前略、空の上より
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第三話「四様料理」
俺が自力で起床することは少ない。
別に朝に弱いわけではない。自然と目が覚める前に外部からの刺激によって起こされる場合が多いのだ。
俺の家は宮殿のように広く、生活空間が三割、他七割が研究室で構成されている。俺以外に居住者の空人は居らず、もはやメイドさんと化したオレガノたちやハーピー、タナトスしかいない。キングサイズの広すぎるベッドを独占し放題だ。
「――た……、すたー……」
「ん、む……」
耳心地のいい声とともに身体を揺すられて意識が浮上する。重たい瞼を抉じ開けると、目の前には空色の瞳があった。
「イカロスか……」
「おはようございます、マスター」
「うん、おはよー……」
俺の右隣で横座りをしているイカロスに生返事を返しつつ、上体を起こして大きく伸びを一つ。
「うん? ニンフたちは?」
左隣が空いていることに気がついた。昨夜はニンフが寝ていたのに。
「ニンフは、アストレアを探しに……」
「まだ帰ってきてないの、あの子?」
コクンと頷くイカロスを尻目に今朝一番の溜め息を吐いた。アイツはまだ俺の家の場所を覚えていないのか。昨夜から姿を見せないが、一体どこに帰ったんだ?
一ヶ月ほど前にアストレアが突然「マスターの家って広いよね! 私も今日からここに住むー!」と言い出し、アストレアに追随してニンフたちも住み着いた。
部屋数は腐るほどある上に、賑やかなのは俺としても歓迎だったため二つ返事で承諾。両隣の部屋にイカロスとニンフが、向かいの部屋にアストレアが住むこととなった。
そして、翌日から何故かイカロスたちエンジェロイド娘が就寝時に俺のベッドを使いたがり、あれよこれよとしている間に皆で川の字になって寝ることに。どのような話の流れでこうなったのかは未だに理解できない。まさに「解せぬ」だ。
まあ、俺としては年頃の娘さんたち――それもとびきりの美少女たちと同衾することが出来て男冥利に尽きる。
しかも、みんなこっちを向いて寝ているため寝返りを打てば目の前に美顔が、目を逸らせば豊満なお胸さんが視界に飛び込んでくる。一部残念なお胸さんもいらっしゃるが、かの偉人の名言「オパーイに貴賤なし」を信条とする俺にとっては、どちらにしろご褒美だ。
視覚からの情報だけでなく、フローラルな香りが嗅覚を、人肌という名の温もりが触覚を、時々洩れる寝言が聴覚を刺激するため、五感に訴えかけてくる欲望と常に向き合うはめになって滅茶苦茶辛いんだよバカヤローッ!
――いかん、熱くなり過ぎだ……。落ち着いていこう。
因みに、本来エンジェロイドたちには『眠る』という機能はない。ないのだが、眠れないというのは時間を持て余しそうだし、なんだかビジュアル的にも可哀想なので、眠れるように機能を追加しました。というか寝ていて不意に目を覚まし、何気に横を向いたらイカロスが体育座りでジーっとこっちを見てるんだぜ? 昼間なら可愛く見えるけど、真夜中は雰囲気があるから、あの無表情でそんなことされたら軽くホラーだよ。
まあ、そういうことでイカロス、ニンフ、アストレアの三名は彼女たちの生みの親である研究者――ダイダロスさんに頼み『眠る』という機能を追加してもらった。
当初、モニター画面越しで顔を合わせた時は警戒した様子で固い表情を見せていたダイダロス。それも無理はないと思う。彼女からしたら自分の愛娘たちを酷く扱った相手から連絡が来たのだから。
しかし、俺の誠意が通じたのか、日本文化の一つである『土下座』をしたら驚愕の表情を浮かべていた。今では過去の遺恨を水に流し、新たな関係を築き上げている。
ハーピーやタナトス、オレガノは俺が担当した。百を優に越えるエンジェロイド娘たちを相手にするのは流石に疲れたよ。平均睡眠時間が二時間とか、軽く死ねるよね。まあ、他の研究員たちにも手伝ってもらったからこれでも捗った方だけど。
「ニンフならすぐに連れてくるだろ。最近、全然眠れなかったからもう少し寝かせてくれー……」
電子戦に特化したニンフには高性能レーダーがあるから、すぐに見つけられるはずだ。もう眠くて眠くて、瞼が……。
「イカロス……こっちゃこい……」
手招きし、近寄ってきたイカロスを抱き寄せると、その豊満なお胸様に顔を埋めた。
「イカロス枕、ぬくぬく……しゃあわせー……」
至福の時の中で徐々に意識を落としていった。
「……おやすみなさい、マスター」
優しく髪を鋤く感覚に擽ったさを覚えながら、再び夢の中へと旅立った。
† † †
「マスター、ご飯のお時間ですよー」
ハーピー妹の言葉で顔を上げる。時計を確認すると午後の一時を回っており、昼時には丁度いい時間だった。
研究室で一心不乱に作業をしていた俺は一旦手を止める。
「もうそんな時間か。んじゃあ、行きますか」
「はい!」
ハーピー妹を連れ立ち食堂へと向かった。
空人の――というより、俺の食事は一言でいうと豪勢だ。どこの宮廷料理だと言いたくなるような料理がずらっと並び、長テーブルに一人腰かけて黙々と平らげるのが今までの食事風景。
しかし、現在はエンジェロイドたちに言い聞かせて普通の一般家庭に出るような食事を作ってもらっている。というか、あんな高カロリーの料理を口にしていたら一気に肥満体型になるのは目に見えている。品数も半端ないからメタボ一直線だ。
嫌だよー、おデブになるのなんて。肥満になっても高血圧に高脂血症、血液はドロドロでアテローム硬化病変になって脳塞栓を起こすだけなんだから。得することなんて一つもない。まさに百害あって一利なしだ。
「今日の昼食は普段のとは一味違いますよ~」
「へぇ、それは楽しみだな」
口元を手で押さえ、抑えきれない笑みを零すハーピー妹に俺も微笑み返した。
彼女のその楽しげな笑顔に否応なしに期待感が高まり、心なしか少しだけ歩く速度を速めていた俺はいつしか競歩並みの速度で食堂へ向かう。
両扉のドアを開け放ち中に入ると、そこには既にイカロスたちがいた。
食堂には長方形のテーブルが置かれており、普段はここでイカロスたちと一緒に食事を摂っている。
俺の姿に気がついたハーピー姉が椅子を引いてくれたので、礼を言いながら着席する。
料理はまだ並んでいなかった。
イカロスとニンフ、アストレアの三人が各々の手に銀色のドーム状の蓋――クロッシュを被せた料理を持って奥の厨房から姿を見せる。イカロス以外はどことなく緊張した様子で強張った顔をしていた。
「ふふっ、今日の昼食はイカロスちゃんたちが用意したんですよ。マスターに食べてもらうんだーって」
「へぇ、イカロスたちが!」
後ろで笑みを湛えながら説明するタナトス。我が子に向けるような慈愛の笑みにニンフとアストレアが身動ぎした。イカロスは相変わらずの無表情でコテンと首を傾けているが。
イカロスたちが料理を作ってくれるなど始めてのことだ。思わず瞠目した俺の前にクロッシュで覆われた料理が並べられる。
「いつもマスターがオレガノたちの料理を美味しい美味しいって食べてるから、みんなも食べてほしいんだって。ねっ、姉さん?」
「あ、ああ……」
クスクスと笑いながら顔を覗き見る妹から視線を外し口籠るハーピー姉。その頬はうっすらと赤ばんでいた。妹とタナトスの微笑みが深くなる。
「わたし、マスターに喜んでもらいたくて頑張って作ったんです!」
ずずいっと身を乗り出し、ニンフが自身の料理を奨める。
「マスターの嗜好に沿った一品。栄養管理もクリア……」
その隣では控え目ながらもしっかりとした口調のイカロス。
「ダウナーの料理を参考にしました! 三分クッキングって凄いですねマスター!」
三者三様、自信があるようだ。アストレアの料理はそれとなく不安を感じるが節介作ってくれたんだ。この好意を無駄にしたくない。
「それじゃあ頂こうかな。まずはニンフのから……」
クロッシュを退かしてニンフの料理と対面する。
ニンフの料理は卵焼きだ。一口サイズに切り分けられたそれらは形が多少崩れて所々焦げたところもあるが、一生懸命作ってくれたのだとよく分かる。
いかにも、始めて作りました風な料理だ。
「いただきます」
固唾を呑んで見守るニンフたちを尻目に早速卵焼きを口に運ぶ。ゴクリッ、と誰かの息を飲んだ音がやけに大きく聞こえた。
とくに反応を示すことなく黙々と味わって咀嚼する。すべて平らげると痺れを切らせたニンフが恐る恐る訪ねてきた。
「ど、どうですか、マスター……?」
判決を待つ被告人のような不安を募らせた表情でこちらを見上げるニンフ。一瞬、賛辞の言葉を述べようと口を開いたが、思い留まった。
(ニンフのことを想うならここは正直に言った方がいいかも……。下手な遠慮は反って相手を傷つけることになりかねない)
やはりここは正直に言おうと、心を鬼にして正当な評価を下した。
「ニンフ、ここに持ってくる前にちゃんと味見した?」
「えっ? いえ、してませんけど。マスターに最初に食べてほしかったから……」
俺の厳しい顔を見てさらに不安になったのか、意気消沈して俯く。不安の表れか、最後の方の言葉は今にも消えそうな小さな声だった。
「塩の入れすぎで辛い。火加減も誤ったみたいだね、外が焦げていて中まで火が通っていない。それに変な味がするんだけど、何か入れたでしょ?」
「……最近、マスター研究室に籠ってばかりだったから、元気になるように栄養ドリンクを……」
その言葉に思わず嘆息した。料理に疎い人が陥る典型的なパターンだな。
ビクッと震えるニンフを横目に言葉を続ける。
「その気配りは嬉しいけれど、それは入れちゃいけないでしょ。人に料理を食べてもらうのなら最低限のマナーとして味見はしなさい。もしニンフの料理で俺が倒れたらどうする?」
「それは……」
俺が言いたいことを理解できたのか目尻に涙を浮かべ俯く。
「まあ、ちょっときつく言い過ぎたかもしれないけど、これもニンフを想ってのことだから誤解しないでよ?」
ちょいちょいと手招きしてニンフを側に来させると頭を撫でた。
「ニンフの俺を喜ばせたいっていう気持ちはよく伝わったよ、ありがとうな。次を期待しているから、また作ってくれよ?」
「は、はい!」
泣いた鳥のなんとやら。それまで意気消沈していたニンフはぱあっと顔を輝かせた。
「次は誰かな?」
布巾で口元を拭き、水で口直しをしてから皆を見回す。
「私……」
ずずいっと前に出たのはイカロスだった。自分の作った料理を俺の前に持ってくる。
「おおっ!」
イカロスの料理は肉じゃがだ。俺の胃袋を配慮したのかお子様サイズの分量なのがまた心憎い。
こっちの世界に来てからはもうお目にかかれないと思っていた料理のため、知らず知らずのうちに感嘆の息が溢れた。
「マスターの好物を用意しました……」
「よく知ってるな」
そう。なにを隠そう肉じゃがは俺の好物の一つである。
「へー、マスターって肉じゃがが好きなんだー」
「あら、知らなかったの? 私が肉じゃがを作って差し上げると喜んで召し上がっていたじゃない」
「いやー、単純にタナトス姉さんの料理だったからだと」
「まあ、お上手ね。うふふ、それだと光栄だけど。他にもカレーライスやハンバーグがお好きだから今度作って差し上げたら?」
「それいいかも! あ、でもわたし、料理には自信がないから今度教えてくれる?」
「ええ、もちろん。イカロスちゃんにだけ教えたら不公平だものね」
タナトスとハーピー妹がキャイキャイとガールズトークで華を咲かせる。というか、人の個人情報をそう易々と開示しないでほしいんですけど。
カレーライスやハンバーグが好きなのは事実だ。子供っぽい嗜好をしているとは自分でも思うが、美味しいものは美味しいんだもの!
「では、いただきます」
気を取り直して添えられた箸を手に肉じゃがを口に運んだ。隣でジーっと見つめてくる二つの目を極力頭の片隅から追い出して味わうように咀嚼する。
(懐かしい味だ……記憶にあるものとは全然似ても似つかないのに、それでもある種の懐かしさを感じる……。これが、お袋の味ってやつなのかな?)
少し濃い目の味付けだがくどくはない。ジャガイモは荷崩れすることなく、しっかりとした歯応えを残している。
俺は料理評論家ではないから詳しいコメントはできないが、一言で言い表すなら――、
「美味いっ!」
これしかないだろう。
「ありがとうございます、マスター」
箸が進む進む。これで白いご飯もあればベストだな。
瞬く間に平らげ、ご馳走様でしたと手を合わせた。
「いやー、美味かったよ。タナトスに教えてもらったとはいえ……料理は初めてだよな?」
「はい。調理技巧プログラムおよびレシピも一通りプログラムされていますが、実際に料理を行ったのは今回が初めてです」
「そっか。どうだった? 実際にやってみて。プログラム上のものとは勝手が違うんじゃない?」
「はい。肘の角度は八十度、手首は前腕の延長、包丁を握る握力は三・五キログラム。包丁で効率的に食材を刻む数値を学習しました」
「そ、そう。よかったね……?」
「はい」
意図していたものとは違う答えが返ってきたが、本人は満足そうだから別にいいか。
「さて、最後は――」
「はいはーい! わたしのですよマスター!」
元気よく手を上げるアストレア。そう、残るはおバカの代名詞であるアストレアの料理だ。
本人には悪いが、彼女の料理が一番不安だ。何せなにを仕出かすかまったく予想がつかない。しかも純粋に善かれと思っての行動であり、悪気がないだけ立ちが悪い。相応の覚悟を持って臨まないと豪い目にあうのは必須だ。
「あたし、ダウナーの料理を見てこれだって思ったんですよ! むっふっふー、あたしの料理を見たら、マスター驚いちゃいますよ」
固唾を呑んで見守る中、意気揚々と意気込むアストレアは自身の料理を披露した。
「――――は?」
ソレを目にして思わずそんな声が出てしまった。隣ではこの料理を作った張本人が「ふふん、どうです? 凄いでしょ!」と得意気な顔で胸を張っている。
「うわぁ、あれはないよ……」
「あらあら……アストレアちゃんにもちゃんと料理を教えてあげた方がよかったわね」
「あれって、料理? わたしのより酷いじゃない」
ハーピー妹、タナトス、ニンフがそれぞれ感想を述べる。タナトスは困り顔で頬に手を当てているが、それ以外はひきつった顔で目の前の料理を凝視していた。
アストレアの料理は一言で言うと――、
「……魚、だな」
「魚ですね」
「ピチピチ跳ねて、活きの良いお魚ですわね」
「というか、生で出すなんてありえないでしょ」
「鯖……海水魚、日本列島近海等に生息。体長は一歳で二十四センチ、二歳歳で三十一センチ、三歳で三十五センチ、四歳で三十七センチ、五歳で四十センチ程まで成長。全長は四十四センチのため約五歳半ですね」
絶句していた俺の前には一匹の魚が白い皿の上に横たわっていた。ご丁寧に脇にある小皿には醤油と少量のワサビを備え付けて。
呆れた口調のニンフが肩を竦め、意外な知識を披露するイカロス。
タナトスの言う通りまだ息があり、皿の上でピチピチと跳ねている。
「ダウナーたちが食べるご飯に『おさしみ』というのがあるんです! こっちの醤油を浸けて食べて下さい!」
「……これを?」
「そうですが、なにか? ……あっ、そっか!」
マジでこれを食べるの? という意味を視線に込めて恐る恐る訪ねるが、何を思ったのかアストレアは――、
「――えいっ」
ぶすっという音とともに二本の箸を魚に突き刺した。
言葉もないとはまさにこのことか。突き刺した箸がとどめとなり、それまで元気にピチピチと跳ねていた魚は二度と尾ひれを動かすことはなかった。
「お箸がないと食べれませんよね。さあ、どうぞ!」
ぐいっとぐいっと、と煽るエンジェロイドに嘆息する。ある意味、期待通りというかなんというか……。
「……タナトス」
「はい、ご主人様。アストレアちゃんはこっちに来ましょうね~」
「ええっ!? ちょ、なんで引っ張るんですかタナトス先輩! ああ! イカロス先輩もなんでご飯下げるんです!? 助けてください、マスター!」
マ~ス~タ~、とドップラー効果を残しながら部屋の外へ連れていかれるアストレア。タナトスの説教は恐ろしいからな、南無……。
イカロスに食器を下げてもらい食後のお茶を啜っていると、ニマニマしたハーピー妹が姉の背中を押してやって来た。
「どうでしたか、マスター?」
「うん、一部はアレだったけど、みんな初めてにしては良い出来だったよ。美味しかった」
「そうですか。イカロスたちも喜んでいますよ。それはそうと、実はマスターにはまだ召し上がっていただいていない料理があるんです」
「おい、まさか……!」
それまで一言も口を開くことがなかったハーピー姉が焦燥を露にして勢いよく振り返った。口許を緩ませた妹はどこからともなくクロッシュが被された料理を取り出した。本当にどこから取り出した?
「実は姉さんも作ったんですよ~。マスターのためにね」
「きゃぁ――!」
顔を真っ赤にして奇声を上げたハーピー姉が自身が作ったという料理を取り上げようと手を伸ばすが、背後に回りこんだ妹に羽交い締めにされて身動きが取れずにいた。
「――っ! リリー、お前……っ!」
「いいじゃない。節介作ったんだから、マスターに食べてもらおうよ。さっ、マスター、召し上がっちゃってください!」
「ん、じゃあ節介だし、いただきますかね」
ハーピー妹に促されてクロッシュを外す。ちなみにハーピー妹の愛称はリリアだ。姉の方はミリアである。なぜこのような愛称になったかは未だ解明されていない。気が付けばこの名前で定着していたのだ。
「あぁ……」
項垂れるハーピー姉を尻目に彼女の料理をマジマジと眺めた。
「これは、おにぎり?」
そう、彼女の料理は二個のおにぎり。三角形ではなく歪な円形のそれは白米を海苔で包み、一見すると砲弾のようにも見える。
「なんでおにぎり?」
首を傾げたニンフの問いに俯いて指をもじもじと合わせていたハーピー姉は羞恥で悶えながらも答えた。
「その……私ってほら、タナトス姉さんと違って不器用で料理できないし……リリーに聞いたら、自分が作れるものにしたらって言うから……ならせめて、下手なものを作るよりかは簡単なおにぎりをと思って……だから、その……」
かあっと顔を赤らめ、再び俯く。
「ああっもう! 可愛いなぁ、姉さんは!」
「ちょっ、こら、抱きつくな!」
姉妹でスキンシップを図るなら、おにぎりを一つ手に取った。
(うーむ、なるほどねぇ。まさかハーピー姉が――ミリアがそんなことを思って作ってくれたとは……)
なら、作ってくれたミリアのためにも、美味しく頂きましょう!
「いただきます」
「あっ――!」
茫然とこちらを見つめるミリアの前で大口を開けてかぶりついた。
(強くにぎり過ぎたのかちょっと堅いけど……うん、塩も効いていて美味い)
何より、不器用ながらも俺のために一生懸命作ってくれたという、その心遣いが堪らなく嬉しい。
「うん、美味い!」
「ホントですか!? ……よかった」
「よかったね、姉さん」
安堵の息を洩らすミリアを見て我がことのように喜ぶリリア。仲の良い姉妹愛に自然と俺の顔もほころんだ。
「今度から夜食はミリアに頼もうか」
「いいですね、それ! 姉さんもよかったじゃない!」
「あ、ああ」
「いいなー、ハーピー……。わたしも頑張って料理覚えて、マスターにもう一度食べてもらうんだからっ」
「私も、頑張る。……マスターの撫で撫で」
芳しく騒ぐ四人の姿に苦笑が浮かぶ。
「平和だなぁ……」
刺激が足りないのは少々考えものだが、それでも充実した日々を過ごせている。
――願わくは、この日常が明日へと続くように。
後書き
感想および評価切実に募集中!
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