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万華鏡

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第二十二話 夏休みその七

「そうよね」
「みたいね、実際にその相手の人が日本に来たらしいし」
「ってことは鴎外って」
 琴乃はその話から鴎外の人間性をこう評した。
「最低?」
「琴乃ちゃんもそう思うわよね」
「だって。女の子弄んで妊娠させてよね」
「捨てたからね」
「それって最低じゃない」
 見れば琴乃はその顔を顰めさせている。
「文句なしに」
「私もね。舞姫は中学の時に読んだけれど」
「そう思ったのね」
「太宰の斜陽もだけれど」
 こちらは没落した家のお嬢さんを篭絡して妊娠させる話だ。
「あの作品もね」
「最低の人間が出て来る作品なのね」
「そうよね。夏目漱石の作品もね」
 今度はこの作家である。
「こころはね」
「ああ、あれね」
「何かうじうじした先生が出て来る」
「あの作品ね」
「あの作品の先生だけれど」
 実質的に主人公と言っていい、主人公は語り部だがその主人公が見た先生が中心になって話が進むのだ。
 里香はその先生の話をする。
「高等遊民っていってね」
「高等遊民?」
「っていうと」
「働いていない人だから」
 結婚していたがそうしていた、ただ日々を空虚に、後悔を胸に抱いてそのうえで暗い日々を送っていたのである。
「ニートになるのよ」
「今で言うとよね」
「そうなるわよね」
「これって多分」
 里香は浮気をした、その浮気の相手はというと。
「オネーギンね」
「オネーギン?」
「何、それ」
「ロシア文学でね」
 そちらだった、里香の浮気相手は。
「プーシキンって人が書いた作品だけれど」
「その作品の主人公があのね」
「ニートなのね」
「今の日本で言うとそうなるかしら」
 こう言ったのである。
「貴族で生活には困らなかったみたいだけれどね」
「オネーギンねえ」
「その主人公もなの」
「そうなると思うわ。それで先生だけれど」
 話はこころに戻った。
「あの先生も今で言うニートだし」
「ああ、後あれよね」
 ここでまた景子が言った。
「武者小路実篤の小説って、お兄ちゃんが言ってたけれど」
「白樺派の人よね、確か」
 琴乃は自分が習ったことから景子に問うた。
「志賀直哉と同じ」
「そうなの、その人の作品がね」
 どうかというのだ、その武者小路実篤の小説は。
「恋愛小説だって、殆ど全部ね」
「白樺派とか純文学とか難しい話抜きにしてなんだな」
「ええ、お兄ちゃんそう言ってたのよ」
 景子は美優にも話した。
「読んでみたらそうだったって」
「へえ、面白いな」
「それも舞姫みたいな外道な主人公じゃなくて」
 森鴎外の人間性については今は色々と言われている、特に陸軍軍医総監としての脚気にまつわる話では批判が多い。
「純愛小説だって」
「ふうん、そうなの」
「そうみたいよ」
 景子は彩夏にも述べた。 
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