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ナブッコ

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8部分:第二幕その三


第二幕その三

「では会おう。それでよいのだな」
「左様です」
「祭司長」
 そこで丁度マントを羽織ったイズマエーレがやって来た。見事な格好であった。
「こちらですか」
「一体何用だ」
 ザッカーリアは彼をジロリと睨み据えて問うた。
「同胞を裏切った者が」
「祭司長」
 従者がザッカーリアを宥めようとするがそれは適わなかった。彼は尚もイズマエーレを見据えて詰め寄る。
「おかげで我等はこの堕落の街に連れて来られた。誰のせいだと思っておる」
「ですが命だけは」
「命!?そんなものが何になる」
 彼はそれを言い捨てた。まるで塵芥の様に。
「そんなものを護って生き長らえるより信仰を抱いて死んだ方がましだ」
「では死なれるというのですか」
「私は死なぞ恐れはしない」
 ザッカーリアはこう言い切る。
「民もまた信仰に殉じるのですか」
「その通りだ」
 返答には何の迷いもない。
「何があろうともな。御主とは違うのだ」
「では民達はどうなるのですか」
 彼はそれを問う。
「やはり神に殉じるというのですか」
 もう一度それをだ。
「どうなのですか」
「今言った通りだ」
 そしてザッカーリアの言葉も変わりはしない。
「それこそがヘブライの民の務めだ」
「それは違うのではないでしょうか」
 イズマエーレはあえて異議を申し立てる。
「何ィ!?」
「確かに私は神殿をバビロニアに手渡しました」
 それは自分でも認めた。拭い去ることのできない事実であると。
「しかし。民は皆生きているではありませんか。神を讃える民達が」
「恥辱に責め苛まれているがな」
「彼等はきっとエルサレムに戻ります」
 イズマエーレは言う。
「それは間も無く果たされるでしょう」
「何だ?バビロニア王の気まぐれか!?」
 ザッカーリアの言葉は底意地すら悪くなっていた。いい加減イズマエーレと話すのが苦痛になってきていると言わんばかりである。実に不愉快そうである。
「どうなのじゃ?」
「気まぐれではありません」
 イズマエーレはそれを否定する。
「それは確かなものです」
「ほう、確かか」
 ザッカーリアの言葉がさらに底意地悪い性質になろうとしていた。
「はい、私もヘブライの者です」
 イズマエーレも引かなかった。
「神に誓って」
「では聞く」
 ザッカーリアの目にも剣呑な光が宿る。
「そなたはこのバビロンから民を救い出せるのだな」
「必ずや」
「ふむ」
 ここでイズマエーレの目を見る。そこには邪な光は何もなかった。
「わかった。では一度は信じよう」
「有り難い御言葉」
「しかしだ。若し偽りあらば」
「その時は喜んで裁きの雷を受けましょう」
「よし、行くぞ」
「兄上」
 ここでふっくらとした顔立ちの若い女性がやって来た。小柄でその金髪と青い目が目立つ。
「ここにおられたのですか」
「アンナか」
「はい」
 その女性はザッカーリアに頷いた。
「大変なことになりました」
「どうしたのだ?」
「ここにいては危険です」
「賊なのですか?」
 イズマエーレが険しい顔でそれに問う。
「ならば私が」
「私のことはいいです」
 だがアンナは自分はいいとした。
「ですから彼女達を」
「彼女達!?」
「そうです」
「イズマエーレ様」
「貴女は」
 そこにやって来たのはフェネーナであった。ヘブライの同胞達も一緒である。
「どうされたのですか、一体」
「大変なことになった」
「反乱だ」
「反乱!?」
「この王宮でか」
 イズマエーレとザッカーリアは同胞達からそれを聞いて顔を顰めさせた。
「祭司長」
「うむ」
 そしてまずは顔を見合わせた。それからまた同胞達に問うた。
「まずは落ち着くのだ」
 ザッカーリアが同胞達に厳かな声で語り掛ける。
「よいな。そして落ち着いて話せ」
「はい」
「それでは」
「ではあらためて聞こう」
 少し時間を置いてからまた問うた。
 
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