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戦国異伝

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第百十九話 一枚岩その九

「急に三好家に仕官されましたが」
「そこからですな」
「まさに瞬く間にです」
 三好家の重臣となりそしてだというのだ。
「主家を根元から枯死させました」
「乗っ取ろうとしましたな」
「公方様も殺し大仏殿も焼いています」
 まさに悪の限りを尽くしている。
「そうしたものを見ていますと」
「重く用いるのは危険ですな」
「今でも危ういかと」
 明智は松永への警戒の念を隠せない、顔にもそれが出ている。
「毒を用いるのも得意の様ですし」
「それはそれがしも聞いています」
「あの御仁の周りではとかく怪しい死が多いです」
 そしてそれがそのまま彼の利になってきているのだ、これでは誰もが思うことだった。
「ですから余計に」
「除くこともですな」
「考えておくべきかと。公方様もそう仰っていますし」
 義昭にとっては松永は兄の仇に他ならない、そう言うのも当然のことだ。
「殿だけは笑って傍に置かれていますが」
「それに羽柴殿ですな」
 またこの名前が出た、最早織田家において羽柴はまさに木綿の様になっている。
「あの方も松永殿とは親しく付き合っておられます」
「弟殿には止められている様ですが」
 だがそれでもなのだ。
「親しくされておられますな」
「家中でそうしているのは羽柴殿だけです」
 信長以外には彼だけである。
「他には誰もおりませぬ」
「羽柴殿は誰とでも仲良くされる方」
 無論彼等ともだ、彼の天性の人たらしの才である。
「それはよいことですが」
「相手が相手ですからな」
「左様です」
 まさにこのことだった。
「羽柴殿にとっても危ういですが」
「しかし羽柴殿は危険に敏感な方」
 だからこそ瞬く間に頭角も現したのだ、戦の場でそれを察して難を逃れてきたのだ。
「それを察しておられると思いますが」
「殿もですな」
 信長もだというのだ。
「あの方もまた」
「察してそのうえで傍に置かれている」
「では松永殿は危険ではない」
「そうなるでしょうか」
 こうした話になった、そしてだった。
 明智はあらためてこう細川に話したのである。
「結論としましては殿がお決めになられることです」
「それに尽きますか」
「はい、殿なら正しいことをお決めになられます」 
 信長のこれまでのことを見れば信じられるということもこの言葉の中にあった。
「ですから」
「そういうことですな。それでは」
「はい、その様に」
 こう細に述べてこの場は終わった。次の日明智は信行、そして土佐から来た者達と共に都を整えていた。その中でだった。
 明智は信行にその土佐者達をこう紹介されたのだった。
「この者達です」
「土佐から都に来られた方々ですか」
「手伝いとして来てもらいました」
 こう明智に話す。
「何分都も山城もやることが多く」
「鴨川も治められるとか」
「はい、あの川は常に乱れていましたが」
 院政を敷いていた白河法皇ですらどうにもならなかった、とかく鴨川の乱れは都にとって厄介なものであった。 
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