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蒼き夢の果てに

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第5章 契約
  第59話 実験農場にて

 
前書き
 第59話を更新します。

 そして次の更新は、4月26日の、『私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?』第2話。
 タイトルは、『東の蛇神とギフトゲームをするそうですよ?』です。

 その次は、4月30日の、『ヴァレンタインから一週間』第17話。
 タイトルは、『西宮の休日?』です。

 尚、私の物語上で重要な意味を持つ『輪廻転生』のシステムについては、『私は何処から来て、何処に向かうのでしょうか?』第1話と、つぶやき内で説明を行って有ります。
 興味が有りましたら、覘いて見て下さい。
 

 
「それで、今日は何の任務の為に俺達は呼び出されたのです」

 一応、イザベラの前に居る一同を代表して、そう問い掛ける俺。

 確かに、身分的に言うと俺はタバサの使い魔。つまり、このガリアの騎士(シュヴァリエ)の従者に過ぎない存在なのですが、タバサがこんな質問を行う訳は有りません。
 まして、昨夜、魔法学院のタバサの部屋にやって来たイザベラの使いの伝書フクロウは、本日、プチ・トロワにラグドリアン湖の精霊(湖の乙女)を連れて出頭するように、……と言う命令だけを記した羊皮紙が付けられていただけで、今までのように、ある程度の任務の内容までが記されていた訳では無かったのですから。

「最近、日照りが続いて居て、このままでは、今年は凶作から、飢饉に発展する可能性が濃厚と成って来た」

 イザベラが少し深刻な表情で、そう話し始める。それに、この言葉は俺やタバサも懸念していた内容なのですが……。
 それでも、一度や二度の不作ぐらいで、飢饉にまで至る可能性は……微妙ですか。

「確か、ガリアは三圃式農業を行っていたのですよね?」

 取り敢えず、タバサに以前に聞いた事が有る内容を、おさらいの意味もかねてイザベラに問い掛けて見る俺。

 もっとも、まさか、中世ヨーロッパの農業のやり方を問う事に成るとは思って居なかったのですがね。流石に農業のやり方は俺の知識の守備範囲外で、アガレスや、ダンダリオンを起動させなければ、細かい事までは……。直ぐに理解出来るかどうかは、微妙ですか。
 尚、三圃式農業と言うのは、耕地を秋蒔き、春蒔き、それと休閑地を放牧地として分け、これを一年毎にローテーションを組んで使う耕法です。
 ただ、タバサに聞いた限りでは、この耕法を導入している割に、ガリア全体の人口が千五百万人程度しか存在しないようなので、農業が未熟で収穫量自体が多くなく、多くの人口を養うだけの農作物が収穫出来ない状況なのだとは思いますが。

 ちなみに、地球世界のフランスの例で言うなら、十二、三世紀には既に二千万人ほどの人口が存在していたはずですし、清教徒革命の頃なら、日本でも既に千五百万人以上の人口を抱えて居たはずですから、このハルケギニア世界の人口の少なさの異常さが判ろうと言うものです。
 この世界のガリアと言う国は、西はスペインやポルトガル。東はハンガリーやルーマニアなどの、俺が考えるヨーロッパの大半の部分を支配する国ですから。どう考えても、人口で言うなら最低でもその三倍は居てもおかしくはないと思うのですけどね。

 イザベラが俺の問いに首肯く。そして、

「麦を枯らす厄介な疫病が流行っていて、ここ数年来、ずっと不作続きさ。其処に、秋蒔きの小麦の収穫を決める時期に妙な天候が続いて、その次は春蒔きの小麦の生育期に一滴の雨も降らない」

 麦を枯らす厄介な疫病に因り、不作続きの現状。更に、アルビオンは最近まで内乱状態で、現在もトリステインとの戦争状態。ガリアも内乱寸前まで行ったトコロ。トリステインは、前王が死去した後、皇太后が親政を行って居る、……とされて居ますが、実際は、皇太后自身はずっと喪に服した状態で、国政はマザリーニ枢機卿に丸投げ。マザリーニ枢機卿は貴族や、更に言うと住民たちからも人気はないロマリア出身の人物。ゲルマニアもつい最近まで継承に関するゴタゴタ続きで、現在の皇帝の兄弟たちは、すべて獄死、もしくは暗殺死と言う非常にキナ臭い状態。ロマリアにしたトコロで、現在の教皇は二十歳をいくらか超えた程度の青年で、とてもでは有りませんが、配下をちゃんと御せて居るとは思えない状態。

 成るほどね。これは、湖の乙女の言葉では有りませんが、全ての王家の命運が尽きていて、新たなる徳を持つ者を天帝が王に定める時期が来ている可能性も有る、……と言う事なのかも知れませんね。

「だから、せめて小麦は無理でも、それ以外の作物が収穫出来たなら、飢饉だけは回避出来るんだよ」

 意外に民を思う良き王家の一員の顔を見せながら、俺に対してそう告げるイザベラ。まして、飢饉。つまり、国民を飢えさせる王に王たる資格なし、……と俺も思いますから、その為に必要な措置は真面な為政者としてなら講じるべきですか。

 それならば、

「湖の乙女。ガリアに雨を降らせる事は可能か?」

 先ずは、一番簡単そうな解決法から消して行く為に、そう問い掛けてみる俺。

 尚、俺の知識内でなら、これは可能です。但し、俺には、その雨を降らした事に因り起きる事態を予測する事は出来ません。
 これは、つまりバタフライ効果やカオス理論と言うヤツの事。雨を降らせるだけならば、それなりの雨雲にドライアイスでも使って雨の核を作って、それを成長させてやれば雨は降るはずです。しかし、その細かな事象に対する介入が積み重なった結果起きる事態が、この国や世界に対して悪影響を及ぼさないかどうかが、俺には判らないと言う事。
 流石に、水不足を解消するには、まとまった雨を降らせる必要が有ると思いますから、その為に降らせる水が後に及ぼす影響や、本来、凶作と成るべきトコロを、不作ぐらいで押し止めた時の未来に対する影響が、俺には判りませんからね。

 その問いに対して、

「局地的な天候の改変は、長い目で見るとこの世界の生態系に影響を及ぼす可能性が有り、推奨出来ない」

 ……と読んでいた書物から視線を上げた湖の乙女が答えた。その瞳に宿るのは理知的な光。そして、事実のみを伝えて来る淡々とした口調。

 成るほど。これは、つまるトコロ、バタフライ効果についての言及と言う事と成るのでしょう。更に、俺の問い掛けに彼女はちゃんと答えてくれる事も判りましたが、これについては、そう重要な事では有りませんか。
 まして彼女の言葉を借りるのなら、この異常気象や主食となる麦類に蔓延する疫病の原因は、支配者層に問題が有る為に起きている事態。この状態を無理矢理、魔法でねじ伏せたとしても、別の形でしっぺ返しを食う可能性は高いですか。

 しかし、それでも、

「ならば、灌漑農業は可能か。このハルケギニア世界の農法は未だ輪作体系が確立されたレベルで、大規模な灌漑事業は為されてはいない。……と言う事は、古代の日本で行われた程度の灌漑工事程度ならば、生態系や世界自体に与える影響は少ないと思うけど」

 王家の命運が尽きていたとしても、それは王家や貴族達には関係が有るけど、庶民にはまったく関係のない事。そんなクダラナイ事で、餓死者が出る可能性を見過ごす事は出来る訳は有りません。
 もしかすると、俺やタバサ。そして、この湖の乙女の能力を使えば、少しでも失う物が少なくなるのなら、試して見る価値は有ると思いますから。

 尚、現在のハルケギニアの農業は、天候。つまり、自然の降雨のみに頼った農業。乾燥農業と呼ばれる種類の物だと思います。そして確か、ヨーロッパで本格的な灌漑農業が実地されるのは18世紀以後。ノーフォーク農法が確立されて以後の事だったと思います。
 但し、稲作が主流だった東洋では、当然のように行われていた事ですから、このハルケギニア世界でも、エルフの国の向こう側に地球世界と同じように東洋が存在していたのならば行われているはずです。ならば、西洋に属する地方で行ったとしても、大きな問題は無いと思うのですが……。

 少し考える雰囲気の湖の乙女。そして、ゆっくりと首肯く。
 これは、肯定。ならば、来年以降はガリアではノーフォーク農業を始める事で、少なくとも日照りなどに対する対策は立て易くなるでしょう。
 もっとも、俺の知識ではこれが限界。実際、農業とは天気。つまり、天の気分次第で豊作にも成れば、不作や凶作にも成る物。天候によっては、そんな小細工程度ではどうしようもなくなる可能性も有りますから。

 更に問題は、今年の冬をどうやって乗り越えるか、と言う事ですか。
 それならば、

「国庫を開く事は可能なのですか?」

 今度はイザベラの方に向き直り、そう問い掛けて見る俺。ただ、その時の俺の顔は、かなり難しい顔をして居た事は想像に難くないのですが。

 何故ならば……。
 中世ヨーロッパで果たして飢饉が起きて、その為に国家が国庫を開いた事が有ったか、……と言われると判りませんから。それに、十九世紀にアイルランドで起きたジャガイモ飢饉の時にも、政府からの出動は殆んどなく、有っても効果的では無かった為に、八十万から百万人の死者や移民を生み出したはずです。

 ……そう言えば、ジャガイモ。トウモロコシか。

「次の冬は何とかなるだろうさ。ウチ(ガリア)は農業が主だからね」

 国庫を開いて、困窮者に対して食糧の配給を行うと言う事をあっさり受け入れたイザベラ。
 そうして、

「それに、国際情勢が不安定だったから、市場に出す穀物の量を徐々に減らして、備蓄に回して有ったからね」

 胸の前に腕を組み、形の良い眉根を顰めてそう続けたのでした。

 成るほど。その程度の余裕がガリアには有ると言う訳ですか。少なくとも、宵越しの金は持たない主義の何処かの国の官僚共(おエライさん)よりは優秀見たいですね、ガリアの為政者の方が。

 まぁ、彼らに出来るのはイス取りゲームとお互いの足の引っ張り合い。それと、自らの省庁の権益の維持ぐらいですから。いや、ワインセラーの管理も得意技でしたか。
 少なくとも、国家百年の計を任せられる人材が集まっているとは……。

 おっと、そんな事は、今はあまり関係なかったか。

「但し、雨を降らさない代わりに、あんたと、シャルロットには働いて貰うよ」

 俺が現実に存在するのかどうかも怪しい、架空の国の為政者たちに対して思考を飛ばしていた事に気付いたのか、イザベラがそう言って、無理矢理俺を現実界へと引き戻した。
 尚、タバサの方はあっさり首肯して、イザベラの言葉を受け入れて仕舞いましたが。

 どうでも良いのですが、俺の御主人様はあまりにも簡単に仕事を受け過ぎるような気がするのですが。
 確かに封建時代の主従関係ですから、命令された仕事を受けないと言う選択肢はないに等しいのですが、それでも、その命令の内容を聞いてから判断する程度の事は行っても良いと思いますよ、共に仕事に従事させられる俺としては。

 毎回、ガリアの騎士としての御仕事は、危険が伴う御仕事ばかりですから、少しぐらいは御仕事を選んだとしても、罰は当たらないと思うのですがね。

 そんな、タバサの使い魔に過ぎない俺の不満など意に介する事もなく、ひとつの問題を片付けたイザベラが次の問題を口にする。
 その内容は……。

「ラグドリアン湖の精霊。あんたに頼みたい事が有る」

 そう、湖の乙女に対して問い掛けるイザベラ。
 しかし、そんなイザベラに対して、そちらの方に視線を向ける事すら行わず、古い革の表紙の書物に視線を送り続ける湖の乙女。

 もっとも、これは当然と言えば、当然の対応。
 何故ならば、彼女は俺と契約を交わした以上、俺の問い掛けに対しては答えますが、他の人間からの問い掛けに対しては、答える事はなくて当然ですから。神霊とその神霊の声を聴く事が出来る人間との関係は、大体、そんな感じと成ります。

 故に、巫女や禰宜(ねぎ)。神官は古代に於いて重要な役職に就いて居たのですから。

「イザベラ姫。湖の乙女への依頼ならば、彼女の代わりに私が聞きます」

 ある意味、タバサよりも手の掛かる存在と契約を結んだ訳なのですが、それも仕方が有りません。まして、イザベラの頼みと言うのも大体、判りますから。
 要は、灌漑工事の後に、水を使用する際の管理等を依頼したいのでしょう。

 そう思って、イザベラに対して告げる俺。この部分だけを取ると、何らかの神託を受ける神官と言う役割に見えない事も有りませんね。
 それに、彼女と契約を交わした最大の理由は、水不足の解消の為。ならば、イザベラがこれから行おうとしている事は、俺の目的にも合致しますから。

「それなら、あんたが間に入って聞いてくれるかい」

 割と現実的な対応で、そう言うイザベラ。エライ御方に付き物の、私の話が聞けないと言うのか、的な、世界は私を中心に回っている的な発想ではなく、神霊に対する基本的な対応は心得ていると言う事ですか。
 もっとも、人間世界の富貴や身分に因って神霊に属する存在が態度を変える事がないのは当たり前の事ですから、その程度の事をガリアの祭祀を統べる家の人間が知らない訳は有りませんか。

「最早、有名無実と成ったトリステインとの盟約を白紙にして、この武神忍と契約を交わしたと言う事は、以後は、トリステインに対して、水の秘薬を渡す事はなく成った。そう解釈しても良いのかい?」

 しかし、ガリアの姫の質問は俺の予想とはまったく違う物でした。

 しかし……。
 確かに、如何に盟約などと言う、勿体ぶった、更に大仰な言い方をして見たトコロで、それは、双方の信頼に基づいた口約束に過ぎない事では有ります。
 そして、このトリステインとラグドリアン湖の精霊との間に交わされた約束については、何の強制力も、そして法的な根拠も無さそうな雰囲気ですから……。

 その言葉を聞いた湖の乙女が、それまで視線で追っていた書物から、その視線を俺へと移し、そしてしばらくの間、俺を見つめた後に、小さく、しかし、確実に首肯く。
 これは、肯定と言う事ですか……。

 その肯定の仕草を満足そうに見つめたイザベラ。そして、

「それならば、以後、ラグドリアン湖の精霊は、すべてガリアが庇護を行う。その見返りとして、トリステインに渡していた水の秘薬を以後は、ガリアにのみ、独占的に渡すと発表して貰いたい。
 当然、ガリアの方からも同じ発表は行う」

 ……と、そう湖の乙女に対して依頼を行った。

 これは、水の王国と謳われたトリステインが、その象徴たる『水』を失うと言う事を意味していると思います。
 尚、通常の場合、神霊は自ら交わした盟約を反故にする事は殆んど有りません。これが為されると言う事は、人間の方に盟約に対する重大な違反が有った場合のみ。

 そして、トリステインと湖の精霊が交わしていた盟約は、湖の精霊を庇護する事。

 しかし、この部分に関しては、闇の市場に流れる水の秘薬の例から見ても、トリステイン側に護られているとは思えません。つまり、イザベラが言うように、トリステインとラグドリアン湖の精霊との間に交わされた盟約と言う物は、既に有名無実と成っていると言っても過言では有りませんか。
 尚、この部分が、トリステインとラグドリアン湖の精霊との間に交わされた盟約に、何の法的な強制力も、根拠もないと言う言葉の理由でも有ります。

 もし、何らかの法的な約束事が有るのなら、湖の精霊に対する密猟が行われた時点で、トリステイン王国が対処しているはずですから。

 まして、湖の乙女が言うには、王家の命運は尽きていると言って居ます。これは、おそらくはトリステインにも当て嵌まる言葉だと思いますから。

「イザベラ姫はそう言っているけど、どうする、彼女の言うように、ガリアとの間に新しい盟約を結ぶか?」

 先ほどは俺が間に入る必要もなく、イザベラの言葉に了承を示した湖の乙女が、今度はイザベラの言葉の後に、真っ直ぐに俺の顔を見つめたまま反応を示さなかったので、そう水を向けるかのように問い掛ける俺。
 俺の問い掛けに対して、微かに首肯く湖の乙女。そして、

「以後、トリステインとの交渉は行わず、あなたを通じて、ガリアとの交渉のみを行う」

 淡々とそう告げて来た。この瞬間、トリステインが神霊的な意味に於いて完全に水の加護を失ったと言う事に成ります。
 もっとも、人が暮らす上で、その事実がどの程度の不都合を生じさせるのか判らないのですが。

 但し、日照りに伴う水不足はガリアも、そしてトリステインにも関係なく訪れていて、更に、麦に蔓延している疫病も、ガリアにだけ流行している訳ではないでしょうから、この神霊の加護を失ったと言う事態は意外に大きな物と成る可能性が有るのですが。

 更に、同時にもうひとつの問題が浮上して来ました。
 それは、以後、俺が……。いや、このまま進むと、俺の家系が湖の乙女と、ガリアの間の橋渡しを行う神官の役割を担わされた事に成るのですが、俺には貴族の暮らしを望んではいないタバサの使い魔としての仕事が……。

 もっとも、俺が神官の役割を担う事と、タバサが貴族に戻ると言うのは、イコールで繋ぐ必要はない、別箇の問題ですか。

 再び、満足そうに首肯くイザベラ。そして、

「それなら、その盟約の最初の証として、彼方此方の商人や貴族どもが連れ去ったあんたの仲間をガリアの手で助け出してやるよ。そうすれば、トリステインも、この盟約に対して口出しして来る事は出来なくなるからね」

 ……と、事も無げにそう言う台詞を口にする。

 確かに、イザベラの言う事に筋は通っていますが、そんな事が……。
 其処まで考えて、一人。いや、非常に使い勝手の良い一組の手駒がここに存在する事に気付く俺。
 それに、その二人ならば、相手の屋敷に気付かれずに侵入して、あっと言う間に、湖の乙女の仲間を連れ出して来る仕事など簡単に為すでしょう。

「イザベラ姫。その湖の乙女奪還作戦に、私達が従事させられるのでしょうか?」

 まして、俺としても、その密猟者どもから彼女の仲間を救い出すのは賛成ですから。

 確かに湖の乙女との契約を交わした直後に、タバサと擬似的な血の契約を交わした直後のように、いきなり血涙を流し始めた左目にくちづけをされた時には驚きましたけど、ラグドリアン湖の精霊の身体を構成する物質が、水の秘薬と言うあらゆる病や怪我を癒す魔法のアイテムだと言う事が知らされてから納得出来ましたから。
 おそらくは、その水の秘薬を、患部に口から送り込んでくれたのでしょうからね。

 しかし、

「いや。そちらは誰にでも出来る仕事だから、あんたとエレーネには別の仕事を頼みたい」

 少し首を横に振った後、そう答えるイザベラ。
 何故か、その瞬間に、非常に嫌な予感がしたのですが……。

 そう。これで、魔法学院の夏休みが終わって仕舞ったような、そんな予感が……。

「そもそも、現在、市場では水の秘薬が品薄で、非常に高値で取引されている」

 いやな予感に包まれつつ有った俺を他所に、イザベラがそう説明を始めた。
 どうもこの姫さんは、俺の雰囲気を読む事もなく、勝手に話を進めて行く人のようです。俗に言う、空気の読めない人だとは思いますが……。

 ただ、タバサが姫なら、イザベラもガリア王家の血を引く姫。普通に考えると、そう、空気を読まなければいけない生まれと言う訳でも有りませんか。
 特に、俺のような人間を相手にする場合には。

「それで、その儲けが見込める商品の水の秘薬をトリステインから、ガリアの専売品にする事で国庫を潤そうと言う事ですか」

 そのイザベラの言葉を受けて、俺がそう答えた。

 確かに、少しうんざりするような理由ですし、出来る事ならば、湖の乙女(彼女)の身体を構成する物質を、魔法のアイテム扱いにして欲しくはないのですが……。

 そう言う思考に囚われかけた俺ですが、直ぐに別の方向から考え直し、そして先ほどの思考を否定した。
 何故ならばこれは、牛や豚。鶏に対しては出来るのに、ラグドリアン湖の精霊に対しては行ってはいけないと言う、ダブル・スタンダードな対処に成りますからね。
 確かに、彼女。湖の乙女は俺に取って友で有り、人間と同じ扱いをする対象で有るのですが、普通に考えると、精霊とは人間以外の存在で有るのは間違い有りませんから。

 すべてに俺の倫理観を押し付けて、それで勝手に正邪を判断しては問題が有りますから。

「違うよ」

 しかし、何故かあっさりとその俺の言葉を否定して仕舞うイザベラ。そして、

「市場に出回っている水の秘薬を買い占めているのはウチ。ガリア王国さ」

 ……と、良く判らないのですが、おそらくはかなり大きなレベルの情報の暴露を行う。
 しかし、その行為の理由は判らないのですが。

 訝しげな表情でイザベラを見つめる俺。普段と変わりない雰囲気のタバサ。そして、我関せずの雰囲気で、革製の表紙の本に目を通し続ける湖の乙女。
 そんな三者三様の表情を見せる俺達を順番に見つめた後、

「あんたの世界の言葉に、必要は発明の母と言う言葉はないのかい?」

 ……と、そう問い掛けて来る。

 必要は…………。
 成るほど。そう言う事ですか。俺は、その言葉を聞いた瞬間に、以前にタバサに聞いたこの国……いや、この世界の歴史について思い出す。そして、確かにその話を聞いた時に、違和感を覚えたのは事実でした。
 そう。それは、六千年の間、殆んど変わる事のなかった文明のレベルについて。

 いくら魔法が有ると言っても、これは矢張り異常。そして、その状況を……。イザベラは万能の秘薬、水の秘薬と言う、どのような難病や怪我でも立ちドコロに治癒させて仕舞う魔法薬の流通量を減らす事で、医学と言う、人が……貴族が生きて行く上で必要な技術の発展を促そうとして居るのですから。

 ただ……。

「あまりにも急激な変化は、普通の人からは理解されないと思いますよ、イザベラ姫」


☆★☆★☆


 取り入れ間近と成った少し黄色に変わった葉と茎の間を、優しい風に乗って、少女の歌声と、俺の笛の音が流れて行く。
 その歌声が触れた植物たちが、同じように微かな音色を奏で、その音色が隣の植物に触れる事に因り、更なる共鳴を起こす。
 そう。これは、長嘯(ちょうしょう)に属する仙術。元々、植物に音楽を聞かせる事に因り発育が良くなると言う説が有り、それを呪的に利用して大量の植物の生育を一気に進める魔法。

 至極ゆっくりとした笛の音に透明なタバサの歌声が重なり、遠い山脈から吹き下ろし、湖を越えた夏の終わりの風に乗って、この実験農場の隅々にまで広がって行く。

 八月(ニイドの月) 、第四週(ティワズの週)、イングの曜日。

「相変わらず、シノブと、そしてタバサの魔法は植物との相性が良いようですね」

 少なくない余韻と共に術の行使を終了させた俺とタバサに対して、この地の支配者の娘が声を掛けて来た。
 彼女の血筋を示す、鮮やかな中にも深みを示す長い蒼の髪の毛を素直に風に靡かせ、農場の中に有っての尚、その服装はリュティス魔法学院の制服で有る白のブラウスと濃紺のミニスカート姿。
 但し、貴族の証で有る闇色のマントと腰に差した七星の宝刀が彼女の出自を物語っていた。

「俺は木行に属する存在。故に、植物とは非常に相性が良い存在やからな」

 そう、蒼き戦姫(ひめ)シモーヌ・アリア・ロレーヌに対して答える俺。そして、傍らのタバサを視界に納めてから、

「そして、タバサはそんな俺と契約を交わした水行に属する人間。俺に取っては、水生木。この関係は非常に相性が良い相手」

 ……と、そう続けた。それに、タバサ自身も、森の乙女。つまり、ドリアードと契約を交わした人間です。彼女の能力を使用すれば、植物の生育を良くする事はさほど難しい事では有りません。

 そして先ほどの仙術には、この場に存在している最後の登場人物。俺を挟んでタバサの反対側。俺の左側に、敷物を広げ、その上にちょこんと座った姿勢で和漢に因り綴られた書物を紐解く少女。湖の乙女の影響も強く有りますから、更に、効果が大きな物と成っているのも事実です。

 そう。音楽に因り植物の生育が進むのは、原因は定かでは有りませんがある程度の検証が為されているはずです。そして、其処に、共鳴を利用して、更に術の効果を向上出来たのは、湖の乙女の能力に因るモノでしたから。
 それは、植物の中に存在している水分に術で働き掛ける事に因って植物を活性化させ、周囲の精霊たちの作用と相まって、通常三カ月は掛かるジャガイモの生育を、たった一カ月足らずで収穫間近にまで持って行く事が可能だったのですから。

 但し、その所為で、俺とタバサ。そして、湖の乙女に、マジャール侯爵の娘アリアが、この地。内陸に存在するマジャール侯の領地最大の湖。マジャールの海と称されるバラトン湖々畔に有る、アールマティと言う地のガリアの広大な実験農場にずっと缶詰状態とされて仕舞ったのですが。
 まして、その成果が、今年の冬を無事に乗り切る為の準備と有っては、遊び半分と言う訳にも行きませんでしたから、何故か、非常に疲れる御仕事で有った事は間違い有りませんでした。

 本当に、目の前に広がる取り入れ間近と成ったジャガイモ畑と、夏の終わりの午後に吹き来たる風を全身に感じながら、一仕事終えた感慨に浸る俺。
 そう。今年は緊急的な食糧不足に対応する為の作業ですから、特殊な能力者のみで行った作業ですが、来年からは、一般人が中心と成ってジャガイモを作り、もっと痩せた土地では、トウモロコシなども栽培して、麦の不作に備える事が出来るように成ります。

 そもそも、ジャガイモは、年に数回栽培が可能な上に、土中に出来るのですから、鳥獣の被害も少なくて済みます。おそらく、小麦の数倍の人口を養う事が可能と成るとは思いますね。
 まして、そのジャガイモにも勝る高い収穫率を誇るトウモロコシも、既にハルファスから調達を終え、別の実験農場で試験的に栽培されているのですから、このジャガイモとトウモロコシ。そして、このガリアには存在していなかったトマトなどが一般人の間に広まって行けば、少しはこの世界の一般人の生活も変わって来るでしょう。

 その為に、貴重な夏休み(八月)の一カ月を、仕事に忙殺されたのですから、その程度の……、まぁ、確かに長いスパンには成りますが、その程度の成果が有ってくれなければ、浮かばれませんからね。
 主に、俺の精神衛生上の話なのですが。

 後は、ジャガイモの見た目や保存方法に因っては毒を持つ事が有る特徴から、悪魔の実として庶民から敬遠され、南米から伝わって来てから百年以上、食用として用いられる事がなかった、……と言う地球世界の歴史を繰り返させない事が重要と成って来ますか。
 その辺りについては、イザベラ……ガリア諜報部の持つ情報操作の能力が重要と成って来ますかね。

 もっとも……。
 其処まで考えてから、俺は、俺の左右に存在する少女たちを強く意識する。

 そう。和漢だろうが、ガリア共通語だろうが、書物さえあれば満足している蒼と紫の少女と、自らを律し、修行と任務に励む女性騎士と共同の地味な任務でしたが、何も奪う必要のない任務と言うのは、心の平安をもたらせる物だと言う事を改めて感じさせてくれましたよ。
 少なくとも、物を作ると言う行為は、人を前向きにしてくれると言う事だけは確かですから。

「それで、シノブ。このジャガイモの収穫が終わった後の、この実験農場はどうなるのです?」

 自分たちの夏の成果を見つめていた、しばらくの沈黙の後、アリアがそう問い掛けて来た。
 そして、この言葉の中には、夏の終わりに相応しい、ほんの少しの寂しげな雰囲気が存在しているように感じられる。
 そう。まるで、夏の祭りの後に吹く風の中に、何故か秋の物悲しい雰囲気を感じるような。そんな、微妙な雰囲気が。

 もっとも、俺は別に農業の勉強をしていた訳でもないですし、歴史上の知識として三圃式農業などの知識を持って居るだけで、そう詳しい訳でもないのですが。

「俺が、このままここガリアの実験農場の管理人に成る訳ではないから、精霊と共に畑仕事に精出す人間は居なくなるけど、ガリア王家の実験用の荘園として機能するはずやと思うで」

 そう、当たり障りのない返事をして置く俺。
 但し、おそらくは、冬のマジャールでは、流石に作物を植えたトコロで育つとも思えませんから、土作りの期間として、たい肥を入れ、土の上下を入れ替えて十分な消毒を為し、来年春の作付けまでの間、土地を休ませる事に成るとは思いますが。
 まして、ジャガイモに限らず、作物と言う物は、大抵、連作を嫌う物ですから。

 その辺りから、地球世界の歴史では三圃式農業や、これから先、ガリアが取り組む事と成るノーフォーク農法が開始される事となるのです。

 もっとも、これは魔法を駆使出来ない一般人用の話。連作が難しい最大の理由は、単一の作物ばかりを植えていたら、土壌が単一の生態系と成って仕舞い、その植物に対して有害な微生物が集まって来て、それでも尚、その場所に同じ植物ばかりを植え続けたら、生育不全や、最悪、全てが枯れる、と言う事に成るのです。
 ならば、単一の生態系にしなければ良い。ただ、それだけの事。大地の精霊と共に、土を毎回作り変えれば、原理上は休耕地を作る必要が無くなり、事実上、連作も可能。まして、植物の根や葉から出される、自身に対する有害物質が連作障害と成り得る場合も有るのですが、それも、この方法ならば一発で解決します。

 ただ、この方法は、本来、タバサが隠遁生活を送るように成ってから試す心算だった農業なのですが……。

 既に、自らの足元に広げられた敷物に腰を下ろし、持参して居た書物に目を通して居る蒼い少女に対して意識を向けながら、そう少し、後悔にも似た感情を抱いたのですが……。
 それでも、これも仕方がないですか。ジャガイモやトウモロコシの栽培方法や料理の仕方を広めて行けば、この世界自体には良い影響をもたらせるのは間違い有りませんから。まして、トマトは地球世界のヨーロッパの郷土料理には欠かせない物ですからね。
 そんな中で、俺の将来の生活など小さい問題でしょう。

 少しの空白。其処にも、物悲しい雰囲気の夏の終わりの風が忍び込む。

 刹那、それまでその場に広げられた敷物の上に腰を下ろして和漢に因って綴られた書物を紐解いていた蒼と紫の少女が、ほぼ同時に膝の上で静かにその本を閉じた。
 そして、双子の如き同期した様子で、俺を真っ直ぐに見つめた。

 片や、晴れ渡った冬の氷空の如き蒼き瞳。
 片や、澄み切った深き湖の如き瞳に俺を映し。

 その二人を見た蒼銀(ぎん)戦姫(ひめ)が、彼女に相応しい春の微笑みを見せる。それに、未だ祭りは終わった訳では有りませんから。

「そうしたら、今日の仕事はここまでにして、家に帰るか」

 俺の問い掛けに首肯く一同。
 そう。最後の取り入れを終えた時。それが、今回の御仕事の完了する時ですから。


☆★☆★☆


 それでは、少し時代が動いたので、その説明を。

 先ず、戦時下に突入したトリステインでは、魔法学院の生徒たちを、飽くまでも志願制の形では有りますが士官として登用する事を決定したと、魔法学院の夏休みが終わるのと同時に発表しました。
 もっとも、流石に訓練を行う必要が有るので、志願した新米の士官たちが即座に前線に送り込まれると言う訳では無さそうですが。

 ただ……。本格的な戦争開始前の段階で、既に下士官の人数の不足が予想されていると言う事は、ほぼ根こそぎ動員が掛けられていると言う事でも有ります。トリステインの人口が大体百五十万人だったと思いますから、兵として動員可能な最大人数は、どう考えても十二万人程度。これ以上、動員して仕舞うと、流石に国自体が成り立たなく成る可能性も有りますから。
 更に、今度のアルビオンとの戦争が、トリステイン側からの侵攻戦と成る事が確実だと言う事にも問題が有ります。
 どうやら、前回のアルビオンからの侵攻時に、アルビオンは、部隊を輸送するべき軍艦の大部分を失ったようで、現在のトコロ、制海権と言うか、制空権はトリステイン側に有るようで、この機を逃さずに、アルビオンの空軍が立て直される前に、トリステインの方は、アルビオン国内に橋頭堡を築きたい様なのですが……。

 この根こそぎ動員を掛けた十二万人で補給線を維持しつつ、アルビオンの国内での戦闘行為を行う。これは、かなり厳しい数字だと思いますね。

 その理由は、アルビオンの総動員兵力がはっきりしませんし、更に、侵略に対する防衛側で有る以上、根こそぎ動員を行える立場にも有る上に、宗教的なバックボーンがアルビオンには存在する為に、どう考えても、トリステインには不利な要因しか存在しないと思うのですが。
 頼りにしているゲルマニアは、ロマリアの教皇の態度如何に因っては、即座に敵と成る危険性が有りますし、ガリアは、イザベラの態度から推測すると、中立の立場を貫き、その間に国内の色々な問題に対処する雰囲気が濃厚ですから……。

 もっとも、前回のアルビオンのだまし討ちにも等しい攻撃に対して、トリステイン国内の雰囲気は貴族に有るまじき卑怯な戦術を使ったアルビオン討つべし、の声が高いのも事実です。故に、国内の好戦的な声に押されてのこの逆侵攻作戦を中止にする事は、流石にトリステイン王家としても出来ないでしょうから……。
 まるで、第二次大戦前の日本のような状況ではないのでしょうか。

 神懸かりに近い勝利を得て、アルビオンを追い返したタルブ防衛戦を国内に広く喧伝を行った結果、国内の世論(=主に貴族の意見)が自らの統制を離れて、アルビオン討伐に傾き、その声を無視出来なく成った王家が、アルビオン討伐に動いたと。
 それに、アルビオンの皇太子とアンリエッタ姫は従兄弟の関係で有り、恋仲でも有ったはずですから……。

 進むも地獄。退くも地獄。それなら、進む方がマシだと考えた結果の、アルビオン侵攻戦だった場合。更に、アンリエッタ王女の私怨による開戦だった場合は……。

 そうしたら次。
 今年は、矢張り、何処の国も麦に関しては凶作と言う雰囲気に成りそうです。
 矢張り、天候が不順で有った事。麦類に厄介な疫病が蔓延していた事が大きな要因と成った事は間違いないようです。

 しかし、その中でのアルビオンとトリステインの戦争。確かに、今、攻めなければ、再びアルビオンが聖戦の大義の元に侵略を企てて来る可能性は高いとは思いますから、制海権(制空権)を持って居る内に逆に侵攻を仕掛けて、あわよくば、トリステインに因るアルビオンの統合も視野に入れて居るのも首肯けるのですが。
 まして、ティファニア女王にアルビオンの統治の権利が有るのなら、アンリエッタ王女にも、同じように権利が有りますからね。

 何故ならば、ティファニアとアンリエッタも従姉妹同士と言う間柄ですから。

 尚、麦に蔓延している疫病と言うのは、黒き知恵の女神ダンダリオンの説明に因ると、さび病と言う草に起きるさび病菌と言うばい菌が寄生する事によって起きる病気らしいので、その予防法としては、畑の周囲に雑草を蔓延らせない事が重要らしいです。
 但し、三圃式農業を実行している現在のハルケギニア世界では、休耕地は雑草……と言う括りでも構わない牧草地と成っているので……。

 取り敢えず、ハルファスに、さび病に強い種類の遺伝子操作を受けた小麦が地球世界に有るらしいので、その小麦を調達して貰って、来年からは徐々にこの小麦を植えて行くようにして、更に畑の手入れを小まめに行う事に因って、多少は被害も抑えられるはずです。
 もっとも、来年からは、ジャガイモやトウモロコシなどの穀物も栽培する予定ですから、小麦が不作だからと言って、他のすべてが不作と成る可能性も薄く成ります。これだけでも十分な対策となる事でしょう。

 何事につけても、リスクを分散させる事は悪くは有りませんからね。

 但し、今年の冬を無事に……。飢饉などが起きて民に餓死者が出る可能性は、このハルケギニア世界に存在するすべての国が抱えるリスクです。
 そして、ガリアは既に備えが有りますが、他の国の備えに関して、俺は知りません。

 もし、飢饉などが発生して、その状況を他所目に未だ戦争などを国同士が続けて居た場合。
 逃散から流民、難民化。場合に因っては内乱などの勃発の火種が……。
 まして、イザベラが難しい顔で国庫を開く事に同意したのは、彼女がケチだったと言う訳ではなく、比較的裕福に見えるガリアに対して難民が流入して来る事を懸念しての表情だったと思いますから……。

 それでは、三つ目の話題。

 ガリアからラグドリアン湖の精霊との盟約が為された事が八月の頭に発表されました。
 その後、トリステインのラグドリアン湖の精霊との交渉役と言う貴族がラグドリアン湖の精霊。つまり、俺と契約を交わした湖の乙女の仲間に問い合わせを行った後、それが事実と判明。

 そして、この瞬間が、水のトリステインから水の加護……。少なくとも、ラグドリアン湖の精霊からの加護を失った瞬間でした。

 もっとも、ガリアの方は、別に水の秘薬の独占販売の権利を欲した訳では無く、ハルケギニア世界の医学のレベルを上げる為に、どんな病で有ろうとも、どんな大ケガで有ろうとも問答無用で治して仕舞う万能の薬が市場に出回る事を制御したいが為のラグドリアン湖の精霊との新たなる盟約らしいのですが。
 但し、かなり強引な方法ですから、もしかすると……。

 尚、湖の乙女の仲間たちを攫って居た貴族や商人たちは、ガリアの北花壇騎士団所属の騎士たちの手に因ってラグドリアン湖の精霊たちを奪い返されて、中には人生からさえもさよならをした連中も居るらしいです。

 ただ、それも因果応報。彼らが、ラグドリアン湖の精霊たちに行っていた事を考えたのならば、それも仕方がない事でしょう。騎士道の中の、社会的弱者への敬意と慈愛。また、彼らと共に生き、彼らを手助けし、擁護する事。……と言う部分に当て嵌まりますし、悪の力に対抗して、何時いかなる時、どんな場所でも正義を守る事。……と言う部分にも当て嵌まりますから、騎士団所属の騎士達の行いは騎士道にも反していませんからね。

 それにしても、どう考えても、本来ならば、貴族の生活を望んでいないタバサの使い魔に過ぎない俺が、関わるべき内容ではない事柄ばかりのような気がするのですが。

 ただ、俺が召喚されてから事態が動き、タバサの父親を暗殺したのは、ガリアの現王家とは関係ない事が判り、そのガリア王家としては、どうやら、タバサを貴族の家の当主と為そうとしている以上、タバサの使い魔で有る俺は、彼女の家の家令と言うべき仕事が求められるように成る可能性が高いですから……。

 これから先は、そう言う覚悟をして置いた方が良いかも知れません。

 そう。何故ならば、ガリアより最後に発表されたのは……。

 
 

 
後書き
 最初に。トリステインとアルビオンの戦争について。
 現状では、この『蒼き夢の果てに』内の対アルビオン戦争はアニメ準拠です。つまり、ゲルマニアの表立った参戦は今のトコロ有りません。
 もっとも、生き馬の目を抜く世界ですから、トリステインが勝ち続けると、呼ばれもしないのに登場する可能性も高いのですが。
 原作小説版のガリアのように……。

 但し、アニメ準拠とは言っても、クロムウェル護国卿がタルブ降下作戦の時に捕まって処分されて居る、などと言う事は有りませんよ。
 それに、原作小説では十月、それも中盤以降に成ってから魔法学院の生徒に対する徴用が始まったと言う事に成っていましたが、流石にそれでは遅すぎるので、八月末には戦時体制に移行している設定と為して有ります。

 いくらなんでも、練兵に二か月は掛かると思いますし、更に、真冬に行われる戦争ですから、その為の準備も必要だと思ったからなのですが……。

 そうしたら次。
 タバサと主人公がトリステインとアルビオンの戦争に参加する事は有りません。今のトコロは。
 この部分も、何度もシミュレートしてみたのですが、納得の行く理由をでっち上げる事が出来なかったので、タバサとシルフィードが参加する事の無かった原作小説通りの展開で進む事と成ります。

 それに、この二人を真面に戦争に参加させて仕舞うと、パワーバランスが……。

 追記。……と言うか、素朴な疑問。アンドバリの指輪をラグドリアン湖の精霊に返すと約束したサイトくん。アニメの方では返したような表現は無かったような気がするのですが……。
 私の見落としでしょうか。
 いや、原作小説の方でも……。

 それでは、次回タイトルは『秋風の吹く魔法学院にて』です。
 
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