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灯り

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第五章

「そうそう終わる噂ではないのう」
「ですな、果たしてお幾つか」
「どうしてあそこまで長生き出来るのか」
「そして何処でお生まれになられたのか」
「そうして育たれたのか」
「そのことについでですな」
「わからないままですな」
 幕臣達も家光の言葉に頷く。そしてだった。
 幕臣の一人がこんなことも言うのだった。
「皇室のご落胤という噂も聞きましたが」
「室町幕府の将軍ではないのか?」
 だが家光はその幕臣に怪訝な顔でこう返した。
「公卿の方のどなたかとも聞いたぞ」
「そうだったのですか」
「帝のご落胤という噂もあれば蘆名氏の出という話も聞いたが」
「ううむ、どれが真実なのか」
「わからぬな」
「全くですな」 
 このことも結局真実かわからなかった。とかく誰も天海について色々と話すがどういった者かは全くわからない。ただ天海だけはほくそ笑んでこう言うのだった。
「わしは後世に灯りを残せる様じゃな」
「話という灯りですか」
「それをですか」
「後世の者達もわしのことを話してくれる」
「そして話が語られ残っていく」
「そうなるというのですね」
「よいことじゃ。人は話がないと塞ぎ込んでしまう」
 話すことがなければ口を閉じてしまう、そしてだというのだ。
「そのまま心もそうなるからのう」
「だからですか」
「話を残せることに満足されているのですね」
「そういうことじゃ。これからも話して考えてもらいたい」
 後世の者達にもだというのだ。
「そうしてくれればわしは思い残すことはない」
 天海は満足している顔で弟子達に言った。そしてだった。
 彼も遂にこの世を去った、噂では百二十歳という。その高齢で世を去った。
 だが天海の願い通り後世の者達はその天海についてさらに話し続けたのだった。
「百歳じゃないのか?死んだのは」
「いや、百二十歳だろ」
 その没した年齢も諸説だった。
「明智光秀だったんじゃないのか?」
「それは俗説だろう」
「いや、戒名がな」
「そんなのは偶然だ」
 天海が明智光秀だったという説も残っていた。無論他の説も。
「誰かのご落胤だったんだよ」
「東国の生まれだろ」
「狐火を出したらしいな」
「武田信玄の影武者を見抜いたみたいだな」 
 とかく彼については今も言われている。だが誰も気付いていないうちのあれこれと話している、このことが天海が望んでいたこととは気付かないうちにそうしていた、話という灯りは天海の思い通り今も世を照らしている。


灯り   完


                           2012・11・23 
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