久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十一話 鍛えた結果その三
「ギリシアの竜とはまた違うものです」
「そうだったんですか」
「そうです。それでギリシアの竜は」
「力なんですか」
「古代は神でもありました」
「竜神ですか?」
「蛇の場合もあります」
龍、竜もだがその姿は蛇から想像されていったものだ。そこに恐竜、人々が見たそれも重なっているという説もある。
「しかしどちらにしろです」
「力ですか」
「竜は力の象徴です」
古代ギリシアではそうだったというのだ。
「あの竜も他の竜達もです」
「そして蛇もですか」
「私の妹」
「妹?」
「あっ、いえ」
失言に気付いたのか。声は言葉を一旦止めた。そのうえで私服に着替えて己の部屋のベッドに座った上で自分に話す上城にこう言った。
「私の親しかった知り合いの」
「その方に?」
「お兄さんがいるのですが」
失言に気付いたのかいささかわかりにくい言い方をする。聞いている方は中々わからない言い方でだ。
「そのお兄さんもまた蛇をです」
「蛇をですか」
「倒しています」
「ううんと。よくわからないですけれど」
実際に声の煙にまく様な喋り方に首を捻る上城だった。
そのうえでだ。こう声に問うたのである。
「とにかく。その人は蛇を倒したんですね」
「はい、そうです」
「そうなんですか」
「そうです。蛇をです」
「つまり竜を。神様をですね」
上城は声の話を彼なりに噛み砕きながら述べた。
「成程。そうなんですか」
「そうです。竜、蛇は」
「神様でもあるんですか」
「ギリシア神話には百の首を持つ不死身の竜もいます」
「不死身なんですか」
「はい、不死身です」
死なないというのだ。例え何があっても。
「その竜は」
「あの、その竜は今倒した竜よりも」
「強いです」
声ははっきりと答えた。
「それもかなり」
「ですよね。頭が百もあって」
「不死身です」
「あの竜は不死身ではなかったですから」
「しかもその竜はあまりにも巨大です」
「じゃあさっきの竜よりも」
「あれは小さい位ですね」
竜にしてはだというのだ。
「まだ」
「その首が百ある竜と比べたらですか」
「身体を伸ばすと世界の端と端に着くまでと言われています」
ギリシア神話でよくある表現だ。巨人なりその竜なりでそうした巨大な存在もままにしているのである。
「ですから。怪物としては」
「ちょっと出ないですか」
「普通の人間が戦えるものではないので」
それでだというのだ。
「ないです」
「そうなんですね」
「はい、流石に」
「ですか。不死身ですし」
「そうした怪物は出ません」
「それはどうしてですか?」
「人が倒せるものでなれば」
声は彼に言う。
ページ上へ戻る