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万華鏡

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第二十二話 夏休みその五

「そういうことですよ」
「リラックスですか」
「硬くなっては、頭もそうですが」
 実際にリラックスして言う先生だった。
「硬くなっては入るものも入りません」
「だからですか」
「はい、常にリラックスして勉強して下さい」
 だが先生のその話を聞いて生徒達はまずはいぶかしんだ、そしてそれぞれ顔を見合わせてから先生に顔を戻して言った。
「勉強ですよね」
「それでもですか?」
「リラックスしてなんですか」
「勉強するべきなんですか」
「硬くなっては、どんなエースも打たれます」
 ここで先生は悲しい顔になって言った。
「江夏さんも打たれました、そして阪神は優勝できませんでした」
「昭和四十八年ですか?」
「あのシーズンですよね」
「あの時私はまだ十歳でしたが」
 何故かここで野球の話になるが皆その話を静かに、まるでキリスト教徒が主の受難を聞く様に真面目に聞いている。
「次の試合を涙で観ました」
「甲子園のあれですよね」
「最終戦でよりによって巨人にボロ負けした」
「それで巨人が九連覇したっていう」
 この時世界の暗黒時代が完成した。
「あの時ですか」
「最低の展開ですよね」
「謎の采配もありました」
 そもそも何故巨人に強い江夏を巨人にぶつけず前の試合、中日に強い上田を出さなかったのかとは今も言われている。
「しかしです、江夏さんなら」
「そのドラゴンズにも勝てましたよね」
「あの人なら」
「そして巨人は無様に消化試合を過ごしました」
 喜ばしいことにだ。
「そうなりました」
「けれど江夏さんが打たれてですね」
「それで負けたんでしたよね」
「打線も打線でした」
 伝統的に打たない打線だ、ダイナマイト打線は阪神の代名詞だが実際は投手陣のチームであるのが阪神だ、
「硬くなっていて星野さんを打てませんでした」
「その頃から肝心な時打たないんですね」
「だから勝てないんですね」
「田淵さんも藤田さんもカーライルさんもでした」
 そもそもこの三人位しかあてになる選手はいなかった。
「そして中日に負け」
「巨人には余計にですね」
「ぼろ負けしたんですね」
「そうでした」
 最悪の思い出だった、先生にとって。
「全ては硬くなってです」
「優勝できなかったんですね」
「その時は」
「昭和四十八年は」
「無念でした」
 先生は泣かんばかりだ、男泣きである。
「全く以て」
「ううん、その時の阪神にならない為にもですね」
「勉強もなんですね」
「リラックスしてする」
「そうするんですね」
「そうです、先程も言いましたが関西の言葉は古典の言葉が基です」
 だからだというのだ。
「勉強もしやすいですし」
「リラックスして勉強すればいいんですね」
「そうすれば」
「ライトノベルやブログの感じで読むといいです」 
 今度はこうも言う先生だった。
「これは現国も同じです」
「ううん、普通にですね」
「そう考えて勉強すれば」
「そうです。社会系はウィキペディアです」 
 地理や世界史、日本史はそちらだった。 
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