北ウィング
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第五章
「待っててね」
「吉報しか期待しないからね」
「それしか読まないわよ」
「ええ、楽しみにしててね」
私は皆に笑顔で手を振って空港の中に入った。そうして。
ジェット機に乗り込んだ。飛行機はすぐに空に飛び立った。放送がかかる。
その放送を聞きながら私は空を見た。雲が下にある空は何処までも青い。
その青い空を見ていると引き込まれそうだ。その空を見ながら私は向かっていた。
北に、北に。
寒さは感じない。北に向かっていても飛行機の中は安定していた。
その青い空を見て楽しみにしていた。待ち遠しくて仕方がなかった。
どれだけ時間が経ったかわからない。けれど。
遂に空港に降り立った。すると目の前に彼がいた。彼は驚きを隠せないといった顔で私に言ってきた。
「信じられなかったよ」
「話を聞いても?」
「ああ、けれどな」
「ええ、来たわ」
私は微笑んで彼に答えた。
「この国にね」
「フィンランドに」
「降り立ってすぐだったわ」
私はここでは苦笑いで言った。
「寒いわね。本当に」
「そうだろ?この国はさ」
「北欧だからよね」
「ああ、寒いさ」
噂通りだった。フィンランドは寒かった。
「息が凍ることすら普通だよ」
「今はそこまで寒くないわね」
「そうさ。けれど寒いだろ」
「日本にはない寒さね」
「そうだよな。それじゃあな」
「ええ。転勤になったから}
この国の支社に。私が人事部長にお願いしたのはフィンランド支社への転勤だった。彼が三年間いるここに。
「一緒よ。三年よ」
「三年この国にいるんだな」
「貴方と一緒にね」
「馬鹿なことするよ」
腰に両手をやってやれやれといった顔になっての言葉だった。
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