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戦国異伝

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第百二十話  出雲の阿国その三

「これは女郎か?」
「うむ、それに近いのう」
 穴山もそれを見て唸って言う。
「女郎にこうした格好のおなごは多い」
「そうじゃな、それではな」
「この者達は女郎か」
「女郎が舞っておるのか」
「女郎かどうかわからぬが近いであろうな」
 幸村はいぶかしむ彼等にここでこう言った。
「この者達は」
「やはりそうですか」
「女郎かそれに近いですか」
「白拍子も然りじゃ。古来芸をする者は春を売ることも多かった」
 これは東西に関わらずである、本朝においても芸をする者はそうしたこととは表裏一体であり離れられなかったのだ。
「それでじゃ」
「この者達もそれと近い」
「それは事実でありますか」
「うむ、しかしな」
 幸村はその舞を見ながらさらに語る。
「この者達は少し違うのう」
「少し違うとは」
「どう違うのでしょうか」
「こうした艶が強い芸は好かぬが」
 生真面目な幸村ならそうなることだった、彼にしては目の前の芸は好ましくないものだ、それでまずはこう言ったのだ。
「しかし違うのう」
「他の芸とはですか」
「また違いますか」
「何かがある」
 幸村は直感的にこのことを察していた。
「この芸にはのう」
「その何かとは」
「一体何でございましょうか」
「そこまではわしもわからぬが」
 直感で感じたものは言葉としては出しにくい、それは今の幸村もだった。
 それで言葉としては出せなかった、だからこそこう言ったのだ。
「しかしじゃ。感じるわ」
「確かに。違いますな」
「ただ艶やかだけではありませぬ」
「華があります」
「それもかぐわしいものが」
「うむ、そこが違う」
 幸村は女達を見ながら言った。
「新しいものも感じるわ」
「これが歌舞伎ですか」
「今都で話題になっている」
「ふむ、特に」
 幸村は女達の中で一際目立つ者を見た、女達の中で最も背が高く艶やかないでたちの女だ。大きな胸が紅い着物からはちきれんばかりで脚は根元まで見えている。
 そのうえで舞い演じている、その女の黒い見事な髪と切れ長の長い睫毛の瞳、黒檀の輝きを放つそれを見て言った。
「あのおなごじゃな」
「あれが出雲の阿国ですな」
「その噂となっている」
「うむ、間違いないであろう」
 幸村自身も言う。
「あれだけ目立つからにはな」
「よく舞台の真ん中にいますし」
「間違いありませぬな」
「あのおなごが出雲の阿国」
「左様ですな」
「うむ、よい舞じゃ」
 幸村は好きではないがこのことは認めた。
「あの舞を舞えるのは並大抵の者ではない」
「これまの舞からさらに何かを生み出した」
 海野はそれを見ながら言う。
「そうした舞ですな」
「そうじゃ、あのおなごは生み出した」
 幸村は海野に応えながら述べた。
「歌舞伎というものをな」
「それがあのおなご」
「出雲の阿国ですか」
「ふむ」
 ここで幸村はまた言った。 
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