!いいな!」
「了解!」
部下達は蛇への恐怖、広瀬も持っているそれを抑えながら彼の命令に従った、そのうえでだった。
松明を投げそれで怯ませた隙に弾丸を込める、そして。
銃弾を込めてからそれぞれ広瀬に告げた。
「隊長、込めました!」
「いけます!」
「込めた者から撃て!」
一斉射撃では隙が出来る、そう考えての命令だ。
「いいな!」
「わかりました!」
「では!」
「頭を狙え!」
急所、そこをだと命令するのも忘れない。
「わかったな!」
「了解!」
「それでは!」
こうして込め終えた者から次々に撃つ、それを繰り返してようやくだった。
大蛇は動きを止めた、広瀬はその大蛇の傍に寄ってその頭に至近で止めの一発を撃ち込んだ、こうして大蛇はこと切れた。
広瀬は若本に一部始終を話した、そのことはというと。
「大蛇の周りに人骨が散らばっていました」
「では間違いないな」
「はい、捕虜が減っていたのは大蛇のせいです」
つまり毎日誰かが食われていたのだ。
「夜に捕虜達が寝ている間に一番後ろにいる者を襲い」
「そして食っていたな」
「そうしていた様です」
「そうか。しかしどうやって洞窟の中に入ったんだ?」
若本はこのことも尋ねた。
「洞窟の中を調べてもいなかったが」
「最初はですね」
「後で入って来たか」
「洞窟の奥、隅の方に穴がありまして」
「蛇はそこから入ったか」
「その様です。天井の方でとても人が行ける高さではないですが」
蛇なら行き来出来る、それでだというのだ。
「そこから入って来た様です」
「そうか、そういうことか」
「我々も見落としていました、まさか天井の人が出入り出来ない場所とは」
最初からそうした場所は見ない、それで見落としていたのだ。
「こちらも迂闊でした」
「私もだ。そこまでは思わなかった」
そうした穴があって蛇が出入りするとはだ。
「思わぬ盲点だったな」
「全くです。それで洞窟ですが」
「使う訳にもいくまい」
蛇が出入りして人を喰らう様な穴にはというのだ。
「もうあの洞窟は放棄することにしよう」
「わかりました、それでは」
「間も無く収容所が完成する、それまではテントの野営地に入れる」
暫定的だがそうするというのだ。
「そうしよう、それでいいな」
「わかりました、それでは」
「しかし。わからないものだな」
若本は広瀬に己の決断を述べたうえで難しい顔で述べた。
「最初は何もいない洞窟に蛇が入り人を襲うとはな」
「はい、しかも誰も気付かない場所から」
「銃や砲があるこの時代に人が蛇に食われる」
「世の中というものは案外基本は変わらないものかも知れませんね」
「その様だな」
岩本は難しい顔で述べた、蛇はいなくなったが彼も広瀬も人は文明を進歩させてもその基は変わらないのではないかと深く思うことになった、この事件から。
洞窟 完
2012・12・19
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