魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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無印編 破壊者、魔法と出会う
5話:猫とじゃれるは俺と幼なじみと金髪少女
前書き
遅くなっちゃいました。第五話です。
「ほ~らユーノ、おいでおいで~」
「キュッ」
「よしよし、ユーノは賢いね~」
美由希さんに呼ばれ、テーブルの下を駆け抜けユーノは美由希さんをのぼる。美由希さんはのぼってきたユーノをなでる。
ユーノはあれでも魔導士なんだよな~。世の中って不思議だ。
すると部屋の扉が開き、奥から恭也さんがやってきた。
「なのは、まだか~?」
「う~、ごめ~ん!もうちょっと~!」
恭也さんの言葉に、奥から返事が返ってくる。どうやら準備に手間取っているようだ。
「あれ?今日はどっかお出かけ?」
「あぁ。月村家まで、なのはと士がすずかちゃんにお誘いいただいたらしくてな」
「士君も?」
「えぇ、まぁ」
「へ~…。で、恭ちゃんは忍さん会いにいく、と」
「まぁ…なのは達に付き添いがてら、な」
そう、今日はすずかに二人でお茶会に誘われている。因にアリサも呼ばれてる。
と、丁度その時奥からなのはが、自ら纏めたツインテールの一本をピョンと跳ねらせながら入ってきた。服装は少し濃いオレンジ色の服に赤のスカート。いつもの外に出る格好だ。
「お待たせ~!」
「じゃあ行くか。バスの時間、ぎりぎりだぞ」
「は~い!ユーノ君、おいで」
「キュッ」
「士の方は?」
「勿の論、万端ですよ」
なのはの声に美由希さんの元にいたユーノがなのはの肩までのぼってきた。
因に俺は緑色の長ズボンに、袖が肘ぐらいまである、黒字で『唯我独尊』とプリントされた灰色のシャツ。その上に黒の長袖の上着を着た格好だ。
そして俺の胸のあたりには首からかけた例のトイカメラ。それと肩にショルダーバックを背負っている。右手首には待機状態のトリスがいる。
その後、美由希さん見送られ高町家を出発。すずかの家、月村家の近くで止まるバスに乗る。そのバスの窓から見えた海の景色が結構絵になっていたので、数枚写真におさめておいた。
そして、無事月村家へ到着。なのはがインターホンを押すと……
「恭也様、なのはお嬢様、士様。いらっしゃいませ」
「あぁ、お招きに預かったよ」
「こんにちは~」
「こんちは~」
中から月村家のメイド長である、『ノエル・K・エーアリヒカイト』さん。少し無口だが、笑顔がきれいな人だ。
ノエルさんに案内され、とある一室に向かう。そこには既に来ていたアリサと、呼んでくれたすずか、そしてすずかの姉の『月村 忍』さんと、すずかの専属メイドの『ファリン・K・エーアリヒカイト』さんがいた。
「なのはちゃん、士君」
「すずかちゃん」
「よっ」
「恭也、いらっしゃい」
「あぁ」
俺達の挨拶が終わったところで、忍さんが恭也さんに歩み寄った。二人は高校の同級生で、見るからに青い春を満喫している。
「お茶をご用意いたしましょう。何がよろしいですか?」
「任せるよ」
「なのはお嬢様と士様は?」
「私もお任せします」
「俺も同じく」
「かしこまりました。ファリン」
「はい。了解です、お姉様!」
今の会話からもわかる通り、ノエルさんとファリンさんは姉妹。しかしどうも姉妹にしては似ているところが少ない姉妹だ。
二人はそろってこちらにお辞儀をし、そろって部屋から去っていった。恭也さんと忍さんも、腕を組みながらうれしそうに(忍さんは特に)部屋を後にした。
残されたなのはは、すずか達が囲んでいるテーブルの、猫が座っている椅子に行き、先客の猫を抱きかかえ腰を下ろした。
俺?俺はそこの床に座って、猫のかわいらしい写真を撮り始めた。
「相変わらずすずかのお姉ちゃんとなのはのお兄ちゃんは、ラブラブだよね~」
「見るからに楽しそうだもんな」
「あはは…うん。お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってから、ずっと幸せそうだよ」
「家のお兄ちゃんは…どうかな…」
「少なくとも俺には、少し丸くなったように思えるぞ」
「にゃはは、そうだね。前より優しくなったかな…。それに、よく笑うようになったかも」
そんな何気ない談笑をしている俺達。そんな中、なのはの鞄から出たユーノが、一匹の猫に目を付けられているのを、横目で確認する。
「そういえば、今日は誘ってくれてありがとね」
「ううん。こっちこそ、来てくれてありがとう」
「今日は…元気そうね」
「へ?」
「なのはちゃん、最近元気なかったから…。何か心配事があるなら、話してくれないかなって…三人で話してたんだけど」
「…すずかちゃん…アリサちゃん…士君」
すずかの話を聞いたなのはは、順々に俺達の顔を見ていく。アリサに至っては、紅茶を飲みながら器用に片目だけでウィンクじみたことをした。
「あ~、勘違いするなよ。俺は二人に最近お前の様子が変だけど、家ではどうなのとか聞かれただけだ」
「も~、素直じゃないんだから」
「お前が言うな、生粋なるツンデレ少女が」
「なっ、ツンデレって何よ!」
「今度機会があって、俺の気が向いたら教えてやる」
「む~!!」
お、アリサがむくれてやがる。一枚撮っとこ。
カシャッ
「あ、何許可なくアタシの顔撮ってんのよぉ!?」
「許可なんか必要ないだろ、写真の一枚や二枚」
「撮るんだったら、もう少しかわいい顔にしたのに」
「かわいい?プフッ」
「ちょっ、何笑ってんのよ~!!」
アリサとそんな口論をしていると、突然何者かの悲鳴が部屋に轟いた。その悲鳴の主はユーノ。先程目をつけられた猫に追いかけられていた。
「あっ、ユーノ君!?」
「アイン、ダメだよ!」
お、これまた良い絵だ。一枚撮ろ。
そう思い、一枚写真を撮ろうと構えた時、ユーノ達の進行方向、部屋の出入り口に運悪くファリンさんがやってきてしまった。
「は~い、お待たせしました~!イチゴミルクティーと、クリームチーズクッキーで~す!」
こちらの状況も把握せず、自らが持ってきたものの紹介をしたファリンさん。そこに逃げてきたユーノが、ファリンさんの足下を器用に走り始める。
それを確認したファリンさんは、前に進もうともうまく行けず、くるくるとその場で回り始めてしまった。結果、自ら目を回してしまい、そのまま後ろに倒れそうになる。
「(まずっ!)はっ!」
俺は急いでカメラから手を放し、ファリンさんの元へ行く。そしてファリンさんが持っていたお盆を奪いとり、右手の平でお盆の上のものが落ちないよう、うまくバランスを保つ。残った左手を倒れそうなファリンさんの頭の支えに使い、ミッションコンプリート。お盆に乗ったカップやクッキーも一個も落とすことなく、ファリンさんを支えることに成功した。
「「「おぉ~!」」」
「はっ!ご、ごめんな「しぃ~」?!」
「今騒ぐとあなたのお姉さんや恭也さん達に聞こえて、ちょっと面倒なことになるかもしれないから。それに、大切な友人のメイドさんなら、助けて当然ですよ」
「は、はい……」
そう言ってなだめると、少し顔を赤くして返事をするファリンさん。さすがにこの格好はマズいかと思い、すぐにファリンさんの体を起こす。
見ていた三人を見ると、アリサとすずかは少しあきれたような顔を、なのはは少し羨ましそうな顔をしていた。
あれ?なんか表情可笑しくね?こんなときにする表情じゃないでしょ。
アレから少しして、今は所変わってすずかの家の外にあるテーブルにて、ファリンさんが持ってきてくれたイチゴミルクティーとクッキーを並べ、皆仲良く談笑していた。
「しっかし、相変わらずすずかん家は猫天国よね~」
「少なくともアリサより可愛げがあって、撮る価値がある」(カシャッ)
「ちょ、何よそれ!?」
「あはは…」
「ほんと、子猫達かわいいよ」
「うん。里親が決まっている子もいるから、お別れもしなきゃならないけど…」
「そっか…ちょっと寂しいよね……」
すずかから猫事情を聞いて少し寂しそうな顔をする三人。俺はそれを聞きつつも、カメラのレンズから目を離さない。
「人生、出会いがあれば別れもある。だけど、それを繰り返して成長する。それが人間だ」
「…なに大人ぶったこと言ってんのよアンタは」
「はっ、ほっとけ」
「…そうだね。それに、子猫達が大きくなっていってくれるのは、うれしいし」
「そうだね」
アリサはすずかの言葉にうなずきながら、足下にいた一匹の猫を抱きかかえた。
「士、写真撮って」
「えぇ~、何でお前に命令されなくちゃいけねぇんだよ」
「いいから撮りなさいよ!私が許可して上げてんだから!」
「あ、士君私にもお願い」
「わ~たよ、撮りゃいいんだろ、撮りゃぁ」
そうぼやきながらレンズを覗き、アリサ達にピントを合わせる。
刹那、頭に何か、変な音が響く感覚が押し寄せてくる。これは…ジュエルシードか!しかも…結構近いか。
「…士君?」
「んぁ、あぁ悪い。ちょっとピントが合わなくて」
「しっかりしなさいよ、まったく…」
すずか達の言葉に応えながら、俺はなのはを横目で確認する。表情から見て、どうやら気づいているらしいが、どうすっか。
「んじゃ、撮るぞ」
カシャッ、カシャッ
「ん、ありがと士。現像したら頂戴ね」
「私のも」
「あぁ、必ず」
その時、なのはの膝の上にいたユーノが、唐突に飛び降り森の中へと駆け抜けていった。なのはは席から立ち上がり、ユーノがかけていった方向を見る。
「あらら、ユーノどうかしたの?」
「うん。何か、見つけたのかも。ちょ、ちょっと探してくるね」
「一緒に行こうか?」
「すぐ戻ってくるから、待っててね」
そう言ってなのははユーノが向かった方向に走っていった。すずか達はそれを少し心配そうに見ていた。
「さて、追いかけにいくか」
「え、行くの?」
「あぁ。なのはに何かあったら、あのシスコン兄貴に何されるかわかんねぇし」
「じゃ、じゃあ私も」
「人数多ければいいって訳じゃないだろ。それに二人はお嬢様。何かあったら俺も大変な目に遭いそうだからじっとしててくれ」
「…わかったわ」
「それじゃ、お願いね」
その言葉に黙ってうなずきながら、俺はなのは達が目指した森の方へ入っていく。
少し歩くと、ジュエルシードの発動した反応が感じられた。俺は走る速度を少し速め、木が出来るだけ生い茂っている場所で止まる。
すると丁度、周りの景色が変化した。なんか…景色の色が少しあせた感じだ。
「これは…」
〈結界魔法ですね。外と中を区別し、時間信号をずらすという魔法です〉
「え~っと、つまり…?」
〈魔法による出来事を他人に見えなくすることが出来ます〉
「あぁ、なるへそ」
トリスの二回目の説明で納得する。とどのつまり、便利な隔離魔法、と言った感じかな?
「そんじゃま、状況が状況なので」
〈はい、マスター〉
トリスはそう短く答えると、ディケイドライバーへと変わる。俺はそれを腰に当て、一枚のカードを取り出す。言わずもがな、「ディケイド」のカードだ。
「変身!」
〈 KAMEN RIDE・DECADE! 〉
音声と共に俺の周りに十の人型のものが現れる。そして、それが全て俺の体に重なった後、俺の体はディケイドへと変わる。
「よし、行くぞ」
私、高町なのはは、現在ジュエルシードによっておそらく願いが叶えられたすずかちゃんの子猫を発見しました。その叶えられた願いとは―――
「多分、あの猫の大きくなりたいって思いが、正しく叶えられたんじゃないかな…」
「大きくなりたいって、確かに大きくなってるけど…」
すずかちゃんの子猫は、すずかちゃんのお庭の木より、少し高いぐらいに大きくなってました。ただ…姿はそのままで……
「だけど、このままじゃ危険だから元に戻さないと」
「そうだね。さすがにあのサイズだと、すずかちゃんも困っちゃうだろうし」
その会話中に目の前を歩く巨大化した子猫。襲ってくる様子もなければ、その場から離れるそぶりも見せない。
「それじゃあ、ささっと封印を…。レイジングハート!」
私のデバイス、レイジングハートを起動させようとした、その瞬間。私の後ろから黄色の閃光が飛び出し、巨大化した子猫に命中した。命中した子猫は、悲鳴をあげながら少しよろける。
すぐに振り向くと、その先の電柱の上に、黒いマントを羽織った金髪の女の子が立っていた。
「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」
〈 Photon lancer・Full auto fire 〉
女の子の声に反応して、女の子が持っていた杖から男の人の音声が流れ、さっきの閃光が連続で発射される。
「あっ!?」
〈 ATACK RIDE・BLAST! 〉
私の声と同時に、またも別の音声が響く。それは魔法と関わり始めてから度々聞くもの。そしてその音声が聞こえた方向から、銃声が森の中に響き渡る。
「おいおい。かわいい女の子が、巨大化したとはいえ子猫に躊躇なく攻撃するなんて。この世の中はほんとどうかしてるぜ、全く」
私が子猫の方を向くと、その足下に例のあの人が銃を構えてぼやいていた。
「なのは、僕達も!」
「あっ、うん!レイジングハート、お願い!」
〈 Stand by, Ready. Set up 〉
ユーノ君の言葉に私はうなずき、レイジングハートを起動させバリアジャケットを展開する。
「たく、ほんとどうなってんだ。この世界は」
俺が到着した時には、なのはとユーノ、そして金髪の女の子がいた。しかもその女の子は突如子猫に向かって魔法らしきものをぶっ放してきた。さすがに見過ごせないと、ライドブッカーで防いだ。
それでも尚、魔法を放ってくる少女。いつもの格好になったなのはも、子猫の上に立ち魔法を防ぐ。
「魔導士…しかも二人…」
少女が小さくそうつぶやくと、魔法の着弾点を子猫の足下に変更し、子猫を倒した。上に乗っていたなのはもそれによりバランスを崩すが、魔法を使ってゆっくりと降りてくる。俺は次の攻撃に備え子猫のそばまで下がる。
「大丈夫か」
「はい」
俺の質問に短く答え、金髪の少女を見据えるなのは。その少女はというと、電柱から飛び、近くの木に着地していた。
「一人はわからないけど、一人は同系の魔導士。ロストロギアの探索者か」
ロストロギア?なんだ、知らない単語が出てきたぞ?
「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス」
「…バル、ディッシュ……」
[おいトリス、知らない単語が出てきたぞ!?]
[インテリジェントデバイスは、簡単に言えば意思を持ったデバイスのことです。後で説明して差し上げますから、今はこちらに集中を]
[お、おう…]
「ロストロギア、ジュエルシード―――」
〈 Scythe form Set up 〉
「っ!?」
「―――申し訳ないけど、いただいていきます」
少女が持っていたデバイスから音声が流れ、デバイスは形を変える。それはまるで死神の鎌のようだった。
そして少女は、突如こちらに鎌を構えながら迫ってくる。
[嬢ちゃん、ジュエルシードは俺がやるから、そっちは任せた!]
[ふぇ~!?]
念話をなのはと繋ぎ、そう伝える。少女は一番近くにいたなのはに切り掛かるが、なのはは魔法を発動し、空へ逃げる。
〈 Arc saber 〉
「っ!?」
〈 Protection 〉
するとまたしても少女のデバイスから音声が流れ、少女は鎌を勢い良く振り抜く。すると鎌の刃だった部分が回転しながらなのはへ向かって飛んでいった。
なのははすぐに障壁を形成し、攻撃より身を守る。攻撃が障壁に当たったことで煙が上がるが、すぐになのはが煙の中から出てくる。
だが、それを見越してか、空に上がっていた少女が鎌の状態のデバイスを振り下ろす。なのははそれをレイジングハートで防ぐ。
「っと、子猫の方やんなきゃ」
そう言って戦いの観賞を止め、倒れている子猫に向き直る。
「トリス。出力を最小限にして封印したいんだが、可能か?」
〈勿論です。出来るだけこちらで調節しますので、マスターは気にせず…〉
「ぶちかませってか?」
〈 Sword mode 〉
俺はトリスの答えに少し不安げながらライドブッカーをソードモードへ切り替える。
「やるしかない、か…」
〈大丈夫です。私を信じてください〉
「ふっ、それも今更だよな」
と、鼻で笑いながら一枚のカードを取り出す。それは中央に金色に輝くディケイドのマークがあるカードだ。
「それじゃ、頼むぜ」
〈 FANAL ATACK RIDE・de de de DECADE! 〉
そのカードを挿入し、発動。音声のすぐ後にホログラム状のカードが数枚前に現れる。見た目あんま変わってないように見えるが……
〈 Dimension slash 〉
「はぁぁぁ、はぁっ!」
俺はホログラム状のカードを走り抜け、ライドブッカーを振り抜く。そのライドブッカーは、カードを通過したことにより刃の部分にマゼンダ色のエネルギーを溜め、威力を上げている。
横に一閃し、子猫は光り輝きながらみるみるその影を小さくしていき、最後には横に転がっている元のサイズの子猫と、その上に浮かぶジュエルシードが残っていた。
「ふ~、これで成功か」
〈 Yes master 〉
ジュエルシードを拾い上げ、なのは達が戦っているであろう方向に向いた。そこにはデバイス同士を向けた二人がいた。
「……………」
「…ジュエルシードの封印。あなたも魔導士、ですか……」
「まぁ、そんなとこ―――」
「ジュエルシードを渡してください」
「―――ってうぉ!?」
デバイスを向けるなのはをよそに、俺の後ろに回り込んでデバイスを振り下ろす少女。俺は素早く反応し、ライドブッカーで防ぐ。
「ディケイドさん!」
「こっちは大丈夫だ!嬢ちゃんは!?」
「私は無事です!」
それは良かった、といい少女をデバイスごと弾く。
「くっ……」
「君もこいつを狙ってる。それでいいな」
「………」
俺の質問に黙りの少女。黒いマントに黒のバリアジャケット。だが、その目は人を襲う、という目には見えない。何となくだが、どこか悲しい目だ。
そこで思考が停止する。次の瞬間、少女がデバイスを鎌の状態で襲ってきた。
「襲わずとも、目的を言ってくれれば渡せるかもしれねぇんだが」
「…おそらく言っても、無駄です」
「なんだそれ」
今度は少女が俺を押しのけるように弾くと、デバイスを振りかざす。
〈 Arc saber 〉
「くっ、はぁあ!」
振り下ろされ発射された魔力の刃を、俺はライドブッカーで一瞬受けるが、すぐに振り抜き魔力刃を弾く。
そしてもう一度お互いの武器を構え直す。
「「………」」
無言のまま、向かい合う俺と少女。
[(これじゃ拉致があかないな)トリス、ジュエルシードを]
[よろしいのですか?]
[よろしいも何も、そうしないと事態が収束しないだろ]
念話でトリスにいい、ジュエルシードを取り出す。受け取った俺は、それを少女に向かって放る。
「っ!?」
「なっ!?」
それを見たユーノは声を詰まらせ、少女も突然のことに慌てたようすで受け取る。
「これでいいんだろ」
「…何が狙いですか?」
「あぁ?別に狙いなんかねぇよ」
「………」
あの目だと、信じてくれていないようだ。まぁそんな簡単に信じろと言う方が難しいだろう。
しばらくにらみ合った後、少女は魔法を発動しその場から去っていった。
「…行ったか」
「何で…何であなたはジュエルシードを渡したんですか!?」
「ん?あの状況だと、それが妥当だと思ったからだ」
「だけど!」
「じゃあ何か。お前はあの状況で俺の助けなしであの少女を退けられたとでも?」
「それは……」
俺の一言に言葉を詰まらせるユーノ。
「図星、か」
「くっ…」
「ユーノ君…」
「悪いな。少女にも、前にお前らにも言ったが、俺はそんな石ころに興味はない。ただ……」
そこで言葉を切り、踵を返す。
「…アイツらに、人の命や笑顔を奪われたくない。それだけだ」
俺はそのまま振り返らずその場を去っていく。
「ディケイドさん……」
「………」
ディケイドさんが森の奥の方へ消えていき、私はあの人の名前をつぶやく。
「私、あの子に勝てなかった…」
「なのは…」
そう、勝てなかった。明らかに私より魔法が使えていて、私よりも速い。私は…ディケイドさんに守られたんだ。
あのまま戦っていたら、私…負けてた。
「…ユーノ君、私どうすればいいかな……」
「………」
「お~い!なのは~!」
その時、唐突に声をかけられる。声がする方向、後ろを見るとそこには黒い上着をきた、士君がいた。
「大丈夫か、なのは」
「う、うん…。士君、どうしてここに…」
「お前を捜す以外に何がある」
と、士君はやれやれといった顔をしてそう言いながら歩き出した。私は急いで士君の隣まで小走りする。なんか、心配かけちゃったのかな……
「…何悩んでんだ?」
「ふぇ!?」
「今のお前の顔、明らかに悩んでますって顔だったぞ」
「………」
追いついた私に、顔をのぞきながら聞いてくる。士君の言葉に顔が思わず俯いてしまう。ほんと、何でか士君には全部わかっちゃうんだろ。
「…まぁ、言いたくなければ、言わなければ良いんだけどよ」
「……ねぇ、士君」
「ん?」
「やりたいことがある時、それをやりきる為に何が必要なのかな…」
「やりたいことをやりきる為に、ねぇ…」
なのはの質問に手を顎に当て考える。
おそらく今の質問は、先程の戦いからのものだろう。いや、確実にそうだ。
しばらく考えた後、俺は一つの答えを導きだした。
「…それをやり抜く『覚悟』、かな……」
「『覚悟』……」
「そう」
なのはは俺の言葉を繰り返す。どうやら、何か思うところがあったのか、少し難しい顔をする。
「でも、それはただの『覚悟』じゃダメなんだ」
「え?」
「そのやりたいことを、ただ「やる」んじゃなく、それを最後まで「やり抜く」という『覚悟』だ」
「やり抜く…かぁ…」
それを聞いたなのはは空を見上げた。そして次に顔を戻し、こちらを見てきた時には、なのはの顔はいい笑顔になっていた。
「ありがとう、士君」
「どういたしまして。それじゃ戻るぞ。アイツらが心配してるだろうから」
「うん!」
俺がそう言ってすずかの家の方へ体を向けると、さっきまで弱々しかったのとは打って変わって、うれしそうな声が後ろから聞こえてきた。
するとすぐに俺の腕に温かい感触が感じられる。見ると、そこには俺の腕にしがみついてるなのはがいた。
「おい、なのは…」
「すずかちゃんのお家まででいいから…。いいでしょ?」
「…わかったよ」
「ありがと、士君♪」
俺はそれを無理矢理振りほどくことはせず、そのまますずかの家の方へと歩いていった。
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