なりたくないけどチートな勇者
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25*俺の嫁って最初に誰が言ったんだろう
「つ、疲れた……」
自分は案内された部屋に入ると、早速ベッドへぱたんきゅ~した。
下手な連鎖やフィーバーをくらうよりもひどい目にあったので、当然といえば当然である。
そして、さすがは貴族なふかふかベッドは、自分を深い眠りに誘うように身体を包み込む。
そして、とうとう自分が夢のワンダーワールドへとダイブしようとしていたその時。
『やほー、げんきー?』
いやぁ、相当疲れてるようだな、自分。
幻聴が聞こえる。
『幻聴で無いよ。私こと神様のありがたいお告げだよ。』
……むしろこれは憑かれてるのか?
『まぁある意味憑かれているね。』
だよねー。
じゃ、おやすみー。
『マテ。』
チッ!
なんだよ、いきなり。
自分は眠いんだ。
『んー、何っていうと、警告ってかお知らせ的な?』
は?
何の。
『能力の暴走について。』
……暴走、すんの?
『暴走したの。』
……いつ。
『さっき。最後の最後に能力が暴走して、その結果時間の流れを遅くしたの。まぁ他にも色々あるけど。』
まじか…
自分の力だけでやってたつもりだったのに…
……てかそれがマジならヤバイんでないか?
勝手に能力が制御不能になって、ハルマゲドンを引き起こしたりしないよね?
『うん、多分それは無い。直接の原因が君の心だし、それを君が望まない限りは大丈夫。』
その原因って何さ。
そして直接って事は、間接的な原因が他にもあるんだな?
『ん。まずは直接な原因だけど、君が妙に熱血漢になった結果、それに応じて魂が勝手に“君の能力”として私が君の魂に張っつけた能力を使ってしまったの。』
……どゆこと?
『つまり、あの能力はもう君の魂と混ざり合って、君の一部になっちゃったの。そして、君が自分の力だけであのおじさんに挑むと決意した結果、魂がその決意を汲み取り、君の一部になってしまった“君の能力”を無意識に解放しちゃった訳。』
まじでか…
もはや魂までも改造されてたとは…
『ちなみに言うと、能力は魂にくっついてる物だから、君の身体でどんなに幻想をぶち壊しても、封魔の刻印を身体に付けられても無くなる事はありません。』
そうですか…
なんか自分、どんどん人間から離れてってる気がするのは気のせいですか?
『いや、君はどこまで行っても人間だから。てか人間やめたらあと上には神様しかいないよ?』
…魔族では無いの?
『格的には、魔族<<<越えれない壁<<<人間<下位の神様<<上位の神様くらいの差があります。』
……神様って、安いんだな。
『違うよ、人間が規格外なだけ。』
……もういいよ。
で、間接的な原因は?
『ムリヌ。』
ナニソレ?
『君が最初に食べた料理の材料。あれ、人間にとっては結構な薬になっちゃうキノコなんだよね。』
ムリヌ……ムリヌ…
あ!
カムシルとか言う料理のか!
『そ、で、それはよく言えば強壮剤、悪く言えば精神が高ぶるお薬。』
…で?
『柄にも無く君の異常な熱血漢になっちゃった原因。てかフツーに考えて、いつもユルユルな君が例えあのオッサンの考えに共感したとしてもあそこまで覚悟を決めるなんてある?無いしょ。』
……はい。
無いです。
冷静になってみると、あの自分は異常でした。
『まぁ人間としちゃあの姿が一番正しいか知らないけど。とりあえず、だいたいの毒物とかは君には効かないけど、魔族には毒物では無い物が毒だったりすることがあるから気をつけてね。詳しくは地球料理大全にて。君が真面目に見るとは思わないけど。』
…なんか、怒ってない?
さっきからいちいち言葉に刺があるよ。
『……ねぇ、君はわざと彼女の気持ちに気がつかないふりをしているの?』
ん?
彼女?
誰?
『シルバちゃんだよ、あの純情乙女。』
あぁ…
彼女は優しいよね。
こんな自分にもフツーに接してくれるんだし。
『…締め殺すよ?いくらなんでもそれは無いしょ!神様でなく、一人の女として言うけど!本当は私が言うのも間違ってるかも知れないけど!彼女は君にベタ惚れだよ!?フツーあそこまでわかりやすい反応されたら気が付くしょ!ましてや盛りのついたオスならフツー!』
盛りのついたオスって…
てか、お前こそわかって無いよ。
あーゆー女の子は、本心を隠して、猫を被って生きているのさ。
自分みたいな弱者を騙してからかうために。
『……………何か、あったの?』
仮にも神様なら知ってるんでないの?
こーやって直接頭に話しかけてんだ、自分の記憶を読み取るなんて造作も無いべ。
『いや、出来るけども……それはやっぱり、外道の所業っていうか、さすがにかわいそうだし……』
ああ、つまり知らないと。
いいよ、教えてあげるよ。
自分の悲惨な初恋を。
***********☆
中学二年の話しである。
季節は9月、学校祭を二週間後に控えた頃だ。
別に学校祭つっても漫画みたいな派手なのでは無く、事前に面白くも無い保護者用の展示品をクラスでつくって展示したり、当日に全校生徒の前で合唱したりのしょぼいものだ。
さらに当日は、体育館に全校生徒を椅子を持たせて押し込め、指定の位置に座らしたらあとは合唱が終わるまで立っちゃだめっていう鬼畜ぶり。
正直、フツーの授業のが楽である。
そして、その日もありがたい担任教師達のご厚意により、5時間の授業を終えた後に5時まで全員強制合唱練習&展示品製作をかせられたのである。
こんな性格だから45になっても売れ残るんだ。
そして当然売れ残りの教え子である自分もその被害にあっている訳で、ただいま絶賛作業中である。
自分の担当は、なんか馬鹿でかい模造紙みたいなのに歴代の画家の絵を写すと言うレプリカって言う物である。
ちなみに作品は叫びである。
ムンクさんのあれである。
「………ねむ。」
到底やる意味を見出だせ無い作業を進める気にもなれず、しかし根は真面目な自分は眠い目を擦りながら叫びを模造紙に鉛筆で写していた。
ちなみに一人で。
他のメンバーは、男子は四分の三は紙飛行機を飛ばして遊んでいて、女子はみんな合唱のパート練習のため一時間前からいない。
女子がいないからこそ、彼らは遊んでいられるのだ。
そして、しばらくすると女子がゾロゾロと帰ってきた。
「あ!こら男子!ちゃんと仕事しなさい!」
「うわ!マルオが帰ってきた!」
「私はあんなぐるぐる眼鏡なんかしないわよ!!それに委員長ですら無いわよ!!」
もはやお約束の男女戦争である。
だが、自分は真面目に仕事していたので怒られる筋合いは無い。
なので一人黙々と作業をしていた。
すると、隣からいきなり声がした。
「わ!長谷川君一人でここまで進めたの!?凄い!」
そこにいたのは、同じレプリカのチームである……名前は勘弁。
傷が痛むから花子にさせて。
黒い髪が綺麗なかわいらしい女の子だ。
「私達、男子はみんなサボって全然作業が進んで無いと思ってたけど、長谷川君はいい子だね。よしよし。」
そう言って彼女は自分の頭をクシャクシャと優しくなでた。
「い、いや。そんな大層なことは自分、やってないよ。」
彼女はそういったスキンシップをよく女子とやっていたのを見ていたので、そーいう娘っていうのは知っていたが、やはり自分も思春期真っ只中のオトコノコである。
いきなりこんな事をされては、意識するなというのも無理な話しである。
「あ、長谷川君照れてる。顔朱い~。意外!かわいい!」
そう言って自分に輝かしい笑顔を見せる花子さん。
まだ中学生で、恋愛なんぞ全く知らなかった自分だが、少なくともこの時は、自分の鼓動が早くなるのを感じてそれを悟った。
自分はこの娘に恋をしたのだ、と。
*************☆
その日から彼女は、自分に結構話しかけてくれたり、手伝ったりしてくれるようになった。
そして、そうやって彼女と会話して、一緒に過ごしているうちに、さらに彼女に引かれていった。
さらに、彼女は彼女で自分を意識していて、自分達は相思相愛なのではと自分は感じていた。
自惚れでは無い自信があった。
何たって
「は、長谷川君…」
「ん?何花子さん。」
「あ、あのさ……そ、そう!西尾くんと最初どうやって知り合ったの!?」
こんな事を二人っきりの時に顔を赤らめて、まるで恥ずかしいからいきなり話題を急転換するように話されたら誰だって勘違いするだろう。
ちなみに西尾とは、自分の当時の友達だ。
今は自分の学校よりレベルの低い学校にいっている。
ちなみにバドミントン部。
とりあえず、こんな感じのやり取りを繰り返すうちに、自分は先程述べたように、相思相愛だと思っていたのだ。
そして、自分は学校祭前日に、一念発起して告白する事にしたのだ。
放課後、彼女と作業の片付けをした後に二人きりになる時を見計らってそれを実行した。
「は、花子さん!」
「ん?何、長谷川君?」
少しの沈黙。
そして、自分は意を決して
「あなたが好きです!付き合って下さい!」
告白した。
普段ヘタレな自分が告白できたのには、相思相愛だと言う確信をもっていたのが大きい。
したがって、緊張しながらもいい返事がくると自分は思っていた。
が、しかし
「え………、あ、あー……その……長谷川君とは…その…友達以上にはなれないっていうか……ごめんなさい。」
「へ!?」
彼女いわく、他に好きな人がいるだとか。
彼女いわく、それは我が友、西尾だとか。
彼女いわく、西尾に近付くために自分を利用しただとか。
彼女いわく、もう三日前から付き合っているだとか。
「あー……少し、優しくしすぎちゃったかな…なんていうか……悪いけど長谷川君は私の恋愛対象に最初からなかったの……大丈夫、長谷川ならもっといい人みつかるって!」
そう言ってそそくさとかばんを掴み、教室を出る花子さん。
しかし、走る方向は玄関では無く体育館の方向である。
体育館は、学校祭当日には合唱にしか使わないので、普通に部活が行われている。
そしてその部活はきっとバドミントン部なのだろう。
つまり、自分はいいように使われたのだ。
この時自分は心に誓った。
もう女の子なんか信じるもんか、と。
**********☆
これが自分の初恋だ。
どうだ、悲惨だろう。
ちなみに二次元の世界に浸るようになった原因もこれだ。
二次元は自分を裏切らない。
『…………ごめん、こんな事聞いて。』
ふん、なら帰れ。
もう自分は寝る!
涙で枕を濡らしながら眠るんだ!
『いや待ってよ。たしかに花子はひどいけど、シルバちゃんは君を確かに愛してるよ!?』
うるさいうるさいうるさいうるさい。
『いや、でも、彼女と花子を一緒にするのはあまりに失礼だよ。』
………
『確かにトラウマはわかるけど、彼女の気持ちも考えてあげなよ。』
……………
『彼女は君を信じて、本気で君に恋してるんだよ?それを……あれ?』
…………………くー、くー……
『……………』
「思い出香る胃腸の奥に深く刻まれたこれまた思い出♪」
のうわぁっ!
「電話番号変えちゃって伝わらなかった二桁目の左♪」
なんだ!?
なぜにミク様が!
…ここかぁ!!
自分はポケットから携帯を取り出した。
画面にはまたもや“みらくるごっど”の文字が踊っている。
ピッ
「何いきなりさらしとくれとんじゃあ!」
『うっさい、人が話してるの無視して寝るから悪い。』
「それこそうるさい。それに女神はゴッドでなくゴッデスだ。電子辞書で調べたから間違い無い。」
『う……知らない!そんなの知らない!』
「そうか、なら自分は寝る。」
『待ってよ!起こした意味無いじゃない。』
「うるさいなぁ…」
『むぅ…こんな二次元の存在しない女の子の歌の何がいいんだか…せっかくかわいい女の子が近くにいるのに。』
「黙れ。ミクたんは自分の嫁だ。馬鹿にするな。」
『……ルカあたりに踏まれたらいいのに。』
「いや、ルカ様は怖いからや。ついでにメイコさんとハクちゃんは酒を大量に飲みそうだから嫌。」
『……』
「さらに言うと、テトさんはさすがに三十路越えだし、リンちゃんはちっさすぎだから二人とも年齢的に無理。」
『………ロードローラーで潰されればいいのに。』
「だが断る。」
『もういい、君なんか知らない。私はもう帰る。』
「おー、帰れ帰れ。オーバー。」
『…………オーバー。』
プツッ!ツーツー…
……何がなんでもオーバーは言うんだ。
まぁいい、さて寝るか。
そう自分が思いながら携帯をポケットにしまい自分は再びベッドへ潜りこもうとした。
すると、その時
ギィィィィ
扉が開いた。
そして、そこにいたのは
「…グズッ……せん、せえ……」
目を真っ赤に泣き腫らしたシルバちゃんである。
…何があった。
~シルバサイド~
その時私は先生のいる部屋の前にいました。
理由は簡単、お母様が私に
『シルバ、ナルミさんを襲っちゃいなさい。既成事実を作ってしまえば幸せはもうあなたのものよ。』
こう教えてくれたのです。
私の先生への恋を知られていたのにも驚きましたが、それよりもお母様が私の味方だと言う事実が嬉しくてたまりませんでした。
ちなみに、その時お父様がため息をつきながら遠い目をしていたのはなぜでしょうか?
とりあえず、私には襲うって言うのがどういう意味かはよくわかりませんが、先生と寝ればいいらしいのでそのために私は今ここにいます。
ですが、いきなり一緒に寝ると思うと、緊張しすぎて踏ん切りがつかず、さっきから部屋の前でうろうろしているのです。
そして、その後もしばらく扉の前でうろうろしていると
「%◎£&′≠=♂※〒∠∃∀\♪」
「!!?」
「%#&*@§☆\¢$℃∧∩→〒※♪」
先生のいる部屋の中から、聞いた事も無い言語の歌が鳴り響きました。
多分、先生の国の歌だと思います。
あまりに急に、しかもありえない程に大音量だったので、心臓が飛び出るかと思う程にびっくりしました。
そして、恐る恐る扉を開き、中の様子を見てみると
「何いきなりさらしとくれとんじゃあ!」
謎の赤い少し曲がった板を耳にあてて怒っている先生がいました。
「それこそうるさい。それに女神はゴッドでなくゴッデスだ。電子辞書で調べたから間違い無い。」
どうやら念話用の魔石と同じようなものらしいです。
ただ、相手の話しは聞き取れません。
「そうか、なら自分は寝る。………うるさいなぁ…」
何かうんざりしたように先生は答えています。
きっと先生の国の関係者か、はたまた協力者とかだろうと高をくくっていました。
この時までは
「黙れ。ミクたんは自分の嫁だ。馬鹿にするな。」
今、なんて……
先生の嫁?
先生は既婚者?
ミクタンって……誰?
「いや、ルカ様は怖いからや。ついでにメイコさんとハクちゃんは酒を大量に飲みそうだから嫌。」
また、知らない女性の名前。
これは、先生のお嫁さん候補の方々ですか?
「さらに言うと、テトさんはさすがに三十路越えだし、リンちゃんはちっさすぎだから二人とも年齢的に無理。」
私は?
私は先生のお嫁さん候補として名前は入っているんですか?
確かに出会ってからあまり間は無いですが、その間に出来る限り勇気を振り絞って先生にいい印象を残して貰えるように、先生に振り向いて貰えるように頑張ってきたんですよ?
「だが断る。」
……とうとう私の名前は呼ばれませんでした。
なぜダメかの理由も無く、候補にすら上がっていない。
私は泣きました。
涙が止まらなくなって、しかし、声を殺して崩れるように泣いていました。
「おー、帰れ帰れ。オーバー。」
先生はそう言うと、板を折って小さくしまいました。
そして、再び寝るためにモゾモゾと寝る準備をはじめたのです。
私はと言うと、半分開いた扉の前でいまだに泣いていました。
そして、少しよろけて扉にぶつかってしまいました。
ギィィィィ
するともちろん閉まっていない扉は、そのまま音をたてて開いてしまったのです。
そして、それに気付いた先生と私は目が合ってしまいました。
「…グズッ……せん、せえ……」
「あー…大丈夫?」
泣いている私に優しく声をかけてくる先生。
先生のせいで泣いているのに。
先生に気持ちを気付いて貰えずに泣いているのに。
それを知らずに、当然のように私に優しさをくれる先生。
私はいつもより優しく、愛おしく感じていました。
そして同時にこの時私は、こう思ってしまいました。
先生を誰にも渡したく無い、と。
「…なんでないでぶぁっ!」
私は、先生が話しているのを遮るように先生に体当たりをし、馬乗りになりました。
そして、先生の襟を掴み、私は先生を問い質した。
「先生は、既婚者なんですか?」
「は?」
先生は一瞬何をいわれたかわからないと言う顔をしたが、すぐに理解し、それを否定した。
「いや、まだ結婚なんてしてない。」
「なら、これからさっき言っていた女性と結婚するんですか!?」
今度は困惑の表情をする先生。
その顔を見て、私は自分の制御が効かなくなった。
「なんでですか!?私は嫌です!先生が誰かに取られるなんて私は嫌です!」
先生を激しく揺さぶって、私は叫び続けた。
「私は先生が好きなんです!!先生は私を見ていて下さい!私だけを!」
「ま、待って!一旦落ち着いて!」
「ミクタンさんなんかに渡したくありません!先生は私だけのものだ!先生をきちんと見てあげれるのも私だけなんだ!だから私と一緒にいて下さい!」
さりげなく告白してしまってはいるが、その時の私は先生を取られたくない一心で叫び続けていた。
しかし
「勘違いだから!それは勘違いだから落ち着いて!」
先生のこの言葉を聞いて、私の頭は真っ赤に染まった。
~ナルミサイド~
「勘違いだから!それは勘違いだから落ち着いて!」
なぜか自分と初音さんがリアル結婚をするとか勘違いしたこの娘を止めるため、自分はそれが勘違いだとストレートに伝えた。
すると、わかってくれたのか彼女は自分をゆさゆさ振り回す行為を止めて俯いた。
しかし、この娘はマジで自分に好意を寄せてんのか?
彼女が直接そうだとは言ったが、正直いまだに信じられん。
てか、なんか裏があるんではと勘繰ってしまう最低な自分がいる。
そして、自分がそんな事を考えているとシルバちゃんが動き出し、呟くようにこう言った
「……勘違いじゃないです。」
ん?
何が?
「私が先生を、ナルミさんを好きなのは勘違いなんかじゃないんです!私は本気です!ナルミさんがいたらあとは何もいらないんです!!」
そういきなり叫んで、彼女は右手を上に翳した。
すると、その右手にどこから来たのか炎が集まり、凝縮され、最後には真っ赤に燃える炎のナイフが完成した。
………ヤバクネ?
「ちょま!待って!それこそ最大級の勘違い!落ち着け!」
「勘違いなんかじゃありません!私はあなたがいないと生きていけない!だから…だから…」
そう言って彼女は自分の目をまっすぐ見据えた。
その目には狂気と…なぜか喜びの感情が見てとれる。
「誰かに取られるくらいなら、私があなたを殺して私も死にます。」
アウトォォォォォ!!
ちょ!
マジですか!?
なんで!?
どーしてそうなるの!?
「大丈夫です、神様のもと、私達はずっと一緒になれるんです。永遠の愛を紡ぎましょう。」
ヤンデレ自重しろ!
そしてずっと神様といるのは願い下げだ!
「待てって!だから勘違い!自分は誰とも結婚の予定はありません!!」
「先生が無くても…たくさんのお嫁さん候補の方々がいるんでしょう?ミクタンさんの他にも、ルカサマさんとか、メイコさんとか…。私は候補にも上がって無いのに…そんな誰かもわからないような女にナルミさんをとられるくらいなら私がこの手で!!」
そう言って彼女はナイフを振り下ろす。
それを自分は咄嗟に
バシッ!
白刃取った。
人間、頑張ればなんでも出来る。
………あっつ!
めっちゃあっつい!
手がこんがり肉になる!!
「し、シルバちゃん!誤解だから!自分の言ってるのは君の気持ちで無くて自分の発言の解釈が違うって言いたいだけだから!」
自分が焼ける手を我慢しながら、彼女に訴えかける。
だが、当のシルバちゃんはと言うと
「ハー、ハー……」
目が逝っちゃっております。
息も荒く、目の焦点は合っていない。
正直、自分の言葉が聞こえているとは思えない。
そのくせ、この小さな身体のどこにこんな力があったのってくらいの怪力で自分を刺そうとナイフに体重を乗せてくる。
………自分、ここで死ぬ?
まさかの女関係で刺されて死ぬの?
自分が半分諦めかけていると、不意にシルバちゃんが
「が、はっ…!」
自分に覆いかぶさるように倒れてきた。
ナイフは消え、彼女は規則的な寝息を立てている。
「大丈夫?ナルミさん。」
何があったかはわからないが、とりあえずホッとしていると不意に声をかけられた。
声の主は、リリスさん。
シルバちゃんの真後ろに、相変わらずのほほんとした顔で彼女はいた。
「一通りは聞いていましたが、悪いけどこれはナルミさんがシルバの気持ちを傷つけたのが悪いと私は思いますわ。」
「……すいません。」
言い返せないです。
「で、ですけど、ミクタンさんやルカサマさんとは誰で、どういった関係なんですか?嫁、と言っていましたが、さっきナルミさんはそれを否定していましたし、誰なんです?」
「……ミクタンさんとルカサマさんじゃなく、ミクとルカですよ。」
……ヒジョーに、ヒジョーに説明しずらくしたくないが、これは説明しなければ多分今度はリリスさんに殺されるだろう。
のほほんした顔をしながら、目がそういっている。
「あー、まず嫁って言うのは…」
**********☆
「なるほど、ぼーかろいどと言う人間が電気から創った精霊の歌姫ですか……そして嫁にするとは、ぼーかろいどを使役する者がそれを降す事を表す隠語と言う訳ですね……」
「……それでいいです、もう。」
話はじめて一時間、リリスさんの解釈はこれである。
……ボカロ、精霊に格上げである。
ちなみにリリスさんは、シルバちゃんがこの部屋へ向かうのに後からついてきたらしく、最初っから全部しっていた。
いたなら止めてほしかったな……。
「しかし……精霊を創り出すとは…使役する事さえ難しいのに……人間とはやはり、計り知れない種族ですね…」
精霊とちがうよ。
使役とちがうよ。
だが、自分はそこに水を差さない。
「ハハハ、そう、ですかね?でも誤解が解けたようで何よりです。」
ちなみに自分はいまだに仰向けでころがっている。
疲れすぎて動けないのと、腹の上でシルバちゃんが幸せそうな顔で丸まっているのが原因である。
ちなみに手の火傷はリリスさんに治してもらいました。
「ええ、シルバの勘違いだと言う事がよくわかりました。では、この子の記憶はちょっと消しておきましょう。あんな事をしたとわかれば、この子、自殺しかねませんから。」
「あぁ、お願いします。」
自分が言うと、リリスさんはシルバちゃんの額に手をあてた。
すると、手から緑の光りがでてきてシルバちゃんの頭に入っていった。
「ふぅ、完了です。ただ、この子の気持ちは本物ですので、それは覚えておいて下さいね。」
「……はい。」
神にも言われ、シルバちゃん本人からも告白とそれを示す行動(変なベクトルに向いていたが)をされ、さらにはその母親であるリリスさんからもいわれたのだ。
もはや疑う余地は無い。
「ま、反省してるみたいですし良しとしましょう。じゃあ私はこれで。」
そうリリスさんは言うと、扉の方向に向かい歩いていった。
「あ、ありがとうござい……待って下さい!」
あっぶね!
忘れるとこだった!
「あら、まだ何か?」
「シルバちゃん!このままですか!?」
そう、自分の上にはまだ、シルバちゃんが居座っているのだ。
いつのまにか器用に自分の左腕に抱き着いている。
「あら、そうだったわね。」
そう言って近付いてくるリリスさん。
よかったー。
さすがに一晩中こんな近くにおにゃのこがいたら自制がきかない。
身体は酷使しすぎでギシギシ言って動けない程つかれているので、間違いはおきないが、それがかえって生殺しである。
そう自分が安心しきっていると、自分の上にふわっとした感触が舞い降りた。
「よいしょっと。」
「……リリスさん、なんすかこれ。」
「おふとんよ。風邪をひいたら大変でしょう?」
いやそうだが。
自分はシルバちゃんをどうにかしてほしかったのですが。
「じゃあ、私はもどるわね。」
そして、そう言ってリリスさんは自分が反論する暇も無くそそくさと部屋を出ていった。
最後に、早く孫の顔がみたいわ、っていいながら。
………泣いていいですか?
まぁ、とりあえず、シルバちゃんの気持ちは理解した。
ヤンデレる程に自分を好いてくれるのは素直にありがたい。
命の危機は感じたが、それはぶっちゃけ自分のまいた種なので彼女を攻めるつもりは無い。
だが、いまだに心の片隅で彼女の気持ちを信じる事ができないでいるのもまた事実である。
なので、ヘタレと言われるとは思うがこの問題、答えを出すのをはしばらく先送りにする事に自分はした。
自分の心、全てで彼女を信じる事が出来るまで、答えは出さない事にしたのだ。
ゆっくり、時間をかけて解決しよう。
自分はそう決心した。
ちなみに、次の日の朝での事。
「あ…おはよう。」
両足がベッドからはみ出し、半分落ちそうな不自然な体制で寝ていた自分はいつもより格段に早く起きた。
シルバちゃんはまだ寝ていたので、起こさないようそっとおろそうとしたら彼女が目覚め、自分は上記の言葉を述べた。
「うー…おはようござい、ま……」
最初は目を擦っていかにも寝起きだった彼女だが、自分の顔を見て、自分が抱き着いている腕を認識するとみるみる真っ赤になっていった。
「あの…その……」
わたわたと慌てる姿は、結構かわいかったりした。
そして、だんだん冷静になってきた彼女は思い出したように一言。
「あ……これで、既成事実完成ですか?」
は?
「これで私は幸せを手に入れれます!」
はい?
「どゆこと?」
「お母様が、先生を襲って一緒に寝ると、先生と一緒に幸せになれ……るっ……て…」
そこまで言うと、彼女は再び真っ赤になって今度は両手をパタパタさせながら慌てて訂正した。
「いえ!あの!そんな一緒にとか!別に他意は無くて!あの!その!……忘れて下さい!!」
彼女を落ち着かせ終わったのは、いつも起きるよりも遅い時間だった
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