インフィニット・ストラトス ~天才は天災を呼ぶ~
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第3話
その日、世界は騒然となった。
世界で初めてISを動かしてしまった少年『織斑 一夏』。 二人目にISを動かせることができた少年『御神 龍成』。 二人の日本人少年の処遇をめぐり、各国の代表が全く意味のない不毛な議論をかわす、国際首脳会議の最中、その少女は突然現れた。
各国の首脳陣が集まるとあって、その警備は厳重そのもの。 どんな高名な怪盗であろうと、ミッションをポッシブルにする男であろうとも、この会場に入ることは叶わないほどである。
ハイパーセンサーの技術を応用して作られた監視カメラの性能は、最早日常的な犯罪を全てなくせる程に強力だった。
その監視カメラが各所に張り巡らされているはずなのに現れた少女。
数十年前から異文化交流が盛んになり、多民族が多く訪れる事もざらになった現代の日本人にしては珍しく黒髪、黒目で十人中九人は端正な顔立ちだと言葉をかけるほどには美しい(残りのひとりは幼女好きの変態とか、熟女好きの愛好家などである)その少女は、【何事も】、【全く】、【違和感なく】、まるで始めからそこに居たかのように佇んでいた。
急に現れた少女に各国の首脳、それを護衛するはずのSP、会場に潜り込むことのできた報道陣、全てが惚けたように固まる中、まるで何事もないかのように某合衆国大統領に近づく少女。 SPが正気を取り戻した時には既に遅く、少女がテロリストだった場合、全く守ることもできずに大統領は殺されていたであろう距離にまで少女は接近していたのである。
それでも今まで各著名人を守ってきた矜持からか、なんとか大統領を守ろうとSP達が動き出そうとした時、
「はいこれ、ちょっと触ってみて?」
「あ、ああ」
その少女から無慈悲なる言葉がかけられた。
観衆がその少女の一挙手一投足に注目する中、まるで友達にでも話しかけるような気安さで某合衆国大統領に声をかける少女。 あまりの気安さに混乱の極みに達していた某合衆国大統領は差し出されたものがなんなのか、それがどれほどの危険性を持つものなのかどうかを考慮することなく触れてしまった。
——カッ!!!!
某合衆国大統領が少女の差し出したモノに触れた瞬間、とてつもない光が溢れ出した。 SP達は自分たちがついていながら大統領を守れなかったことを悔やみながら、後に来るであろう爆発の衝撃に身を強ばらせるのだった。
「何ぃ!!!!?」
果たしてその言葉は誰の言葉であっただろうか。
一向にこない爆発の衝撃に疑問を感じ、恐る恐る目をあけた皆が見たものは……、
今世紀最強の兵器であり、過去、現在、未来に置いても凌駕されることは無いと言われ、一機増えるだけで現在の国家のパワーバランスをひっくり返しかねない『マルチフォーム・スーツ』 【インフィニット・ストラトス】 通称【-IS-】 を纏う大統領の姿だった。
中世の騎士のような鎧を身にまとい、大きく張り出した推進装置はまるで天使の翼をイメージしたかのようである。 頭上には天使の輪のようにリングを組む無数の光の剣が荘厳な雰囲気を与えている。 背中に背負う超大口径砲撃銃(武装名:アトランティッド・カノンというらしい)が無骨ながら美しい光を放つ。 右の腕に付けられたガントレットから荘厳な光の粒子が溢れ出し、美しさと畏怖を与えると共に、左手に持つ大きなタワーシールドが一片たりとも攻撃を通さないと感じさせる。
そんな美しくも見るものを畏怖させる威圧感を放つISの中心では、未だに物事についていけずに困惑する大統領の姿があった。
「……は?」
「……へ?」
「お、成功成功。 ご協力ありがとうございました。 展開解除しますね」
会場の誰もが驚きの声を上げ、絶句している中、何やら嬉しそうな少女の声が響き渡った。 決して大きくないはずのその声は静まり返った会場には異様に大きな音に聞こえた。
「さてさて、次はっと……」
大統領に展開されていたISをさっさと元の待機状態に戻した少女は皆が見ている前でフッと消えた。 そう、消えたのである。
「総理ぃ~、これに触ってみてください」
かと思ったらいつのまに移動したのやら某国総理大臣の隣に移動し、大統領の時と同じように気安く声をかけ、先ほど大統領に差し出したものとはまた少し色合いの違うように見えるクリスタルを総理大臣に差し出した。
「う……? うむ……」
あまりの展開の早さに全くついて行けなくなっていた某国総理大臣は、やはりなにも疑問を挟むことなくそれに触れてしまった。
またもや強烈な光が会場を包む。
先ほどが中世の騎士ならこちらは幕末の志士か。 漆黒の羽織に身を包み、腰に長大な刀を履くその姿は従来のISしか知らない各国の首脳陣に驚きを与えるに相応しいものだった。
鎧というものが存在しないのである、……いや、鎧があたかも袴や羽織に見えるように作られていると言ったほうが正しいか……。
歴史を知る者には何をかたどったかわかるだろうが、幕末を駆け抜けた『新選組』と呼ばれる組織をモチーフとした服装、かっちりと着こなしている訳ではなく、胸元を大きく開く等どこかだらしのない様相だが、着崩していると言うわけではなく、あえてそう作られているのだということがわかった。 腰に履く長大な刀は鞘から抜き放たれてさえいないものの、その切れ味を容易に想像させる。 腰付近にささる、最近、戦闘の主流である銃も見た目のこだわり同様、片手持ち単発式の火縄銃型であり、製作者の細やかなこだわりが伺える。 威力は火縄銃など足元にも及ばないほどであろうが……。
現行第三世代型ISの開発に躍起になり、見た目を重視してこなかった研究達はまさに度肝を抜かれた。 操縦者の意思により、威力、発射速度、方向等を自由にかえることができる、イメージインターフェイスを搭載した兵器を作り上げることが第三世代型の最終目標であるが、ある特定の固定概念に囚われていた研究者達は、イメージインターフェイスを扱うのが人間であり、見た目によるイメージの確定がどれだけインターフェイスに反映されるか考慮していなかったのである。
展開された鎧を確認し、そのことを認識した各国の研究者たちは、その鎧があたかも第三世代のIS製造を躍進させるきっかけになるのではないかと考えた。
……だが、驚きで固まっているにも関わらず、総理大臣のIS姿を見た全員がこう思った。
「なぜこのISを『ブリュンヒルデ』が着ていないんだ!!」と……。
誰しも人生の後半に差し掛かったおっさんの大きく開けられた胸元など見たくもないものであるし、若く美しい『ブリュンヒルデ』にその長大な刀や袴姿が絶対に似合うと満場一致で思ってしまったのである。 あと、大きく開いた胸元にも多少の下心が満載であったが……。
そんな会場中の変な視線を一心に浴びながら全く心ここにあらずな状態の総理大臣は、またもかけられた声にハッとした。
「よしよし! 良好だね! じゃあ展開解除しますね」
あれよあれよと言う間にただのおっさんに戻ってしまった総理大臣。 ISを着た時の全能感が消えてしまい少し寂しくもあった。
「うんうん、ひとまず成功だね。 だけどあれだなぁ、やっぱりおっさんだと見た目がn……ブツブツ」
会場中の……いや、詰めかけていた報道陣からこの会議の映像が公開されればおそらく世界中の注目を浴びることになるであろう少女は、不穏なつぶやきを漏らしながら現れたときと同じように忽然と、つい先ほどまで注視していたはずが、瞬きを一つした次の瞬間には【始めからいなかった】かのように消えていた。
そこからはまさに大騒ぎ、ようやっと現れた、女性しか動かすことのできないはずのISを動かすことのできる少年達に続くように、三人目四人目のISを動かすことのできる男が現れたのだ。 しかも現在、世界の経済でもトップクラスの2国の国家元首が動かしたのである。
世界が騒然となるほどの大スクープだった。
『二大国家元首IS操縦』事件から少しして、各国のトップは秘密裏にあの少女に指名手配をかけた。
あの事件後にもう一度IS起動を試みた大統領及び総理大臣はISの起動が一切できなかったのである。 詰めかけた報道陣も呆れかえるほどISはピクリともしなかった。
そうなると疑問は尽きない。
——なぜあの時ISを機動できたのか。
世界各地で様々な議論が交わされる中、各国のトップが出した結論があの急に現れた少女だった。 まぁ、少し考えればわりと誰にでも思いつくことではあるが、各国の著名人たちが集まる会合ではさも『天啓を得たり』といった風情で発表されたのである。
そこから世界の対応は異常なまでに早かった。 あの会議の映像を解析、少女の身元を特定すると、各国それぞれが彼女を秘密裏に指名手配したのだった。 と言っても、どの国も彼女の詳細な情報を確保することはできなかったのであるが……。
それでもその容姿の特徴などから日本人であるということだけは確認が取れたので、一斉に動き出した。
【世界のどの国、どの企業にも知られることなく少女を確保せよ】と……。
もし彼女が持っていたISが従来の考えをブチ破る【"男"も動かせるIS】だったら……、そしてその製作者が彼女だったら……。 いや最低でも製作者と知り合いではあるだろう。
その少女を手にした自国に対する恩恵は計り知れないものがある。 支持を失いかけていた各国の首脳たちにとっては逆転の一手でもあった。
世界各国の首脳陣はそのことを瞬時に計算、そして会議の時に聞いたあの少女の気安い口調から、IS製作者『篠ノ之 束』とは違い扱いやすい人物だろうと、手に入れさえすれば情報の引き出しは容易だ……と、まるでもう少女を自分たちの陣営に引き込んだかのような錯覚に浸っているのであった。
一方、世界から指名手配された少女は……。
「文化も後進的なこの国で過ごさないといけないだけでも苦痛ですのに、その上サーカスまでさせられるなんてこの"イギリス国家代表候補生"『セシリア・オルコット』を侮辱しておりますわ」
「クヒヒッ、面白いことを言う金髪だなぁ、あッ、だめだ、笑ったら侮辱しちゃうことになっちゃう、う、うぷぷぷぷぷ」
「貴女!!! 私を馬鹿にしておりますの!!!?」
「いや、はは、してない、うぷぷ、しておりませんですぅ……プハッ、ダメだ、うぷぷぷぷ」
世界のどの国にも属さないとされる場所で、大笑いしていた。
後書き
ネタ解説
ミッションをポッシブルにする男:わかっていただけるかと思います。かっこいいですよね。
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