清教徒

第一幕その七

「では行きましょう」
「宜しいのですね」
「はい」
　アルトゥーロは答えた。
「その為に私はここに残ったのですから」
「そうですか。それでは」
「行きましょう。私が御護りします」
　エンリケッタの手をとった。そして庭を出ようとする。だがその時だった。
「ふう」
　リッカルドが悩んだ様子で庭に入って来た。アルトゥーロはそれを見て身構えた。
「誰だ」
「私か」
　リッカルドはそれを受けて顔を上げた。悩み疲れた顔であった。
「リッカルドだ。知っているか」
「名前だけは」
「だが今はそれはどうでもいことだ。ところで卿は何処へ行くつもりだ」
「少しな。急用ができて」
「そうか。ところで後ろにいる女性は」
　彼はエンリケッタの姿を認めて目の光を強くさせた。
「この方か」
「そうだ。どうやら今日捕らえられた王党派の婦人のようだが」
「それは」
「間違いはないな」
　リッカルドの目に光が戻ってきた。彼は悩む男から軍人にと変わっていた。
「どうなのだ」
「そうだ」
　彼は答えた。
「卿の言う通りだ。この貴婦人は王党派の方だ」
「そうか。では何故彼女を連れているのだ？」
「それは」
「答えられないのか？」
　リッカルドは問うてきた。
「どうなのだ？答えられないとでもいうのか」
「いや」
　だが彼はそれには首を横に振った。
「ならば答えよう。よいか」
「うむ」
「私はこの方を守る義務があるのだ」
「何！？」
　それを聞いたリッカルドの目の色がまた変わった。
「今何と言ったのだ？」
　軍人からさらに戦う者の目となっていたのである。
「もう一度言ってみろ。何と言ったのだ」
「では言おう」
　覚悟を決めていた。アルトゥーロはまた言った。
「私はこの女性の方を守る義務がある、と言ったのだ」
「本気だな」
「そうだ」
　強い声で答える。
「だから今ここにいるのだ」
「わかった」
　リッカルドはそれを聞いて頷いた。
「それでは覚悟はいいな」
「無論」
　二人はそれぞれ剣を引き抜いた。庭に白銀の光が煌きその剣に花が映っている。彼等はそれを見ながら互いを見やった。
「行くぞ」
「うむ」
　そして斬り合おうとする。だがそこでエンリケッタが間に入ってきた。
「お待ち下さい、侯爵」
「陛下」
「侯爵！？陛下！？」
　それを聞いたリッカルドの顔に疑念の色が漂う。
「まさか貴公は」
「カヴァリエーレか」
「そうか、貴公があの」
「知っているのか」
「無論。名はよく聞いている」
　リッカルドもその名は聞いていた。アルトゥーロは王党派の重鎮の一人として名を馳せているのです。
「何故ここに」
「婚礼の為だ」
　彼はそう答えた。
「エルヴィーラと結ばれる為にここへ来たのだがな。しかし」
「そうか」
　リッカルドはそれを聞いて考える目をした。
「・・・・・・・・・」
　彼は考えた。それから言った。顔を上げてきた。
「通るがいい」
「どういうことだ？」
　道を開けたリッカルドに対して問うた。
「考えが変わった。それだけだ」
　リッカルドはそう答えるだけであった。顔からも目からも表情は消している。
「どういうつもりだ」
「答える必要はない」
　そう言葉を返した。
「だが今通らなくてはならないのはわかるだろう」
「むう」
　その通りであった。今の彼にはここを通らなくてはならないのだ。彼の主の為には。
「行くがいい。それについて私は止める気はなくなった」
「陛下」
　アルトゥーロはエンリケッタに顔を向けた。彼女はそれに答えた。
「貴方の思われるように」
「わかりました」　
　それを受けて頷く。それも決まりであった。
「では行こう。それでいいのだな」
「うむ」
　リッカルドは頷いた。
「行くがいい。私が言うことはそれだけだ」
「わかった。それでは陛下」
「はい」
「行きましょう」
　こうしてアルトゥーロは庭を後にした。そして自身の馬と兵達を連れエンリケッタを伴って城を後にした。その動きは素早くまるで風のようであった。
「これでよし」
　リッカルドはニヤリともせず一言そう呟いた。
「愚かな男だ。だがそれでいい」
　そう言いながら上を見上げた。そこには宮殿があった。
「これで私の想いが適うのだとしたらな。愛を手に入れる為ならば」
　言葉を続ける。
「悪魔にでも魂を売る。それであの人が手に入るのならば安いものだ」
「リッカルド殿」
　ここでジョルジョが出て来た。