英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち
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11話
ロイドたち一行はジオフロントを地下に進む毎に数度の戦闘を潜り抜けていた。
といってもランディが本気を出せば一人で倒せるような小型魔獣が数匹だったために、ロイドとランディが突っ込めば撃破出来てしまい、エリィが最初に出鼻を挫くために撃ち込むぐらいしか出番がなかった。
「もう50アージュ(1アージュは1メートルなので50メートル)は降りたがどんだけ広いんだよ。窒息しないのは助かるが全体が空調ってどういうことだよ」
ランディは潜り始めて1時間なのだが戦闘警戒しつつ慎重に進んで地図があるからいいようなものの同じような構造の区画が積み重ねられ現在地を示す表示もなにもないのだ。
さらには区画毎に地ビラを開けば気圧の差なのか強い風が吹き込んできて時には魔獣も飛び込んでくる。そうやって進んでも最深部まで到達出来ない巨大さにはどこのダンジョンかと呆れていた。
「ジオフロントが大きいのは仕方のないことなの。人口増加を見込んで施設を増設出来るようにかなり余裕を持って作られていてここの空調施設がジオフロントや各施設の空気循環を担っているの」
こういった事柄に詳しいエリィが説明したのだが、さすがに大き過ぎると内心ではわかっていた。
こんな巨大な空間を作らなくても空調装置がいくつかあればあれば地上の空気を取り込めるからだ。
都市開発計画は市民の生活水準向上を目的にした公共事業だ。だから巨大であればあるだけ工事が続き、また地下の工事はそれだけで地上の建造物よりも巨額な建設が必要になり、受注業者と癒着した議員たちが後を絶たない。
どこの国でもある政界と経済界、産業界の癒着であるが、このクロスベルではそれが財政黒字が続いているが故に公共事業だけが行え規制もされず経済を回すために黙認されている。
(このジオフロントの深さが腐敗の深さかしら)
訳もなくそう思って進んでいると子供の泣き声が聞こえてきて一行は仰天した。公式的には一般人立ち入り禁止だからだ。
「なんで子供が」
「とにかく探すのが先だ」
ロイドが即決して大声で呼ぶと子供の声の反応があったが声がくぐもって反響していることから周囲を見ると、人が入れそうなほどの巨大な通気口やパイプが張り巡らせており建設途中で入り込めるようになっており、その中にいるのがわかった。
だが、声の感じからかなり奥の方にいる感じがする。
するとティオが突然詠唱を始めて杖が起動した。
アーツでも使うのかと思ったのだが、何もおきず、ティオは奥の方に移動してます。それに魔獣が何匹かいると言い出した。
ロイドたちは何をしたのかわからなかったが、とにかくその話を信じて人命優先で後回しにした。
問題は通気口が4人でこのまま入っていくと身動き出来ないぐらいの広さなことだ。
「リーダー、あの中で戦闘になれば俺たちじゃ武器の取り回しが利かないぞ」
通気口やパイプは人一人余裕で歩けるぐらいだがランディは少し屈まなければならない。そんな狭い場所ではトンファーやスタンハルバートは殴ることや突くことはできるが柄を短くしてもぶつかってしまう。
魔獣の方が小型な分、数匹で来られたらまともに戦えずやられることになる。
「うん。一人で行くならともかく魔獣もいたら大変だ」
「じゃあ私たちの出番ね。私とティオちゃんなら狭い場所でも二人より動けるし子供の扱いにも慣れてるわ」
「導力灯の代わりぐらいにはなります」
ティオが杖の先が光って明かりになった。
エリィが言うように導力銃や導力杖は小さく取り回しも利くので狭い場所で囲まれても十分対応出来る。それに通気口は女性と子供なら空間的に十分余裕があった。
「頼む。声が聞こえる範囲で外で待機してるからなにかあったらすぐに戻ってくれ」
「わかったわ」
ロイドの言葉にエリィとティオが頷くと二人は通気口に入って行った。
エリィはティオの持つ明かりで照らされた通気口に向かって呼びかけた。
「大丈夫ー!声を返して居場所を知らせて!そっちに行くから!」
しかし返って来た声は子供の助けてという泣きそうな声ばかりだった。
「急ぎましょう」
「はい」
しかし声を出し合うことは魔獣も呼び寄せることになった。
ティオが分かれ道で探査を行って確実に進む中で、すぐ近くで子供の悲鳴が聞こえた。
危機を察してエリィとティオと声がした方向に走ると向こうから足音が近付いてくる。
二人は銃と杖を向けると泣き腫らした男の子が飛び出してきた。
そしてそのすぐ後ろに小型魔獣が数匹現れた。
「伏せて!」
エリィの叫びに男の子が倒れこむと男の子の背後に向けて導力銃を3点バーストで連射した。
狭い場所では跳弾が怖くて連射出来なかったが、それで魔獣は回避するために一瞬動きを止め、その隙にティオが走り出て導力波をぶつけて、魔獣が少し退いたのを確認するとエリィとティオは子供に駆け寄りロイドたちが待つ出口まで連れ出した。
とにかく子供の安全を優先して通気口の入り口まで走り出たエリィたちの後から魔獣が追って来たが、発砲音を聞いて入り口で待っていたロイドとランディに撃破された。
エリィもティオも二人だけの戦いに緊張してようやく安全が確認出来たのに安心すると、安全確認が出来た合図は子供の泣き声だった。
ずっと一人で怖かったのか大人がいて安心できたからか気が緩んで泣き出したようだ。
この手の子供を扱った経験のないロイドたちはどうしようと困惑したがエリィは任せてと進み出た。
エリィは泣きじゃくる子供の頭を撫でて魔獣は全てやっつけて安全になったことを言い聞かせて落ち着かせていた。
「名前はなんていうの?」
「あ、アンリって言います」
鮮やかに落ち着かせて名前まで聞き出した手並みに感心したランディとティオが小声で「慣れてるな」「小さな兄弟でもいるんでしょうか」と言い合っていると、
「留学先の日曜学校を手伝ったことがあるだけよ」
エリィが答えてそのままなぜこの男の子、礼儀正しく身なりも良いアンリがこんな場所にいるのか事情を聞くことに。
「えっーと、ぼくたちは鐘のところで遊んでたんですけど、そこの蓋を開けたらハシゴがあるのを見つけて、それで」
アンリは鍵の掛かってないマンホールからジオフロントに進入したようで、放置しておくと魔獣が街中に飛び出すかも知れない。
「途中にあったあのマンホールか」
「管理が杜撰です」
「ちょっと待って、『ぼくたち』ってことはほかの子もいるのか!?」
ロイドの指摘に全員がほかの子もいる可能性に気付いて驚いた。
「ええ。友達のリュウが探検しようって言って、でも途中で魔獣に見つかって逃げたらはぐれちゃって」
「ロイド、どうする?」
3人の視線がロイドに集中する中、ロイドは状況を整理した。
これで単なる魔獣の掃討試験じゃなくなった。子供の保護、救出になる。
魔獣が徘徊するジオフロントで魔獣に見つかって逃げたのならこの子と同じように心細いことになっているだろうし悪くすれば襲われて怪我しているかも知れない。
出来るだけ早く保護するのが先決だ。
「この子を連れて奥まで行こう。もう一人の子を保護するのが先決だ」
この判断にティオやランディは疑問を挟んだ。
「この子を先に脱出させなくて良いんですか」「二手に分かれるってのも手だぜ」
「今は一刻を争う。それに戦力分散は得策じゃない」
この答えに二人は納得し、エリィにはアンリの護衛として最後衛を頼むことにしてロイドはアンリにこれからのことを説明した。
「これから君の友達を探しに行く。ここにいたら君も危ないから一緒に連れて行きたい。どうかな?」
「ぼくもリュウのことが心配だから一緒に行きます」
アンリが同意してくれたのでロイドは気を引き締めるために仲間たちに念押しした。
「護衛を守りつつ捜索することになる。これまで以上に慎重に進んでいこう」
これまで通り隊列は前衛にロイドとランディ、後衛にはエリィとティオという形だったが、一番後ろにアンリが付いて来る形になり必然的に進む速度は遅くなった。
「リュウとここに入ったのは1時間ぐらい前です。でも別れたのは30分ぐらい前、でしょうか」
走り回って恐怖に怯えてよくわからないという風で曖昧な答えだったが、少なくともさっきではないということがわかった。
ロイドは進みながら区画を進む毎にアンリの友達であるリュウを呼んだのだが全く反応がなく、どこまで進んだのか予想するためにアンリにジオフロントに入った時間、リュウとはぐれた時間を聞き出した。
俺たちと同じぐらいに入ったのなら場所が違うにしても地図もないしそれほど差はないはずだ。この分だと最深部まで行ってるってことか。
地図を見ながらこの先はもうないことを区画隔壁を見て確認した。
「ここが最後だ」
区画を仕切る扉を開くと子供の叫び声が響いた。
「うわあ、助けて女神さまー!」
帽子を被った男の子が軟体魔獣の群れに囲まれて悲鳴をあげていた。
「リュウ!」
アンリが叫ぶとロイドはともかく子供の安全確保のために引き剥がすことが必要だと指示を出した。
「エリィ!魔獣の注意をこちらに引き付けてくれ」
エリィは指示を聞くと飛び出して軟体魔獣に一発ずつ撃ち込んだ。撃たれた軟体魔獣は少し形が変わっただけですぐに元の形に戻った。
だが発砲したエリィに反応してリュウから離れてこちらに向かってくる。
引き付けることには成功したみたいだ。今のうちだ。
「君は隠れて。君も離れろ。みんな、こいつらを片付けるぞ」
ロイドはアンリとリュウ、仲間たちに指示を出して自らも軟体魔獣の群れに飛び込んだ。
軟体魔獣は一匹一匹は50~80リジュ(1リジュは1センチメートル)程度の大きさで力も弱く動きも遅かったが、なかなか倒せない生命力と触れれば肉体を栄養にするために溶かす粘液が厄介な魔獣だ。
そのため物理攻撃を主とする接近戦は相性が悪い。このタイプは冷たい粘液を飛ばして動けなくしてから捕食する習性を持っており、
トンファーやスタンハルバートで殴りつけても液体部分が少し吹き飛ぶ程度でなかなかダメージを与えられない。
導力銃も効かないわけではないが余程至近距離でなければ衝撃は粘液に吸収される。
「おりゃあ!」
スタンハルバートを大きく振りかぶったランディが懇親の力を込めて軟体魔獣を両断した。
強烈な打撃を受けた軟体魔獣は元に戻ろうとして戻れず爆発して粘液を撒き散らした。
「リーダー、このタイプは一気に核を潰さなきゃ駄目だ。液を飛ばして小さくしないと核まで届かないぞ」
その個体はロイドとランディが何度か抉って小さくした個体だった。
魔獣の特性を分析したランディの言葉にティオが動いた。
「それ!」
ティオが杖を大きく振って軟体魔獣全体に至近距離から導力波を叩き込んだ。
ぶるぶると液体が衝撃波で震えて吹き飛び中心核が露出した。
「エリィさん!」
ティオの声と同時にエリィは発砲し核を撃ち抜き魔獣は爆発した。
だが、魔獣の傍にいたティオは爆発で散った粘液を浴びそうになった。それをロイドが割って入りトンファーで受け止めて弾いた。
「前に出過ぎてる」
後衛のティオがやられると背後まで突破されて先が凍り付いたトンファーを振ってティオに後ろに下がるように促したロイドはエリィとティオに指示を出した。
「俺が引き付けるからその間にアーツで攻撃してくれ」
今、導力器にはセルゲイ警部が渡してくれたクオーツが入っている。全員が一応属性違いではあるが攻撃アーツを放てる状態にある。
だが、アーツを放つには導力器を駆動させ詠唱するという手順が必要だった。
意識を集中して目標を確認して放つアーツは高い威力、命中精度を誇ってはいたが同時に駆動時間の長さが問題だった。
慣れることや駆動時間を短くするクオーツなどである程度調整は利くが、新品の導力器では望むべくもない。
それでもアーツの攻撃は物理攻撃の効き辛い魔獣相手には非常に有効である。
「火が使えるわ」「風のクオーツがあります」
自分の導力器にセットされたクオーツを確認した二人は魔獣に向かってアーツを放つべく導力器を駆動させた。
その間、二人の傍にいかないようにロイドとランディは壁役となって注意を引きつつ動きを止めていた。
「一匹ずつ集中的に叩けば良かったんじゃないか?」
戦闘中に助言したり軽口をたたくことが出来るランディを尊敬しつつロイドはまだ息があがりつつも喋る余裕がある自分に驚いていた。
「早く片付けないと子供たちにも危害が及ぶ。ティオにも怪我させたくない」
「お~御立派。だが、そういうの嫌いじゃないぜ、リーダー」
ふっとお互いに笑って見せた二人は軟体魔獣に攻撃を仕掛けて跳ねた冷たい溶液でジャケットの一部が少し溶かされながら食らわないように攻撃と回避を繰り返し何匹か倒して見せた。
「撃つわ!」
エリィの合図に二人は飛びのくとエリィからは小さな火球が、ティオからは小さな電撃が魔獣に向かって放たれた。
小さな火花と爆発が起こり、命中したりその傍にいた魔獣が動きを止めて溶液が蒸発し核が傷付いて形を保てなくなったのか液体が漏れ出して崩れていく。
「よし。止めだ」
ロイドとランディは崩れた軟体魔獣を殴りつけて止めを刺して行った。
ほんの十匹前後倒すための数分の戦闘だったが、大量の直接攻撃が効き辛い魔獣相手に今までよりキツイ戦いだった。
周囲にもう魔獣の存在がないことを確認するとやっと息をついた。
「リュウ、大丈夫だった?」
「この通り平気さ。お前のほうこそよく無事だったな。おれが助けないと食われちまったかと思ったぞ」
口の減らないやんちゃ坊主という感じのリュウはようやく再会出来た喜びからかついさっきまで魔獣に追い詰められていたことなどなかったかのように能天気に話し始めた。
ランディは二人の様子に調子の良いガキンチョだと苦笑して、お礼ぐらい言えんのかねとぼやいていた。
「ほら、言い争いは終わり」
「すいません」
「へへ。でも兄ちゃんたち、もしかして新人?意外と良い腕だったよ。ちょっとまごついていたけどおれが怪我しないようにしてたし」
「そりゃどうも」
ロイドがいつまで話し込もうとする二人の話を打ち切ってとりあえずここは危険なので地上に戻ることに決めた。
ちょうどここは最深部でロックを外せば直通の昇降機があるはず。
「うんじゃガキ共を送ったら、警察本部に戻るとしますか」
帰ろうとするランディの言葉にリュウとアンリは顔を見合わせた。
「えっと兄ちゃんたち、もしかしてギルドの人じゃない?」
心底不思議そうな顔をする二人。
「ギルドって遊撃士協会のこと?」
「いや、俺たちはクロスベル警察の新人なんだけど」
ロイドとエリィの答えに子供たちは大声を出して仰天した。
「けーさつ!?なんでお廻りがこんなところにいるんだよ」
「任務の途中でお前らを見つけたんだが、そんなに不思議か?」
「だってクロスベルの警察っていったら腰抜けの腑抜け揃いだって有名じゃん」
リュウの言葉にロイドとエリィは絶句した。さらにリュウの言葉は続く。
「態度は横柄で仕事もしないし助けてもくれない税金泥棒で遊撃士のほうが百倍頼りになるって大人はみんな言ってたぞ」
「やっぱり、そうなのね」
ロイドは何も言えず、エリィも半ば予想していたことを突きつけられて苦い顔でポツリと呟くだけで全員が無言になってしまった。
その空気を察したアンリがリュウに警察でも助けてくれたんだから悪いよと言ってくれたが、リュウはギルドの新人に助けてもらったと思ったのにと期待と違ったと落胆していた。
「まあ、ともかくここにいたってしょうがないんだ。帰ろうぜ」
警察の評価が子供にさえ悪く言われるほど酷いことに少なからずショックを受けているようで。まあ二人とも予想していたようでショックというよりは予想通りだったことを改めて突きつけられて落胆したようだった。
リーダーが止まると動けないから急かすかな。
ランディが年上として声出しをしたのだが、その直後、ランディが叫んだ。
「おい、やべえぞ!」
その声を向けた天井から巨大な液体が落ちてきた。
だが、それは地面に落ちても弾けることもなく液体の形状のまま動き出した。
それは3アージュはあろうかという巨大な軟体魔獣だった。
後書き
別にジオフロント、インフラ整備だけなら必要ないよな。旧市街もあるし利便性にしても対費用効果悪過ぎだし。理由付けが政治の利権云々で大きくなったと思ったら実は的なね。もっと理由付けがあっても良かったかな。
あと戦闘が楽しいけど凄い下手。銃の威力も連射性も安定しないし、アーツなんかクオーツを組むシーンを入れなかったものだから誰がどの属性使うかで面倒。
最後のスライム相手に手こずりまくるのも青いスライムのつもりだけど、爆発するからグミではなくドローメに近いタイプということで。ガチンコでスライムと戦うにしても粘液が冷たいのか、冷たい粘液を飛ばすのかで全く違うからさ。
やっぱりスライムは肉を溶かす恐怖生命体であるべきよ。雑魚じゃないよ。
しかし空では最初の任務が塔に登るのに、零や碧だと地下へ降りるのは、底辺からのスタートだけど、結局登っても落ちてたよな。軌跡シリーズはいつだって登り続ける物語なんだよ。
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